51 / 80
犬宮賢と陰陽師
「首無しと狗神の助手は逃がしてもいい」
しおりを挟む
「いやぁぁぁぁあ、相性最悪だねぇ~。今の俺では難しかったかなぁ~」
「いやいやいやいや!!! なに普通に笑っているんですか!? 片腕が完全に凍り付け、首は取れてしまって!! なんで普通に笑いながら走って逃げれるんですか!?」
下から聞こえてくる声に心優は焦りと困惑、ちょっとした怒りの含まれた口調でツッコミを入れながら森の中を走っていた。
「これが俺、だからかなぁ~」
「それで片付けられると思います?!」
黒田達は今、氷柱女房の攻撃に負け逃げていた。
戦闘の際に黒田は右腕を氷付けにされ、首は皮膚が破れてしまいくっつかない状態。
仕方がないため、今は心優が黒田に頭を持っていた。
────後ろは、誰も来ていない。
でも、どこにいるのか分からないし、限界まで距離を離したい。
黒田を先頭に走っている心優は、彼がどこに向かっているのかわからず問いかけた。
「あの、黒田さん! どこに向かっているんですか?」
「陰陽師達の手が届かない場所。それで、俺が近くにいれば心優ちゃんも安心できる場所――――だといいなぁ」
――――え、何その不穏な最後の言葉。
安心出来る場所? でも、黒田さんが近くにいる事が限定されている?
不安が胸を占める中走り続けていると、木々が開かれ始め崖にたどり着いてしまった。
紅城神社の裏手は洗濯を干すための星竿がある。
その奥に心優が入れ込まれていた地下牢。さらに行くと、崖。
心優は息を切らしながら崖下を見た。
下も森が続いているらしく、緑で覆われ地面が見えない。
冷たい風が吹き、心優の身体を震わせる。
「お、落ちたら確実にひとたまりもない…………」
「普通ならそうだろうねぇ~」
――――ガシッ
「――――え、ガシッ? なんで黒田さん、私の腰に手を回しているのですか? いつも言っているかと思うのですが、このような事は私ではなく犬宮さんに行っていただきたいのですが……」
「賢にやったら一発で首が吹っ飛ばされるからねぇ~。さすがに厳しいかなぁ」
へらへらしながら困惑している心優を脇に抱きかかえ、彼女の持っている自身の頭を空いている方の手で持ち変えた。
今後何が起きるのか察した心優は、顔を真っ青にし黒田の頭を見た。
「あ、あの、えっと。もっと、他の道は……?」
「ないよ」
さわやか皇子のような素敵な笑顔を震えている心優に向け、黒田はきっぱりと言い切った。
何とか他の道はないか、方法は無いかと止めようとするが、それは全て無駄。
黒田は崖の端に立ち、風を受け笑う。
「――――行くよ」
「ま、お願いだから待って!!!!」
「まったなぁい」
「そーれ!」と、黒田は何のためらいもなく地面を軽く蹴り、空中へと飛び出した。
「ひっ?! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
心優の悲鳴が木霊する中、重力に逆らうことなく二人は崖下へと落ちてしまった。
・
・
・
・
・
・
「――――ちっ、逃げられた!」
巴の式神が現れた事により、異変に気付いた御子柴が地下牢へと走っていた。
すぐに森の奥に怪異の気配を感じ飛び出したが、たどり着いた時にはもう、黒田が崖を飛び降りた後だった。
「…………まぁ、いいわ。私達の狙いはあくまで狗神と奇血だけ。最悪、首無しと狗神の助手は逃がしてもいい」
目を細め崖下を覗く御子柴は、肩を竦め振り返る。
そのまま、何事もなかったかのように神社へと戻って行った。
途中、巴を拾って。
※
「し、死にました。天国が見えました、地獄じゃなくてよかったです。はぁ、はぁ。やはり、BLは神」
「ん? なんでそこでBLが出てくるの?」
崖から飛び降りた黒田と心優は、森の中に立っていた。
飛び降りた黒田は頭を落とさないようにし、森に立ち並ぶ木の枝を足で蹴り衝撃を和らげ地面に着地。
途中、心優は天国を見たらしく、白目をむき言葉にならない声を出していた。
数分経った今はだいぶ回復し、地面に項垂れつつも意識は戻っている。
だが、まだ体に力が入らず、地面に手を付き四つん這いになっていた。
「BLは神から愛されている為、BLを愛している私は神に認められており、神により今回命が助かったと思っております」
