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犬宮賢とヤクザ
「今回の事件を解決させるだけ」
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現場状況を確認した犬宮達は、死体の後処理を黒田にぶん投げ、探偵社に戻った。
「あの、犬宮さん。黒田さんは岳弥さんの死体、どうするつもりなのですか?」
「俺に不都合になるような事にはならないから、そこは気にしなくて大丈夫だよ」
「そ、うですか……」
そういう事を聞きたかったわけではない。
そう思いながら苦笑を浮かべている心優の頭の中には、犬宮に任され、げんなりしたような顔を浮かべ抗議している黒田の姿が蘇る。
――――本当に、どんまいです、黒田さん。
手を合わせ合掌していると、今度は心優に火の粉が降りかかるような言葉が聞こえ、硬直してしまった。
「まぁ、仮に黒田で駄目だった場合、心優の父親に頑張って貰うからどうでもいいんだけどね」
「黒田さん!! 何があっても死体を上手く何とかしてください!!」
窓に向けて、瞬時に心優はそんなことを叫ぶ。
心優の父親は、犬宮探偵事務所がある街を牛耳っているヤクザの頭。
権力があり、金も持っている。それでいて、闇金なども行っており、横の繋がりも厚い。
そんな心優の父親は、犬宮をものすごく気に入っており、それは彼自身も分かっているため、今までも何度か助けて貰ったことがあった。
「えぇぇっと、今は私の父とか忘れまして、現場状況を確認します。依頼人である新井雫さんの夫である新井岳弥さんは首を切られ死亡。武器は鋭利な刃物、黒田さんが目を離したほんの数分で殺された。これはさすがに他殺、ですよね?」
ちらっと、確認のために椅子に座り背もたれに寄りかかっている犬宮を見た。
「当たり前。んで、犯人は今回の依頼人である新井雫」
「なぜ、言い切れるんですか?」
「今日、カフェにいた時、依頼人が外を歩いていたでしょ」
カフェで一息ついていた時に見かけた雫の姿を思い出し、心優はコクンと頷く。
「その時、微かに見えたんだよ。足の裾に何かのシミがついているのを」
犬宮の言葉に、心優は目を開き困惑。口をわなわなと震わせた。
な、なぜ気づいていたのなら、その時に行動しないの?!
いや、行動はしていた。でも、まず本人に確認とかではないの?!
なぜ、最優先が黒田さんへの連絡だったの?!
様々な疑問が次々頭の中に浮上した心優だったが、ここで矢継ぎ早に質問しても犬宮は答えてくれない。
そう何とか思考を切りかえ、深呼吸し気持ちを落ち着かせた。
「えっと。なんで見つけた時に黒田さんへの連絡を最優先したんですか? 本人に確認とかしても良かったと思うんですが」
「問い詰めたところで、あの時の俺達には証拠も何もなかった。逃げられて終わりだよ。不信感も与えてしまい、今の関係が崩れる。依頼人という立場はあいつだけじゃなくて、俺も利用したい」
そういことかと、心優は納得。
先程の現場状況をまとめたメモを再度見た。
「あの……。次の動きはどうしますか?」
「証拠集めと殺害方法の確認」
「殺害方法は、鋭利な刃物で一発――じゃないんですか?」
「違うと思うよ。相手は男性、いくら油断していたとしても真正面から女性が襲ってきたら、力で勝てるでしょ」
あぁ、確かに。
どんなに切れ味のいいナイフを持っていても、力で負けてしまえば意味はない。
相手は男性、私のように鍛えていたら正面から向かってもいけるかもしれないけど、雫さんはどう見ても鍛えてはいない。難しいだろう。
「では、どのように殺したんでしょうか」
「それを確認しないといけないんだけど…………」
ちらっと、犬宮は目の前に置かれているパソコンを見る。
目を細め、煩わしいと言いたげに体を起こした。
机の上に置かれているパソコンを操作し始め、雫のスマホに仕掛けたGPSを見る。
だが、それにはいつもと変わらない光景が映し出されるのみ。変わった情報はない。
今は会社で仕事中とだけがわかる画面。
