23 / 80
犬宮賢とヤクザ
「怪異を怒らせた」
しおりを挟む
「――――えっ」
今、雫の目に映っている光景は、とてもすぐには信じられないものだった。
「な、何がどうなって……」
彼女の目の前には、床に伸びている男性二人と、奪い取った拳銃を持ち、二人を見下ろしている心優の姿。
最古は無傷で、いつもと変わらずニコニコ顔を浮かべていた。
「ふぅ、さすがに焦りましたが、こうすれば良かったんですね」
はぁ、体が動いてよかった。
相手が拳銃を持っていたり、後ろに最古君がいるとかで少し焦ったけど、今まで通りで良かったんだもんね。
相手が動き出す前に動けば問題はない。
「さて、貴方を守る人はいなくなったみたいね。まだ隠しているのなら出してもいいわよ、さっきみたく投げ飛ばしてあげるから」
心優は自分の身を自分で守るために身につけた格闘術を披露し、指をボキボキと鳴らし挑発した。
先程、心優は拳銃を構えた男性二人が引き金を引く直前、視界から外れるようにしゃがみ走り出した。
一瞬のうちに視界から心優が消えたため、二人は動揺。
その隙に下から拳銃を蹴り上げ武器を奪い、流れるように男性二人をぶん投げ終了。
その動きが一瞬と言ってもいいほど素早く、自身は弱い、そう言っていた雫は体が動かず、言葉すら発すること出来なかった。
「あら、どうしたの? さっきまでの強気の態度はどこに行ってしまったのかな」
「――――ちっ、しょうがないわね。今日はここで引いてあげる。さすがに予想外、貴方がここまで動けるなんて思わなかったわ」
恐怖に満ち、青くした表情を後ろに向け、逃げるように下がる。
だが、ここで逃がしてあげるほど、心優は甘くない。
ザッと地面を強く蹴り、驚愕の表情を浮かべる雫の首元を片手で掴み、後ろに倒した。
「がはっ!!」
苦しげな声を出し、背中を打ち付ける。
雫の視界が定まらない中心優は何も言わず、無表情のまま彼女を見下ろした。
――――よし、こいつの首は抑えているし、体は私が跨っているから動かせないはず。
視線も定まっていないし、このまま色々聞かせてもらおう。
「ねぇ、犬宮さんを利用したのはわかった。次に聞きたいことがあるの、答えてくれるよね? 」
「な、なによ……」
「新谷岳弥さんの殺害方法よ。どのように殺したの? 使ったものは何? あと、他にも貴方が答えることが出来る情報があるのなら、包み隠さず吐きなさい」
首をキュッと抑え脅すように言うと、雫は絞まったような声を漏らし、体を震えさせた。
このままでは殺される。
そう感じさえるような心優の視線に、雫の口は自然と開く。
「わ、たしを道具のように、扱って。私を、ストレス解消に使っていたのが、許せなくて……。だから、相談、を……」
「相談? それは誰に?」
「い、言えない…………」
誰かを聞くと途端に涙を流し、心優に対してではなく、また他の事に対して怯え始めた。
視線だけでも心優から離そうと横へ向かせ、「言えない、言えない」と呟き続ける。
これは、ただ事ではない。
瞬時に感じ取った心優は、また違う質問を口にした。
「なら、方法は? 死因は失血死、首を斬られたことにより死亡。私みたいに鍛えて言うのならまだしも、貴方は見たところそこまで鍛えてはいない、どのように男性の首を切ったの?」
質問を変えると、怯えていた雫は「それなら……」と、視線を逸らしながら口を開いた。
「……………………それは、ワイヤーを――――っ!!」
「ワイヤー」と口にした瞬間、雫は突如目を見開き言葉を止めた。
何が起きたのか問いかけるが、答えは返ってこない。
再度問いかけるも意味はない。
目を見開き、口をわなわなと震えるのみ。
そのうち、「い、いやだ、いやだ」と、うわ言のように呟き始めた。
何が起きたのか、なぜいきなりここまで怯えだしたのか。
「ちょ――――っ!!」
首から手を離し起き上がらせようとすると、後ろから肩を掴まれ引っ張られる。
ぽすっと、柔らかく温かいものが背中に当たり上を見ると、見覚えのある顔。
苦し気に自力で起き上がっている雫を、軽蔑するような瞳で見ていた。
「…………犬宮さん?」
心優を抱き留めていたのは、息を切らし険しい顔を浮かべている犬宮だった。