「そこまでBLを好いているのはある意味すごいな……」
黒田はズボンのポケットに両手を入れながら心優と話しているが、目線だけは周りに向けていた。
「――――さてっと。心優ちゃん、もうそろそろ動けるようになったか? 一応、時間はあまりないから急ぎたいんだが?」
「え、時間がない? どういうことですか?」
地面にへたり込んでいた心優だったが、今の黒田の言葉で顔を上げ立ち上がった。
服についた草や土を払い、黒田が見ている森の奥へと視線を移す。
今は昼間で明るいはずなのに、なぜか黒田の視線の先は暗く、気味が悪い。
体に悪寒が走り、心優は思わず体が震え腕を摩った。
「あ、あの、黒田さん? まさかかと思うのですが、あんな薄気味悪い所に行くとか……ない、ですよね?」
「行くよ、行かなければならない。準備が整ったのかを確認しないといけないしね」
「私が行く必要は?」
「ないけど、どこから陰陽師が現れるかわからない状況で一人になりたいのか?」
きょとんとした顔で黒田が聞くと、心優はうげぇっと項垂れる。
「うーん」と頭を悩ませた結果、黒田から離れた方がリスクがあると判断。
────もう、着いていくしかないじゃん……。
「いやいやいやいや!!! なに普通に笑っているんですか!? 片腕が完全に凍り付け、首は取れてしまって!! なんで普通に笑いながら走って逃げれるんですか!?」
下から聞こえてくる声に心優は焦りと困惑、ちょっとした怒りの含まれた口調でツッコミを入れながら森の中を走っていた。
「これが俺、だからかなぁ~」
「それで片付けられると思います?!」
黒田達は今、氷柱女房の攻撃に負け逃げていた。
戦闘の際に黒田は右腕を氷付けにされ、首は皮膚が破れてしまいくっつかない状態。
仕方がないため、今は心優が黒田に頭を持っていた。
────後ろは、誰も来ていない。
でも、どこにいるのか分からないし、限界まで距離を離したい。
黒田を先頭に走っている心優は、彼がどこに向かっているのかわからず問いかけた。
「あの、黒田さん! どこに向かっているんですか?」
「陰陽師達の手が届かない場所。それで、俺が近くにいれば心優ちゃんも安心できる場所――――だといいなぁ」
――――え、何その不穏な最後の言葉。
安心出来る場所? でも、黒田さんが近くにいる事が限定されている?
不安が胸を占める中走り続けていると、木々が開かれ始め崖にたどり着いてしまった。
紅城神社の裏手は洗濯を干すための星竿がある。
その奥に心優が入れ込まれていた地下牢。さらに行くと、崖。
心優は息を切らしながら崖下を見た。
下も森が続いているらしく、緑で覆われ地面が見えない。
冷たい風が吹き、心優の身体を震わせる。
「お、落ちたら確実にひとたまりもない…………」
「普通ならそうだろうねぇ~」
――――ガシッ
「――――え、ガシッ? なんで黒田さん、私の腰に手を回しているのですか? いつも言っているかと思うのですが、このような事は私ではなく犬宮さんに行っていただきたいのですが……」
「賢にやったら一発で首が吹っ飛ばされるからねぇ~。さすがに厳しいかなぁ」
へらへらしながら困惑している心優を脇に抱きかかえ、彼女の持っている自身の頭を空いている方の手で持ち変えた。
今後何が起きるのか察した心優は、顔を真っ青にし黒田の頭を見た。
「あ、あの、えっと。もっと、他の道は……?」
「ないよ」
さわやか皇子のような素敵な笑顔を震えている心優に向け、黒田はきっぱりと言い切った。
何とか他の道はないか、方法は無いかと止めようとするが、それは全て無駄。
黒田は崖の端に立ち、風を受け笑う。
「――――行くよ」
「ま、お願いだから待って!!!!」
「まったなぁい」
「そーれ!」と、黒田は何のためらいもなく地面を軽く蹴り、空中へと飛び出した。
「ひっ?! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
心優の悲鳴が木霊する中、重力に逆らうことなく二人は崖下へと落ちてしまった。
・
・
・
・
・
・
「――――ちっ、逃げられた!」
巴の式神が現れた事により、異変に気付いた御子柴が地下牢へと走っていた。
