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真陽留
「やるなら最後まで自分達の力でやれや」
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カクリは何とか操作しようと目を閉じ、汗を滲み出しながら集中しているが、明人の苦しみは消えない。
真陽留も焦り、どうすればいいのか考えていた。
明人の体半分を覆っている呪いは薄くなっている訳ではなく、モゾモゾと動いているだけだった。まるで、何かから逃げているような動きに、真陽留は何か引っかかるものを感じ手を伸ばし少し触れてみる。すると、呪いは彼の体から真陽留の体へと移ろうと浮き出てきた。
「うわっ!!!」
咄嗟に手を引っ込めた事により、浮き出た呪いはまたしても明人へと戻ってしまう。
「っ、はぁ……っ、ちっ」
「明人!! 明人!!!」
カクリは操作しつつも不安げに名前を何度も呼んでいる。
名前を呼ぶ声は震えており、真陽留もどうすればいいのか思考を巡らせた。だが、明人程の知能がないため、すぐに思いつかず焦りだけが募る。
「頑張ってくれ、明人。明人……。頼む!!」
苦しみながら唸り、脂汗を滲ませ苦しんでいる明人にカクリは諦めず手を伸ばし続ける。願いの込められた言葉が明人の耳に届かず、徐々に苦しみを増していた。
「────そういえば、こいつの力」
真陽留は涙を浮かべているカクリを見下ろし、何か思いついたような顔を浮かべた。口元の端が上がっており、目を輝かせている。
「おい子狐。僕の言う通りに操作しろ」
「っ、何を言っている貴様!! 集中している、話しかけるでない!!」
「このままじゃ平行線だ。いいから、今回だけは僕を信じてくれ。僕だってここでこいつに死なれる訳にはいかないんだよ!!」
真陽留の必死な言葉。その言葉には嘘偽りがないとわかる。
「お主、なにか算段があるのだな」
「あぁ。いいか、チャンスは一度だ。必ず成功させる」
その後、真陽留はカクリに作戦を伝える。もちろんカクリは手元を緩めずにだ。
明人の突拍子もない作戦に感覚が麻痺しているのか、カクリは「それなら問題ない」と一回で頷いた。その事に真陽留は苦笑いを浮かべ、カクリを哀れみの目で見下ろす。
その後気を取り直し、彼は手を伸ばし続けているカクリに目線を送った。
「いいか?」
「問題無い」
目を合わせ、声を掛け合う。真陽留は先程と同じく、明人の呪いに触れた。
今回は先程の触れる程度ではなく、しっかりと腕を掴んだ事により、呪いである黒い痣は勢いよく浮き上がり、真陽留に襲いかかろうとした。
「今だ子狐!!!」
「分かっておる指図するな!!!」
真陽留に襲いかかろうとした黒い痣に、カクリは明人に向けていた両手を向けた。すると、何故か黒い痣は真陽留に移り込む一歩手前で動きを止めた。
「うしっ!!」
目の前で止まった呪いを見て、彼はガッツポーズをする。だが、それとは裏腹にカクリは険しい顔を浮かべ苦しげに体を震わせ始めた。
「お、おい。どうした? 早く小瓶に──」
「分かっておる!!!」
真陽留は小瓶に呪いを入れれば良いと思っており、カクリもそれで封印が出来ると考え、今なんとか操作していた。だが、なぜか上手く出来ず動きを止めているだけで精一杯の様子。
それは予想外だったため、真陽留は目の前に浮かんでいる呪いを見るしかできず、カクリも操ろうと震える腕を動かしているが上手くできず、徐々に体力が奪われるのみ。
「ぐっ、これ以上は、もたん!!!」
カクリの体力が限界になってしまい、呪いは徐々に動き出してしまいそうになった。その矛先は──真陽留だ。
「おいおい、ふざけるな!! 早く封印しろ!!」
「やっておる!! だが、上手く出来ん。強すぎるのだ!!」
叫ぶ二人の声が保管室に響く。焦る二人をあざ笑うかのように、呪いはカクリの力から解放されてしまい、真陽留へと襲いかかる。
「なっ──」
避けようとするも、動き出すのが遅すぎたため、避けきれず呪いは真陽留へと乗り移ろうとした──その時。
――――何やってんだよ、てめぇら
その声とともに記憶が込められている液体が呪いにかかり、その部分だけ溶けるように無くなった。真陽留はその隙間を縫うように地面に伏せ、回避する事ができ安堵の息を零した。
「あき、と?」
カクリは肩で息をし、後ろからの声の主の名前を呼んだ。
