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失踪
心音
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強い光に包まれ、目を閉じた数秒後、辺りが暗くなり一華は目を開けた。同時に優輝も目を開け、辺りを見回した。
「ここは、森の中?」
辺りを見回すと、緑に囲まれている場所に立たされている事に気づく。
足で地面を踏みしめ、暗雲が立ち込める空を見上げる。本当に戻ってこれたのか疑っていると、後ろでゴソゴソと動いている優輝に気づいた。
「優輝?」
お社の前でしゃがみ、何かをしている優輝の横に立つと、砕けてしまった女神の像が目に付く。
体は粉砕、顔部分は素少しだけ形が残されてはいるが、もう女神様には見えない。
優輝が拾い上げ、お社の中に戻していた。
「これは?」
「封印が解かれたのか、女神自身が死んだのか。わからねぇが、もう女神はここに居ない。せめて砕けたもんを一つにしようとしたが、これは無理だな」
地面を見ると、細々と砕けてしまっている女神像の欠片。細かくなりすぎていて、すべてを拾う事はできそうにない。
「気にしていても意味はねぇか。ひとまず、早く行こう」
「あ、うん!!」
二人はお互い頷き合い、森の外へと走り出した。
残された女神像の欠片が淡く光り出し、上空にゆっくりと上る。一つに集まると、女性のような形になった。
暗雲が立ち込める空が、女神の想いに答えるように動き始める。
辺りを暗くしている雲が動き、道を作るように開かれた。
光が一つの線となり降りそそぎ、子供のような形をしている光が四つ、女性へと近付いて行く。背中に羽のようなものが生え、揺れていた。
子供のような光は、真っすぐ両手を伸ばしている女性に近付き、周りを囲い踊るような動きを見せた。
少し踊ると、一人の子供が合図のように手招き。答えるように、他の子供と中心にいた女性が共に空へと舞い上がる。
子供に連れられるように空へと舞い上がり、雲の上へと姿を消した。
同時に、月明りを隠していた暗雲が徐々に流れ、時が止まっている花鳥街を明るい未来へと導くように、光が照らされた。
森を走っている二人は、一華が道に迷わないようにつけた目印を辿り、無事に森を出る事が出来た。
「こ、これは…………」
「女神が言っていたことは本当だったらしいな」
森の外にいるのは、銅像のように動かなくなった人達。
朝花はパトカーに乗せられて、不安そうに森を眺め、他の警察官達は森の中に入ろうとしている形で固まっている。
試しに一人の警察官に優輝が触れるが、反応はない。
「優輝、早く行こう。時間がない!」
「…………あぁ、行こう」
また二人は、住宅街へと走り出す。
「白野がどこにいるのか知ってんのか?」
「現状、どこにいるのかわからない。だから、私と別れた所に行こうと思ってる。その付近を探せばもしかしたらいるかもしれない。当てずっぽうよりはまだマシだと思う」
住宅街を走るが、周りには動かなくなっている警察官や教師達の姿。今にも動き出しそうに見え、焦りが二人に襲う。
真っすぐ前を見て走り続けていると、公園にたどり着いた。
「はぁ、はぁ。い、いつの間にか、通り過ぎてたみたい」
「つまり、付近にはいないという事か?」
「うん…………。どうしよう…………」
まったく人の気配はなかった。近くに曄途がいないとわかり、一華はまた違う方法を探る。だが、焦りが頭を占めており思考が回らない。
「どうしよう」と言う単語だけが口から零れ落ちた。
「なぁ、確かだが。赤い薔薇には、他の薔薇を引き寄せる力がなかったか? 個性の花自体は消えていない、もしかすっと見つけてもらう事が可能じゃねぇか?」
「え、あっ……」
優輝の言葉に、一華はハッとする。だが、すぐに目を伏せ自信なさげに俯いた。
「でも、私意識したことが無いから、どうすればいいのかわからないよ」
今にも泣き出しそうな一華を見て、優輝は眉間に深い皺を寄せ考える。
「…………こういう時って、結構周りの情報を全て遮断して、一つの神経に集中する場面が描かれることが多いよな。漫画やアニメとかだと」
「それを私にやれって? 無理だよ?」
「やってみなきゃわかんねぇだろ。ひとまず目を閉じ、頭の中に白野の事を思い浮かべてみろ。本当は嫌だけど……」
最後の言葉を目を逸らし言った優輝に、一華は顔を引きつらせる。同時に疑うような目を向けた。
「ひとまずやってみろ。その間に他の方法考えっから」
「…………はい」
自信がないというように顔を俯かせてしまった一華を横目に、優輝は何か思いついたような顔を浮かべた。
「なら、これならどうだ」
「っえ、ちょっ!!」
いきなり優輝が一華の後ろに回り、抱き着く形で目元を覆った。
突然抱き着かれ、反射で振り向こうとした一華を固定。優輝が彼女の耳元に口を近付かせた。
「俺の心音に集中してみろ」
意味が分からないと思うが、一華は言われた通りに優輝の心音に集中した。
トクン トクン
走ったため鼓動は早いが、それでも規則正しくなっている心音が耳に届く。
一華は心音を聞くと、自然と肩の力が抜け、頭の中を埋め尽くしていた焦りや不安、恐怖などがすぅっと流れ落ち、なくなった。
頭の中がすっきりとし、一華の呼吸も落ち着き始める。
トクン トクン
優輝の心音に集中する。落ち着く、安心する音。
自然と耳が優輝の心音に集中され、他の音が聞こえなくなった。
――――――――刹那
「――――――――っ!! あっちから人の気配を感じる」
