嘘を吐く貴方にさよならを

桜桃-サクランボ-

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失踪

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 三人はまず、曄途が優輝を見かけた繁華街の路地裏に行ってみようと思い、三人で向かっていた。

「夕方と言っても、沢山の人がいるね」

 真理が言うように、周りは親子連れでお買い物を楽しんでいる人や、学校帰りの放課後デートを楽しんでいるカップルなど。人でにぎわっており、三人は周りに気を付けながら例の路地裏へと辿り着く。

 雑貨屋と服屋の建物の隙間には、人が一人通れる程度の隙間。覗いてみると道を遮るようにゴミが投げられ、そこに餌を探してさ迷っていたであろう野良猫が群がっている。
 夕暮れが建物により遮られ薄暗く、不気味な雰囲気が漂っており、三人は一瞬委縮してしまう。だが、負けてなる物かと一華は自身を奮い立たせ中に足を踏み入れた。

「あ、待ってよ一華!!」

 真理が先に行ってしまった一華を追いかけ、そんな彼女の後ろを曄途が付いて行く。
 体を震わせながら薄気味悪い道を歩いていると、道が広がり始めた。
 二人くらいなら横で並んでも大丈夫な広さになった道。そこを歩いていると、一華が何かを見つけ駆けだした。

「これって…………」

 薄暗い道に光る、一つの輝き。地面に落ちている”それ”を拾い上げると、見覚えのあるリング状のピアスだった。

「これって、もしかして黒華先輩の?」
「あ、確かに。黒華先輩、いつもピアス付けていましたよね――あ、あれ?」

 曄途がリング状のピアスを見ると、何かを思い出したように声を上げる。

「そういえばなんですが、僕と言い合いになったあの時、屋上で。黒華先輩、ピアス、付けていましたっけ?」
「あ、確かに……? 今改めて思い出してみると、なかった……かも」

 一華は曄途の言葉で、あの時の出来事を何とか思い出そうと空を見上げる。真理は二人の会話を聞きながら周りを見回していると、建物の壁に刃物か何かでひっかいたような傷跡が出来ていることに気づく。そこには、なにかを塗ったかのように壁が変色していた。

「これって…………」

 真理が呟くと、頬にぽちゃっと何かが当たり空を見上げた。

「あれ、これって」

 真理が空を見上げると、一華達もつられるように空を見上げた。すると、突如雨が勢いよく降り注ぎ三人を濡らしてしまう。

「最悪!!!!!!」

 真理が叫び、一華は慌ててピアスをポケットに入れ路地裏から出ようと駆けだした。

 路地裏から出て、すぐにあるお店の屋根で一休み。
 制服がびしょぬれになり気持ち悪く、三人はげんなりとした顔を浮かべた。

「ここからだと家まで遠いなぁ…………」
「同じくです」
「白野君ならお迎えとかお願いできるんじゃない?」
「できますが、こんな姿を見られたら、またネチネチ言われて明日から送迎の日々に逆戻りです。そんなの嫌です。歩いて帰って、気づかれないように家に入り、真っすぐお風呂に行き証拠を隠滅します」

 遠い目を浮かべ言う曄途の肩に、二人は肩をポンと置いた。
 彼を見る瞳は同情するようなもので、曄途は思わず二人の瞳に口元を引きつらせる。

 真理がケラケラと笑っていると、おもむろに一華を見た。

「ねぇ、一華。ここからだと一華の家が一番近いよね?」
「確かにそうかもしれないね。白野君もさっき、ここからは距離があるって言っていたよね?」
「はい。ここからだと歩いて二十分くらいかかります」
「それなら、私の家で雨宿りして行こうか」