「くそっ。体力が限界だな、お互いに。もうひと頑張りだ。出来るなカクリ」
明人はカクリの頭に手を起き、顔を覗き込む。まだ顔は青く、呪いが残っているため汗を流し苦しそうに歪めている。だが、それでも目だけは諦めていなく、カクリを真っ直ぐと見据えている。
彼が起きた事により安心し、カクリは先程までとは違い冷静を取り戻す事が出来た。明人の言葉に力強く頷き、今だもぞもぞ動いている呪いを見た。
「よしっ。おい、真陽留。そこら辺にある記憶の欠片を呪いにぶっかけろ」
「────ちっ、わかったよ!!」
指示をされ、真陽留はバツが悪そうな表情を浮かべたあとすぐに周りを見回し、小瓶に手を伸ばす。
「カクリは動かそうとしなくていい。動きを止めろ、数秒だけでいい」
「わかった」
素直に頷き、カクリは深呼吸し集中し、呪いの動きを封じた。
止めるだけで苦労していたカクリだったが、今は隣に明人がいるからなのか。冷静に操作できており、呼吸も一定だった。
それでもやはり体力は限界なため、長くはもたない。
「これらでいいんだろ?!」
手にした数個の小瓶を明人見せながら早口に確認する。
「それをそのバケモンにかけろ!!」
真陽留は小瓶の蓋を開け、中身を思いっきりぶちまけた。
液体をかけられた呪いは、体が薄くなりながらも明人の体に戻ろうと動く。だが、それを彼が許すはずも無く、近くの棚に置かれていた空の小瓶に急いで手を伸ばし、呪いに向かって投げた。
「カクリ!!」
「了解だ明人よ!!!」
投げられた小瓶は宙を舞い、カクリは目線を外さず呪いを操作し続け、小瓶の中へと封印し始める。
勢いよく吸い込まれるように小瓶の中に入る呪い。素直にすい込めれてくれず、四方に飛び散ろうと広がり抵抗。カクリはそれでも集中を切らさず力を込め続けた。
明人はカクリの頭を優しく撫でた。安心するような、暖かいぬくもり。カクリの必死だった顔にほんの少し、安堵が零れた。
逃げ切ろうと四方に飛んでいた呪いは、徐々に一つに集まり始め、小瓶の中に入って行く。明人の身体に残されていた呪いも浮き上がり、小瓶の中へと入って行った。
呪いを全て小瓶に入れる事が出来たカクリ。明人は空中から落ちそうになっていた小瓶を右手でキャッチし、蓋を閉じる。
中には、黒い匣よりどす黒い液体がゆらゆらと揺れており、覗いて見ても何も意味はなかった。
「はぁ、はぁ……」
三人は息が荒くなり、まだ警戒が解けず目線をそらさず明人の手にある小瓶に目を向け続ける。だが、もう動く事が無くなったと思い、肩から力が抜け、カクリと真陽留は同時に大きく息を吐き地面に座り込んだ。
「はぁ、はぁ。し、ぬかと思った……」
「ま、まったくだ。お主が変な作戦を立てなければ、このような事にはなっておらんかった」
「おめぇも頷いていただろう」
「……………」
「黙るな」
そんな二人の会話を冷めた目で明人は見下ろしている。
「後先考えねぇからこうなるんだろうが。やるなら最後まで自分達の力でやれや」
「…………何か言う事ねぇのかよ。確かに、結局はお前の力を借りたが、僕達がいなかったら危なかっただろうが」
「ざーーーす」
「思ってねぇだろてめぇ!!!」
適当な礼を口にしたあと、明人は天井を仰ぎ、息を吐いた。額には汗が滲み出ており、相当体力が削られた事が分かる。
「……とりあえずここから出るぞ。ソファーで休む」
明人はふらつく足取りで談話室とも言える部屋へと移動し、まっすぐにソファーへと倒れ込んだ。
真陽留も疲れていたが寝る気にはなれず、彼の姿を確認したあとため息をつき、壁側にある本棚に近付いた。
「心理学の本が多いな。そりゃそうか。さすがに勉強せずここまでの知識を取得するなんて出来るわけないか」
先程の出来事で、真陽留は明人より劣っている事を再認識させられていた。
カクリからの信頼もあるが、明人が口を出しただけですぐに解決してしまった。先ほどの光景を思い出しながら心理学の本を一つ抜き取り、背表紙を撫でる。
「俺も、明人みたいだったら──」
呟いた次の瞬間、いきなり目を見開き本を落とし、何かを感じとったのかいきなり振り向いた。
「なん──」
真陽留が口を開こうとした時、明人の苦しむ声が聞こえソファーの方を向く。
目の前に広がっている光景は、信じられないものだった。
「あき、と──」
「がっ……っ。な、くそが──」
