想妖匣-ソウヨウハコ-

桜桃-サクランボ-

文字の大きさ
上 下
82 / 130
魔蛭

『…………そうかよ』

しおりを挟む
 その後も、日常風景がずっと流れ続けていた。

 砂場で遊んでいたり、二つあるブランコを取り合ったり。三人でお買い物に行ったり、悪い事をして怒られたりと。子供の頃なら誰でも経験あるような光景が映し出され続けた。それを明人は、黙って見続けている。

 そんな光景が流れていると、なぜか途中で一瞬砂嵐が流れる。そのあとすぐに、また映像が映し出された。
 今回は少し成長しており、中学生くらいの三人が制服を着て、学校の廊下に溜まり何かを見せ合いながら話していた。

『また相想は満点かよ……。くそっ。天才様が』
『そう言うお前は赤点ギリギリだな。三人で勉強したはずなんだが……』
『うるせぇよ!! 赤点じゃないならいいだろ!!』
『良くは、無いかな。もう少し頑張ろう真陽留《まひる》!!』
『そうそう、頑張ろうぜ真陽留ちゃん』
『お前のはただ馬鹿にしてるだけだろ!!』

 茶髪の男性が藍色の髪の男性を”相想”と呼び、あt間を叩こうとした。だが、それを綺麗にするりと避ける。喧嘩が始まりそうな雰囲気に、腰まで長い茶髪を翻しながら、女性は慌てて止めようと手を振りあげた。

『ちょっと、喧嘩はダメだって!!』
『『いってぇ!!』』
『あら、ごめんなさい。ふふっ』

 喧嘩はダメと言っている女性だが、スムーズすぎる動作で二人を同時に叩いた。流れる動作で振り上げられ、二人は避けられず素直に叩かれる。


「これは、俺の過去──か?」

 明人はその光景を見つめながら、考えるように呟いた。

 相想と呼ばれている男は、明人と似ている姿をしている。藍色の髪に漆黒の瞳。だが、両目ともしっかりと見えており、もちろん五芒星なども刻まれていない。そして、他の二人も。名前は呼ばれていないが、見覚えがある。

 茶髪で、相想とよくケンカをしているのは魔蛭。だが、制服の胸元についているネームプレートには織陣真陽留《おじんまひる》と書かれている。漢字は違うが、明人に復讐しようと動き、悪魔と契約をした者で間違いない。そして、女性は病室で寝ていた神霧音禰だ。
 この三人は幼馴染。小さい時からの記憶が今、しっかりと映し出されていた。すると、またしても砂嵐が映し出されていた光景を覆い、画面が切り替わる。
 今度は三人は私服なため、遊びに出かけている場面。

『まったく、なんで僕がお前の荷物まで持たねぇとなんねぇんだよ!!』
『ジャンケン負けたからだろ』
『なんで僕はあの時グーを出してしまったんだ……』

 落胆する真陽留に、音禰は困り顔で手を差し出し『持とうか?』と聞いている。それを真陽留は肩をビクッと上げ頬を染め、『い、いやいや!! 大丈夫だ!! これくらい問題ない!!』と断った。

『そ、そう? なら、いいんだけど。でも、無理はしないでね?』
『安心するが良い音禰さん。こいつには荷物持ちがお似合いなのである』

 相想が音禰の肩に腕を回し、自身の顎に手を持っていき無駄にかっこつけたように言う。それを、音禰はびっくりした顔で彼を見て『何言ってんのよ!!』と手を振りあげ怒ってしまう。それを相想は『おっと、怖い怖い』とすぐに離れ、殴られてたまるかと言うように余裕で逃げた。
 彼女はそんな彼を見て、怒りながらも楽しげに笑い、少し頬を淡いピンクに染めている。

 その様子を、真陽留は無表情で見ていた。二人が不思議そうに振り返ると、すぐにいつもの表情に戻り『ふざけんなよ!!』と怒り出す。


「…………復讐……とか、違くねこれ」

 明人は映し出されている光景から目を離さず。考えながらボソリと言葉を零す。二人の表情を見て何かを察し眉を顰め、ため息を吐く。

 その後も画面は切り替わり続ける。

 三人で下校していたり、口喧嘩、テスト勉強。ほとんどの時間を三人で行動している。だが、その場面はどれも、真陽留は音禰に目を向けており、音禰も、相想に目を向けていた。

 画面が切り替わり続け、次の光景には相想はいなかった。真陽留と音禰が二人向かい合って立っており、場所は校舎裏。

『それ、本当?』
『う、うん。多分、意識なんてまったくされてないと思うけど。でも、伝えるだけ伝えようと思ったの』

 音禰は顔を俯かせ、何かモジモジしながら言葉を繋げていた。それを、真陽留はなんともないように振る舞いをしながら受け答えをしている。

『私、相想に今の気持ちを伝える』

 顔を上げて宣言する音禰の表情は、迷いがなく決心したような表情だった。その顔を見た真陽留は何も言う事が出来ず、拳を強く握る。

『だからね、えっと。真陽留、応援──してくれるかな?』

 顔を赤くし、音禰は真陽留に微笑みながら問いかけた。彼の思いになんて全く気づいておらず、期待のまなざしを向ける。
 輝くような目で見られた真陽留は口角を上げ、短く答えた。

『うん。応援するよ、音禰』
『あ、ありがとう!!!』

 真陽留の返答を聞き満面の笑みを浮かべる音禰に、笑みを消さずに彼は微笑み続けた。相手に悟られないように、口元に手を置き、俯く。その事を不思議に思った音禰は、心配そうに顔を覗き込もうとした。その時、予想外の人物が学校の曲がり角から姿を現してしまい、酷く慌ててしまう。

