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音禰
「記憶を返せ」
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明人は無言のまま歩き続け、看護師が口にしていた『神霧音禰』と書かれたプレートが付いているドアの前で立ち止まった。
「ここかい?」
「らしいな」
ドアを開けようと右手を添えると、中から魔蛭の声が聞こえ止めた。
『今日は遅くなってごめん。道が混んでてさ』
今まで明人に向けていた怒りと憎しみに満ちた声とは違い、相手を思い合っているような優しげな声。でも、その声は沈んでおり、悲しげにも聞こえる。そんな声に対し、何も返答はない。
『早く諦めてくれればいいものの。そうすれば、音禰は目を覚ます事が出来るのに……』
優しげな声から憎しみの籠った声に変わる。苦し気で、我慢しているような声。それを聞き、明人はドアから手を離し立ち尽くす。
『音禰が目を覚まさなくなってから約四年。俺は早く、君の声が聞きたいよ』
明人は今の言葉に肩眉を上げる。
「四年。俺が記憶を失った時に音禰とやらは倒れたのか? そして、魔蛭の何かしらの関係。恋人、友達、家族。………いや、どれでもない気がするな」
「なぜだ?」
「なんとなくだ」
顎に手を当て考え込み、彼はそのまま黙ってしまった。カクリも同じく口を閉じ、部屋の中の声に集中する。
『俺は君に早く目覚めて欲しい。でも、その前に必ずあいつを殺さなければならない。荒木相思を……』
憎しみの籠った声で聞き覚えのある名前を口にした。だが、明人はそのまま何も反応を見せない。
『必ず相思を殺し、お前を俺のモノにする。もう、苦しまなくていい。俺が幸せにしてみせる。だから、俺を見てくれないか。相思も、それを願っている』
魔蛭の最後の言葉に、明人は下げていた目線を上げドアに鋭い目線を向けた。
「勝手な事、言ってんじゃねぇよ」
嫌悪や憎悪といった感情が明人の言葉に含まれている。腕を組み、音を立てないように気をつけながら、ドアに背中を付け寄りかかる。
『必ず、相思からお前を奪う。そして、俺だけのモノにする。誰にも──例え元幼馴染が相手だとしても。俺は、お前を諦めない』
今の言葉に、明人は驚きの表情を浮かべた。それはカクリも同じで、ドアの方を凝視する。
「幼馴染……。相思とは明人の事では無いのかい?」
「…………知らん」
明人が吐き捨てると、ドアに預けていた背中を動かし立ち直す。振り向き、右手をドアに添えた。すると、なんもためらいもせず、ガラッっと。勢いよくドアを開けた。
中には驚きの表情を浮かべた魔蛭が明人を凝視し、ベットには綺麗な女性が横になっていた。
「なっ、んで……。お前らがここに……」
「お前が居たから後を追いかけた。病気なのかと期待したがまさかの見舞いなんてな。ちゃんと人の心はあるみたいじゃねぇか。俺は安心したぜ、マヒルさん?」
中へ堂々と入り、魔蛭の向かいに立つ。目線は彼の後ろ、ベットで横になっている女性に目を向けられていた。
茶髪の長い髪に、透き通るような白い肌。誰が見ても『綺麗』と答えるような容姿をしている女性が瞳を閉じ、そこにいた。
「こいつが神霧音禰か。お前となんの関係性なんだよ。それに、相思を殺す。それは俺に殺人予告してるって事か? それとも他の奴?」
「それを直接聞くのは明人ぐらいだと思うぞ……」
明人は躊躇う事なく直接魔蛭に問いかけてる。どう返せばいいのかわからず、彼は目を泳がせるだけで返答はない。
「いつまでアホ面晒しているつもりだ。気持ちわりぃな」
げんなりとしているような、心底嫌そうな表情を魔蛭へ向け吐き捨てた。
「いや……。いやいやいや。なにお前堂々とそれを俺に聞くんだ?! つーか、なぜ普通でいられる?! なんでここにいんだよ?!」
「質問は一つずつゆっくり言えや。そんな一気に質問して答えられると思ってんのか? 相手の気持ちになって物事を考えろよ。それだから無駄に争いが増え面倒な人間になって最終的にはハブられるんだよ。あと、最後の質問はさっき答えたからそのハエなみの脳みそで思い出してろニワトリが」
明人の言葉に魔蛭は怒りが込み上げ、拳を握り震わせる。カクリも、今回は魔蛭に同感し小さく頷いていた。
「この女。あの新聞の──」
「新聞? 何の話だクズ男」
「うるせぇ。最低限の会話以外は認めねぇよニワトリ」
相手の悪口は必ず会話に混ぜこみながらも、しっかりと会話を続け二人を見て、カクリは小さく「似た者同士」と呟いていた。
「んで、俺を恨んでいるようだが。記憶がなければ謝罪も何も出来ねぇだろうがグズ蛭君」
「どうせ謝罪もクソもする気ねぇだろうが。社会の常識や相手の思考、感情その他もろもろを全く考えないアホ人君は」
「なぜ普通に会話が出来ぬ……」
カクリの呆れ声に、真顔のままそちらを見る二人。
「御託はどうでもいいわ。本題に入らせてもらう」
「断る」
明人の言葉を即答で拒否する魔蛭だが、そのような事を気にする彼ではなかったため、そのまま話が続いた。
「この女とお前はどんな関係だ? それで、俺はお前らとどんな接点がある。いや──記憶を返せ。その方が手っ取り早い」
「俺が奪った証拠あんのかよ」
「今までの言葉とさっきの独り言から察するにそういう事だろ」
「盗み聞きか? 最低だな」
「人の想いを簡単にドブに捨てる奴に言われたくねぇわ」
