23 / 46
失踪
憎しみ
しおりを挟む
「先輩、さすがに言い過ぎだと思います。何も、あそこまで言わなくても良かったと思います!!」
走り去った曄途を見て、真理が振り返り優輝に怒鳴る。一華は何も言わないが、真理と同意見で彼を悲しげに見た。
二人の視線を受けてもなお、優輝は表情一つ変えない。
「確かに言い過ぎたかもしれねぇな。だが、俺は事実しか言っていない。他人の気持ちなど、知ろうと知らなければわかるはずがないだろう。真実から顔を背け、逃げ続ける選択肢もあるが、それは自分の夢からも逃げた事になる。努力をしない奴に、夢を叶えるなんて妄想は、持たせるべきじゃねぇよ」
「そこまで言わなくてもいいじゃないですか! 今まで頑張って耐えてきた白野君を馬鹿にする発言ですよ!?」
「馬鹿にしていると、お前がそう思うのなら構わない。俺は思った事を言っているだけだからな」
金切り声をあげ、真理は優輝に怒りをぶつけるが、彼は淡々と返す。
何も態度を変えない彼に怒りが溢れ、横に垂らしている拳を強く握る。
歯を食いしばり、自分より背の高い彼を睨みつけた。だが、改めて見た彼の表情に真理は驚き、力が抜けこぶしが緩む。
今の彼の表情は無。だが、真紅の瞳は悲しげに揺れ、今にも泣き出しそうにも思える表情を浮かべていた。
「……確かに、先輩の言ったことが事実かもしれません。ですが、先程のは人に言う言葉ではありません。先輩は、人の気持ちを考えた方がいいと思います」
「なんで?」
「っ、え?」
「なんで人の事を考えないといけないんだ? 俺は思ったことを言うだけだし、やりたい事をするだけだ。ほしい物を手に入れるため努力するし、夢を叶える為なら何でもする。自分が助かる為なら、自分が欲しいと思うのなら。他人を陥れるなど、容易い事。人なんて、そういう生き物だろ」
真理を見つめる彼の瞳には、憎しみ、怒り、悲しみといった、マイナスの感情が宿り、憎悪の炎としてメラメラと燃え上がる。
その瞳の意味はなにか。彼は今、何を思って発言しているのか。曄途へ放った言葉の、本来の意味とは。
優輝について、二人はまだ知らないことだらけ。それはお互い同じこと。
彼に過去、何があったのか、今みたいな考えをしてしまう程の出来事があったのか。
人をそこまで恨むほどの出来事があったのか。
二人は彼の瞳を見て、何も言えなくなってしまった。
息苦しい空気が流れ、誰も話せなくなる。その空気に耐えられなくなり、優輝は頭をガリガリと掻き、何も言わず屋上を後にしてしまった。
残された二人もお互い口を開くことが出来ず、静寂な空間に休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
「…………戻らないと、真理」
一華が真理に手を伸ばすが、握られることは無い。
顔を俯かせ、動こうとしない真理の顔を覗き込もうとすると、逃げるように体の向きを変え屋上をドアへと向かってしまった。
一華も遅れないようについて行こうとすると、真理が突然ドア付近で立ち止まる。
「一華、私は、間違えていたのかな……」
放たれた声は酷く震えており、一華は何も言えず目を逸らす。
言葉が出てこなくても、何かを言わなければならない。そう考え、一華は目線を泳がせ、迷いながら口を開いた。
「私も、分からない……。どちらも間違えていないし、間違えてる。正解なんて、ないと思う」
「…………そっか……」
一華の返答に一言返すと、今度こそ真理はその場から姿を消した。
ドアがパタンと閉じ、屋上に残った一華は立ち尽くす。
音をたて閉じられたドアを見つめていると、ゆっくりと震える手で胸を押え、苦しげにその場に崩れ落ちた。
「私、何も言えなかった……」
蹲る彼女の目から、透明な雫が流れ落ちる。
嗚咽を漏らし、一華は泣き続けた。すると、空が彼女の気持ちを表すように薄暗くなり、ぽたぽたと雨が降り出す。
雨粒は徐々に強くなり、辺り一面を濡らした。それでも、一華はその場から動けず、一人、泣き続けた。
放課後、曄途は優輝の言葉が頭の中に残っており、帰る為運転している執事を見た。
バックミラー越しに目が合い、執事は「いかがいたしましたか」と、問いかける。
「いや、何でもない」
目を逸らし窓を見ると、叩きつけるように勢いのある雨粒が街全体を濡らしていた。
