犬宮賢の行動理念

桜桃-サクランボ-

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犬宮賢とヤクザ

「嫌な予感――……」

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「結局、自ら動くのね」

「うるさいよ」

 心優がいなくなってから数分後、犬宮も自ら動き出していた。

 その時にはもう最古はいなくなっており、心優について行ったことは犬宮には把握済み。

 心優について行ったのなら安心と、彼は自分が行わなければならないことに集中する。

「今回動いている怪異って、どんな奴なの、黒田」

「まず俺だな。今回の事件に関わっている怪異」

「…………」

「めっちゃ冷たい目線向けて来るじゃねぇかよ。俺は間違ったこと言ってねぇぞ!! ちなみに、お前も怪異の仲間だから、ひとまず今回関わっている怪異は二人、わかったな」

 胸を張り、訳のわからんことを堂々と言っている黒田のケツを思いっきり蹴り飛ばし、犬宮は人の笑い声で埋め尽くされている繁華街を見回した。

 二人は、人が集まる場所に怪異が潜んでいると踏んでいる。

 人の中に怪異が紛れ、生活しているのは特に珍しいことでは無い。
 現に、犬宮も黒田も人間と同じ生活をしている。

 自分達と同じ生活をしているのなら、見つけるのはちょっと骨が折れるなと思いながらも、二人は共に足を運んでいた。

「いつまで痛がっているのさ、早く案内して」

「お前がそれを言うか…………」

 勢いのある蹴りをケツに食らった黒田は、何とか痛みに耐えながらも立ちあがり、涙を浮かべながら道案内を始めた。

「まだいてぇよ…………」

「自業自得」

「はぁ、いいけどよぉ。それより、何か臭ってはいないのか? 俺よりお前の方が鼻が利くから、なにか感じているのなら教えて欲しいんだが……」

「今は何も感じない。香水や飲食店の臭いとかが鼻を曲がらせているのかもしれないけど」

 眉間に深い皺を寄せ、鼻をつまみ不愉快そうに答える。
 黒田は「あはは…………」と顔を引きつらせ、視線を周りに散らばせた。

「今回の怪異、気配を消すのが上手い奴かもしれねぇな」

「そうだね。俺の鼻はあまり役に立たない可能性もあるし、視野を広げ、気配に集中しようか」

「そうだなぁ」

  二人は、周りの人に怪しまれないように平然を装いつつも、周りに意識を集中し警戒を強める。

「黒田、今回の怪異は、大体目星ついてんの?」

「人を惑わす怪異だろうなとは思っている。だが、それ以上の事はさすがに分かってねぇよ。俺も、尾行していた一瞬の隙に見つけようとしただけだからな」

「その一瞬の内を狙われたのが偶然なのかどうなのか。それも気になるところだな」

「確かにねぇ」

 二人が冷静に話していると、急に黒田が足を止め一つの店を見た。
 つられて犬宮も足を止め、同じ店を見上げる。

 そこは、高級ブランドショップのお店。
 中を覗き込むと、お嬢様のような人や、セレブっぽい人がお買い物を楽しんでいた。

 なぜここで足を止めたのかわからない犬宮は、中を凝視している黒田を横目で見る。その時、体に嫌な予感が走った。

「…………なに、また発動したの?」

「発動なんて言い方、失礼だなぁ。俺はただ、面白そうな女性がいるなぁって思っただけだ。つーわけで、アタックしてきまーす!!」

 黒田は明るい笑顔を浮かべ、ホクホクとした表情のまま自動ドアを開き中へと入る。

「はぁ……、最悪」

 黒田は、自分好みの女性を見つけると、必ずアタックに行ってしまう程の女性好き。

 一度狙った女性が現れるとテコでも動かなくなるのは、十年以上共に過ごしてきた犬宮はわかっていた。

 そのため、今回も何も言うことなくお店の壁に背中を付け、彼の話が終わるのを待つことにする。
 
「どうせ、すぐに振られて終わりだろうし」

 腕を組み、青空を見上げた。

 風が優しく吹き、犬宮の黒い髪を揺らす。
 闇のように黒い瞳には、青空を自由に飛び回る鳥が映り込んでいた。

 暇だなぁと思いながら待っていると微かに、鼻を掠める怪異の臭いがした。

「…………ん?」

 青空から目を離し、鼻をヒクヒクと動かし臭いを辿る。
 だが、本当に微かなため分りにくい。

 眉間に深い皺を寄せ立ち上がり、何とか臭いを辿る。
 すると、微かな臭いは店の中から感じているとわかった。

「――――中?」

 店の中を覗くと、黒田が派手な女性と話している姿があった。
 ちょうど口説いていたらしい。

「────ん? あれ、おかしいなぁ。黒田って、あんなに派手な女性が好みだったっけ……?」

 今まで選んだことがないような女性と楽しく話している黒田に違和感を感じる。
 同時に臭いが誰から漂っていたのかもわかり、目を見開いた。

「この臭い、黒田が今話している女性から?」

 金色に近い髪をふわふわ動かし、露出度の高い服を身に纏っている女性。

 男性を墜とそうとしているのがわかる服装。
 化粧も濃く、黒田の好みからはかけ離れている。

 眉を顰め、犬宮は外から二人の動向を確認。すると、黒田の赤い瞳と目が合った。

 直感でわかる。
 黒田は女性が怪異だと気づいていた。
 気づいて、自ら近付いた。

 ――――怪異をおびき出すために。

 今まで微かにもわからなかった臭いが、黒田がお店に入って数分してから臭いを感じ始めた。
 彼が言葉巧みに今、人の姿をしている怪異をおびき出そうとしているのがわかる。

「…………任せたよ、黒田」

 ここで、人のいない所まで黒田がおびき出す事が出来れば簡単に始末が出来る。
 そう考え犬宮は慌てず、黒田が上手くおびき出してくれるのを店の外で待った。

「――――ん? 怪異とはまた違う、臭い?」

 風に乗り、またしても違う臭いが犬宮の鼻を掠めた。

 だが、流石に今、ここから離れるわけにはいかない。
 気にはなるが、そっちは諦め待機する事にした。

 すると、何故か直後、頭の中に心優の姿が現れた。

「っ……。なんだこの、嫌な予感――……」

 直後、店の中から物が倒れるような大きな音が聞こえ始めた。
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