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魔蛭
「全てをお前にも解らせてやるよ!!!!」
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振りかぶった魔蛭の右腕は、明人によって動きを止められる。
魔蛭の行動に一切焦る事なく、明人は右手で彼の腕を掴み捻り上げた。それにより潰れたカエルのような声を零し、魔蛭はカッターナイフを地面へと落とす。
「いきなりこんな事をしてくるなんてな。お前、失礼にも程があるだろ。知らないのか? 親しき仲にも礼儀あり──いや、親しくねぇからこれは違うか」
明人は、いつものような軽口で話していたが、魔蛭は諦めずに力を込める。拳を作り殴ろうと押し合いになっていた。負けじと明人も掴んでいる手を震わせながらなんとか対抗している。
「手を離さんか!!」
カクリが近くにあった石を拾い上げ、魔蛭目掛けて投げた。しかし、なぜかその石は、黒い影により弾かれカクリの横スレスレ跳ね返ってしまう。頬を掠ってしま切れてしまい、血が少しだけ流れてしまった。
「なにっ!?」
自身の頬についた傷など一切気にせず周りを見回すが、明人達以外に人の気配など確認する事が出来ない。
「あの悪魔とは、一緒じゃないらしいな」
「なら、なぜ」
明人はカクリの反応を確認したあと、押され続けている手をわざと引き、それと同時に足を引っ掛けた。それにより魔蛭はバランスを崩し、前かがみになる。その際、服で隠れていた肌を目にし、明人は目を見開いた。
魔蛭の体が、ほとんど黒く染まっている──
「お前、その体──」
「うるせぇよ。うるせぇよ、うるせぇ!!! お前のせいで……お前のせいで俺の人生めちゃくちゃだ」
前かがみになりながらも踏ん張り、地面に落ちたカッターナイフを拾い上げ体制を立て直した。
目を血走らせ、感情を表に出すように吐き出されたその声は、悲しみで充ち、悲痛の叫びのようだった。
「めちゃくちゃにされた。だから、だから俺は、お前を殺す。俺の復讐は、俺だけでやる。お前に、全てを奪われた。俺のこの気持ち、怒り、悲しみ。全てをお前にも解らせてやるよ!!!!」
血走らせた目で明人を睨み、カッターナイフを大きく振り回す。
怒りのあまり狂ってしまった魔蛭の攻撃は単調で、明人は最低限の移動だけで簡単に避けていた。
蔑んだような、相手を軽蔑しているような目を浮かべている明人の瞳の奥には、微かな哀れみも見て取れる。
「死ね!!! 死ね!!! 死ね死ね死ね死ね死ねしねしねしねしねシネシネシネシネシネ!!!!」
カッターナイフを振り回し、明人の顔面に突き刺そうとした時。彼は溜息をつき迎え撃とうと動き出す。
振りかざしてきた右の手首を掴み再度捻り上げ、掴む力が弱ったところをすかさず叩き、カッターナイフを落とした。
「ちっ!!」
また拾われないようカッターナイフを遠くへと蹴り、明人は捻り上げた腕を掴んだまま背中へと付け、体重をかけ彼を地面へと倒した。
「がっ!!」
腕を抑え、明人は無表情のまま地面に倒れ込んだ魔蛭を見下ろす。そんな魔蛭は今だ「離せ!! 殺す!!」と叫び散らし、抜け出そうともがき続けていた。
「何故ここまでお前は俺を恨む。俺はお前に、何をしてしまったんだ……」
明人のその声には悲観しているような、それとも後悔しているような。そのような負の感情が含まれているように聞こえる。カクリはそんな彼の様子を不思議に思い声をかけるが、返答はなく。ただただ見苦しくもがき続けている魔蛭を見下ろしているだけだった。
「お前の記憶、見せてもらうぞ……。出来るな、カクリ」
「いいのかい?」
「構わない。頼む」
「分かった」
今だ暴れている魔蛭に近付き、カクリは右手をかざした。すると、目に入った者を今にも殺しに行きそうな雰囲気を醸し出しているはずの彼が、急に意識を失い静かになる。次に、確認するような目線をカクリは明人に向け、応えるように彼は小さく頷いた。
