36 / 80
犬宮賢と怪異
「最後はいいようにやってやったけどね」
しおりを挟む
「犬宮さん、黒田さん、おはようございます」
心優は一週間の休暇を頂き、出社。
中を見回すと、いつもと変わらない光景があり、何故か安心した。
最古はソファーであやとりをして一人で笑い、黒田は心優が来たことをいち早く気づいてくれて手を振り挨拶。そんな彼の膝には、ファイリングされている資料。
奥のテーブルでは、頭に雑誌を乗せて寝ている犬宮の姿。
「色々と相変わらずで良かった。最古君、膝や腕の怪我は大丈夫?」
近くまで移動し怪我を確認してみると、今はもうかさぶたになっていて、順調に治っていた。
――――良かった、もう痛みはなさそう。
最古君、いつも笑っているから痛みがあってもわからないんだよなぁ。
苦笑い浮かべながら、奥で寝ている犬宮を見る。
一応、寝ていることはわかるが犬宮の事だ。
心優を無視しているだけかもしれないと思い、近づき耳を傾ける。
「……………………はぁ、いいですけど」
聞こえてきたのは寝息、完全に寝ている。
ため息を吐きつつも、そのままにしてあげ黒田の隣に座った。
――――前の怪異事件について、少し聞きたかったんだけどなぁ。
でも、犬宮さんも疲れているのかもしれないし、起こすのは忍びないから仕方がない。
心優が不服そうに唇を尖らせていると、黒田に肩をつんつんと突かれる。
顔を上げると、膝の上に乗せていたファイルを手に持ち見せてきた。
「これが、今回の事件の真相だ。賢と書いたから間違いもないだろうよ」
「え、み、見てもいいですか!?」
「どーぞ」
黒田から何枚もの資料がまとめられているファイルを受けとり、心優は膝に置き開いた。
――――えっと。
出だしとかは前に整理した時と同じ、雫さんが私達探偵社に来たところから始まっている。
この時はまだ、アリバイを作る為だけで探偵社に来ていた。
この資料にも、そう書かれている。
あ、でも、付け加えられているな。
私が犬宮さんに伝えた、路地裏での出来事が。
桜花雫は探偵社に来たことで、もう一つの欲が芽生えてしまった。
しかも、最初から怪異である飛縁魔が絡んでいたから、浮足立ってしまったと書かれている。
確かに、怪異が自分の味方だとものすごく心強いよなぁ。
本当に、心強い。
ちらっと隣にいる黒田を横目で見ると、涙を零し欠伸をしていた。
…………んー。心強いとは、普段の黒田さん達からすればまったく思えないけどね。
犬宮さんも、普段は寝ているだけだし。
心優からの視線に気づき、黒田は「なに?」と聞いたが、すぐに目を逸らし「なんでもないと」と、心優はまた資料に目を戻した。
追加で書かれているのは、雫の真意。
これは、私も知らないことが書かれてる。
雫さんは昔から負けん気が強く、誰にも負けたくはないと思っていた。
だから、自分が生まれた桜花家より上の存在、真矢家が憎くて憎くて仕方がなかった。
でも、自身の親である桜花家の頭は、そこまで闘争心はなく、今の地位で満足していた。
それが許せなくて、雫は親を焚きつけ抗争へと無理やり発展させる。
自分の家族当然の人達がその時の抗争で死んでいく中、雫はその時「負けるな」としか思っていなかったみたい。
それでも負けてしまって、雫は絶望。
もう、真矢家には勝てないのかと諦め、自身の感情を押し込め生活していた。
真矢家に勝てない家族なんていらない、そう言って家を出て普通の人と同じ生活を送っていると、新井岳弥に出会う。
付き合い、結婚まで言ったが、亭主関白ぶりが結婚してから発揮され、もう嫌になってしまった。
悩んでいると、そんな彼女の弱みに付け込んで飛縁魔が声をかけた――と。
「あの、黒田さん。聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「なんでこんな、事細かに雫さんの事が書かれているのですか?」
これが憶測とは思えないし、雫さんの心情などもしっかりと書かれている。
何処でこの情報を手に入れたんだろう。
「あぁ、これか。本人に聞いたんだよ、賢が」
「え、犬宮さんが? 面会に行ったって事ですか?」
「そうそう」
雫は犬宮の通報により、今は捕まっている。
そう簡単に話してくれる内容でもない。どのようにして聞いたのだろうと心優は首を捻った。
「ふふふっ……賢らしい、素晴らしい聞き方だったぞ」
「ど、どういうことですか?」
「面会に行って賢がちょーっと、本当にちょっーーーと、きつくお話したらぽろってくれたぞ」
「…………ソウナンデスネーソレナラヨカッター」
これは絶対に、詳しく聞いてはいけないような気がした。
また気を取り直して資料の続きを見る。
雫の次に書かれているのは、怪異である飛縁魔の動き。
飛縁魔の今回動き出した動機は、単純なモノ。
”自分以外に最恐はいらない”
…………本当にくだらないなぁ。
でも、これは雫さんと同じ思考。類は友を呼ぶって事かな。