淡々と話が進んでいるように見えるが、内容は全く進んでいない。
カクリは溜息をつきながら、音禰の手を握り何かを確認し始めた。
「ここかい?」
「らしいな」
ドアを開けようと右手を添えると、中から魔蛭の声が聞こえ止めた。
『今日は遅くなってごめん。道が混んでてさ』
今まで明人に向けていた怒りと憎しみに満ちた声とは違い、相手を思い合っているような優しげな声。でも、その声は沈んでおり、悲しげにも聞こえる。そんな声に対し、何も返答はない。
『早く諦めてくれればいいものの。そうすれば、音禰は目を覚ます事が出来るのに……』
優しげな声から憎しみの籠った声に変わる。苦し気で、我慢しているような声。それを聞き、明人はドアから手を離し立ち尽くす。
『音禰が目を覚まさなくなってから約四年。俺は早く、君の声が聞きたいよ』
明人は今の言葉に肩眉を上げる。
「四年。俺が記憶を失った時に音禰とやらは倒れたのか? そして、魔蛭の何かしらの関係。恋人、友達、家族。………いや、どれでもない気がするな」
「なぜだ?」
「なんとなくだ」
顎に手を当て考え込み、彼はそのまま黙ってしまった。カクリも同じく口を閉じ、部屋の中の声に集中する。
『俺は君に早く目覚めて欲しい。でも、その前に必ずあいつを殺さなければならない。荒木相思を……』
憎しみの籠った声で聞き覚えのある名前を口にした。だが、明人はそのまま何も反応を見せない。
『必ず相思を殺し、お前を俺のモノにする。もう、苦しまなくていい。俺が幸せにしてみせる。だから、俺を見てくれないか。相思も、それを願っている』
魔蛭の最後の言葉に、明人は下げていた目線を上げドアに鋭い目線を向けた。
「勝手な事、言ってんじゃねぇよ」
嫌悪や憎悪といった感情が明人の言葉に含まれている。腕を組み、音を立てないように気をつけながら、ドアに背中を付け寄りかかる。
『必ず、相思からお前を奪う。そして、俺だけのモノにする。誰にも──例え元幼馴染が相手だとしても。俺は、お前を諦めない』
今の言葉に、明人は驚きの表情を浮かべた。それはカクリも同じで、ドアの方を凝視する。
「幼馴染……。相思とは明人の事では無いのかい?」
「…………知らん」
明人が吐き捨てると、ドアに預けていた背中を動かし立ち直す。振り向き、右手をドアに添えた。すると、なんもためらいもせず、ガラッっと。勢いよくドアを開けた。
中には驚きの表情を浮かべた魔蛭が明人を凝視し、ベットには綺麗な女性が横になっていた。
「なっ、んで……。お前らがここに……」
「お前が居たから後を追いかけた。病気なのかと期待したがまさかの見舞いなんてな。ちゃんと人の心はあるみたいじゃねぇか。俺は安心したぜ、マヒルさん?」
中へ堂々と入り、魔蛭の向かいに立つ。目線は彼の後ろ、ベットで横になっている女性に目を向けられていた。
茶髪の長い髪に、透き通るような白い肌。誰が見ても『綺麗』と答えるような容姿をしている女性が瞳を閉じ、そこにいた。
「こいつが神霧音禰か。お前となんの関係性なんだよ。それに、相思を殺す。それは俺に殺人予告してるって事か? それとも他の奴?」
「それを直接聞くのは明人ぐらいだと思うぞ……」
明人は躊躇う事なく直接魔蛭に問いかけてる。どう返せばいいのかわからず、彼は目を泳がせるだけで返答はない。
「いつまでアホ面晒しているつもりだ。気持ちわりぃな」
げんなりとしているような、心底嫌そうな表情を魔蛭へ向け吐き捨てた。
「いや……。いやいやいや。なにお前堂々とそれを俺に聞くんだ?! つーか、なぜ普通でいられる?! なんでここにいんだよ?!」
「質問は一つずつゆっくり言えや。そんな一気に質問して答えられると思ってんのか? 相手の気持ちになって物事を考えろよ。それだから無駄に争いが増え面倒な人間になって最終的にはハブられるんだよ。あと、最後の質問はさっき答えたからそのハエなみの脳みそで思い出してろニワトリが」
明人の言葉に魔蛭は怒りが込み上げ、拳を握り震わせる。カクリも、今回は魔蛭に同感し小さく頷いていた。
「この女。あの新聞の──」
「新聞? 何の話だクズ男」
「うるせぇ。最低限の会話以外は認めねぇよニワトリ」
相手の悪口は必ず会話に混ぜこみながらも、しっかりと会話を続け二人を見て、カクリは小さく「似た者同士」と呟いていた。
「んで、俺を恨んでいるようだが。記憶がなければ謝罪も何も出来ねぇだろうがグズ蛭君」
「どうせ謝罪もクソもする気ねぇだろうが。社会の常識や相手の思考、感情その他もろもろを全く考えないアホ人君は」
「なぜ普通に会話が出来ぬ……」
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「断る」
明人の言葉を即答で拒否する魔蛭だが、そのような事を気にする彼ではなかったため、そのまま話が続いた。
「この女とお前はどんな関係だ? それで、俺はお前らとどんな接点がある。いや──記憶を返せ。その方が手っ取り早い」
「俺が奪った証拠あんのかよ」
「今までの言葉とさっきの独り言から察するにそういう事だろ」
「盗み聞きか? 最低だな」
「人の想いを簡単にドブに捨てる奴に言われたくねぇわ」
淡々と話が進んでいるように見えるが、内容は全く進んでいない。
カクリは溜息をつきながら、音禰の手を握り何かを確認し始めた。
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