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失踪
クビ
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一華の家を出て、危険だからと真理を送った曄途は、夕日に照らされている豪邸にたどり着く。
豪邸を囲むように塀があり、そこには「白野」という標識。
一言で表すのなら洋風建築。問の奥には噴水があり、草花が綺麗に整備されている。
庭園も完備されており、そこでお食事なども楽しめるようにテーブルや椅子まで用意されていた。
曄途は当たり前のように中へと入ると、執事が出迎える。
「曄途おぼっちゃま、お帰りなさいませ。ご連絡はありましたが、これからはここまで遅くなるようでしたら、またお迎えにあがりますので、そのおつもりで。あと、途中で通話を切るようなことも今後はおやめください。必ず最後までっ――――」
「じぃや、今はじぃやの話をゆっくり聞いている時間はないんだ。小言なら後で聞く。今は通してくれないか?」
執事の言葉を遮り、曄途が言い切った。
今までこのような態度をされて事がない執事は腰を折りながら目を開く。だが、相手に悟られぬようにすぐ平静を取り戻し顔を上げた。
「何を言っているのですか曄途おぼっちゃま。駄目ですよ、人の言葉をとちゅで遮っては。まったく、今までの教育は間違えていなかったはず。やはり、学校と言う所に連れ出してしまったからなのでしょう。曄途お坊ちゃま、途釣り合う人間がいない学校に通わすべきではなかった。体育大会でご一緒していたあの底辺と曄途おぼっちゃまは関わってはならなかったのですよ」
この後もぶつぶつと不満を口にしている執事を見て、曄途は体をプルプルと震わせ始める。そんな彼の様子など気づかず、執事は大きなため息を吐き白い手袋を付けている手を差し出した。
「では、おぼっちゃま。荷物をお預かりいたします。この後っ──」
――――――――パンっ!!!
執事がいつものように荷物を預かろうとした時、辺りに乾いた音が響き渡った。同時に執事の困惑声と曄途の怒りで震えている声が聞こえた。
「っ、おぼっちゃま?」
「じぃや、もう僕を縛り付けるのはやめてくれないか」
「縛り付ける? 何を仰っているんですか。貴方は次期社長。縛り付けるなんてそんなことっ――――」
「実際にしているじゃないか!! 僕はあんたの理想の人形とかではない、言いなり人形じゃないんだ。僕の交友関係や行動、将来の夢はあんたが決める事ではなく、僕自身で決める事だ。あんたの理想なんて関係ない。僕は、先輩達と一緒に行動したいからしているんだ。位や立場とか関係なく、先輩達だからこそ、僕は一緒にいたいと思うし、助けたいと思うんだ。そんな僕の気持ちを踏みにじるのなら、あんたを今日限りでクビにする」
クビという言葉に執事もさすがに慌て始め、いつもの落ち着きのある口調は無くなり、焦り口調へと変化した。
「何を言っているのですがおぼっちゃま。私をクビに? そんなこと、出来るわけ無いではありませんか。お忘れですか? 貴方が昔、一人で寂しかった頃、誰が一番遊んであげたのか。誰が一番、貴方と共に行動してきたのか」
「分かっているよ、じぃや。じぃやが一番僕と遊んでくれたし、一人で寂しい思いしている僕を励まし、一緒にいてくれた。じぃやには本当に感謝している」
「それならっ――――」
「でも、それは昔の僕であって、今の僕では無い!」
執事に負けない声量と勢いで、曄途は眉を吊り上げ言い切った。
「今の僕を大事にしてくれないのなら、じぃやは即刻クビにするように父様に話す。言っておくけど、今まで僕をコントロールして、自分の都合のいいように物事を進めようとしたのは知っている。父様にも話している。これ以上なにかすれば、タダでは済まないよ」
執事の目的は、曄途を社長の座まで育てあげ、その功績を利用し、自身を社長補佐にしてもらうこと。
社長補佐になれば、今以上に自由に動くことができ、給料が増えるだろう。
肩書きを利用し、自由に生きていこうとした執事の思惑を掴み、曄途は父様に話をつけていた。
まさか、ここまでバレているとは思っていなかった執事は顔を赤くし、怒りと焦りで体をプルプルと震わせ始めた。
じぃと、今の執事を見ている曄途は浅く息を零し、歩みを進めた。
祖なりを通り過ぎようとしたとき、足を一度止め小さな声で呟く。
「僕はこれからやらなければならないことがある。もう言い返す事が出来ないのなら、僕の邪魔をしないで」
執事の様子などを完全に無視し、曄途は駆け足で豪邸へと入っていく。