明人の腹部には大きな黒い針みたい物が深々と刺さっており、大量の血がソファーや床を染めていた。そして、その横には楽しげに笑いながら、彼を見下ろしているベルゼの姿があった──……
真陽留も焦り、どうすればいいのか考えていた。
明人の体半分を覆っている呪いは薄くなっている訳ではなく、モゾモゾと動いているだけだった。まるで、何かから逃げているような動きに、真陽留は何か引っかかるものを感じ手を伸ばし少し触れてみる。すると、呪いは彼の体から真陽留の体へと移ろうと浮き出てきた。
「うわっ!!!」
咄嗟に手を引っ込めた事により、浮き出た呪いはまたしても明人へと戻ってしまう。
「っ、はぁ……っ、ちっ」
「明人!! 明人!!!」
カクリは操作しつつも不安げに名前を何度も呼んでいる。
名前を呼ぶ声は震えており、真陽留もどうすればいいのか思考を巡らせた。だが、明人程の知能がないため、すぐに思いつかず焦りだけが募る。
「頑張ってくれ、明人。明人……。頼む!!」
苦しみながら唸り、脂汗を滲ませ苦しんでいる明人にカクリは諦めず手を伸ばし続ける。願いの込められた言葉が明人の耳に届かず、徐々に苦しみを増していた。
「────そういえば、こいつの力」
真陽留は涙を浮かべているカクリを見下ろし、何か思いついたような顔を浮かべた。口元の端が上がっており、目を輝かせている。
「おい子狐。僕の言う通りに操作しろ」
「っ、何を言っている貴様!! 集中している、話しかけるでない!!」
「このままじゃ平行線だ。いいから、今回だけは僕を信じてくれ。僕だってここでこいつに死なれる訳にはいかないんだよ!!」
真陽留の必死な言葉。その言葉には嘘偽りがないとわかる。
「お主、なにか算段があるのだな」
「あぁ。いいか、チャンスは一度だ。必ず成功させる」
その後、真陽留はカクリに作戦を伝える。もちろんカクリは手元を緩めずにだ。
明人の突拍子もない作戦に感覚が麻痺しているのか、カクリは「それなら問題ない」と一回で頷いた。その事に真陽留は苦笑いを浮かべ、カクリを哀れみの目で見下ろす。
その後気を取り直し、彼は手を伸ばし続けているカクリに目線を送った。
「いいか?」
「問題無い」
目を合わせ、声を掛け合う。真陽留は先程と同じく、明人の呪いに触れた。
今回は先程の触れる程度ではなく、しっかりと腕を掴んだ事により、呪いである黒い痣は勢いよく浮き上がり、真陽留に襲いかかろうとした。
「今だ子狐!!!」
「分かっておる指図するな!!!」
真陽留に襲いかかろうとした黒い痣に、カクリは明人に向けていた両手を向けた。すると、何故か黒い痣は真陽留に移り込む一歩手前で動きを止めた。
「うしっ!!」
目の前で止まった呪いを見て、彼はガッツポーズをする。だが、それとは裏腹にカクリは険しい顔を浮かべ苦しげに体を震わせ始めた。
「お、おい。どうした? 早く小瓶に──」
「分かっておる!!!」
真陽留は小瓶に呪いを入れれば良いと思っており、カクリもそれで封印が出来ると考え、今なんとか操作していた。だが、なぜか上手く出来ず動きを止めているだけで精一杯の様子。
それは予想外だったため、真陽留は目の前に浮かんでいる呪いを見るしかできず、カクリも操ろうと震える腕を動かしているが上手くできず、徐々に体力が奪われるのみ。
「ぐっ、これ以上は、もたん!!!」
カクリの体力が限界になってしまい、呪いは徐々に動き出してしまいそうになった。その矛先は──真陽留だ。
「おいおい、ふざけるな!! 早く封印しろ!!」
「やっておる!! だが、上手く出来ん。強すぎるのだ!!」
叫ぶ二人の声が保管室に響く。焦る二人をあざ笑うかのように、呪いはカクリの力から解放されてしまい、真陽留へと襲いかかる。
「なっ──」
避けようとするも、動き出すのが遅すぎたため、避けきれず呪いは真陽留へと乗り移ろうとした──その時。
――――何やってんだよ、てめぇら
その声とともに記憶が込められている液体が呪いにかかり、その部分だけ溶けるように無くなった。真陽留はその隙間を縫うように地面に伏せ、回避する事ができ安堵の息を零した。
「あき、と?」
カクリは肩で息をし、後ろからの声の主の名前を呼んだ。
「くそっ。体力が限界だな、お互いに。もうひと頑張りだ。出来るなカクリ」
明人はカクリの頭に手を起き、顔を覗き込む。まだ顔は青く、呪いが残っているため汗を流し苦しそうに歪めている。だが、それでも目だけは諦めていなく、カクリを真っ直ぐと見据えている。