「お、よっしゃ!! 行くぞ!!」
なにかを見つけた一華は、先ほど自分達が走ってきた道を指さした。
すぐに優輝は手を離し、一華の手を握り走り出した。
「ここは、森の中?」
辺りを見回すと、緑に囲まれている場所に立たされている事に気づく。
足で地面を踏みしめ、暗雲が立ち込める空を見上げる。本当に戻ってこれたのか疑っていると、後ろでゴソゴソと動いている優輝に気づいた。
「優輝?」
お社の前でしゃがみ、何かをしている優輝の横に立つと、砕けてしまった女神の像が目に付く。
体は粉砕、顔部分は素少しだけ形が残されてはいるが、もう女神様には見えない。
優輝が拾い上げ、お社の中に戻していた。
「これは?」
「封印が解かれたのか、女神自身が死んだのか。わからねぇが、もう女神はここに居ない。せめて砕けたもんを一つにしようとしたが、これは無理だな」
地面を見ると、細々と砕けてしまっている女神像の欠片。細かくなりすぎていて、すべてを拾う事はできそうにない。
「気にしていても意味はねぇか。ひとまず、早く行こう」
「あ、うん!!」
二人はお互い頷き合い、森の外へと走り出した。
残された女神像の欠片が淡く光り出し、上空にゆっくりと上る。一つに集まると、女性のような形になった。
暗雲が立ち込める空が、女神の想いに答えるように動き始める。
辺りを暗くしている雲が動き、道を作るように開かれた。
光が一つの線となり降りそそぎ、子供のような形をしている光が四つ、女性へと近付いて行く。背中に羽のようなものが生え、揺れていた。
子供のような光は、真っすぐ両手を伸ばしている女性に近付き、周りを囲い踊るような動きを見せた。
少し踊ると、一人の子供が合図のように手招き。答えるように、他の子供と中心にいた女性が共に空へと舞い上がる。
子供に連れられるように空へと舞い上がり、雲の上へと姿を消した。
同時に、月明りを隠していた暗雲が徐々に流れ、時が止まっている花鳥街を明るい未来へと導くように、光が照らされた。
森を走っている二人は、一華が道に迷わないようにつけた目印を辿り、無事に森を出る事が出来た。
「こ、これは…………」
「女神が言っていたことは本当だったらしいな」
森の外にいるのは、銅像のように動かなくなった人達。
朝花はパトカーに乗せられて、不安そうに森を眺め、他の警察官達は森の中に入ろうとしている形で固まっている。
試しに一人の警察官に優輝が触れるが、反応はない。
「優輝、早く行こう。時間がない!」
「…………あぁ、行こう」
また二人は、住宅街へと走り出す。
「白野がどこにいるのか知ってんのか?」
「現状、どこにいるのかわからない。だから、私と別れた所に行こうと思ってる。その付近を探せばもしかしたらいるかもしれない。当てずっぽうよりはまだマシだと思う」
住宅街を走るが、周りには動かなくなっている警察官や教師達の姿。今にも動き出しそうに見え、焦りが二人に襲う。
真っすぐ前を見て走り続けていると、公園にたどり着いた。
「はぁ、はぁ。い、いつの間にか、通り過ぎてたみたい」
「つまり、付近にはいないという事か?」
「うん…………。どうしよう…………」
まったく人の気配はなかった。近くに曄途がいないとわかり、一華はまた違う方法を探る。だが、焦りが頭を占めており思考が回らない。
「どうしよう」と言う単語だけが口から零れ落ちた。
「なぁ、確かだが。赤い薔薇には、他の薔薇を引き寄せる力がなかったか? 個性の花自体は消えていない、もしかすっと見つけてもらう事が可能じゃねぇか?」
「え、あっ……」
優輝の言葉に、一華はハッとする。だが、すぐに目を伏せ自信なさげに俯いた。
「でも、私意識したことが無いから、どうすればいいのかわからないよ」
今にも泣き出しそうな一華を見て、優輝は眉間に深い皺を寄せ考える。
「…………こういう時って、結構周りの情報を全て遮断して、一つの神経に集中する場面が描かれることが多いよな。漫画やアニメとかだと」
「それを私にやれって? 無理だよ?」
「やってみなきゃわかんねぇだろ。ひとまず目を閉じ、頭の中に白野の事を思い浮かべてみろ。本当は嫌だけど……」
最後の言葉を目を逸らし言った優輝に、一華は顔を引きつらせる。同時に疑うような目を向けた。
「ひとまずやってみろ。その間に他の方法考えっから」
「…………はい」
自信がないというように顔を俯かせてしまった一華を横目に、優輝は何か思いついたような顔を浮かべた。
「なら、これならどうだ」
「っえ、ちょっ!!」
いきなり優輝が一華の後ろに回り、抱き着く形で目元を覆った。
突然抱き着かれ、反射で振り向こうとした一華を固定。優輝が彼女の耳元に口を近付かせた。
「俺の心音に集中してみろ」
意味が分からないと思うが、一華は言われた通りに優輝の心音に集中した。
トクン トクン
走ったため鼓動は早いが、それでも規則正しくなっている心音が耳に届く。
一華は心音を聞くと、自然と肩の力が抜け、頭の中を埋め尽くしていた焦りや不安、恐怖などがすぅっと流れ落ち、なくなった。
頭の中がすっきりとし、一華の呼吸も落ち着き始める。
トクン トクン
優輝の心音に集中する。落ち着く、安心する音。
自然と耳が優輝の心音に集中され、他の音が聞こえなくなった。
――――――――刹那
「――――――――っ!! あっちから人の気配を感じる」
「お、よっしゃ!! 行くぞ!!」
なにかを見つけた一華は、先ほど自分達が走ってきた道を指さした。
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