すぐに森の奥に怪異の気配を感じ飛び出したが、たどり着いた時にはもう、黒田が崖を飛び降りた後だった。
「…………まぁ、いいわ。私達の狙いはあくまで狗神と奇血だけ。最悪、首無しと狗神の助手は逃がしてもいい」
目を細め崖下を覗く御子柴は、肩を竦め振り返る。
そのまま、何事もなかったかのように神社へと戻って行った。
途中、巴を拾って。
※
「し、死にました。天国が見えました、地獄じゃなくてよかったです。はぁ、はぁ。やはり、BLは神」
「ん? なんでそこでBLが出てくるの?」
崖から飛び降りた黒田と心優は、森の中に立っていた。
飛び降りた黒田は頭を落とさないようにし、森に立ち並ぶ木の枝を足で蹴り衝撃を和らげ地面に着地。
途中、心優は天国を見たらしく、白目をむき言葉にならない声を出していた。
数分経った今はだいぶ回復し、地面に項垂れつつも意識は戻っている。
だが、まだ体に力が入らず、地面に手を付き四つん這いになっていた。
「BLは神から愛されている為、BLを愛している私は神に認められており、神により今回命が助かったと思っております」
「そこまでBLを好いているのはある意味すごいな……」
黒田はズボンのポケットに両手を入れながら心優と話しているが、目線だけは周りに向けていた。
「――――さてっと。心優ちゃん、もうそろそろ動けるようになったか? 一応、時間はあまりないから急ぎたいんだが?」
「え、時間がない? どういうことですか?」
地面にへたり込んでいた心優だったが、今の黒田の言葉で顔を上げ立ち上がった。
服についた草や土を払い、黒田が見ている森の奥へと視線を移す。
今は昼間で明るいはずなのに、なぜか黒田の視線の先は暗く、気味が悪い。
体に悪寒が走り、心優は思わず体が震え腕を摩った。
「あ、あの、黒田さん? まさかかと思うのですが、あんな薄気味悪い所に行くとか……ない、ですよね?」
「行くよ、行かなければならない。準備が整ったのかを確認しないといけないしね」
「私が行く必要は?」
「ないけど、どこから陰陽師が現れるかわからない状況で一人になりたいのか?」
きょとんとした顔で黒田が聞くと、心優はうげぇっと項垂れる。
「うーん」と頭を悩ませた結果、黒田から離れた方がリスクがあると判断。
────もう、着いていくしかないじゃん……。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活
まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開?
第二巻は、ホラー風味です。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
【連載中】は、短時間で読めるように短い文節ごとでの公開になります。
(お気に入り登録いただけると通知が行き、便利かもです)
その後、誤字脱字修正や辻褄合わせが行われて、合成された1話分にタイトルをつけ再公開されます。
(その前に、仮まとめ版が出る場合もある、かも、しれない、可能性)
物語の細部は連載時と変わることが多いので、二度読むのが通です。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております
ひきこもり瑞祥妃は黒龍帝の寵愛を受ける
緋村燐
キャラ文芸
天に御座す黄龍帝が創りし中つ国には、白、黒、赤、青の四龍が治める国がある。
中でも特に広く豊かな大地を持つ龍湖国は、白黒対の龍が治める国だ。
龍帝と婚姻し地上に恵みをもたらす瑞祥の娘として生まれた李紅玉は、その力を抑えるためまじないを掛けた状態で入宮する。
だが事情を知らぬ白龍帝は呪われていると言い紅玉を下級妃とした。
それから二年が経ちまじないが消えたが、すっかり白龍帝の皇后になる気を無くしてしまった紅玉は他の方法で使命を果たそうと行動を起こす。
そう、この国には白龍帝の対となる黒龍帝もいるのだ。
黒龍帝の皇后となるため、位を上げるよう奮闘する中で紅玉は自身にまじないを掛けた道士の名を聞く。
道士と龍帝、瑞祥の娘の因果が絡み合う!
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる