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犬宮探偵事務所と本領
「自由に使えばいいさ」
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心優が叫ぶと、首無しは赤色の瞳を大きく開き、動きを止める。
放たれた赤い糸は巴に届く手前で地面に落ち、溶け込むように無くなった。
叫んだ直後、一応何が起きてもいいように心優は後ろに下がるが、動きを止めた首無しを見て足を止める。
「う、ごきを止めた?」
荒い息を整え首無しを見ていると、突如ガクンと膝から崩れ始める。
頭も力なく地面へと落ち、心優は咄嗟に胴体の方を抱き留めた。
流石に頭部の方は受け止められず、地面に落ちる。
「うっ、お、重たい!!」
成人男性の体重をかけられてしまい、心優も共に倒れ込みそうになる手前で何とか耐える。
その際、受け止める事が出来なかった頭の方を見るが、黒髪で表情を確認できない。
――――どっち、今の黒田さんは首無し? それとも黒田さん?
いや、この際どっちでもいい。どっちでもいいからさ!!
「~~~~~~起きてくださいよ!!! おもったいってぇの!!」
鍛えているとはいえ変に受け止めてしまい、力が逃げ踏ん張る事が出来ず足が震えてしまう。
我慢の限界というように叫ぶと、やっと黒田が目を覚ましたらしい。
体がピクッと動き、声が聞こえた。
「――――んっ」
「あ、起きましたか、起きましたよね黒田さん! 貴方は黒田さん!! 黒田朔さんです!! なので早く……、早く意識を覚醒させてください重たいです!!!」
「……………………すごい必死だねぇ」
地面から聞こえる声、口調、雰囲気で、すぐ首無しではなく黒田に戻ったことはわかった。
だが、それを喜ぶ余裕が今の心優にはない。今はただ、早く自分の力で立ってくれと願うのみ。
黒田は意識が朧気の中現状をすぐに把握し、体に力を込め自身の足で立つ。
地面に落ちている頭を拾い上げ、首に乗せた。
「あー、首がいてぇ…………」
「私は腰と背中が痛いです……。黒田さん、意外と体重あるんですね」
「失礼な、俺は平均体重だ」
「際ですか」と、心優は項垂れる。
そんな彼女の肩をポンと叩き、黒田は通り抜け巴へと近付いて行った。
放心状態だった巴だが、黒田が近づいて来ている事に気づき、体を反転させ逃げ出そうとする。
だが、黒田から逃げられるわけもなく、簡単に赤い糸により拘束されて地面にうつぶせで倒されてしまった。
「キャッ!」
「おいおい、なんで逃げるんだよ。何もしねぇって」
地面に転んでしまった巴は、体を拘束されてしまっている為立ち上がれず、隣にしゃがみ見下ろしてくる黒田を青い顔で見上げる。
「んで、お前は首無し――――というか、俺が狙いだったって事でいいんか?」
「……………………」
「無言か……。まぁ、いい。お前の目的が俺だろうと、なんだろうとどうでもいい。俺達は俺達の目的にためにお前を利用するだけだ」
「り、利用…………?」
何をされるのか、何をやらされるのか。
巴はなにも予想が出来ず、聞き返す。
カタカタと震えている巴を見て、黒田は眉を顰め「むー」と、唇を尖らせた。
「…………だ~か~ら~、何もしねぇって。痛い事も何も。ただ、俺達が動きやすいように配慮をしてほしいだけだ。お前の演技力、俺達のために活かせ」
黒田言葉は巴には理解出来ず。
同じく心優も理解が出来ず首を傾げる。
「あの、黒田さん? 犬宮さんの準備が整ってしまう為、早くわかりやすく教えていただけませんか?」
「いらだってる?」
「別に……」
「そう。いやな、こいつを利用する方法をちょっと考えててな」
ニマニマと楽しげに笑いながら、顎に手を当て説明し始めた。
「今回の件、御子柴という女が大きく関わってんだろ? なんなら、主犯と言ってもいい。だから、そいつに利用されているこいつはうまく使えば、結構優位に物事を動かす事が可能だろう」
ニヤニヤと企んでいる顔を浮かべている黒田を見て、巴は意気消沈。
「終わった、私の人生」と、戯言のように呟いていた。
「ドンマイ、巴ちゃん」
「うっさい、黙れ」
「っ、え?」
まさか可愛い系だと思っていた巴からそんな罵倒が飛んでくるとは思っておらず、唖然。
驚き、思わず地面に倒れ込んでいる巴を見た。
「と、もえちゃん?」
「あーもう!! 本当にうるっさいなぁ。はいはい、もう色々終わっただろうし、めんどくさい。あんたの言う通りに動けばいいんでしょ? わかったから、早くこれを解いてよ」
突如豹変した巴に心優は放心。
口を金魚のようにパクパクと動かしていた。
「へぇ~、それがお前の素か」
笑っている黒田は、素を出し始めた巴を見て顔を覗き込む。
赤い瞳に見つめられ、身動きの取れない巴は睨み返した。
「何よ」
「いや、俺はそっちの方が好きだなぁ~っと、思ってな」
ニヤッと笑いながらそんなことを言う黒田に、巴は柄にもなく顔を赤くさせる。
目を開き、言葉を詰まらせた。
「っ、は、そ、そんなこと心底どうでもいいわ」
プイッと顔だけをよそに向け、赤い顔を誤魔化した。
そんな彼女の態度を不思議に思いながらも体勢を戻し、黒田は巴を見下ろす。
「そ、それより、本当に私の両親を殺したのは首無しじゃないんだね?」
「メリットがない、証拠も雑、証言も取れる。他に何か俺がやっていないという証拠は必要か?」
「……………………いい、いらない」
そこからは沈黙、口を閉ざしてしまった。
黒田は最初警戒していたが、動き気配を見せない彼女を見て、もう大丈夫だろうと判断、拘束を解いた。
自由になった体をのそりと起こし、髪をガシガシと苦い顔で掻いた。
「……………………私は、だまされていたのね……?」
「そうだろうな。実際俺はやってないし」
「そう」
もう黒田が犯人ではないとわかった巴だが、それでも心から信じていた御子柴が自身に嘘を吐いていたことが信じられず、再度問いかけた。
沈痛な面持ちを浮かべている巴を見て、黒田は平然と答える。
そんな二人を見て、心優も同じように悲し気に顔を俯かせた。
――――巴ちゃん、だまされていたんだ。
両親を殺された悲しい気持ちを、怒りの感情を逆に利用されたんだ。
…………酷い、酷すぎる。人の感情を利用するなんて……。
横に垂らしている拳がぎゅっと握られ、震える。
そんな心優の姿を見て巴は鼻を鳴らし、小馬鹿にするように笑った。
「へぇ、それは何に対しての怒り? 私に騙されていたから? あんたの大事な仲間を傷つけようとしたから? 負けたのはこっちなんだから、特に怒る事もなくない?」
巴がケラケラと笑っているが、それは表面上のみ。
目は悲しみに満ち、どこにぶつければいいのかわからない悲しみを誤魔化して笑っているように感じていた。
心優はそんな巴を見て、いても立ってもいられなくなる。
彼女の前に移動し、膝を突き座った。
突然前に座った心優に驚き、巴は目を開く。
そんな彼女の心境など気にせず、心優は巴の手を取り優しく握った。
「確かに、勝ったのは黒田さんだけど、私はまだ怒ってる。黒田さんを勝手に犯人し、私達を危険な目に合わせた事を」
「そう、どうでもいいけど」
「だからさ、もう何も言わずに黒田さんが言っていた演技力ってやつ。私達に使ってくれない? 今は、それしか気持ちを誤魔化す方法はないと思うよ」
「……………………そうね、どうでもいいけど。もう、私は両親の仇とか、本当にどうでも良くなった。自由に使えばいいさ」
全てを諦めてしまったような言葉に、心優は巴の悲哀を感じる。
何か言葉をかけてあげたいが、ここで時間ばかりをかけてはいられない。
すぐに気を引き締め、黒田を見た。
「では、続きをしましょう」
「そうだな。仲間が増えて俺は嬉しいよ、しかも女性。たまらんなぁ~」
ケケケッと笑った黒田を見て、巴と心優はただただ呆れるだけだった。
放たれた赤い糸は巴に届く手前で地面に落ち、溶け込むように無くなった。
叫んだ直後、一応何が起きてもいいように心優は後ろに下がるが、動きを止めた首無しを見て足を止める。
「う、ごきを止めた?」
荒い息を整え首無しを見ていると、突如ガクンと膝から崩れ始める。
頭も力なく地面へと落ち、心優は咄嗟に胴体の方を抱き留めた。
流石に頭部の方は受け止められず、地面に落ちる。
「うっ、お、重たい!!」
成人男性の体重をかけられてしまい、心優も共に倒れ込みそうになる手前で何とか耐える。
その際、受け止める事が出来なかった頭の方を見るが、黒髪で表情を確認できない。
――――どっち、今の黒田さんは首無し? それとも黒田さん?