飛縁魔は黒田さんと犬宮さんを消そうとしたんだなぁ。
結局、黒田さんの内に秘める首無しという怪異と、犬宮さんの事前準備によって消されたのは飛縁魔だったけど。
「――――あ」
下の方に書かれてる、岳弥さんの殺害方法。
「壁の二つの穴って、ワイヤーを備え付けるための物だったんですね」
「みたいだな。人間が人間の首を切るなんて、何か小細工がないと不可能だろうし、納得」
「それもそうですね」
えっと、最古君が見つけた壁の上に会った何かの印。あれは、岳弥さんの視線を誘導する物だったみたい。
電話で上を向かせ、無防備に晒された首めがけて、壁に仕掛けていたワイヤーを動かし、首を切った。
あそこは薄暗かったし、ワイヤーも黒く染められていたらそりゃ、気づかないよね。
しっかりとした仕掛けを考え、仕掛けてから私達の所に……か。
「なんだか、いいようにやられたって感じだなぁ」
「最後はいいように殺ってやったけどね」
ファイルを閉じため息を吐くと、窓側から声が聞こえ黒田と共に振り向いた。
そこには変わらず、顔に本を乗せ眠っている犬宮の姿。
二人の視線を受けるとのそっと動き出し、本を顔から取った。
心優は一週間の休暇を頂き、出社。
中を見回すと、いつもと変わらない光景があり、何故か安心した。
最古はソファーであやとりをして一人で笑い、黒田は心優が来たことをいち早く気づいてくれて手を振り挨拶。そんな彼の膝には、ファイリングされている資料。
奥のテーブルでは、頭に雑誌を乗せて寝ている犬宮の姿。
「色々と相変わらずで良かった。最古君、膝や腕の怪我は大丈夫?」
近くまで移動し怪我を確認してみると、今はもうかさぶたになっていて、順調に治っていた。
――――良かった、もう痛みはなさそう。
最古君、いつも笑っているから痛みがあってもわからないんだよなぁ。
苦笑い浮かべながら、奥で寝ている犬宮を見る。
一応、寝ていることはわかるが犬宮の事だ。
心優を無視しているだけかもしれないと思い、近づき耳を傾ける。
「……………………はぁ、いいですけど」
聞こえてきたのは寝息、完全に寝ている。
ため息を吐きつつも、そのままにしてあげ黒田の隣に座った。
――――前の怪異事件について、少し聞きたかったんだけどなぁ。
でも、犬宮さんも疲れているのかもしれないし、起こすのは忍びないから仕方がない。
心優が不服そうに唇を尖らせていると、黒田に肩をつんつんと突かれる。
顔を上げると、膝の上に乗せていたファイルを手に持ち見せてきた。
「これが、今回の事件の真相だ。賢と書いたから間違いもないだろうよ」
「え、み、見てもいいですか!?」
「どーぞ」
黒田から何枚もの資料がまとめられているファイルを受けとり、心優は膝に置き開いた。
――――えっと。
出だしとかは前に整理した時と同じ、雫さんが私達探偵社に来たところから始まっている。
この時はまだ、アリバイを作る為だけで探偵社に来ていた。
この資料にも、そう書かれている。
あ、でも、付け加えられているな。
私が犬宮さんに伝えた、路地裏での出来事が。
桜花雫は探偵社に来たことで、もう一つの欲が芽生えてしまった。
しかも、最初から怪異である飛縁魔が絡んでいたから、浮足立ってしまったと書かれている。
確かに、怪異が自分の味方だとものすごく心強いよなぁ。
本当に、心強い。
ちらっと隣にいる黒田を横目で見ると、涙を零し欠伸をしていた。
…………んー。心強いとは、普段の黒田さん達からすればまったく思えないけどね。
犬宮さんも、普段は寝ているだけだし。
心優からの視線に気づき、黒田は「なに?」と聞いたが、すぐに目を逸らし「なんでもないと」と、心優はまた資料に目を戻した。
追加で書かれているのは、雫の真意。
これは、私も知らないことが書かれてる。
雫さんは昔から負けん気が強く、誰にも負けたくはないと思っていた。
だから、自分が生まれた桜花家より上の存在、真矢家が憎くて憎くて仕方がなかった。
でも、自身の親である桜花家の頭は、そこまで闘争心はなく、今の地位で満足していた。
それが許せなくて、雫は親を焚きつけ抗争へと無理やり発展させる。
自分の家族当然の人達がその時の抗争で死んでいく中、雫はその時「負けるな」としか思っていなかったみたい。
それでも負けてしまって、雫は絶望。
もう、真矢家には勝てないのかと諦め、自身の感情を押し込め生活していた。
真矢家に勝てない家族なんていらない、そう言って家を出て普通の人と同じ生活を送っていると、新井岳弥に出会う。
付き合い、結婚まで言ったが、亭主関白ぶりが結婚してから発揮され、もう嫌になってしまった。
悩んでいると、そんな彼女の弱みに付け込んで飛縁魔が声をかけた――と。
「あの、黒田さん。聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「なんでこんな、事細かに雫さんの事が書かれているのですか?」