頬には切り傷があり、血が流れている。
「嫌な予感がするなと思って来てみれば、なにこれ……。なんで、こっちからも怪異の気配を感じるの」
グイッと血を拭い、呟く。
――――怪異の気配? どういう事だろう。
ここには最古君と私、雫さんの三人。
怪異なんて、犬宮さんくらい。
困惑しながら後ろから肩を掴む犬宮を見上げていると、雫が震える体に鞭を打ち、心優達とは反対側へと走ってしまった。
「あ、い、いいですか?」
「構わないよ。もう、あいつに用はないから」
「用は、ない?」
「うん。だって、今回の依頼は終わった」
え、何が終わったのだろうか。
なにも終わってはいなっ――いや、終わった、のか。
今回の依頼は新谷岳弥の浮気調査。
だが、ターゲットである岳弥は死んでしまい調査不可能。
殺害したのは、新谷雫。
これ以上の事は、犬宮達でも出来る訳がないし、する事もない。
「…………なら、これ以上はもう、何もしないんですか?」
「いや、今回は怪異が絡んでいる。ここで新谷雫からの依頼は終わりだけど、怪異は何とかしないと」
「そんなに、危険な怪異なんですか?」
「危険というか、めんどくさい、かな」
めんどくさい。
これは、依頼を受けた時にも言っていた事。
犬宮も黒田も、こうなることがわかっていたのだろうか。だから、渋い顔を浮かべていたのだろうか。
「ほっておくと、今回のような依頼がまた来るかもしれないし。黒田が変に動いてしまったせいで完全に俺達は目を付けられた。完全に解決しないと、今後の生活に支障が出るかも」
「黒田さんが、何をしたんですか?」
「怪異を怒らせた」
「っ、え?」
怒らせた? どゆこと??
今、雫の目に映っている光景は、とてもすぐには信じられないものだった。
「な、何がどうなって……」
彼女の目の前には、床に伸びている男性二人と、奪い取った拳銃を持ち、二人を見下ろしている心優の姿。
最古は無傷で、いつもと変わらずニコニコ顔を浮かべていた。
「ふぅ、さすがに焦りましたが、こうすれば良かったんですね」
はぁ、体が動いてよかった。
相手が拳銃を持っていたり、後ろに最古君がいるとかで少し焦ったけど、今まで通りで良かったんだもんね。
相手が動き出す前に動けば問題はない。
「さて、貴方を守る人はいなくなったみたいね。まだ隠しているのなら出してもいいわよ、さっきみたく投げ飛ばしてあげるから」
心優は自分の身を自分で守るために身につけた格闘術を披露し、指をボキボキと鳴らし挑発した。
先程、心優は拳銃を構えた男性二人が引き金を引く直前、視界から外れるようにしゃがみ走り出した。
一瞬のうちに視界から心優が消えたため、二人は動揺。
その隙に下から拳銃を蹴り上げ武器を奪い、流れるように男性二人をぶん投げ終了。
その動きが一瞬と言ってもいいほど素早く、自身は弱い、そう言っていた雫は体が動かず、言葉すら発すること出来なかった。
「あら、どうしたの? さっきまでの強気の態度はどこに行ってしまったのかな」
「――――ちっ、しょうがないわね。今日はここで引いてあげる。さすがに予想外、貴方がここまで動けるなんて思わなかったわ」
恐怖に満ち、青くした表情を後ろに向け、逃げるように下がる。
だが、ここで逃がしてあげるほど、心優は甘くない。
ザッと地面を強く蹴り、驚愕の表情を浮かべる雫の首元を片手で掴み、後ろに倒した。
「がはっ!!」
苦しげな声を出し、背中を打ち付ける。
雫の視界が定まらない中心優は何も言わず、無表情のまま彼女を見下ろした。
――――よし、こいつの首は抑えているし、体は私が跨っているから動かせないはず。
視線も定まっていないし、このまま色々聞かせてもらおう。
「ねぇ、犬宮さんを利用したのはわかった。次に聞きたいことがあるの、答えてくれるよね? 」
「な、なによ……」
「新谷岳弥さんの殺害方法よ。どのように殺したの? 使ったものは何? あと、他にも貴方が答えることが出来る情報があるのなら、包み隠さず吐きなさい」
首をキュッと抑え脅すように言うと、雫は絞まったような声を漏らし、体を震えさせた。
このままでは殺される。
そう感じさえるような心優の視線に、雫の口は自然と開く。
「わ、たしを道具のように、扱って。私を、ストレス解消に使っていたのが、許せなくて……。だから、相談、を……」
「相談? それは誰に?」
「い、言えない…………」
誰かを聞くと途端に涙を流し、心優に対してではなく、また他の事に対して怯え始めた。
視線だけでも心優から離そうと横へ向かせ、「言えない、言えない」と呟き続ける。
これは、ただ事ではない。
瞬時に感じ取った心優は、また違う質問を口にした。
「なら、方法は? 死因は失血死、首を斬られたことにより死亡。私みたいに鍛えて言うのならまだしも、貴方は見たところそこまで鍛えてはいない、どのように男性の首を切ったの?」
質問を変えると、怯えていた雫は「それなら……」と、視線を逸らしながら口を開いた。
「……………………それは、ワイヤーを――――っ!!」
「ワイヤー」と口にした瞬間、雫は突如目を見開き言葉を止めた。
何が起きたのか問いかけるが、答えは返ってこない。
再度問いかけるも意味はない。
目を見開き、口をわなわなと震えるのみ。
そのうち、「い、いやだ、いやだ」と、うわ言のように呟き始めた。
何が起きたのか、なぜいきなりここまで怯えだしたのか。
「ちょ――――っ!!」
首から手を離し起き上がらせようとすると、後ろから肩を掴まれ引っ張られる。
ぽすっと、柔らかく温かいものが背中に当たり上を見ると、見覚えのある顔。
苦し気に自力で起き上がっている雫を、軽蔑するような瞳で見ていた。
「…………犬宮さん?」
心優を抱き留めていたのは、息を切らし険しい顔を浮かべている犬宮だった。
頬には切り傷があり、血が流れている。
「嫌な予感がするなと思って来てみれば、なにこれ……。なんで、こっちからも怪異の気配を感じるの」
グイッと血を拭い、呟く。
――――怪異の気配? どういう事だろう。
ここには最古君と私、雫さんの三人。
怪異なんて、犬宮さんくらい。
困惑しながら後ろから肩を掴む犬宮を見上げていると、雫が震える体に鞭を打ち、心優達とは反対側へと走ってしまった。
「あ、い、いいですか?」
「構わないよ。もう、あいつに用はないから」
「用は、ない?」
「うん。だって、今回の依頼は終わった」
え、何が終わったのだろうか。
なにも終わってはいなっ――いや、終わった、のか。
今回の依頼は新谷岳弥の浮気調査。
だが、ターゲットである岳弥は死んでしまい調査不可能。
殺害したのは、新谷雫。
これ以上の事は、犬宮達でも出来る訳がないし、する事もない。
「…………なら、これ以上はもう、何もしないんですか?」
「いや、今回は怪異が絡んでいる。ここで新谷雫からの依頼は終わりだけど、怪異は何とかしないと」
「そんなに、危険な怪異なんですか?」
「危険というか、めんどくさい、かな」
めんどくさい。
これは、依頼を受けた時にも言っていた事。
犬宮も黒田も、こうなることがわかっていたのだろうか。だから、渋い顔を浮かべていたのだろうか。
「ほっておくと、今回のような依頼がまた来るかもしれないし。黒田が変に動いてしまったせいで完全に俺達は目を付けられた。完全に解決しないと、今後の生活に支障が出るかも」
「黒田さんが、何をしたんですか?」
「怪異を怒らせた」
「っ、え?」
怒らせた? どゆこと??
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活
まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開?
第二巻は、ホラー風味です。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
【連載中】は、短時間で読めるように短い文節ごとでの公開になります。
(お気に入り登録いただけると通知が行き、便利かもです)
その後、誤字脱字修正や辻褄合わせが行われて、合成された1話分にタイトルをつけ再公開されます。
(その前に、仮まとめ版が出る場合もある、かも、しれない、可能性)
物語の細部は連載時と変わることが多いので、二度読むのが通です。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる