嘘を吐く貴方にさよならを

桜桃-サクランボ-

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失踪

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「………………っ、い、かないと……」

 痛む体に鞭を打ち、一華は無理やり体を起こした。
 頭痛が入り、頭を支える。目を閉じ、痛みが引くまで耐えた。

「早く、女神様に会って、話を、気かないと――――っ」

 立ち上がろうと右手を手に付いたとき、違和感が芽生え手のひらを見た。そこには、薔薇の弦。手から出ており揺れていた。

「まさか、これが女神様の、力?」

 このままほっとけばこの弦が伸び、一華の身体を縛り拘束する。
 動けなくなる嫌な想像をしてしまった一華だったが、ぎゅっと拳を握り森の奥を見た。

「――――必ず、女神様に会って、個性の花をなくしてやる」

 眉を吊り上げ前を見て走り出した。

 森の中は木に覆われており、視界が制限されている。それに加え、太陽が沈み辺りは暗い。
 風で草木が揺れ、カサカサと音がなり響き、不気味な空気が漂っていた。

 何度躓こうとも、転んだとしても。膝や腕に付いた傷など気にせず、真っすぐ前だけを見て走り続けた。

「はっ、はっ……」

 胸を押さえ走っていると、いきなり道がなくなってしまった。
 今までは地面が見えていたため迷わず走れていたが、突然道がなくなり一華は足を止めてしまう。

「はぁ……うそ、ここが最奥? そんなことないはずなんだけど…………」

 辺りを見回すがお社はない。奥を見ると、道は進んでいないが、崖などがあるわけではないためまだ進むことは可能。
 ただ、地面は草が生い茂り、土が見えない。生えている草は一華の脛辺りまで伸びている。

 このまま進むと方向感覚すら失い、遭難する可能性がある。何か目印になる物はないかと探すと、拳くらいの大きさの石を見つけた。
 一華は迷うことなく拾い上げ、近くの木を削り始めた。

 がりがりと削る事ができ、無事に目印を作る事が出来た。

「これを続けていけば……」

 石を掴み、前を見据えた一華は勇気を振り絞って、前に足を踏み出した。

 カサカサと前に進み、近くの木に目印をつける。
 方向がわからなくなると、後ろを振り向き目印を見て確認。大丈夫だとわかり次第、また前へと進む。

 歩いていると、草を踏んでいた感覚がなくなり、地面がむき出しになっている所にたどり着いた。
 一華は周りを見るためスマホを取り出し、ライトを向ける。そこには、小さなお社があった。

「これが、女神様の封印されている、お社?」

 お社は今すぐにでも壊れそうな程腐っている。
 掃除などもされておらず、埃や蜘蛛の糸など。様々なものが付着しており、正直触りたくない。

 一華は息を飲み、苦虫を潰したような顔を浮かべるが、嫌がっている場合でないと自分を奮い立たせ、右手をお社へ手を伸ばした。

 その時――……


 ――――――――カサッ


「っ!?」

 後ろから草を踏み鳴らす音が聞こえ、一華は反射的に振り返った。

 薄暗い森の中、足音が聞こえた方向には誰もいない。周りを見回しても同じで、人影すらなかった。
 さっきの足音は何なのか、誰かいるのかと。不安が一華の胸を占め体を震わせる。
 焦りと恐怖などで涙が溢れそうになるのを必死に抑え、またお社に振り返った。

 震える手を止めようと胸元で摩るが、一向に止まらない。

「止まって、大丈夫。大丈夫だから」

 自分に言い聞かせるように呟くが、震えは一向に止まってくれない。歯を食いしばり恐怖に耐えていると、またしても背後から足音が聞こえ始めた。
 今度は一回ではなく、歩いているような音。その音は徐々に一華に近付いて行く。

 何が近づいているのかわからない一華は、動くことが出来なくなる。
 音に気づいてはいるものの、振り向くことが出来ない。何が近づいて来ているのかわかってしまうと、腰を抜かして動けなくなる。そう考えてしまい、目の縁に涙をため、恐怖に耐える。

 どんどん近づいて来る足音。その足音はもう真後ろまで近付いていた。
 もう駄目だ。そう思い、目を閉じた時、体に襲ってきたのは痛みなどではなく、優しい温もりだった。

「お疲れ様、一華」

 甘く、低い声。落ち着きがあり、一番聞きたかった声が今、一華の耳元に届く。

 体には腕を回され動くことが出来ない。でも、恐怖心はない。あるのは、驚きと喜び。

「――――ばっかじゃないですか。今まで、どこで、何をしていたんですか」

 様々な感情で、目の縁に溜まっていた涙が零れ落ち、声が震える。体に回されている手を握り、温もりを確かめた。

「勝手にいなくなって悪かったな」
「まったくですよ、本当に。本当に、心配したんですから、黒華先輩!!」

 名前を呼び振り向き、優輝の存在を確認する。
 後ろに居たのは、いつもの優しい微笑みを浮かべ、真紅の瞳に一華の顔を映し込んでいる優輝の姿だった。

「心配させて悪かったな。でも、ありがとう」

 いつも見ていた彼の笑顔を見た瞬間、一華は気持ちを抑えきる事が出来ず優輝へと抱き着いた。
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