犬宮賢の行動理念

桜桃-サクランボ-

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犬宮探偵事務所と本領

「はぁ、死んだ」

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 拳銃を突きつけられ、御子柴は汗を滲ませる。

「――――いいよ、竜。口から手を離して」

 犬宮に言われ、竜は言われた通り口から手を離す。

 御子柴はここで助けを呼ぶために大きな声を出すわけにはいかない。だが、情報を漏らすわけにもいかない。

 犬宮の漆黒の瞳に見つめられ、赤い唇がかすかに震えながらも、開いた。

「……………………今、私達がなぜ、貴方達を狙ったか…………」

 御子柴が話してくれる、そう思った犬宮だったが目を開き上を見た。

「――――何が条件で発動したんだ」

 犬宮が舌打ちをこぼし、御子柴の上空を見る。

 視線の先には、今まで見た事もないような化け物が現れており、大きな口を開きこの場にいる全員を見下ろしていた。

「残念だったわね。力を持つ持たない関係なく、誰かが鳥居を潜れば現れるようにしていたのよ」

 震わせていた赤い唇を横に伸ばし笑い、挑発するように犬宮を睨み言い放つ。

 御子柴の頭上に現れていたのは、紅城神社にずっと封印されていた怪異、カイ

 見た目は、大きな人の頭。
 黒い髪を後ろに流し、白目がない黒い瞳を犬宮達に向けている。

 口から覗き見えるのは、黒い歯。
 大きく開くと、中から黒い霧が現れ犬宮は「うっ」と鼻をつまみすぐさまその場から離れた。

 犬宮の様子に竜も驚いてしまい、御子柴を掴んでいた力が一瞬緩んでしまう。
 その隙に腕を振りほどき、その場から離れてしまった。

 直ぐに追いかけようとしたが、膝をついてしまった犬宮が視界に入り足を止めてしまう。
 信三も直ぐに駆け寄り、様子を確認した。

「どうした賢!」

「……………………臭い、ものすごく、臭い。生ごみに顔を突っ込み、そのまま閉じ込められてしまったみたいだ」

「それは最悪だな……。想像すらしたくない」

 犬宮の顔は真っ青。
 鼻をつまむ手は震え、目には涙を浮かべていた。

 色んな臭いを感じて生きてきた犬宮に、そこまでのことを言わせる魁は相当臭いんだろうなと、信三も顔を歪め見上げた。

 その際、最古が一人、犬宮から離れる姿を確認。本堂へと駆けだしていた。

 危険だと呼び止めようとしたが、視界に魁の姿が入り込み喉が絞まり体がカタカタと震えてしまい動けなくなってしまった。

 そんな彼らを他所に、御子柴は今度こそその場から離れる。

「それじゃ、魁、お願い」

『……………………』

 すぐに犬宮が追いかけようとしたが、魁が息を吐き封じる。

「くっそ!!! 臭い臭い臭い!!」

 涙が溢れ、止まらない。
 鼻をつまんでも意味はなく、苛立ちが募り歯を食いしばる。

 涙でぼやける視界の中、犬宮は最古がいないことに気づき慌てて周りを見回い始めた。
 
「翔……? 翔どこ!?」

 叫ぶが、最古からの返答はない。
 焦り、周りを見ていると魁がとうとう動き出してしまった。

 大きな口を開き、犬宮達に襲い掛かる。

「くっそ!!」

 最古がいなければ、今以上の狗神の力が使えない。

 犬宮は瞬時に立ち上がり、信三達を後ろに下がた。
 大きな口を開き、襲いかかってくる魁をギリギリで避ける。

 道路に倒れ込み、体を強く打ち付けてしまった。
 だが、すぐに立ち上がらなければ魁に襲われる。

 犬宮はすぐさま立ち上がり、大きな口を開き、腐臭を出している魁を見据えた。

「……………………魁って、たしか紅城神社にずっと封印されていた怪異。なんで、言うことを聞いているんだ……」

 犬宮が動き出すと、魁も動き出す。
 咆哮を青空いっぱいに響き渡らせ、黒い歯を見せ口を横へ引き伸ばした。

 その表情はまるで、笑っているかのよう。
 犬宮は悪寒が走り、背筋が凍る。

「魁、魁…………っ」

 犬宮が考えている時でも、魁の動きは止まらない。
 長い髪が左右に広がったかと思うと、犬宮に向けて放たれた。

 すぐに体を捻じり回避し続けるが、徐々に避けられなくなり切り傷を作っていく。
 後ろで見ていた信三は拳銃を取り出し、竜と龍にも指示。

 ────せめて、意識だけでも逸らす事が出来れば……。

 そう考え銃口を魁に向け構える。

 ────何処を狙えばいい、どこを撃てば少しでも気を逸らせる。

 考えるが、怪異を相手にしたことがない信三達には知識がない。
 何も分からないが、それでも何か犬宮を助ける方法はないか探る。

 そんな事をしていると、犬宮の腕に黒い髪が絡みつき始めた。
 一瞬動きを止めた事で右腕だけでなく、左手右足左足と捕まる。

 完全に身動きを止められてしまった犬宮は、魁に引き寄せられてしまった。

「賢!!!」

 信三が叫ぶが、魁は気を逸らさない。
 犬宮を見て、不気味な笑みを浮かべた。

 臭いに涙が溢れ、頭痛がしてくる。
 そんな中でも犬宮の視線は、至る所に向けられた。

 何かを探すようにさ迷わせている瞳は、信三の近くに落ちているビニール袋に注がれる。

 黒い瞳を細め、口を大きく開き叫んだ。

「信三さん!!! その中にあるペットボトルを投げてください!!」

 犬宮の叫びに、信三はすぐさま地面に落ちている袋を見やる。
 駆け出し、袋からペットボトルを取りだした。

「これか!!」

「早く投げてください!」

 何かを考えている。
 それがわかった魁は、何もさせるかというように口を大きく開いた。
 
 信三は「間に合え」と呟き、ペットボトルを犬宮に言わた通りに投げた。

 だか、それが遅かったのか間に合ったのか。
 犬宮のからだと共に、ペットボトルは魁の口の中へと転がった。

「…………す、ぐる?」

 信三は目の前の光景に茫然。
 立ちすくみ、口を動かしている魁を見上げた。

「……………………?」

 信三の隣に竜と龍も駆け寄る。
 目を離せず見続けていると、何か違和感を覚え眉を顰めた。

『――――グッ、ギャ、グギャ』

 なぜか突如苦しみ出した魁。
 浮いていた魁は地面に大きな音を立て落ち、苦しみから逃れようと転がる。
 だが、それでも苦しみは消えない。

 ゴロゴロ転がっていると、何故か途中で止まった。

「な、なんだ……?」

 動きを止めてから数秒後、黒い口が震えながら開かれる。

「……………………はぁ、死んだ」

「賢!? 大丈夫なのか!?」

「うん。これが効いてくれた、ありがとう」

 犬宮が手に持っていたのは何も入っていない、先程信三が投げたペットボトルだった。
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