想妖匣-ソウヨウハコ-

桜桃-サクランボ-

文字の大きさ
上 下
61 / 130
麗華

「終わりを告げる」

しおりを挟む
「他の奴が、預かってる──だと?」
「そうだ。誰かは言わねぇよ。言ったとしてもお前は呪いによって結局取り戻せず死ぬ。お前は自分について何も思い出せずに、呪いによって痛み、苦しみながら死ぬ運命なんだよ!!! ざまぁみろ!!!」

 魔蛭が感情全て吐き出すように叫ぶと、いきなり床が黒くなり始めた。

「な、なんだ!?」
「じゃぁな明人。お前の寿命もあと少しで終わりを告げる。あと、何日持つかなぁ!!!」

 不気味な笑い声を残し、魔蛭は黒く濁った床の中へと姿を消してしまった。
 カクリが出入口に目を向けると、いつの間にかベルゼも姿を消している。

「くそっ!!」

 明人は悔しさと怒りで、眉間に皺を寄せ床を叩きつけた。カクリはその様子を悲しげに見ている。

「明人、ひとまず今は休め。普通の人間がそのような怪我を負い、無事な訳がない」
「それはお前もだろ。つーか、俺より酷いじゃねぇか」

 明人がカクリを見て、沈んだ声で言う。

 明人は呪いのせいで体が鈍くなっており、普段より動きにくいなどはあった。だが、最初にカッターナイフを握ったのと、背中に刺された以外の傷はない。それでも、いまだ血が流れ明人の服を赤く染めていく。急所を外しているとはいえ重症。ほっとけば命が危ない可能性がある。
 カクリ自身も危険な状態なのは変わらない。背中、腰、横腹、足など。至る所から血が出ている。人間だと立っている事も出来ない程の傷だ。

「来い、さすがにその傷はほっとけねぇわ」
「いや構わん。私は妖だ。人間と一緒に──」

 カクリが遠慮するが、最後まで聞かず明人が無理やりカクリを怪我していない方の手で抱え、奥の部屋に歩き出した。

「明人よ、体は大丈夫なのかい?」
「問題ねぇわ。体が重いだけだ。後は背中だな。つーか、重症患者が人の心配してんじゃねぇぞ。呪いの激痛より何倍もマシだわ。止血はしねぇとまずそうだけどな」

 奥の部屋には記憶保管場所とは別に、もう一つ空き部屋があった。
 そこは物置みたいになっており、まだ何も施していない小瓶や、明人が外に行く時用のスーツやビジネスバッグが置いてある。

 明人はその部屋に入りカクリを壁側に座らせ、明人は救急箱を片手に持ち座った。
 まずは簡単に自身の手の止血をし包帯を巻く。その間、約五分程。次に、上の服を脱ぎ、体にも包帯を巻いた。それも約五分。その後、カクリの向かいに座り直した。

「おら、出せや」
「すまぬ……」

 カクリは言われた通り怪我している所を出した。
 ナイフが深く刺さってしまったらしく、今なお血が溢れ出ている。

 その部分の血を拭き取り止血を始めた。その後はガーゼで傷口を塞ぎ、包帯を巻く。他の部分も同じように応急処置をしていった。

「針で縫うほどの傷だな。まぁ、人間じゃねぇし問題ねぇだろ。ほれ完了だ」

 明人は処置が終わり、救急箱をしまう。
 カクリは自分に巻かれた包帯を見て、腕を動かしたり、立ってその場で少し歩いてみたが痛みなどはあまり感じなかった。

「なんでも出来るのも気味が悪いな」
「褒め言葉をどーも。少し休んでから来い」

 明人が言うと、そのまま部屋を出ていった。

「──なぜ、あヤツらは明人を狙うのだ……」

 カクリは疑問を吐き、そのまま黙り込んでしまった。

 ☆

 噂を確認してから数週間が経った頃。麗華が、静空と麗羅を大事な話があると言って、屋上に呼び出した。なので、今は三人で屋上に向かっている。

 三人が一緒にご飯食べるとはいつもの事なため気にしていない様子だが、屋上で食べるのは初めての事。

 周りに聞かれたくない話と言っていたため、二人は素直に後ろを付いて行く。

「なんの話なの麗華」
「屋上で話すよぉ~」

 麗華は静空の質問を軽く流し、階段を登っていく。麗羅は少し怪訝そうな表情を浮かべているが、それでも静かについて行っていた。

「ついたぁー!! やっぱり屋上って気持ちがいいよねぇ~」

 屋上に着いた瞬間、麗華はお弁当を落とさないように伸びをする。

「いや、『気持ちいいよねぇ~』じゃなくて。なんでここまで来る必要があったの? めんどくさいじゃん」
「静空ちゃん。そんな事言わないでよぉ~。私の恋愛話聞いてぇ~??」