彼が起きた事により安心し、カクリは先程までとは違い冷静を取り戻す事が出来た。明人の言葉に力強く頷き、今だもぞもぞ動いている呪いを見た。
「よしっ。おい、真陽留。そこら辺にある記憶の欠片を呪いにぶっかけろ」
「────ちっ、わかったよ!!」
指示をされ、真陽留はバツが悪そうな表情を浮かべたあとすぐに周りを見回し、小瓶に手を伸ばす。
「カクリは動かそうとしなくていい。動きを止めろ、数秒だけでいい」
「わかった」
素直に頷き、カクリは深呼吸し集中し、呪いの動きを封じた。
止めるだけで苦労していたカクリだったが、今は隣に明人がいるからなのか。冷静に操作できており、呼吸も一定だった。
それでもやはり体力は限界なため、長くはもたない。
「これらでいいんだろ?!」
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液体をかけられた呪いは、体が薄くなりながらも明人の体に戻ろうと動く。だが、それを彼が許すはずも無く、近くの棚に置かれていた空の小瓶に急いで手を伸ばし、呪いに向かって投げた。
「カクリ!!」
「了解だ明人よ!!!」
投げられた小瓶は宙を舞い、カクリは目線を外さず呪いを操作し続け、小瓶の中へと封印し始める。
勢いよく吸い込まれるように小瓶の中に入る呪い。素直にすい込めれてくれず、四方に飛び散ろうと広がり抵抗。カクリはそれでも集中を切らさず力を込め続けた。
明人はカクリの頭を優しく撫でた。安心するような、暖かいぬくもり。カクリの必死だった顔にほんの少し、安堵が零れた。
逃げ切ろうと四方に飛んでいた呪いは、徐々に一つに集まり始め、小瓶の中に入って行く。明人の身体に残されていた呪いも浮き上がり、小瓶の中へと入って行った。
呪いを全て小瓶に入れる事が出来たカクリ。明人は空中から落ちそうになっていた小瓶を右手でキャッチし、蓋を閉じる。
中には、黒い匣よりどす黒い液体がゆらゆらと揺れており、覗いて見ても何も意味はなかった。
「はぁ、はぁ……」
三人は息が荒くなり、まだ警戒が解けず目線をそらさず明人の手にある小瓶に目を向け続ける。だが、もう動く事が無くなったと思い、肩から力が抜け、カクリと真陽留は同時に大きく息を吐き地面に座り込んだ。
「はぁ、はぁ。し、ぬかと思った……」
「ま、まったくだ。お主が変な作戦を立てなければ、このような事にはなっておらんかった」
「おめぇも頷いていただろう」
「……………」
「黙るな」
そんな二人の会話を冷めた目で明人は見下ろしている。
「後先考えねぇからこうなるんだろうが。やるなら最後まで自分達の力でやれや」
「…………何か言う事ねぇのかよ。確かに、結局はお前の力を借りたが、僕達がいなかったら危なかっただろうが」
「ざーーーす」
「思ってねぇだろてめぇ!!!」
適当な礼を口にしたあと、明人は天井を仰ぎ、息を吐いた。額には汗が滲み出ており、相当体力が削られた事が分かる。
「……とりあえずここから出るぞ。ソファーで休む」
明人はふらつく足取りで談話室とも言える部屋へと移動し、まっすぐにソファーへと倒れ込んだ。
真陽留も疲れていたが寝る気にはなれず、彼の姿を確認したあとため息をつき、壁側にある本棚に近付いた。
「心理学の本が多いな。そりゃそうか。さすがに勉強せずここまでの知識を取得するなんて出来るわけないか」
先程の出来事で、真陽留は明人より劣っている事を再認識させられていた。
カクリからの信頼もあるが、明人が口を出しただけですぐに解決してしまった。先ほどの光景を思い出しながら心理学の本を一つ抜き取り、背表紙を撫でる。
「俺も、明人みたいだったら──」
呟いた次の瞬間、いきなり目を見開き本を落とし、何かを感じとったのかいきなり振り向いた。
「なん──」
真陽留が口を開こうとした時、明人の苦しむ声が聞こえソファーの方を向く。
目の前に広がっている光景は、信じられないものだった。
「あき、と──」
「がっ……っ。な、くそが──」
明人の腹部には大きな黒い針みたい物が深々と刺さっており、大量の血がソファーや床を染めていた。そして、その横には楽しげに笑いながら、彼を見下ろしているベルゼの姿があった──……
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