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犬宮賢と陰陽師
「――――ありがとう」
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すぐに犬宮が真矢家から離れた事で気づかれずに済んだが、最古の精神状態は限界。
事務所まで持たないと思い、人気のない路地裏の壁に寄りかかり座った。
「ごめんね、翔。怖かったね」
大きく体を震わせ泣きわめく最古を両手で抱きしめ、犬宮は何度も謝罪した。
「ごめん、本当に、ごめん……」
「…………」
最古の前だと犬宮は気丈な態度を保つようにしていた。
だが、今の最古の様子に彼も限界が近い。
今まで思い出さないようにしていた過去、捕らわれていた時の自分。
自分のせいで巻き込んでしまった周りの人達、一番大事だと思っていた姉の存在。
思い出したくない、今すぐ逃げだしたい。
そのような感情が最古の泣き声と共に浮上し、目じりが熱くなり体がカタカタと震え始める。
犬宮の身体の震えを感じ取り、先ほどまで泣いていた最古の涙が止まる。
目を丸くし、自身を抱きしめてくれている犬宮を横目で見た。
「……………………いたい、いたい?」
「っ、翔?」
最古は今まで自身の意思で話したことは一度もない。
声を出す時は大抵、捜査の時犬宮に質問されている時だけ。
今のように質問をすることは一度もなかったため、犬宮は驚き顔をゆっくりと上げた。
顔を上げると、涙を浮かべている最古の漆黒の瞳と目が合う。
大きく丸い、子供の瞳。
瞳の奥にあるのは、彼を苦しめる悲惨な過去。
犬宮は最古に気を遣わせてしまっている、そう考え頭を撫で無理に笑った。
「大丈夫、俺は大丈夫だ。だから、最古は思い切り泣いてもいい。もう、お前を縛るものは何もない。自由でいいんだぞ」
犬宮の手は冷たく、今まで感じていた温もりがない。
最古はその手が微かに震えていることに気づいている。
犬宮の笑顔が無理に作られているというのも、わかっていた。
目を丸くし犬宮を見ていた最古だったが、体をよじり自ら犬宮から離れる。
「え、どうしたの翔。だいじょっ――」
驚きで問いかけようとすると、感じたのは小さな温もり。
最古は犬宮から離れると背伸びをし、片手は彼の肩に置かれ、もう片方の手は頭に。
黒髪を「いいこ、いいこ」と呟きながら撫でている。
嗚咽を漏らし、ただひたすらに頭を撫でていた。
今まで自分がされて嬉しかったことをすれば、犬宮も笑ってくれる。
そう思い頭を撫で「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と伝え続けた。
頑張って今までのニコニコ笑顔を浮かべようとしたり、ぎゅっと抱き着いたりと。
最古は最古なりに頑張って犬宮を励まそうと頑張っていた。
自分も辛いのに、自分も怖いはずなのに。
それなのに、最古は頑張って犬宮を慰めている。
そんな最古の気持ちに、今まで我慢していた犬宮の感情が崩壊。
唖然とした表情を浮かべている犬宮の黒い瞳に、透明な涙が溢れ落ちた。
それを”痛がっている”と勘違いしてしまった最古は、焦ったような表情を浮かべ「いたい、いたい、とんでけ!!」と、必死に犬宮の頭を撫でた。
両手で頑張って撫でている。
焦っているせいか、髪はぐしゃぐしゃ。それでも、温かく優しい温もりを犬宮は感じ取っており、思わず最古を両手で抱き寄せた。
「――――ありがとう、翔。もう、痛くないよ」
ぎゅーと抱きしめられ、最古はキョトンと目を丸くする。
最古自身、犬宮に甘える時は度々あった。
だが、犬宮からここまで抱きしめられたことは無かった。
力が強く少しだけ痛い。
でも、離さないで欲しい、このまま抱きしめていて欲しい。
最古も一度は止まった涙がまた溢れてしまい、大粒の涙が犬宮の肩を濡らす。
しばらく二人は泣き続けた。
思い出したくもない怖い過去とさよならをするように。
自身を捉える鎖を解き放つように。
全てを、涙と共に流すように、二人はただただ泣き続けた。
事務所まで持たないと思い、人気のない路地裏の壁に寄りかかり座った。
「ごめんね、翔。怖かったね」
大きく体を震わせ泣きわめく最古を両手で抱きしめ、犬宮は何度も謝罪した。
「ごめん、本当に、ごめん……」
「…………」
最古の前だと犬宮は気丈な態度を保つようにしていた。
だが、今の最古の様子に彼も限界が近い。
今まで思い出さないようにしていた過去、捕らわれていた時の自分。
自分のせいで巻き込んでしまった周りの人達、一番大事だと思っていた姉の存在。
思い出したくない、今すぐ逃げだしたい。
そのような感情が最古の泣き声と共に浮上し、目じりが熱くなり体がカタカタと震え始める。
犬宮の身体の震えを感じ取り、先ほどまで泣いていた最古の涙が止まる。
目を丸くし、自身を抱きしめてくれている犬宮を横目で見た。
「……………………いたい、いたい?」
「っ、翔?」
最古は今まで自身の意思で話したことは一度もない。
声を出す時は大抵、捜査の時犬宮に質問されている時だけ。
今のように質問をすることは一度もなかったため、犬宮は驚き顔をゆっくりと上げた。
顔を上げると、涙を浮かべている最古の漆黒の瞳と目が合う。
大きく丸い、子供の瞳。
瞳の奥にあるのは、彼を苦しめる悲惨な過去。
犬宮は最古に気を遣わせてしまっている、そう考え頭を撫で無理に笑った。
「大丈夫、俺は大丈夫だ。だから、最古は思い切り泣いてもいい。もう、お前を縛るものは何もない。自由でいいんだぞ」
犬宮の手は冷たく、今まで感じていた温もりがない。
最古はその手が微かに震えていることに気づいている。
犬宮の笑顔が無理に作られているというのも、わかっていた。
目を丸くし犬宮を見ていた最古だったが、体をよじり自ら犬宮から離れる。
「え、どうしたの翔。だいじょっ――」
驚きで問いかけようとすると、感じたのは小さな温もり。
最古は犬宮から離れると背伸びをし、片手は彼の肩に置かれ、もう片方の手は頭に。
黒髪を「いいこ、いいこ」と呟きながら撫でている。
嗚咽を漏らし、ただひたすらに頭を撫でていた。
今まで自分がされて嬉しかったことをすれば、犬宮も笑ってくれる。
そう思い頭を撫で「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と伝え続けた。
頑張って今までのニコニコ笑顔を浮かべようとしたり、ぎゅっと抱き着いたりと。
最古は最古なりに頑張って犬宮を励まそうと頑張っていた。
自分も辛いのに、自分も怖いはずなのに。
それなのに、最古は頑張って犬宮を慰めている。
そんな最古の気持ちに、今まで我慢していた犬宮の感情が崩壊。
唖然とした表情を浮かべている犬宮の黒い瞳に、透明な涙が溢れ落ちた。
それを”痛がっている”と勘違いしてしまった最古は、焦ったような表情を浮かべ「いたい、いたい、とんでけ!!」と、必死に犬宮の頭を撫でた。
両手で頑張って撫でている。
焦っているせいか、髪はぐしゃぐしゃ。それでも、温かく優しい温もりを犬宮は感じ取っており、思わず最古を両手で抱き寄せた。
「――――ありがとう、翔。もう、痛くないよ」
ぎゅーと抱きしめられ、最古はキョトンと目を丸くする。
最古自身、犬宮に甘える時は度々あった。
だが、犬宮からここまで抱きしめられたことは無かった。
力が強く少しだけ痛い。
でも、離さないで欲しい、このまま抱きしめていて欲しい。
最古も一度は止まった涙がまた溢れてしまい、大粒の涙が犬宮の肩を濡らす。
しばらく二人は泣き続けた。
思い出したくもない怖い過去とさよならをするように。
自身を捉える鎖を解き放つように。
全てを、涙と共に流すように、二人はただただ泣き続けた。
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