いや、この際どっちでもいい。どっちでもいいからさ!!
「~~~~~~起きてくださいよ!!! おもったいってぇの!!」
鍛えているとはいえ変に受け止めてしまい、力が逃げ踏ん張る事が出来ず足が震えてしまう。
我慢の限界というように叫ぶと、やっと黒田が目を覚ましたらしい。
体がピクッと動き、声が聞こえた。
「――――んっ」
「あ、起きましたか、起きましたよね黒田さん! 貴方は黒田さん!! 黒田朔さんです!! なので早く……、早く意識を覚醒させてください重たいです!!!」
「……………………すごい必死だねぇ」
地面から聞こえる声、口調、雰囲気で、すぐ首無しではなく黒田に戻ったことはわかった。
だが、それを喜ぶ余裕が今の心優にはない。今はただ、早く自分の力で立ってくれと願うのみ。
黒田は意識が朧気の中現状をすぐに把握し、体に力を込め自身の足で立つ。
地面に落ちている頭を拾い上げ、首に乗せた。
「あー、首がいてぇ…………」
「私は腰と背中が痛いです……。黒田さん、意外と体重あるんですね」
「失礼な、俺は平均体重だ」
「際ですか」と、心優は項垂れる。
そんな彼女の肩をポンと叩き、黒田は通り抜け巴へと近付いて行った。
放心状態だった巴だが、黒田が近づいて来ている事に気づき、体を反転させ逃げ出そうとする。
だが、黒田から逃げられるわけもなく、簡単に赤い糸により拘束されて地面にうつぶせで倒されてしまった。
「キャッ!」
「おいおい、なんで逃げるんだよ。何もしねぇって」
地面に転んでしまった巴は、体を拘束されてしまっている為立ち上がれず、隣にしゃがみ見下ろしてくる黒田を青い顔で見上げる。
「んで、お前は首無し――――というか、俺が狙いだったって事でいいんか?」
「……………………」
「無言か……。まぁ、いい。お前の目的が俺だろうと、なんだろうとどうでもいい。俺達は俺達の目的にためにお前を利用するだけだ」
「り、利用…………?」
何をされるのか、何をやらされるのか。
巴はなにも予想が出来ず、聞き返す。
カタカタと震えている巴を見て、黒田は眉を顰め「むー」と、唇を尖らせた。
「…………だ~か~ら~、何もしねぇって。痛い事も何も。ただ、俺達が動きやすいように配慮をしてほしいだけだ。お前の演技力、俺達のために活かせ」
黒田言葉は巴には理解出来ず。
同じく心優も理解が出来ず首を傾げる。
「あの、黒田さん? 犬宮さんの準備が整ってしまう為、早くわかりやすく教えていただけませんか?」
「いらだってる?」
「別に……」
「そう。いやな、こいつを利用する方法をちょっと考えててな」
ニマニマと楽しげに笑いながら、顎に手を当て説明し始めた。
「今回の件、御子柴という女が大きく関わってんだろ? なんなら、主犯と言ってもいい。だから、そいつに利用されているこいつはうまく使えば、結構優位に物事を動かす事が可能だろう」
ニヤニヤと企んでいる顔を浮かべている黒田を見て、巴は意気消沈。
「終わった、私の人生」と、戯言のように呟いていた。
「ドンマイ、巴ちゃん」
「うっさい、黙れ」
「っ、え?」
まさか可愛い系だと思っていた巴からそんな罵倒が飛んでくるとは思っておらず、唖然。
驚き、思わず地面に倒れ込んでいる巴を見た。
「と、もえちゃん?」
「あーもう!! 本当にうるっさいなぁ。はいはい、もう色々終わっただろうし、めんどくさい。あんたの言う通りに動けばいいんでしょ? わかったから、早くこれを解いてよ」
