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犬宮賢の方法
「大丈夫、行こう」
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「…………」
「…………」
人影に拳を放たれ、犬宮は反射で受け止めた。
お互い無表情で向き合い、何も言葉を発しない。
「…………もうそろそろ、手を下ろしてくれると助かるんだけど」
「…………」
「はぁ……。というか、いきなり拳を振るってくるなんて失礼じゃない? 少しは人の話を聞こうとは思わないの? いくら薄暗くて、不気味で。何が出てくるか分からない場所といえど、拳はないと思う」
ため息を吐きながら、犬宮は呆れたように離すように促した。
「…………いや、原因を全て言ってますよね。今の理由に加え、”背後から突然話しかけられた”も拳を繰り出された原因の一つと付け加えといてください」
「わかった。加えるだけ加えておくよ。加えるだけね」
「わかりました」
犬宮に殴りかかったのは、拓真によく似た中学生くらいの青年。
見た目は活発そうで、身長はそこまで大きくない。
そんな二人が冷静に話していると、隣に立っていた心優が目にハートを浮かべ涎を垂らし、スマホのカメラ機能を立ちあげた。
「あの、そのまま見つめ合っていて頂いてもよろしいですか。あ、欲を言えばもう少し顔を犬宮さんに近づけていただき…………いや、背伸びをして少しでも近づこうと頑張ってください!」
一人興奮している心優を横目で見た後、二人はまた顔を見合わせる。
馬鹿馬鹿しくなった青年は拳を下ろし、犬宮は心優からスマホを奪い取り真っ二つに折った。
「きゃぁぁああああ!! 私の宝物ファイルがぁぁあああ!!!」
・
・
・
・
・
「つまり、拓真が貴方達に俺達を探すように依頼したと」
「そうそう」
「それは、わざわざありがとうございます」
「それが俺達の仕事なので」
「それで、あの……。なぜ、ここがわかったのですか?」
「それはどうでもいいと思うよ。ここに辿り着いた経緯より、辿り着けた事実を大事にしたい」
「はぁ…………」
もう修復不可能のスマホを手に乗せ、グズグズと泣いている心優の隣を通り、拓真は涙を浮かべ青年に抱き着いた。
「お兄ちゃん!!」
「拓真! 心配かけてごめんね」
安心させるように青年が拓真を抱きしめ返しているのだが、空気を読まず犬宮が本題を進めようと話し出した。
「話を進めるが、今回の依頼内容はここで達成した。俺達がこれ以上お前らに付き合う必要はないのだが…………」
犬宮の言葉に、青年は不安げに眉を下げた。
その様子を楽しむように口角を上げ、言葉を続ける。
「まだ、報酬を受け取るまでには今回の依頼、到達していない。今の段階で辞めるのは、俺にとってデメリットしかないわけだ。だから、ここからは報酬のため、好きに動くぞ」
「そ、それは逆にありがたいのですが……。あの、報酬とは…………」
「金」
――――子供に何を言っているんだ!
青年の質問に、当たり前と言うように犬宮が端的に答える。
その事に涙を浮かべていた心優と、質問をぶつけた青年が苦笑を浮かべ彼を凝視。呆れたように頭を抱えた。
――――はぁぁあああ、本当に。
犬宮さんってお金が絡むとアホになる……。
そう思いながら頭を抱えている心優を気にしつつも、青年は犬宮に問いかけた。
「えっと…………。俺達、見た目から察する事が出来ると思いますが、学生です。大金などは支払う事出来ませんよ?」
バイトも出来ずお金はお小遣い程度の二人。
それも最近はもらっておらず、駄菓子すら買えない状況だった。
そんな学生に、金を要求しても支払えるわけがない。
「それくらいわかる、君達のポケットマネーからもらう気はないから安心して」
「なら、誰から……」
「後にわかる。それより、君の名前をもうそろそろ教えてほしい。呼びにくい」
話を誤魔化し、犬宮は名前を聞いた。
「あ、はい。俺の名前は高木拓哉です」
「拓哉ね、了解。なら、拓哉、質問に答えて。なんで、こんな所にいたの?」
「知っているんじゃないんですか?」
「うん」
「…………」
――――知っているのに、なんで質問するのよ……。
呆れるしか出来ない心優を無視し、犬宮は自身が考えた推理をお披露目した。
「君は数日前、母親の行動に違和感を持ち問いかけた。でも、軽く交わされ何も聞き出せず終了。どんどん派手になって行く母親に、徐々に減って行くご飯。どうすればいいのかわからず、でも兄として弟を守らなければならない使命感が君を動かしていた。そんな時、母親が外を歩いているのを偶然にも見つける。だが、なぜか母親は一人ではなく男性と一緒。仲睦ましく歩いている姿に、君は浮気を疑い何も考えず母親を問いただした。その時に口論になってしまい、思わず母親の逆鱗に触れる言葉を放ってしまう。無理やり外に連れ出され、何もかも没収され家ではない違う場所に閉じ込められた。うまく逃げ出す事が出来たのはここ最近。すぐ家に帰っても意味はないと考えた君は、母親を探し出し、今度こそ罪を認めさせようとした。こんな感じかな」
――――そ、そこまで分かってたの? 本当に、どこまでハッキングしたんだろう。いや、ハッキングだけでここまで分かるものなの?