「無理だけはするでないぞ」
「分かっとるわ」
カクリは明人にも手をかざした。すると、明人も意識を飛ばし、力なく地面に倒れ込む。
「明人よ、今は静かだが、呪いも危ないのだ。絶対に無理だけはするでないぞ」
心配するようなカクリの声は、木々の重なる音で消えてしまい、誰の耳にも届く事は無かった。
☆
明人は暗闇の中で目を覚ました。周りを見回しているが、何も無い。彼が依頼人の匣を奪い取る時の空間に似ている。
「無事に入れたらしいな。さて、あいつの記憶を見るとするか」
その場で目を瞑り、何かを念じ始めた。すると、徐々に周りの光景に色が付き始め変化していく。
暗闇だった空間から浮き出てきたのは、一つの公園だった。
明人は目を開け、現れた光景を見る。
男の子が二人、一人の女の子を囲いながら。何かを話している光景が見え始める。
『やだ!! おとちゃんと遊ぶのは僕なの!!!』
『なんでなのさ!! 今日約束してたのは僕だもん!!』
茶髪の男の子が藍色の髪をした男の子と言い争っている。真ん中では困り顔で二人を止めようとする、腰まで長い茶髪の女の子がいた。
『ずるい!! だってそうちゃん、昨日もおとちゃんと遊んだじゃん!!』
『そう言うまーちゃんだって、一昨日一緒に遊んでたじゃん!!』
男の子二人はお互いの髪を引っ張ったり、頬をつねったりと。子供ならではの喧嘩をしていた。そして、痺れを切らした女の子が『いい加減にしなさい!!』と、大きな声で叫びながら男の子二人の頭を叩く。
『『いったーい!!!』』
そうちゃんと呼ばれた男の子は叩かれたあと不貞腐れたようにそっぽを向き、まーちゃんと呼ばれていた男の子は自身の頭を抑えながら、涙目になっていた。
『今日は三人で遊ぶの!! ほら、おすなば行こ!! 今日はおしろを作るの!! そうちゃんとまーちゃんと私で住むおしろだよ? 大きく作らないと!!』
おとちゃんと呼ばれた女の子は、二人の手を握り砂場へと向かいながら楽しげに話している。
そんな光景を見ていた明人は、表情を変えず。映画を見るように、視線を動かさなかった。
魔蛭の行動に一切焦る事なく、明人は右手で彼の腕を掴み捻り上げた。それにより潰れたカエルのような声を零し、魔蛭はカッターナイフを地面へと落とす。
「いきなりこんな事をしてくるなんてな。お前、失礼にも程があるだろ。知らないのか? 親しき仲にも礼儀あり──いや、親しくねぇからこれは違うか」
明人は、いつものような軽口で話していたが、魔蛭は諦めずに力を込める。拳を作り殴ろうと押し合いになっていた。負けじと明人も掴んでいる手を震わせながらなんとか対抗している。
「手を離さんか!!」
カクリが近くにあった石を拾い上げ、魔蛭目掛けて投げた。しかし、なぜかその石は、黒い影により弾かれカクリの横スレスレ跳ね返ってしまう。頬を掠ってしま切れてしまい、血が少しだけ流れてしまった。
「なにっ!?」
自身の頬についた傷など一切気にせず周りを見回すが、明人達以外に人の気配など確認する事が出来ない。
「あの悪魔とは、一緒じゃないらしいな」
「なら、なぜ」
明人はカクリの反応を確認したあと、押され続けている手をわざと引き、それと同時に足を引っ掛けた。それにより魔蛭はバランスを崩し、前かがみになる。その際、服で隠れていた肌を目にし、明人は目を見開いた。
魔蛭の体が、ほとんど黒く染まっている──
「お前、その体──」
「うるせぇよ。うるせぇよ、うるせぇ!!! お前のせいで……お前のせいで俺の人生めちゃくちゃだ」
前かがみになりながらも踏ん張り、地面に落ちたカッターナイフを拾い上げ体制を立て直した。
目を血走らせ、感情を表に出すように吐き出されたその声は、悲しみで充ち、悲痛の叫びのようだった。
「めちゃくちゃにされた。だから、だから俺は、お前を殺す。俺の復讐は、俺だけでやる。お前に、全てを奪われた。俺のこの気持ち、怒り、悲しみ。全てをお前にも解らせてやるよ!!!!」