 一華は曄途のポケットからスマホを取り出しメール画面を開いた。

「よし、お母さんに連絡入れたから大丈夫。行こうか」
「めっちゃ助かる! ありがとう!!」

 二人が当たり前のように駆けだそうとしている後ろで、曄途が慌てて二人を呼び止めた。

「あの、僕もいいのですか? 一応、僕は男なのですが…………」
「一華のお母さんとかあまりそこは気にしないはずだよ? ね、一華」

 真理が一華に問いかけると、彼女も小さく頷いた。

「気にしなくてもいいよ、白野君。それに、室内の方が黒華先輩についても、一緒にじっくりと考えられるでしょ?」
「それは、まぁ、そうですけど…………」

 まだ不安を滲ませている彼の手を真理が掴み「行くよ!」と、無理やり走らせた。

「え、あの! 待ってくださいよぉ!!」

 曄途の情けない声と共に、真理の楽し気な笑い声が重なる。一華も二人を見て薄く笑みを浮かべながら雨の中を走った。


 三人は途中、雨宿りできそうな所を見つけては一休みし、十分程度で一華の家にたどり着いた。
 急いで玄関のドアを開け、三人は駆け込むように家の中へと入る。

「ひえぇ、びしょびしょ」
「待てて、今タオル持ってくるから」

 玄関から廊下が続き、左右には扉が二つ。
 一華が廊下に上がると同時に、廊下の突き当りにある扉が開かれた。そこから一華に雰囲気の似た、一人の女性が白いエプロンを付け出てきた。
 その人は一華の母親。名前は蝶赤葵ちょうせきあおい、個性の花は向日葵。黄色の肩まで長い髪を揺らし、黒い瞳で濡れた三人を見て驚きの声を上げた。

「あら、あらあら、びっしょりじゃない。待っていて、今すぐタオル持ってくるから」

 言いながら葵は奥の部屋に戻って行く。

「今のは、もしかしなくても蝶赤先輩のお母様ですか?」
「そうだよ。玄関の開く音で来てくれたみたい」
「若いですね……。お姉さんと言っても違和感ないかも」
「確かに若いよねぇ、一華のお母さん。実際、いくつなの?」

 三人が奥に行ってしまった母親を待っている時、真理が一華に問いかけた。

「えぇっと。確か、三十六だったかな」

 思い出しながら言うと、曄途は目を丸くして指折り数える。

「え、おかしくないですか? だって、先輩って十七ですよね? そうなると、先輩を生んだのが十九の時になりませんか?」
「デキコンだったんだって。でも、そんなの木にしないくらい、私の両親今もラブラブだよ? 周りが恥ずかしくなるくらいにさぁ」

 困った様に一華が話していると、奥のドアが開かれタオルを三枚持ってきた葵が慌てた様子で戻ってきた。

「これで頭と体を拭いて。一華は早く着替えなさい。あと、真理ちゃんも。一華の服を着ても大丈夫だから着替えてきて。それと…………」
 
 見覚えのない曄途の姿を見て、口を閉ざす。
 自己紹介していないことに気づき、曄途は慌てて姿勢を正し一礼。名前を名乗った。

「あ、申し遅れました。僕の名前は白野曄途といいます。今日はいきなり訪問してしまい誠に申し訳ありません。少ししましたらすぐに出ていきます」
「え、白野って。大手食品会社を経営している…………あの?」
「あ、はい。経営しているのは僕の父様ですが…………」

 葵の質問に、曄途は気まずそうに顔をそらし、目を伏せる。渡され、肩にかけた白いタオルを強く握った。
 彼の様子を隣で見ていた一華が訂正するように口を開く。

「お母さん、確かに大手食品会社を経営している社長が白野君のお父さんだけど、今の白野君には関係ないよ。だから、そこは気にしなくてもいい」
「あら、そう。それなら、白野君。貴方も着替えて頂戴、そのままだと風邪をひくわ。服はお父さんのがあるから、少し大きいとは思うけど、貸すわよ。待っていて頂戴」

 一華の説明を聞き、葵は安堵の息を零す。最後にそれだけ残すと、彼女は奥の部屋へと再度行ってしまい、何も言えなかった真理と曄途は唖然。一華だけは当たりまえのように廊下を進む。

「行かないの?」
「…………はい」
「一華のお母さんって、あんなに強引だったっけ?」

 唖然としながらも言われるがまま中へと入り、三人は渡された服に着替えた。
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