犬宮賢の行動理念

桜桃-サクランボ-

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犬宮賢と陰陽師

「首無しと狗神の助手は逃がしてもいい」

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「いやぁぁぁぁあ、相性最悪だねぇ~。今の俺では難しかったかなぁ~」

「いやいやいやいや!!! なに普通に笑っているんですか!? 片腕が完全に凍り付け、首は取れてしまって!! なんで普通に笑いながら走って逃げれるんですか!?」

 下から聞こえてくる声に心優は焦りと困惑、ちょっとした怒りの含まれた口調でツッコミを入れながら森の中を走っていた。

「これが俺、だからかなぁ~」

「それで片付けられると思います?!」

 黒田達は今、氷柱女房しがまにょうぼうの攻撃に負け逃げていた。

 戦闘の際に黒田は右腕を氷付けにされ、首は皮膚が破れてしまいくっつかない状態。
 仕方がないため、今は心優が黒田に頭を持っていた。

 ────後ろは、誰も来ていない。
 でも、どこにいるのか分からないし、限界まで距離を離したい。

 黒田を先頭に走っている心優は、彼がどこに向かっているのかわからず問いかけた。

「あの、黒田さん! どこに向かっているんですか?」

「陰陽師達の手が届かない場所。それで、俺が近くにいれば心優ちゃんも安心できる場所――――だといいなぁ」

 ――――え、何その不穏な最後の言葉。
 安心出来る場所? でも、黒田さんが近くにいる事が限定されている?

 不安が胸を占める中走り続けていると、木々が開かれ始め崖にたどり着いてしまった。

 紅城神社の裏手は洗濯を干すための星竿がある。
 その奥に心優が入れ込まれていた地下牢。さらに行くと、崖。

 心優は息を切らしながら崖下を見た。

 下も森が続いているらしく、緑で覆われ地面が見えない。
 冷たい風が吹き、心優の身体を震わせる。

「お、落ちたら確実にひとたまりもない…………」

「普通ならそうだろうねぇ~」


 ――――ガシッ


「――――え、ガシッ? なんで黒田さん、私の腰に手を回しているのですか? いつも言っているかと思うのですが、このような事は私ではなく犬宮さんに行っていただきたいのですが……」

「賢にやったら一発で首が吹っ飛ばされるからねぇ~。さすがに厳しいかなぁ」

 へらへらしながら困惑している心優を脇に抱きかかえ、彼女の持っている自身の頭を空いている方の手で持ち変えた。

 今後何が起きるのか察した心優は、顔を真っ青にし黒田の頭を見た。

「あ、あの、えっと。もっと、他の道は……?」

「ないよ」

 さわやか皇子のような素敵な笑顔を震えている心優に向け、黒田はきっぱりと言い切った。

 何とか他の道はないか、方法は無いかと止めようとするが、それは全て無駄。

 黒田は崖の端に立ち、風を受け笑う。

「――――行くよ」

「ま、お願いだから待って!!!!」

「まったなぁい」

「そーれ!」と、黒田は何のためらいもなく地面を軽く蹴り、空中へと飛び出した。

「ひっ?! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

 心優の悲鳴が木霊する中、重力に逆らうことなく二人は崖下へと落ちてしまった。

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

「――――ちっ、逃げられた!」

 巴の式神が現れた事により、異変に気付いた御子柴が地下牢へと走っていた。

 すぐに森の奥に怪異の気配を感じ飛び出したが、たどり着いた時にはもう、黒田が崖を飛び降りた後だった。

「…………まぁ、いいわ。私達の狙いはあくまで狗神と奇血きけつだけ。最悪、首無しと狗神の助手は逃がしてもいい」

 目を細め崖下を覗く御子柴は、肩を竦め振り返る。
 そのまま、何事もなかったかのように神社へと戻って行った。

 途中、巴を拾って。

 ※

「し、死にました。天国が見えました、地獄じゃなくてよかったです。はぁ、はぁ。やはり、BLは神」

「ん? なんでそこでBLが出てくるの?」

 崖から飛び降りた黒田と心優は、森の中に立っていた。

 飛び降りた黒田は頭を落とさないようにし、森に立ち並ぶ木の枝を足で蹴り衝撃を和らげ地面に着地。

 途中、心優は天国を見たらしく、白目をむき言葉にならない声を出していた。

 数分経った今はだいぶ回復し、地面に項垂れつつも意識は戻っている。
 だが、まだ体に力が入らず、地面に手を付き四つん這いになっていた。

「BLは神から愛されている為、BLを愛している私は神に認められており、神により今回命が助かったと思っております」

「そこまでBLを好いているのはある意味すごいな……」

 黒田はズボンのポケットに両手を入れながら心優と話しているが、目線だけは周りに向けていた。

「――――さてっと。心優ちゃん、もうそろそろ動けるようになったか? 一応、時間はあまりないから急ぎたいんだが?」

「え、時間がない? どういうことですか?」

 地面にへたり込んでいた心優だったが、今の黒田の言葉で顔を上げ立ち上がった。

 服についた草や土を払い、黒田が見ている森の奥へと視線を移す。

 今は昼間で明るいはずなのに、なぜか黒田の視線の先は暗く、気味が悪い。
 体に悪寒が走り、心優は思わず体が震え腕を摩った。

「あ、あの、黒田さん? まさかかと思うのですが、あんな薄気味悪い所に行くとか……ない、ですよね?」

「行くよ、行かなければならない。準備が整ったのかを確認しないといけないしね」

「私が行く必要は?」

「ないけど、どこから陰陽師が現れるかわからない状況で一人になりたいのか?」

 きょとんとした顔で黒田が聞くと、心優はうげぇっと項垂れる。

「うーん」と頭を悩ませた結果、黒田から離れた方がリスクがあると判断。

 ────もう、着いていくしかないじゃん……。
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