その場で歯ぎしりをし、悔し気に顔を歪めている執事は、血走らせた目を豪邸の中に入って行った曄途へと向けた。
「餓鬼の分際で。このまま終わらすと思うなよ」
豪邸を囲むように塀があり、そこには「白野」という標識。
一言で表すのなら洋風建築。問の奥には噴水があり、草花が綺麗に整備されている。
庭園も完備されており、そこでお食事なども楽しめるようにテーブルや椅子まで用意されていた。
曄途は当たり前のように中へと入ると、執事が出迎える。
「曄途おぼっちゃま、お帰りなさいませ。ご連絡はありましたが、これからはここまで遅くなるようでしたら、またお迎えにあがりますので、そのおつもりで。あと、途中で通話を切るようなことも今後はおやめください。必ず最後までっ――――」
「じぃや、今はじぃやの話をゆっくり聞いている時間はないんだ。小言なら後で聞く。今は通してくれないか?」
執事の言葉を遮り、曄途が言い切った。
今までこのような態度をされて事がない執事は腰を折りながら目を開く。だが、相手に悟られぬようにすぐ平静を取り戻し顔を上げた。
「何を言っているのですか曄途おぼっちゃま。駄目ですよ、人の言葉をとちゅで遮っては。まったく、今までの教育は間違えていなかったはず。やはり、学校と言う所に連れ出してしまったからなのでしょう。曄途お坊ちゃま、途釣り合う人間がいない学校に通わすべきではなかった。体育大会でご一緒していたあの底辺と曄途おぼっちゃまは関わってはならなかったのですよ」
この後もぶつぶつと不満を口にしている執事を見て、曄途は体をプルプルと震わせ始める。そんな彼の様子など気づかず、執事は大きなため息を吐き白い手袋を付けている手を差し出した。
「では、おぼっちゃま。荷物をお預かりいたします。この後っ──」
――――――――パンっ!!!
執事がいつものように荷物を預かろうとした時、辺りに乾いた音が響き渡った。同時に執事の困惑声と曄途の怒りで震えている声が聞こえた。
「っ、おぼっちゃま?」
「じぃや、もう僕を縛り付けるのはやめてくれないか」
「縛り付ける? 何を仰っているんですか。貴方は次期社長。縛り付けるなんてそんなことっ――――」
「実際にしているじゃないか!! 僕はあんたの理想の人形とかではない、言いなり人形じゃないんだ。僕の交友関係や行動、将来の夢はあんたが決める事ではなく、僕自身で決める事だ。あんたの理想なんて関係ない。僕は、先輩達と一緒に行動したいからしているんだ。位や立場とか関係なく、先輩達だからこそ、僕は一緒にいたいと思うし、助けたいと思うんだ。そんな僕の気持ちを踏みにじるのなら、あんたを今日限りでクビにする」
クビという言葉に執事もさすがに慌て始め、いつもの落ち着きのある口調は無くなり、焦り口調へと変化した。
「何を言っているのですがおぼっちゃま。私をクビに? そんなこと、出来るわけ無いではありませんか。お忘れですか? 貴方が昔、一人で寂しかった頃、誰が一番遊んであげたのか。誰が一番、貴方と共に行動してきたのか」
「分かっているよ、じぃや。じぃやが一番僕と遊んでくれたし、一人で寂しい思いしている僕を励まし、一緒にいてくれた。じぃやには本当に感謝している」
「それならっ――――」
「でも、それは昔の僕であって、今の僕では無い!」
執事に負けない声量と勢いで、曄途は眉を吊り上げ言い切った。
「今の僕を大事にしてくれないのなら、じぃやは即刻クビにするように父様に話す。言っておくけど、今まで僕をコントロールして、自分の都合のいいように物事を進めようとしたのは知っている。父様にも話している。これ以上なにかすれば、タダでは済まないよ」
執事の目的は、曄途を社長の座まで育てあげ、その功績を利用し、自身を社長補佐にしてもらうこと。
社長補佐になれば、今以上に自由に動くことができ、給料が増えるだろう。
肩書きを利用し、自由に生きていこうとした執事の思惑を掴み、曄途は父様に話をつけていた。
まさか、ここまでバレているとは思っていなかった執事は顔を赤くし、怒りと焦りで体をプルプルと震わせ始めた。
じぃと、今の執事を見ている曄途は浅く息を零し、歩みを進めた。
祖なりを通り過ぎようとしたとき、足を一度止め小さな声で呟く。
「僕はこれからやらなければならないことがある。もう言い返す事が出来ないのなら、僕の邪魔をしないで」
執事の様子などを完全に無視し、曄途は駆け足で豪邸へと入っていく。
その場で歯ぎしりをし、悔し気に顔を歪めている執事は、血走らせた目を豪邸の中に入って行った曄途へと向けた。
「餓鬼の分際で。このまま終わらすと思うなよ」
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