犬宮賢の行動理念

桜桃-サクランボ-

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犬宮探偵事務所の復讐

「私達が守れば問題はないよ」

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 ――――えっと……。
 
 あぁ、ははっ……。
 森の中って、本当に方向がわからなくなるなぁ。
 絶対に迷うじゃん。

『心優、最初からやらかさないで』

「っ、え、やらかさないで?」

 あ、質問しても意味は無いんだった……。
 私からの声は犬宮さんに聞こえないんだよな。でも、咄嗟に答えちゃう。

『今立っている所から右の木に手を付けて』

 ────今立っている所から見て右……この木でいいのかな。

 一番近くにあった木に触れ、心優は犬宮からの指示を待つ。

『その木を目印に真っすぐ。それで最初お願いしていた場所にたどり着くから』

「――――あ」

 な、なるほどねぇ……ははっ。
 私の初期位置が違っていたのか。

 本当に犬宮さんの鼻ってすごいなぁ。こんな事もわかるんだ。

 言われた通り心優は、カサカサと雑草を踏みながら進む。

 回りは同じ景色だが、犬宮がいつでも背後にいると思うと不安は無くなり、迷わず進むことが出来た。

 ――――黒田さんの方は大丈夫だろうか……大丈夫じゃないわけがないか。

 黒田さんは私達の中で一番強いし、一人でも普通に何十人も相手に出来るしな。

『止まって、心優』

 っ、あ、ここか。

 ぼぉっとしていた心優の耳に犬宮の冷静な声が届く。
 すぐに足を止め、待機。

 ――――確か、ここに巫女やら陰陽師達が流れ込んでくるんだよね。

「…………なんか……言いにくそうだったな」

 なんか、バツが悪そうな顔をしてた。

 言えないことがあるのなら言わなくてもいいけど。気になるなぁ……。

 心優が難しい顔を浮かべ考え込んでいると、足音がカサカサと聞こえ始めた。

 ――――足音、二人分だ。

 巫女や陰陽師が現れたのかと、心優は警戒を高め拳を握り構える。
 誰が来てもいいように、何人来ても大丈夫なように。

 心優は眉を吊り上げ、足音に集中し距離を測った。

 ――――あと、もう少し……。

 あともう少しで姿を現す。
 緊張で汗が滲み、心臓がバクバクと音を鳴らす。

 喉を鳴らし唾を飲むと、木の影から二人、姿を現した。

「――――っ、え」

 見えた瞬間、心優は駆け出し先手を取ろうとしたが、拳は途中で止まる。

「く、くそおやじ!?」

「心優ちゃんじゃないか。親をそのように呼ぶんじゃねぇぞ」

 敵だと思って襲った心優だったが、現れたのは実の父親、信三。

「なんでこんな所に……最古君!!」

 信三の手には、最古の小さな手が握られていた。
 見たところ怪我はなく、ニコニコと笑っている。

「なんで、最古君と親父が……」

「今はそのような話をしている場合ではないだろう。それより、何故ここに心優ちゃんが一人いるんだ? 話を聞かせてもらうのはいいよな?」

 ――――やばっ。私が一人で敵の本拠地にいるから怒ってる。

「えぇ、っと、今はねっ――――」

 心優が話し出そうとすると、またしても気配を感じ口を閉ざす。
 それは信三も同じで、辺りを見回し始めた。

「――――状況は大体理解した。ワシも心優と共に倒していけばいいのだな。これから来る者達を」

「そう。あと、なるべく殺さないで、気絶で済ませたいんだけど」

「わかっておる」

 今回も、お互い何も言わずとも背中を合わせ、拳を握った。

 二人はお互いの実力を知っているため、なんの疑いもない。
 一切悩むことはせず、背中を預けた。

 ――――絶対に最古君は守らないと。

 最古だけは絶対に守る。
 そう考えていると、またしても心優の耳に犬宮の声が届く。

『心優、近くに翔がいるのかな。もしいるのだとしたら、俺の所に来るように言って』

「――――えっ」

 心優が何の前ぶりもなく驚きの声を出したため、信三は怪訝そうな瞳を心優に向けた。

 そんな視線など気にせず、心優は見上げて来る最古を見る。

 数秒、何も言えず見つめていると、犬宮の声が再度聞こえた。

『大丈夫。翔は俺の場所はすぐわかる。心優と、もう一人――多分信三さんかな。二人が頑張れば、翔が危険に晒され事はないよ』

 心優の心情を読んでなのか。犬宮は安心させるように話す。

 ――――確かに、最古君はここに居るより、犬宮さんの所に行かせた方が安全かもしれない。

 私と親父でここを守ればいいし。

「…………最古君。犬宮さんの場所、わかる?」

 聞くと、最古はすぐに頷いた。
 その事に安心し、心優は犬宮の所に向かうように伝える。

 素直に最古は信三の手を離し、二人から離れてしまった。

「大丈夫なのか?」

「私達が守れば問題はないよ」

 心優が真っすぐ最古の向かって行った方向を見続ける。 
 だが、その目線はすぐに離れ、どんどん大きくなる足音へと意識を移した。

「絶対に、守る。最古君も、犬宮さんも――……」

 強く拳を握ると、すぐに構えを取る。
 気合の入っている心優を見て、信三も口角を上げ足音の聞こえる方へと目線を向けた。

「あぁ、必ずだ」

 二人が準備整ったのを見計らったかのように、陰陽師や巫女が木の影からなだれ込んできた。
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