 二人の方に顔を向け、サラッとそのような事を口にした。
 その言葉に麗羅と静空は、予想外の話に口を開け唖然とした表情になる。

 今まで色んな男子と遊んでいるし、沢山友達もいる。だが、何故か彼氏を作った事は麗華にはなかった。

「あんた、今まで作った事無かったじゃん。興味もある訳じゃなさそうだし……」
「一体誰??」

 静空は指をさしながら今だなお驚いた表情を浮かべ、麗羅はなんとか平静を取り戻し質問した。

「私、彼氏出来たとは口にしてないんだけどぉ~?」

 二人の反応に麗華は冷静に返した。その言葉で、二人は顔を見合せ頭を抱える。

「なら、一体何の話なの?」

 静空が質問すると、麗華は満面な笑みを浮かべて口を開いた。

「私、二人の男子に告白されちゃった」

 その言葉に今度はなんの反応もできず、二人はその場に固まってしまった。
 風が二人の髪を揺らし、太陽は静かになってしまった三人を明るい日差しで照らし続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

大正石華恋蕾物語

響 蒼華
キャラ文芸
■一:贄の乙女は愛を知る 旧題:大正石華戀奇譚<一> 桜の章 ――私は待つ、いつか訪れるその時を。 時は大正。処は日の本、華やぐ帝都。 珂祥伯爵家の長女・菫子(とうこ)は家族や使用人から疎まれ屋敷内で孤立し、女学校においても友もなく独り。 それもこれも、菫子を取り巻くある噂のせい。 『不幸の菫子様』と呼ばれるに至った過去の出来事の数々から、菫子は誰かと共に在る事、そして己の将来に対して諦観を以て生きていた。 心許せる者は、自分付の女中と、噂畏れぬただ一人の求婚者。 求婚者との縁組が正式に定まろうとしたその矢先、歯車は回り始める。 命の危機にさらされた菫子を救ったのは、どこか懐かしく美しい灰色の髪のあやかしで――。 そして、菫子を取り巻く運命は動き始める、真実へと至る悲哀の終焉へと。 ■二:あやかしの花嫁は運命の愛に祈る 旧題:大正石華戀奇譚<二> 椿の章 ――あたしは、平穏を愛している 大正の時代、華の帝都はある怪事件に揺れていた。 其の名も「血花事件」。 体中の血を抜き取られ、全身に血の様に紅い花を咲かせた遺体が相次いで見つかり大騒ぎとなっていた。 警察の捜査は後手に回り、人々は怯えながら日々を過ごしていた。 そんな帝都の一角にある見城診療所で働く看護婦の歌那(かな)は、優しい女医と先輩看護婦と、忙しくも充実した日々を送っていた。 目新しい事も、特別な事も必要ない。得る事が出来た穏やかで変わらぬ日常をこそ愛する日々。 けれど、歌那は思わぬ形で「血花事件」に関わる事になってしまう。 運命の夜、出会ったのは紅の髪と琥珀の瞳を持つ美しい青年。 それを契機に、歌那の日常は変わり始める。 美しいあやかし達との出会いを経て、帝都を揺るがす大事件へと繋がる運命の糸車は静かに回り始める――。 ※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

世界的名探偵 青井七瀬と大福係!~幽霊事件、ありえません!~

ミラ
キャラ文芸
派遣OL3年目の心葉は、ブラックな職場で薄給の中、妹に仕送りをして借金生活に追われていた。そんな時、趣味でやっていた大福販売サイトが大炎上。 「幽霊に呪われた大福事件」に発展してしまう。困惑する心葉のもとに「その幽霊事件、私に解かせてください」と常連の青井から連絡が入る。 世界的名探偵だという青井は事件を華麗に解決してみせ、なんと超絶好待遇の「大福係」への就職を心葉に打診?!青井専属の大福係として、心葉の1ヶ月間の試用期間が始まった! 次々に起こる幽霊事件の中、心葉が秘密にする「霊視の力」×青井の「推理力」で 幽霊事件の真相に隠れた、幽霊の想いを紐解いていく──! 「この世に、幽霊事件なんてありえません」 幽霊事件を絶対に許さない超偏屈探偵・青木と、幽霊が視える大福係の ゆるバディ×ほっこり幽霊ライトミステリー!

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

処理中です...