いきなり降ってきた雨なため、傘を持っていない人が多く、鞄などを傘替わりに走っている。
必死には走っている人達を目で追っていると、見覚えのある黒髪が目に入った。
「あの後ろ姿って、黒華先輩? なんで、傘もささずに一人で路地裏に行こうとしているんだ」
今は繁華街を車で通っているが、歩道の方で店の隙間に入り込む優輝の姿があった。
なぜ一人で路地裏に行こうとしているのかわからず、目が離せない。
「お坊ちゃま、学校はいかがですか?」
「っ、ふ、普通だよ。特にいつもと変わらない」
「そうですか」
執事に曄途の声が聞こえたのか、バックミラー越しに彼を見た。
窓の外を見ている彼は視線に気づいてはいるがあえて気にせず、外を見続けながら答える。
執事の視線が外れたことが分かると、安堵の息を漏らす。
再度、優輝の姿を確認しようと目線だけを後ろに向かせるが、もう見えない程に車が進んでしまったため、なぜ彼が路地裏に行こうとしていたのかわからずじまい。
仕方がないと目を閉じると、屋上での会話がフラッシュバックし、膝の上に乗せていた拳が強く握られた。
「…………知ろうとしなければ、か…………」
ぼそっと呟かれた言葉は執事には届かず、問いかけられたが「なんでもない」と返した。
走り去った曄途を見て、真理が振り返り優輝に怒鳴る。一華は何も言わないが、真理と同意見で彼を悲しげに見た。
二人の視線を受けてもなお、優輝は表情一つ変えない。
「確かに言い過ぎたかもしれねぇな。だが、俺は事実しか言っていない。他人の気持ちなど、知ろうと知らなければわかるはずがないだろう。真実から顔を背け、逃げ続ける選択肢もあるが、それは自分の夢からも逃げた事になる。努力をしない奴に、夢を叶えるなんて妄想は、持たせるべきじゃねぇよ」
「そこまで言わなくてもいいじゃないですか! 今まで頑張って耐えてきた白野君を馬鹿にする発言ですよ!?」
「馬鹿にしていると、お前がそう思うのなら構わない。俺は思った事を言っているだけだからな」
金切り声をあげ、真理は優輝に怒りをぶつけるが、彼は淡々と返す。
何も態度を変えない彼に怒りが溢れ、横に垂らしている拳を強く握る。
歯を食いしばり、自分より背の高い彼を睨みつけた。だが、改めて見た彼の表情に真理は驚き、力が抜けこぶしが緩む。
今の彼の表情は無。だが、真紅の瞳は悲しげに揺れ、今にも泣き出しそうにも思える表情を浮かべていた。
「……確かに、先輩の言ったことが事実かもしれません。ですが、先程のは人に言う言葉ではありません。先輩は、人の気持ちを考えた方がいいと思います」
「なんで?」
「っ、え?」
「なんで人の事を考えないといけないんだ? 俺は思ったことを言うだけだし、やりたい事をするだけだ。ほしい物を手に入れるため努力するし、夢を叶える為なら何でもする。自分が助かる為なら、自分が欲しいと思うのなら。他人を陥れるなど、容易い事。人なんて、そういう生き物だろ」
真理を見つめる彼の瞳には、憎しみ、怒り、悲しみといった、マイナスの感情が宿り、憎悪の炎としてメラメラと燃え上がる。
その瞳の意味はなにか。彼は今、何を思って発言しているのか。曄途へ放った言葉の、本来の意味とは。
優輝について、二人はまだ知らないことだらけ。それはお互い同じこと。
彼に過去、何があったのか、今みたいな考えをしてしまう程の出来事があったのか。
人をそこまで恨むほどの出来事があったのか。
二人は彼の瞳を見て、何も言えなくなってしまった。
息苦しい空気が流れ、誰も話せなくなる。その空気に耐えられなくなり、優輝は頭をガリガリと掻き、何も言わず屋上を後にしてしまった。
残された二人もお互い口を開くことが出来ず、静寂な空間に休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
「…………戻らないと、真理」
一華が真理に手を伸ばすが、握られることは無い。
顔を俯かせ、動こうとしない真理の顔を覗き込もうとすると、逃げるように体の向きを変え屋上をドアへと向かってしまった。
一華も遅れないようについて行こうとすると、真理が突然ドア付近で立ち止まる。
「一華、私は、間違えていたのかな……」