抑揚のない言葉を並べ、今回の事件の全容を話した犬宮に感心しつつ、心優はまだ慣れない感覚に茫然。
拓哉も犬宮の推理に驚き、何も言えない。
犬宮は拓哉からの返答を待っていたがいつまでもないため、自分の推理が間違えたのかと思い始め、顔を青ざめさせる。
「待って、ここまで考えたのに何一つ合ってないとかないよね。もしそうだとしたら俺、報酬だけもらってここからとんずらするよ」
突然自信を無くした犬宮を横目に、心優は隣に移動した。
「情けない顔を浮かべないでください、犬宮さん」
「お願いだから何か言ってよ、怖いって」
――――さっきまでの威勢はどこに……。情けないなぁ。
顔を青ざめさせる犬宮に、拓哉は小さく頷き「全て、その通りです」と返した。
心底安心したように深いため息を吐き、犬宮は腕を組む。
「そうなら早く返答してよ、マジであり得ない。そうやって、人が困っているのを見るのが楽しいとかいう歪んだ性癖を持っているの?」
「そんなんじゃないので安心してください。ただ、的確過ぎて逆に言葉が出なかったというか…………」
「まぁ、合っているのならいいや。それより、拓哉」
拓哉の言葉をバッサリ切り捨て、犬宮は彼を下から頭の上までまじまじと見たかと思うと、目を細め問いかけた。
「君、拓真より細そうに見えるのは?」
「……拓真に出来る限りのご飯を与えていたから」
「お兄さんしてるね。一先ず、次の作戦に移ろうか」
「次の作戦?」
拓哉が犬宮の言葉に疑問を抱きオウム返しのように聞くが、彼からの返答はない。
歩き出してしまい、残された四人は顔を見合わせる。
二人の不安を感じとった心優は、優しく微笑み「大丈夫だよ」と伝えた。
「まぁ、犬宮さんだから、もう最後がどうなるのかもわかっていると思うし、安心して」
「本当に、大丈夫なんですか?」
「お金の匂いを嗅ぎ取った犬宮さんは、いろんな意味で頼りになるから、大丈夫」
菩薩のような笑顔で言い切る心優の言葉に、拓真と拓哉はポカンと目を丸くした。
最古はいつもの光景なため、ニコニコと犬宮の後ろに移動、共に歩く。
どうする事も出来ない二人も手招きしている心優を信じ、歩くしかなかった。
「…………」
人影に拳を放たれ、犬宮は反射で受け止めた。
お互い無表情で向き合い、何も言葉を発しない。
「…………もうそろそろ、手を下ろしてくれると助かるんだけど」
「…………」
「はぁ……。というか、いきなり拳を振るってくるなんて失礼じゃない? 少しは人の話を聞こうとは思わないの? いくら薄暗くて、不気味で。何が出てくるか分からない場所といえど、拳はないと思う」
ため息を吐きながら、犬宮は呆れたように離すように促した。
「…………いや、原因を全て言ってますよね。今の理由に加え、”背後から突然話しかけられた”も拳を繰り出された原因の一つと付け加えといてください」
「わかった。加えるだけ加えておくよ。加えるだけね」
「わかりました」
犬宮に殴りかかったのは、拓真によく似た中学生くらいの青年。
見た目は活発そうで、身長はそこまで大きくない。
そんな二人が冷静に話していると、隣に立っていた心優が目にハートを浮かべ涎を垂らし、スマホのカメラ機能を立ちあげた。
「あの、そのまま見つめ合っていて頂いてもよろしいですか。あ、欲を言えばもう少し顔を犬宮さんに近づけていただき…………いや、背伸びをして少しでも近づこうと頑張ってください!」
一人興奮している心優を横目で見た後、二人はまた顔を見合わせる。
馬鹿馬鹿しくなった青年は拳を下ろし、犬宮は心優からスマホを奪い取り真っ二つに折った。
「きゃぁぁああああ!! 私の宝物ファイルがぁぁあああ!!!」
・
・
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「つまり、拓真が貴方達に俺達を探すように依頼したと」
「そうそう」
「それは、わざわざありがとうございます」
「それが俺達の仕事なので」
「それで、あの……。なぜ、ここがわかったのですか?」
「それはどうでもいいと思うよ。ここに辿り着いた経緯より、辿り着けた事実を大事にしたい」
「はぁ…………」
もう修復不可能のスマホを手に乗せ、グズグズと泣いている心優の隣を通り、拓真は涙を浮かべ青年に抱き着いた。
「お兄ちゃん!!」
「拓真! 心配かけてごめんね」
安心させるように青年が拓真を抱きしめ返しているのだが、空気を読まず犬宮が本題を進めようと話し出した。
「話を進めるが、今回の依頼内容はここで達成した。俺達がこれ以上お前らに付き合う必要はないのだが…………」
犬宮の言葉に、青年は不安げに眉を下げた。
その様子を楽しむように口角を上げ、言葉を続ける。
「まだ、報酬を受け取るまでには今回の依頼、到達していない。今の段階で辞めるのは、俺にとってデメリットしかないわけだ。だから、ここからは報酬のため、好きに動くぞ」
「そ、それは逆にありがたいのですが……。あの、報酬とは…………」
「金」
――――子供に何を言っているんだ!
青年の質問に、当たり前と言うように犬宮が端的に答える。
その事に涙を浮かべていた心優と、質問をぶつけた青年が苦笑を浮かべ彼を凝視。呆れたように頭を抱えた。
――――はぁぁあああ、本当に。
犬宮さんってお金が絡むとアホになる……。
そう思いながら頭を抱えている心優を気にしつつも、青年は犬宮に問いかけた。
「えっと…………。俺達、見た目から察する事が出来ると思いますが、学生です。大金などは支払う事出来ませんよ?」
バイトも出来ずお金はお小遣い程度の二人。
それも最近はもらっておらず、駄菓子すら買えない状況だった。
そんな学生に、金を要求しても支払えるわけがない。
「それくらいわかる、君達のポケットマネーからもらう気はないから安心して」
「なら、誰から……」
「後にわかる。それより、君の名前をもうそろそろ教えてほしい。呼びにくい」
話を誤魔化し、犬宮は名前を聞いた。
「あ、はい。俺の名前は高木拓哉です」
「拓哉ね、了解。なら、拓哉、質問に答えて。なんで、こんな所にいたの?」
「知っているんじゃないんですか?」
「うん」
「…………」
――――知っているのに、なんで質問するのよ……。
呆れるしか出来ない心優を無視し、犬宮は自身が考えた推理をお披露目した。
「君は数日前、母親の行動に違和感を持ち問いかけた。でも、軽く交わされ何も聞き出せず終了。どんどん派手になって行く母親に、徐々に減って行くご飯。どうすればいいのかわからず、でも兄として弟を守らなければならない使命感が君を動かしていた。そんな時、母親が外を歩いているのを偶然にも見つける。だが、なぜか母親は一人ではなく男性と一緒。仲睦ましく歩いている姿に、君は浮気を疑い何も考えず母親を問いただした。その時に口論になってしまい、思わず母親の逆鱗に触れる言葉を放ってしまう。無理やり外に連れ出され、何もかも没収され家ではない違う場所に閉じ込められた。うまく逃げ出す事が出来たのはここ最近。すぐ家に帰っても意味はないと考えた君は、母親を探し出し、今度こそ罪を認めさせようとした。こんな感じかな」
――――そ、そこまで分かってたの? 本当に、どこまでハッキングしたんだろう。いや、ハッキングだけでここまで分かるものなの?
抑揚のない言葉を並べ、今回の事件の全容を話した犬宮に感心しつつ、心優はまだ慣れない感覚に茫然。
拓哉も犬宮の推理に驚き、何も言えない。
犬宮は拓哉からの返答を待っていたがいつまでもないため、自分の推理が間違えたのかと思い始め、顔を青ざめさせる。
「待って、ここまで考えたのに何一つ合ってないとかないよね。もしそうだとしたら俺、報酬だけもらってここからとんずらするよ」
突然自信を無くした犬宮を横目に、心優は隣に移動した。
「情けない顔を浮かべないでください、犬宮さん」
「お願いだから何か言ってよ、怖いって」
――――さっきまでの威勢はどこに……。情けないなぁ。
顔を青ざめさせる犬宮に、拓哉は小さく頷き「全て、その通りです」と返した。
心底安心したように深いため息を吐き、犬宮は腕を組む。
「そうなら早く返答してよ、マジであり得ない。そうやって、人が困っているのを見るのが楽しいとかいう歪んだ性癖を持っているの?」
「そんなんじゃないので安心してください。ただ、的確過ぎて逆に言葉が出なかったというか…………」
「まぁ、合っているのならいいや。それより、拓哉」
拓哉の言葉をバッサリ切り捨て、犬宮は彼を下から頭の上までまじまじと見たかと思うと、目を細め問いかけた。
「君、拓真より細そうに見えるのは?」
「……拓真に出来る限りのご飯を与えていたから」
「お兄さんしてるね。一先ず、次の作戦に移ろうか」
「次の作戦?」
拓哉が犬宮の言葉に疑問を抱きオウム返しのように聞くが、彼からの返答はない。
歩き出してしまい、残された四人は顔を見合わせる。
二人の不安を感じとった心優は、優しく微笑み「大丈夫だよ」と伝えた。
「まぁ、犬宮さんだから、もう最後がどうなるのかもわかっていると思うし、安心して」
「本当に、大丈夫なんですか?」
「お金の匂いを嗅ぎ取った犬宮さんは、いろんな意味で頼りになるから、大丈夫」
菩薩のような笑顔で言い切る心優の言葉に、拓真と拓哉はポカンと目を丸くした。
最古はいつもの光景なため、ニコニコと犬宮の後ろに移動、共に歩く。
どうする事も出来ない二人も手招きしている心優を信じ、歩くしかなかった。
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