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梨花
「逃げないでよ」
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足音はどんどん二人のいる保健室へと近づいてくる。月海は暁音の口を抑えながら、ドアへと警戒心を向けていた。険しい顔を浮かべ、次の行動を考える。その時腰を少し浮かしながら、横にある枕を一瞬見た。
『ねぇ、月海さん。鈴寧さん。どこにいるのぉ? 何もしないからぁ~姿を見せてよ~』
まるで、かくれんぼでも楽しんでいるかのように二人を探す声。名前を呼ぶ度、クスクスと笑う声が聞こえる。
徐々に近づいて来る足音を聞きながら、保健室の中で待機していた二人は眉を顰めた。
月海は暁音の口を押えていた手を離し、彼女はベットに手を付ける。
『ふふっ。ここかなぁ~??』
足音が保健室の前で止まる。二人は固唾を飲み、汗を滲ませる。緊張で荒くなる息を、月海は口を閉ざし耐え。暁音は軽く腰を浮かせた。
二人が緊張の中ドアを見つめていると、ガタガタと震え始め開かれる。そこには、顔を高揚させ、楽し気に笑っている梨花の姿があった。
「あはっ! みーつけたぁー!!!」
二人の姿を確認した梨花は、片手に一眼レフを持ちながらカメラに月海を収めようと動く。赤く、艶やかな下唇を舐め。カメラに収まっている月海を見ながら近づく。
レンズの中にいる彼は、眉間に深い皺を作り口を微かに震わせていた。
視線を感じている月海は、左手で拳を作り脂汗を滲ませる。それでも、二人は動かず梨花を見続けた。
「あら。今回は逃げないんですね。なら、その姿を、カメラに写してもいいという事ですよね!!」
豹変してしまった彼女は、潤んだ瞳を月海に向けて離さない。赤い唇は横へと伸び、白い歯を覗かせる。カメラのレンズには、今だ月海が映され続けている。
さすがに危険を感じ始めた暁音は、逃げようと視線を少し動かした。その時、月海が傷に響かないよう、優しく暁音の手首を掴む。
「え」
自身の右手に暁音が目線を落とした時、月海はベットの端に置かれていた”物”に手を伸ばし、勢いよく投げた。それは、月海が寝る時に使っている少し大きめな柔らかい枕。枕自体には殺傷力はないため、月海に目線を向けていた梨花は簡単に避けてしまう。
「危ないなぁ。って、あれぇ? また、鬼ごっこ?」
枕を避ける際、月海達から目を離してしまった。その隙を付き、月海は暁音の手首を掴み引っ張る。梨花の視界をすべて理解し、死角になるところを通り廊下へと出た。そのまま、廊下を走り梨花から離れる。
足音がどんどん遠ざかり、梨花は唖然とした。だが、すぐに笑みを浮かべ、廊下を見る。
「そっかぁ、鬼ごっこかぁ。あは、あはははは。あははははは!!! いいよ! やってあげるよ!!!」
甲高く、叫びに近い声を上げ、梨花は廊下へと出て二人を追いかけ始めた。
「私は、一番よ。私が一番なの。一番になっていないと、いけないの。私は……私は……」
☆
「月海さん! なぜ逃げるのですか!」
保健室から逃げた月海と暁音は、真っすぐ廊下を走っている。引っ張られるがまま、暁音は月海の後ろを走る。その際に、なぜ逃げるのか困惑の色を滲ませている声で問いかけていた。
「今のあいつは何をするか分からない。まだ、殺意を向けてくれた方が助かるよ。対処法を考える事が出来るからね。でも、今のあいつの対処法は分からない。だから、分かるまで逃げるしかないんだ」
廊下を走り続けると、目の前に下りの階段が見えてきた。
月海はその階段を下ると。そう思ったが、なぜか隣にある登りの階段を使い駆け上がり始めた。
「え、この上は確か屋上?」
「うん」
「逃げ場なくなりませんか?」
「知ってるよ」
「どうするつもり何ですか?」
「見ていればわかる」
そんな会話を交わしながら屋上へと向かい、錆びている鉄製の扉を開くためドアノブを握る。錆び付いており、開ける際不協和音が響き耳を塞ぎたくなった。だが、そのような事など気にせず、月海は勢いよく開け、暗雲が立ち込めている外へと出た。
時間が進み、雲も太陽を隠してしまっているため暗い。風も強くなってき、二人の髪を荒々しくそよがせる。
雨の匂いが鼻を掠める中、暁音は自身の髪を抑え視界をクリアにする。
中心で立ち止まった月海は、白衣が風で翻す中、黒い雲が立ち込めている空を見上げていた。
「一体、何をするつもりですか?」
「想いの糸が見えないという事は、僕に会う前にはもう切れてしまっているのが可能性の一つにある」
「可能性の一つ……。そのような言い方をするという事は、他にも可能性が考えれるという事ですか?」
「そうだね。もう一つは滅多にない可能性だからあまり考えてなかったけど。今回は確率的に後者の方が高い」
淡々と話す月海の言葉を、暁音は何も言わず聞いている。すると、またしても足音が聞こえ始めた。
「来た……。あの。その後者は一体、どのような理由があるのですか?」
「それは──……」