他にも色々機能の付いているアプリを埋め込んだのだが、意味はなかった。
「…………はぁ。あの女、手慣れていそうだなぁ」
「え、手慣れてる? どういうことですか?」
「多分だけど。君と同じ人種の可能性があるって事」
「人種って言い方、辞めてください。どういう意味ですか」
犬宮の言いたいことがわからず、心優は顔を引きつらせ聞き返す。
「背後が大きいという事」
「背後が大きい? それってっ――まさか」
最初は全然わからなかったが、今の言葉でやっと察する事が出来た。
――――私と同じ人種、背後が大きい。
これって、もう一つしかないんじゃ……。
「うん、君が思い浮かべていることで合っていると思うよ」
「そ、それじゃ、やっぱり……」
「あの子も、おそらくヤクザのお嬢。色んなことを裏でもみ消してきたんだろうね」
「そんな……。でも、黒田さんと同じ怪異が絡んでいるとも言っていましたよね? 今回、大きな組織が動き過ぎではありませんか?」
「怪異を組織というのは君ぐらいだろうけど、確かに変にタイミングがいいよね。これは必然か、それとも偶然か。現段階ではわからない」
パソコンを操作しながら言う犬宮だったが、一度言葉を切り、隣に立つ心優を見上げた。
「だから、無駄に考えないで、雫が人を殺めた証拠を集めよう。そんで、今回の事件を解決させる」
犬宮の漆黒の瞳に見られ、心優は体を硬直させる。
彼の瞳は漆黒。
闇が広がっているが、その中にはしっかりとした目的があり、見失う事はない。
いつも真っすぐ前だけを見ており、迷いを感じさせない。
そんな犬宮を見ていて、心優は思う所があった。
――――犬宮さんは、本当にすごい。
自分は焦るばかりで、犬宮さんから慈氏が無ければ何も出来ない……。
心優を見ていた漆黒の瞳は、いつの間にかパソコンのモニターへと向けられていた。
パソコンを操作している彼を見て、心優は悲観しながらも、何か手伝いをしたいため隣から覗き込む。
「私も何か手伝いまっ――――なにゲームで遊んでいるんですか!!!」
心優が見た画面には思っていた物が映っておらず、バラバラになっているブロックを一つにまとめるみたいな、パズルゲーム画面が映し出されていた。
「あの、犬宮さん。黒田さんは岳弥さんの死体、どうするつもりなのですか?」
「俺に不都合になるような事にはならないから、そこは気にしなくて大丈夫だよ」
「そ、うですか……」
そういう事を聞きたかったわけではない。
そう思いながら苦笑を浮かべている心優の頭の中には、犬宮に任され、げんなりしたような顔を浮かべ抗議している黒田の姿が蘇る。
――――本当に、どんまいです、黒田さん。
手を合わせ合掌していると、今度は心優に火の粉が降りかかるような言葉が聞こえ、硬直してしまった。
「まぁ、仮に黒田で駄目だった場合、心優の父親に頑張って貰うからどうでもいいんだけどね」
「黒田さん!! 何があっても死体を上手く何とかしてください!!」
窓に向けて、瞬時に心優はそんなことを叫ぶ。
心優の父親は、犬宮探偵事務所がある街を牛耳っているヤクザの頭。
権力があり、金も持っている。それでいて、闇金なども行っており、横の繋がりも厚い。
そんな心優の父親は、犬宮をものすごく気に入っており、それは彼自身も分かっているため、今までも何度か助けて貰ったことがあった。
「えぇぇっと、今は私の父とか忘れまして、現場状況を確認します。依頼人である新井雫さんの夫である新井岳弥さんは首を切られ死亡。武器は鋭利な刃物、黒田さんが目を離したほんの数分で殺された。これはさすがに他殺、ですよね?」
ちらっと、確認のために椅子に座り背もたれに寄りかかっている犬宮を見た。
「当たり前。んで、犯人は今回の依頼人である新井雫」
「なぜ、言い切れるんですか?」
「今日、カフェにいた時、依頼人が外を歩いていたでしょ」
カフェで一息ついていた時に見かけた雫の姿を思い出し、心優はコクンと頷く。
「その時、微かに見えたんだよ。足の裾に何かのシミがついているのを」
犬宮の言葉に、心優は目を開き困惑。口をわなわなと震わせた。
な、なぜ気づいていたのなら、その時に行動しないの?!