突如豹変した巴に心優は放心。
口を金魚のようにパクパクと動かしていた。
「へぇ~、それがお前の素か」
笑っている黒田は、素を出し始めた巴を見て顔を覗き込む。
赤い瞳に見つめられ、身動きの取れない巴は睨み返した。
「何よ」
「いや、俺はそっちの方が好きだなぁ~っと、思ってな」
ニヤッと笑いながらそんなことを言う黒田に、巴は柄にもなく顔を赤くさせる。
目を開き、言葉を詰まらせた。
「っ、は、そ、そんなこと心底どうでもいいわ」
プイッと顔だけをよそに向け、赤い顔を誤魔化した。
そんな彼女の態度を不思議に思いながらも体勢を戻し、黒田は巴を見下ろす。
「そ、それより、本当に私の両親を殺したのは首無しじゃないんだね?」
「メリットがない、証拠も雑、証言も取れる。他に何か俺がやっていないという証拠は必要か?」
「……………………いい、いらない」
そこからは沈黙、口を閉ざしてしまった。
黒田は最初警戒していたが、動き気配を見せない彼女を見て、もう大丈夫だろうと判断、拘束を解いた。
自由になった体をのそりと起こし、髪をガシガシと苦い顔で掻いた。
「……………………私は、だまされていたのね……?」
「そうだろうな。実際俺はやってないし」
「そう」
もう黒田が犯人ではないとわかった巴だが、それでも心から信じていた御子柴が自身に嘘を吐いていたことが信じられず、再度問いかけた。
沈痛な面持ちを浮かべている巴を見て、黒田は平然と答える。
そんな二人を見て、心優も同じように悲し気に顔を俯かせた。
――――巴ちゃん、だまされていたんだ。
両親を殺された悲しい気持ちを、怒りの感情を逆に利用されたんだ。
…………酷い、酷すぎる。人の感情を利用するなんて……。
横に垂らしている拳がぎゅっと握られ、震える。
そんな心優の姿を見て巴は鼻を鳴らし、小馬鹿にするように笑った。
「へぇ、それは何に対しての怒り? 私に騙されていたから? あんたの大事な仲間を傷つけようとしたから? 負けたのはこっちなんだから、特に怒る事もなくない?」
巴がケラケラと笑っているが、それは表面上のみ。
目は悲しみに満ち、どこにぶつければいいのかわからない悲しみを誤魔化して笑っているように感じていた。
心優はそんな巴を見て、いても立ってもいられなくなる。
彼女の前に移動し、膝を突き座った。
突然前に座った心優に驚き、巴は目を開く。
そんな彼女の心境など気にせず、心優は巴の手を取り優しく握った。
「確かに、勝ったのは黒田さんだけど、私はまだ怒ってる。黒田さんを勝手に犯人し、私達を危険な目に合わせた事を」
「そう、どうでもいいけど」
「だからさ、もう何も言わずに黒田さんが言っていた演技力ってやつ。私達に使ってくれない? 今は、それしか気持ちを誤魔化す方法はないと思うよ」
「……………………そうね、どうでもいいけど。もう、私は両親の仇とか、本当にどうでも良くなった。自由に使えばいいさ」
全てを諦めてしまったような言葉に、心優は巴の悲哀を感じる。
何か言葉をかけてあげたいが、ここで時間ばかりをかけてはいられない。
すぐに気を引き締め、黒田を見た。
「では、続きをしましょう」
「そうだな。仲間が増えて俺は嬉しいよ、しかも女性。たまらんなぁ~」
ケケケッと笑った黒田を見て、巴と心優はただただ呆れるだけだった。
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