上 下
5 / 38
コウセン

第5話 思いがけない質問

しおりを挟む
 見た目は普通の、可愛いクマのぬいぐるみ。
 片手で持てる程度の大きさ。

「落ち着きましたか?」
「は、はい」
「それならよかったです」

 ホッと胸をなでおろすコウヨウを見て、愛実は目線を上げた。
 初めて表情が動いたコウヨウに、愛実はポカンと目を丸くした。

 視線を感じ首を傾げ、コウヨウは問いかけた。

「いかがいたしましたか?」
「い、いえ。今、初めて表情が変わったような気がして……」

 問いかけられ、ずっと見ていた自分が恥ずかしくなり目を逸らす。
 顔が赤くなっているのを感じ、頬を抑えた。

「――――そうですか」
「あっ、す、すいません」

 機嫌を損ねてしまったと、すぐに謝罪をする。
 これも、愛実は嫌だった。

 何が悪いのかわからないのに謝っても、また同じことを繰り返す。
 でも、怖い。謝ってしまえば、この場だけでも凌げる。

 それが勝手に出てしまい、すぐに謝罪を行ってしまう。

「そのように感じましたか?」

 まさか、そう返答が来るとは思っておらず、逸らした視線をまた戻す。

「い、いえ、なんか、嫌だったかなぁって、思ってしまって……。すいません」

 また、謝ってしまった。
 苦しそうに視線を下げると、コウヨウが片膝を突き顔を覗き込んだ。

「機嫌がよろしくないのは、私ではなく貴方のようですね」
「わ、私?」
「はい。なにか、抱えていますね」

 白い布でコウヨウの目は見えないはずなのに、なぜか愛実は彼が純粋に聞いて来ているとわかった。
 心配も含まれている言葉に、愛実はなんと言えばいいのかわからず口を閉ざす。

 数秒待ったかと思うと、コウヨウは「ふむ」と、先に口を開いた。

「まだ、こちらに来て日は浅い。ゆっくりでいいですよ。ゆっくりと、話してください」
「すいません…………」
「大丈夫ですよ。では、私はこれで失礼しますね」

 一礼をして、コウヨウは部屋を出ようとした。
 でも、今の愛実は、一人になりたくない。

 気まずい気持ちと不安。何より、相手の真意がまだわからず、このまま戻ってこないかもしれないという恐怖が頭を占める。

 ――――ガシッ

 咄嗟にコウヨウの服を掴んでしまった事を後悔する。
 それでも、この手を離したくはない。このまま、いなくなってほしくない。

「す、すいません。でも…………」

 今にも消え入りそうな声。
 掴んでいる手がカタカタと震えている。

 それを感じたコウヨウは、そっと震えている手に自身の手を重ねた。
 白い手袋をはめているけれど、ぬくもりを感じる。

 愛実が顔を上げると、白い布が目に入った。

「――――あ、あの。も、もう少しだけ、いていただけませんか?」

 勇気を出して言った言葉。コウヨウは何か聞こうと口を開きかけたが、愛実の様子に口を閉ざす。
 小さく頷き、「わかりました」と、伝えた。

「ですが、どうしましょう。なにかしたい事や、お話したいことなどはありますか?」

 手を離し、コウヨウは問いかける。
 けれど、愛実も、ただ一人になるのが怖かっただけで、何か話したい事があったわけではない。

 でも、引き止めたのは愛実だ。
 ここで、何かを言わなければ失礼に当たる。

 なにかいい話題はない視線をさ迷わせながら考えると、一つの絵画に目が留まった。

 それは、まるで”夢”をテーマにしているような輝かしい絵画だった。
 下半分は海、上半分は星空。これだけではただの景色絵。
 色使いが変わっている。

 海は、橙色。星空は水色。なぜ星空と認識したのかは、至る所に星のようにきらめく光が点々とちりばめられていたからだ。
 海は、橙色に白い波のような模様が刻まれているから、頭が勝手に海と判別した。


 色が違うのに、頭では海と星空が認識できた。
 不思議な感覚に思わず見ていると、コウヨウが絵画を見た。

「あちらが気になりますか?」
「あ、はい。不思議な色だなと思いまして……」
「確かに、不思議なお色をしておりますね。ですが、綺麗です。あちらは、アイ様が描いたものなんですよ」

 ”アイ様”
 この名前を聞くのは二回目。

 確か、アイ様という人物が愛実を呼んだとコウヨウは説明をしていた。
 でも、詳しくアイ様については聞いていない。

「外の世界を書きたかったけれど、色がわからなかったから想像で描いた。とおっしゃっておりました」

 コウヨウが説明する中、愛実はアイ様という人物について考える。
 子供なのか、大人なのか。
 どういう人物なのか、どんな性格をしているのか。

 聞いていいか、答えてくれるか。

「? 愛実様?」

 コウヨウが、何も反応がない愛実の名前を呼ぶ。
 愛実は、咄嗟に口から疑問が飛び出した。

「アイ様って、どんな人、ですか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

こんこん公主の後宮調査 ~彼女が幸せになる方法

朱音ゆうひ
キャラ文芸
紺紺(コンコン)は、亡国の公主で、半・妖狐。 不憫な身の上を保護してくれた文通相手「白家の公子・霞幽(カユウ)」のおかげで難関試験に合格し、宮廷術師になった。それも、護国の英雄と認められた皇帝直属の「九術師」で、序列は一位。 そんな彼女に任務が下る。 「後宮の妃の中に、人間になりすまして悪事を企む妖狐がいる。序列三位の『先見の公子』と一緒に後宮を調査せよ」 失敗したらみんな死んじゃう!? 紺紺は正体を隠し、後宮に潜入することにした! ワケアリでミステリアスな無感情公子と、不憫だけど前向きに頑張る侍女娘(実は強い)のお話です。 ※別サイトにも投稿しています(https://kakuyomu.jp/works/16818093073133522278)

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

処理中です...