彼が質問に答えようとした時、扉が不協和音と共に開かれた。そこには狂気的な笑みを浮かべた梨花が、一眼レフカメラを片手に立っている。血走らせた目は、屋上の中心に立っている月海へと向けられていた。
「ねぇ。逃げないでよ」
『ねぇ、月海さん。鈴寧さん。どこにいるのぉ? 何もしないからぁ~姿を見せてよ~』
まるで、かくれんぼでも楽しんでいるかのように二人を探す声。名前を呼ぶ度、クスクスと笑う声が聞こえる。
徐々に近づいて来る足音を聞きながら、保健室の中で待機していた二人は眉を顰めた。
月海は暁音の口を押えていた手を離し、彼女はベットに手を付ける。
『ふふっ。ここかなぁ~??』
足音が保健室の前で止まる。二人は固唾を飲み、汗を滲ませる。緊張で荒くなる息を、月海は口を閉ざし耐え。暁音は軽く腰を浮かせた。
二人が緊張の中ドアを見つめていると、ガタガタと震え始め開かれる。そこには、顔を高揚させ、楽し気に笑っている梨花の姿があった。
「あはっ! みーつけたぁー!!!」
二人の姿を確認した梨花は、片手に一眼レフを持ちながらカメラに月海を収めようと動く。赤く、艶やかな下唇を舐め。カメラに収まっている月海を見ながら近づく。
レンズの中にいる彼は、眉間に深い皺を作り口を微かに震わせていた。
視線を感じている月海は、左手で拳を作り脂汗を滲ませる。それでも、二人は動かず梨花を見続けた。
「あら。今回は逃げないんですね。なら、その姿を、カメラに写してもいいという事ですよね!!」
豹変してしまった彼女は、潤んだ瞳を月海に向けて離さない。赤い唇は横へと伸び、白い歯を覗かせる。カメラのレンズには、今だ月海が映され続けている。
さすがに危険を感じ始めた暁音は、逃げようと視線を少し動かした。その時、月海が傷に響かないよう、優しく暁音の手首を掴む。
「え」
自身の右手に暁音が目線を落とした時、月海はベットの端に置かれていた”物”に手を伸ばし、勢いよく投げた。それは、月海が寝る時に使っている少し大きめな柔らかい枕。枕自体には殺傷力はないため、月海に目線を向けていた梨花は簡単に避けてしまう。
「危ないなぁ。って、あれぇ? また、鬼ごっこ?」
枕を避ける際、月海達から目を離してしまった。その隙を付き、月海は暁音の手首を掴み引っ張る。梨花の視界をすべて理解し、死角になるところを通り廊下へと出た。そのまま、廊下を走り梨花から離れる。
足音がどんどん遠ざかり、梨花は唖然とした。だが、すぐに笑みを浮かべ、廊下を見る。
「そっかぁ、鬼ごっこかぁ。あは、あはははは。あははははは!!! いいよ! やってあげるよ!!!」
甲高く、叫びに近い声を上げ、梨花は廊下へと出て二人を追いかけ始めた。
「私は、一番よ。私が一番なの。一番になっていないと、いけないの。私は……私は……」
☆
「月海さん! なぜ逃げるのですか!」
保健室から逃げた月海と暁音は、真っすぐ廊下を走っている。引っ張られるがまま、暁音は月海の後ろを走る。その際に、なぜ逃げるのか困惑の色を滲ませている声で問いかけていた。
「今のあいつは何をするか分からない。まだ、殺意を向けてくれた方が助かるよ。対処法を考える事が出来るからね。でも、今のあいつの対処法は分からない。だから、分かるまで逃げるしかないんだ」
廊下を走り続けると、目の前に下りの階段が見えてきた。
月海はその階段を下ると。そう思ったが、なぜか隣にある登りの階段を使い駆け上がり始めた。
「え、この上は確か屋上?」
「うん」
「逃げ場なくなりませんか?」
「知ってるよ」
「どうするつもり何ですか?」
「見ていればわかる」
そんな会話を交わしながら屋上へと向かい、錆びている鉄製の扉を開くためドアノブを握る。錆び付いており、開ける際不協和音が響き耳を塞ぎたくなった。だが、そのような事など気にせず、月海は勢いよく開け、暗雲が立ち込めている外へと出た。
時間が進み、雲も太陽を隠してしまっているため暗い。風も強くなってき、二人の髪を荒々しくそよがせる。
雨の匂いが鼻を掠める中、暁音は自身の髪を抑え視界をクリアにする。
中心で立ち止まった月海は、白衣が風で翻す中、黒い雲が立ち込めている空を見上げていた。
「一体、何をするつもりですか?」
「想いの糸が見えないという事は、僕に会う前にはもう切れてしまっているのが可能性の一つにある」
「可能性の一つ……。そのような言い方をするという事は、他にも可能性が考えれるという事ですか?」
「そうだね。もう一つは滅多にない可能性だからあまり考えてなかったけど。今回は確率的に後者の方が高い」
淡々と話す月海の言葉を、暁音は何も言わず聞いている。すると、またしても足音が聞こえ始めた。
「来た……。あの。その後者は一体、どのような理由があるのですか?」
「それは──……」
彼が質問に答えようとした時、扉が不協和音と共に開かれた。そこには狂気的な笑みを浮かべた梨花が、一眼レフカメラを片手に立っている。血走らせた目は、屋上の中心に立っている月海へと向けられていた。
「ねぇ。逃げないでよ」
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