血走らせた目で明人を睨み、カッターナイフを大きく振り回す。
怒りのあまり狂ってしまった魔蛭の攻撃は単調で、明人は最低限の移動だけで簡単に避けていた。
蔑んだような、相手を軽蔑しているような目を浮かべている明人の瞳の奥には、微かな哀れみも見て取れる。
「死ね!!! 死ね!!! 死ね死ね死ね死ね死ねしねしねしねしねシネシネシネシネシネ!!!!」
カッターナイフを振り回し、明人の顔面に突き刺そうとした時。彼は溜息をつき迎え撃とうと動き出す。
振りかざしてきた右の手首を掴み再度捻り上げ、掴む力が弱ったところをすかさず叩き、カッターナイフを落とした。
「ちっ!!」
また拾われないようカッターナイフを遠くへと蹴り、明人は捻り上げた腕を掴んだまま背中へと付け、体重をかけ彼を地面へと倒した。
「がっ!!」
腕を抑え、明人は無表情のまま地面に倒れ込んだ魔蛭を見下ろす。そんな魔蛭は今だ「離せ!! 殺す!!」と叫び散らし、抜け出そうともがき続けていた。
「何故ここまでお前は俺を恨む。俺はお前に、何をしてしまったんだ……」
明人のその声には悲観しているような、それとも後悔しているような。そのような負の感情が含まれているように聞こえる。カクリはそんな彼の様子を不思議に思い声をかけるが、返答はなく。ただただ見苦しくもがき続けている魔蛭を見下ろしているだけだった。
「お前の記憶、見せてもらうぞ……。出来るな、カクリ」
「いいのかい?」
「構わない。頼む」
「分かった」
今だ暴れている魔蛭に近付き、カクリは右手をかざした。すると、目に入った者を今にも殺しに行きそうな雰囲気を醸し出しているはずの彼が、急に意識を失い静かになる。次に、確認するような目線をカクリは明人に向け、応えるように彼は小さく頷いた。
「無理だけはするでないぞ」
「分かっとるわ」
カクリは明人にも手をかざした。すると、明人も意識を飛ばし、力なく地面に倒れ込む。
「明人よ、今は静かだが、呪いも危ないのだ。絶対に無理だけはするでないぞ」
心配するようなカクリの声は、木々の重なる音で消えてしまい、誰の耳にも届く事は無かった。
☆
明人は暗闇の中で目を覚ました。周りを見回しているが、何も無い。彼が依頼人の匣を奪い取る時の空間に似ている。
「無事に入れたらしいな。さて、あいつの記憶を見るとするか」
その場で目を瞑り、何かを念じ始めた。すると、徐々に周りの光景に色が付き始め変化していく。
暗闇だった空間から浮き出てきたのは、一つの公園だった。
明人は目を開け、現れた光景を見る。
男の子が二人、一人の女の子を囲いながら。何かを話している光景が見え始める。
『やだ!! おとちゃんと遊ぶのは僕なの!!!』
『なんでなのさ!! 今日約束してたのは僕だもん!!』
茶髪の男の子が藍色の髪をした男の子と言い争っている。真ん中では困り顔で二人を止めようとする、腰まで長い茶髪の女の子がいた。
『ずるい!! だってそうちゃん、昨日もおとちゃんと遊んだじゃん!!』
『そう言うまーちゃんだって、一昨日一緒に遊んでたじゃん!!』
男の子二人はお互いの髪を引っ張ったり、頬をつねったりと。子供ならではの喧嘩をしていた。そして、痺れを切らした女の子が『いい加減にしなさい!!』と、大きな声で叫びながら男の子二人の頭を叩く。
『『いったーい!!!』』
そうちゃんと呼ばれた男の子は叩かれたあと不貞腐れたようにそっぽを向き、まーちゃんと呼ばれていた男の子は自身の頭を抑えながら、涙目になっていた。
『今日は三人で遊ぶの!! ほら、おすなば行こ!! 今日はおしろを作るの!! そうちゃんとまーちゃんと私で住むおしろだよ? 大きく作らないと!!』
おとちゃんと呼ばれた女の子は、二人の手を握り砂場へと向かいながら楽しげに話している。
そんな光景を見ていた明人は、表情を変えず。映画を見るように、視線を動かさなかった。
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