『っえ!? そそそそそ相想!? なななななな、なんでここに!?』

 学校の曲がり角から姿を現したのは、怪訝そうな顔を浮かべた相想だった。
 彼の姿を確認した瞬間、音禰は動揺が隠せず凄く焦ってしまい、それを真陽留は呆れたような表情で見ている。

『何をそんなに焦ってんだ?』

 問いかける相想。先程の二人の会話は聞こえていない。それを察した二人は、安堵の息を吐き『なんでもない』と伝えた。

『ところで、なんでお前はここにいんだよ』
『あ? あぁ……。うん、告られた』
『『ん?/へ?』』

 相想の言葉に、音禰と真陽留は間抜けな声を出してしまった。

『え、じゃ、じゃぁ、相想は彼女持ち……?』

 音禰は震える手を何とか抑え、不安げに問いかけた。相想はなぜそんな事を言われたのか分からず首を傾げているが、勘違いを訂正するため端的に答えた。

『断ったけど?』
『え、そうなの?』
『おう。つーか、名前すら知らない』
『は?/へ?』

 またしても相想の予想外の言葉に、二人は先程と同様に間抜け声を出してしまう。

『それに、今は俺、この三人が一番楽でいいだわ。彼女とか面倒くさそうだし、今のこの関係が結構気に入ってんだよ』

 相想は含みのない笑みを浮かべながら二人に言い放つ。その言葉に、真陽留は戸惑いの顔を浮かべ、音禰をちらっと見る。
 音禰は最初、どう返答すればいいのか悩んでいたが、すぐにいつもの笑みを浮かべ『そっか』と答えた。

『とりあえず、早く教室戻んぞ。次の先生、遅刻にはくそうるせぇから』
『とか言って、サボる気じゃないでしょうね?』
『どうだろうなぁ~』

 相想の横に駆け足で音禰は移動する。その後ろ姿を、真陽留はずっと見続けていた。すると、突然音禰が振り返り、悲しげな笑みを浮かべ、口パクで『大丈夫だよ』と伝える。

『…………そうかよ』

 真陽留は握っている手を振るわせ口にしたあと、二人の半歩後ろをゆっくりとついて行った。

 そこでまたしても光景が切り替わる。今度映し出されたのは、誰かの家の中で、音禰が涙を流しながら笑みを浮かべている姿と、顔を俯かせ隣に座る真陽留の姿だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

大正石華恋蕾物語

響 蒼華
キャラ文芸
■一:贄の乙女は愛を知る 旧題:大正石華戀奇譚<一> 桜の章 ――私は待つ、いつか訪れるその時を。 時は大正。処は日の本、華やぐ帝都。 珂祥伯爵家の長女・菫子(とうこ)は家族や使用人から疎まれ屋敷内で孤立し、女学校においても友もなく独り。 それもこれも、菫子を取り巻くある噂のせい。 『不幸の菫子様』と呼ばれるに至った過去の出来事の数々から、菫子は誰かと共に在る事、そして己の将来に対して諦観を以て生きていた。 心許せる者は、自分付の女中と、噂畏れぬただ一人の求婚者。 求婚者との縁組が正式に定まろうとしたその矢先、歯車は回り始める。 命の危機にさらされた菫子を救ったのは、どこか懐かしく美しい灰色の髪のあやかしで――。 そして、菫子を取り巻く運命は動き始める、真実へと至る悲哀の終焉へと。 ■二:あやかしの花嫁は運命の愛に祈る 旧題:大正石華戀奇譚<二> 椿の章 ――あたしは、平穏を愛している 大正の時代、華の帝都はある怪事件に揺れていた。 其の名も「血花事件」。 体中の血を抜き取られ、全身に血の様に紅い花を咲かせた遺体が相次いで見つかり大騒ぎとなっていた。 警察の捜査は後手に回り、人々は怯えながら日々を過ごしていた。 そんな帝都の一角にある見城診療所で働く看護婦の歌那(かな)は、優しい女医と先輩看護婦と、忙しくも充実した日々を送っていた。 目新しい事も、特別な事も必要ない。得る事が出来た穏やかで変わらぬ日常をこそ愛する日々。 けれど、歌那は思わぬ形で「血花事件」に関わる事になってしまう。 運命の夜、出会ったのは紅の髪と琥珀の瞳を持つ美しい青年。 それを契機に、歌那の日常は変わり始める。 美しいあやかし達との出会いを経て、帝都を揺るがす大事件へと繋がる運命の糸車は静かに回り始める――。 ※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

世界的名探偵 青井七瀬と大福係!~幽霊事件、ありえません!~

ミラ
キャラ文芸
派遣OL3年目の心葉は、ブラックな職場で薄給の中、妹に仕送りをして借金生活に追われていた。そんな時、趣味でやっていた大福販売サイトが大炎上。 「幽霊に呪われた大福事件」に発展してしまう。困惑する心葉のもとに「その幽霊事件、私に解かせてください」と常連の青井から連絡が入る。 世界的名探偵だという青井は事件を華麗に解決してみせ、なんと超絶好待遇の「大福係」への就職を心葉に打診?!青井専属の大福係として、心葉の1ヶ月間の試用期間が始まった! 次々に起こる幽霊事件の中、心葉が秘密にする「霊視の力」×青井の「推理力」で 幽霊事件の真相に隠れた、幽霊の想いを紐解いていく──! 「この世に、幽霊事件なんてありえません」 幽霊事件を絶対に許さない超偏屈探偵・青木と、幽霊が視える大福係の ゆるバディ×ほっこり幽霊ライトミステリー!

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

処理中です...