放たれた声は酷く震えており、一華は何も言えず目を逸らす。
言葉が出てこなくても、何かを言わなければならない。そう考え、一華は目線を泳がせ、迷いながら口を開いた。
「私も、分からない……。どちらも間違えていないし、間違えてる。正解なんて、ないと思う」
「…………そっか……」
一華の返答に一言返すと、今度こそ真理はその場から姿を消した。
ドアがパタンと閉じ、屋上に残った一華は立ち尽くす。
音をたて閉じられたドアを見つめていると、ゆっくりと震える手で胸を押え、苦しげにその場に崩れ落ちた。
「私、何も言えなかった……」
蹲る彼女の目から、透明な雫が流れ落ちる。
嗚咽を漏らし、一華は泣き続けた。すると、空が彼女の気持ちを表すように薄暗くなり、ぽたぽたと雨が降り出す。
雨粒は徐々に強くなり、辺り一面を濡らした。それでも、一華はその場から動けず、一人、泣き続けた。
放課後、曄途は優輝の言葉が頭の中に残っており、帰る為運転している執事を見た。
バックミラー越しに目が合い、執事は「いかがいたしましたか」と、問いかける。
「いや、何でもない」
目を逸らし窓を見ると、叩きつけるように勢いのある雨粒が街全体を濡らしていた。
いきなり降ってきた雨なため、傘を持っていない人が多く、鞄などを傘替わりに走っている。
必死には走っている人達を目で追っていると、見覚えのある黒髪が目に入った。
「あの後ろ姿って、黒華先輩? なんで、傘もささずに一人で路地裏に行こうとしているんだ」
今は繁華街を車で通っているが、歩道の方で店の隙間に入り込む優輝の姿があった。
なぜ一人で路地裏に行こうとしているのかわからず、目が離せない。
「お坊ちゃま、学校はいかがですか?」
「っ、ふ、普通だよ。特にいつもと変わらない」
「そうですか」
執事に曄途の声が聞こえたのか、バックミラー越しに彼を見た。
窓の外を見ている彼は視線に気づいてはいるがあえて気にせず、外を見続けながら答える。
執事の視線が外れたことが分かると、安堵の息を漏らす。
再度、優輝の姿を確認しようと目線だけを後ろに向かせるが、もう見えない程に車が進んでしまったため、なぜ彼が路地裏に行こうとしていたのかわからずじまい。
仕方がないと目を閉じると、屋上での会話がフラッシュバックし、膝の上に乗せていた拳が強く握られた。
「…………知ろうとしなければ、か…………」
ぼそっと呟かれた言葉は執事には届かず、問いかけられたが「なんでもない」と返した。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。

『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あなたが居なくなった後
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの専業主婦。
まだ生後1か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。
朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。
乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。
会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願う宏樹。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……。

タイムリープ10YEARS
鳥柄ささみ
ライト文芸
麻衣は何の変哲もない毎日を過ごしていた。
仲良しな家族、大好きな友達、楽しい学校生活。
ありきたりな、誰もが各々に過ごしているはずの日々、日常。
しかし、10歳のときにあった交通事故によって彼女の世界は激変した。
なぜなら、彼女が目覚めたのは10年後だったから。
精神、学力、思考、すべてが10歳と変わらないまま、ただ時だけ過ぎて外見は20歳。
年月に置いてけぼりにされた、少女の不安と葛藤の物語。
※小説家になろうにも掲載してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる