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真陽留

「何度も使えるものでは無いですね」

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「真陽留、まだ諦めるのは早いよ。相想はまだ生きてる。それに、まだ終わってない!!!」

 力強く音禰は言い切った。だが、真陽留はその言葉より、何故彼女がここにいるのかが気になり、目を大きく広げ見続ける。
 それに気付いたファルシーが翼を動かしながら、小屋の中へと入った。

「私がここまで案内したのよ。まったく、本当に何を考えているのか分からないわねこの男。どこまでが予定通りなのかしら」
「予定通りだと?」

 ファルシーは明人に苦々しい目を向けながら苦笑し、血を流している明人を見下ろす。

「そうよ。この男、私にこう言ったの──」


『病院にはおそらく人間の方が来る。だから、そいつが少しでも長く病院にいるように時間を稼げ。そのうち悪魔がそいつとの契約を解除するはずだ。それより先に俺の記憶をあの女から抜き取れ。まぁ、無事に抜き取るのが無理だったら最悪、その記憶はどうなってもいい。必ず抜き取れ。そして、急いで小屋へ来い。女も一緒にな』


「──ってね。まぁ、来たのが貴方ではなく悪魔のベルゼだったのが予想外だったのかしら。それとも、私の反応を想像して楽しんでいたのか……。後者だったら腹立つわね……」

 ファルシーは顔を赤くし、頬を膨らませながら怒りを何とか抑える。
 真陽留は説明を受け、目線を明人へと向けた。その本人は今も血を流し、ソファーの上で気を失っている。

「真陽留、私が貴方をそこまで狂わせてしまった。ごめんなさい。貴方の気持ちに気付けなかった私を、許して──」

 音禰は涙を流しながら真陽留に謝罪した。それに対し、彼はどうすればいいのかわからず、男として不甲斐ないくらいオドオドしている。
 この場面をもし明人が見ていたら、鼻で笑い馬鹿にしていただろう。

「ふふっ、まだまだ子供ね。それより、音禰ちゃん。あの男の精神力や血の量からして、もうそろそろ死が近くなってきているわ。あと持って数分。早く怪我を治しましょう」
「あ、はい!!」

 ファルシーの言葉に従い、音禰は明人へと歩みを進めた。

「治すって──」
「見ていればわかるわ」

 真陽留の言葉に、ファルシーが楽しげに伝える。

「いいわね音禰ちゃん。私達人外の力を人間が使うのは、本来やってはいけない事なの。私が貴方にはそこまで強いものでは無いけれど、精神力は随分持っていかれるわ。もしかすると、起きていられないかもしれない。それでもいいかしら?」

 ファルシーが最後の確認のように、音禰の耳元で小さく問いかけた。

「はい、大丈夫です。私に出来る事なら、なんでもやりたいから」

 強い眼差しを明人へ向け口にし、両手を腹部に添えた。意思は固く、誰が何を言っても辞めないだろう。

「そう。なら、私はもう止めないわ。頑張ってちょうだい」

 笑みを浮かべ、ファルシーはその場から少しだけ後ろに下がり、真陽留の隣へと移動する。

「ありがとう、ファルシーさん」

 音禰の声は固く緊張していたが、肩越しに聞こえる声は力強く、頼りになるものだった。

「相想、今まで本当にごめんなさい。どうか、どうか神様。お願いします。心優しい彼を、助けてください」

 音禰は目を瞑り、祈り始める。すると、明人の傷口に置かれている手から淡い優し気な光が現れ始めた。呼吸を一定にし、目を閉じ集中力を切らさないように心掛けている。

 真陽留は音禰の邪魔にならないように気をつけながら隣まで移動し、覗き込むように手元を見た。

 光を見つめ、瞳を揺らしながら目を細めている。取り乱していた気持ちがその光によって落ち着きを取り戻し、真陽留の目にも生気が戻ってきた。
 温かさが伝わってくるような優しい光を見つめながら「相想」と小さく名前を呼ぶ。

 それから数秒間。音禰の手元は光り続けた。すると、その光は徐々に弱くなっていき、点滅を繰り返すと完全に消えた。
 音禰は息を大きく吐き、力なく隣に立っている真陽留へと倒れ込む。

「音禰!」

 倒れ込んできた音禰の肩を掴み、彼はしっかりと支えた。

「これが、ファルシーさんの力。確かに、何度も使えるものでは無いですね」

 音禰の様子は、本当に疲れているのだとわかるものだった。呼吸は乱れ、汗が額から頬を伝い床に落ちる。口角を上げている口元にも疲労が見えていた。

 真陽留は音禰を支えながら、心配そうに明人に目を向ける。

「あれ、血が──止まってる?」

 先程までドクドクと流れていた血が、いつの間にか止まっており。大きく裂けていたはずの傷も、完全に塞がっていた。
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