いや、行動はしていた。でも、まず本人に確認とかではないの?!
なぜ、最優先が黒田さんへの連絡だったの?!
様々な疑問が次々頭の中に浮上した心優だったが、ここで矢継ぎ早に質問しても犬宮は答えてくれない。
そう何とか思考を切りかえ、深呼吸し気持ちを落ち着かせた。
「えっと。なんで見つけた時に黒田さんへの連絡を最優先したんですか? 本人に確認とかしても良かったと思うんですが」
「問い詰めたところで、あの時の俺達には証拠も何もなかった。逃げられて終わりだよ。不信感も与えてしまい、今の関係が崩れる。依頼人という立場はあいつだけじゃなくて、俺も利用したい」
そういことかと、心優は納得。
先程の現場状況をまとめたメモを再度見た。
「あの……。次の動きはどうしますか?」
「証拠集めと殺害方法の確認」
「殺害方法は、鋭利な刃物で一発――じゃないんですか?」
「違うと思うよ。相手は男性、いくら油断していたとしても真正面から女性が襲ってきたら、力で勝てるでしょ」
あぁ、確かに。
どんなに切れ味のいいナイフを持っていても、力で負けてしまえば意味はない。
相手は男性、私のように鍛えていたら正面から向かってもいけるかもしれないけど、雫さんはどう見ても鍛えてはいない。難しいだろう。
「では、どのように殺したんでしょうか」
「それを確認しないといけないんだけど…………」
ちらっと、犬宮は目の前に置かれているパソコンを見る。
目を細め、煩わしいと言いたげに体を起こした。
机の上に置かれているパソコンを操作し始め、雫のスマホに仕掛けたGPSを見る。
だが、それにはいつもと変わらない光景が映し出されるのみ。変わった情報はない。
今は会社で仕事中とだけがわかる画面。
他にも色々機能の付いているアプリを埋め込んだのだが、意味はなかった。
「…………はぁ。あの女、手慣れていそうだなぁ」
「え、手慣れてる? どういうことですか?」
「多分だけど。君と同じ人種の可能性があるって事」
「人種って言い方、辞めてください。どういう意味ですか」
犬宮の言いたいことがわからず、心優は顔を引きつらせ聞き返す。
「背後が大きいという事」
「背後が大きい? それってっ――まさか」
最初は全然わからなかったが、今の言葉でやっと察する事が出来た。
――――私と同じ人種、背後が大きい。
これって、もう一つしかないんじゃ……。
「うん、君が思い浮かべていることで合っていると思うよ」
「そ、それじゃ、やっぱり……」
「あの子も、おそらくヤクザのお嬢。色んなことを裏でもみ消してきたんだろうね」
「そんな……。でも、黒田さんと同じ怪異が絡んでいるとも言っていましたよね? 今回、大きな組織が動き過ぎではありませんか?」
「怪異を組織というのは君ぐらいだろうけど、確かに変にタイミングがいいよね。これは必然か、それとも偶然か。現段階ではわからない」
パソコンを操作しながら言う犬宮だったが、一度言葉を切り、隣に立つ心優を見上げた。
「だから、無駄に考えないで、雫が人を殺めた証拠を集めよう。そんで、今回の事件を解決させる」
犬宮の漆黒の瞳に見られ、心優は体を硬直させる。
彼の瞳は漆黒。
闇が広がっているが、その中にはしっかりとした目的があり、見失う事はない。
いつも真っすぐ前だけを見ており、迷いを感じさせない。
そんな犬宮を見ていて、心優は思う所があった。
――――犬宮さんは、本当にすごい。
自分は焦るばかりで、犬宮さんから慈氏が無ければ何も出来ない……。
心優を見ていた漆黒の瞳は、いつの間にかパソコンのモニターへと向けられていた。
パソコンを操作している彼を見て、心優は悲観しながらも、何か手伝いをしたいため隣から覗き込む。
「私も何か手伝いまっ――――なにゲームで遊んでいるんですか!!!」
心優が見た画面には思っていた物が映っておらず、バラバラになっているブロックを一つにまとめるみたいな、パズルゲーム画面が映し出されていた。
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