これが憶測とは思えないし、雫さんの心情などもしっかりと書かれている。
何処でこの情報を手に入れたんだろう。
「あぁ、これか。本人に聞いたんだよ、賢が」
「え、犬宮さんが? 面会に行ったって事ですか?」
「そうそう」
雫は犬宮の通報により、今は捕まっている。
そう簡単に話してくれる内容でもない。どのようにして聞いたのだろうと心優は首を捻った。
「ふふふっ……賢らしい、素晴らしい聞き方だったぞ」
「ど、どういうことですか?」
「面会に行って賢がちょーっと、本当にちょっーーーと、きつくお話したらぽろってくれたぞ」
「…………ソウナンデスネーソレナラヨカッター」
これは絶対に、詳しく聞いてはいけないような気がした。
また気を取り直して資料の続きを見る。
雫の次に書かれているのは、怪異である飛縁魔の動き。
飛縁魔の今回動き出した動機は、単純なモノ。
”自分以外に最恐はいらない”
…………本当にくだらないなぁ。
でも、これは雫さんと同じ思考。類は友を呼ぶって事かな。
飛縁魔は黒田さんと犬宮さんを消そうとしたんだなぁ。
結局、黒田さんの内に秘める首無しという怪異と、犬宮さんの事前準備によって消されたのは飛縁魔だったけど。
「――――あ」
下の方に書かれてる、岳弥さんの殺害方法。
「壁の二つの穴って、ワイヤーを備え付けるための物だったんですね」
「みたいだな。人間が人間の首を切るなんて、何か小細工がないと不可能だろうし、納得」
「それもそうですね」
えっと、最古君が見つけた壁の上に会った何かの印。あれは、岳弥さんの視線を誘導する物だったみたい。
電話で上を向かせ、無防備に晒された首めがけて、壁に仕掛けていたワイヤーを動かし、首を切った。
あそこは薄暗かったし、ワイヤーも黒く染められていたらそりゃ、気づかないよね。
しっかりとした仕掛けを考え、仕掛けてから私達の所に……か。
「なんだか、いいようにやられたって感じだなぁ」
「最後はいいように殺ってやったけどね」
ファイルを閉じため息を吐くと、窓側から声が聞こえ黒田と共に振り向いた。
そこには変わらず、顔に本を乗せ眠っている犬宮の姿。
二人の視線を受けるとのそっと動き出し、本を顔から取った。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる
佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます
「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」
なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。
彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。
私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。
それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。
そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。
ただ。
婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。
切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。
彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。
「どうか、私と結婚してください」
「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」
私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。
彼のことはよく知っている。
彼もまた、私のことをよく知っている。
でも彼は『それ』が私だとは知らない。
まったくの別人に見えているはずなのだから。
なのに、何故私にプロポーズを?
しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。
どういうこと?
============
番外編は思いついたら追加していく予定です。
<レジーナ公式サイト番外編>
「番外編 相変わらずな日常」
レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。
いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。
※転載・複写はお断りいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる