想妖匣-ソウヨウハコ-

桜桃-サクランボ-

文字の大きさ
上 下
57 / 130
麗華

「噂は噂なのかなぁ〜」

しおりを挟む
「ねぇ麗羅。噂になってる箱を開けてくれる小屋って知ってるぅ?」

 いつも通り、教室で三人。机を囲って楽しく話していた時、麗華が携帯をいじりながら二人に問いかけた。

「あぁ、今すごく噂になってるよね。確か箱を開けて貰えた人は気持ちが軽くなったんだって? でも、失敗すると行方不明になるみたいじゃん。噂と言うより都市伝説だよね」
「確かにそうなんだけどさぁ、楽しそうじゃなぃ? 今度一緒に行ってみなぁい?」

 静空が軽く聞き流していると、麗華がサラッとそのような事を口にしたため、麗羅と静空は口に含んでいたお菓子を吹き出しそうになった。

「ばっっっかじゃないの?! 失敗した時の代償半端じゃないじゃん!! いーやーよ!!」

 静空は口元を拭いて慌てて立ち上がり叫ぶ。麗羅も口元を拭きながら、麗華を凝視していた。

「楽しそうじゃなぃ。それに、あるかどうかも分からないし行っても良くなぁい?」
「でも、あった場合どうするの?」

 麗羅はため息を吐いたあと、真剣に問いかけた。

「逃げればいいと思うよぉ。それに、噂ではそれだけじゃなくて。願いも叶えて貰えるみたいだしぃ!! そうなればぁ~、頭を良くしてもらうんだぁ」

 そんな事を口にする麗華に、静空は幻滅の表情を浮かべ麗羅は困ったような目を向けた。だが、一度言ったら聞かない麗華なので、二人は諦めて放課後。噂を確認するため、噂の林に行くという事で話がまとまった。

 ☆

 放課後になり三人は、噂について話しながら林へと向かった。

「ここでいいのかなぁ」
「そうじゃない?」
「見た目は普通の林だよね~」

 目的地である噂の林に辿りつき、周りを見回しながら確認するように麗羅は隣に立っている麗華に問いかけた。だが、噂を知っているだけの麗華は曖昧な返答しか出来ない。
 静空はそんな二人を気にせず、近くに立っている木に手を置いたり、見上げたりと。疑いの目を浮かべながら周りを確認していた。

「ひとまずぅ、入ろうよぉ。ここまで来たんだからさぁ」
「そ、うだね…………」

 麗華が二人を急かし、いち早く林の中に足を踏み入れた。そんな彼女の背中を見て、麗羅は戸惑いながらも付いていく。静空も置いて行かれないように木から手を離し、眉を顰めながら歩き出した。

 林の中は道が狭く、三人は麗華、麗羅、静空の順番で縦に並んで歩いている。カサッ……、カサッ……と。三人が歩く音が響き、鼓膜を揺らしている。
 辺りは薄暗く不気味。陽光が葉に遮られているため、まだ四時ぐらいだとしても先が見えず。気を付けなければ躓いてしまいそうになる。

「なんか……、怖い」
「確かにねぇ。太陽の光が入ってこないからぁ……とか?」
「それはあるだろうね。あとは、思い込みとか。不思議な噂がここから流れていると知っているだけで、なんとなく不気味だし…………」

 麗羅が声を震わせ、前に立っている麗華の肩を掴む。そんな彼女に麗華は空を見上げながら現状を言い、静空がまとめる。

「小屋はまだなの?」
「まだ見えてこないよぉ」

 もう二十分弱歩いているのにも関わらず、目当てである小屋が見えてこない。歩きにくい道でもあるため、静空は疲労が含まれている声色で問いかけるが、その返答はさらに疲れさせるものだった。
 目印になるようなものがあればまだ希望はあるが、今回は実在するかわからない小屋を探しているため、精神的にもきつくなってきていた。

「やっぱりぃ~、噂は噂なのかなぁ~?」
「う、うん……」

 歩き続けても噂になっている小屋は見えてこないため、麗華はその場に立ち止まり周りを見回した。
 後ろを歩いていた二人も立ち止まり、つられるように周りを見る。

「もう帰ろうよ。これ以上ここに居たら迷っちゃうよ?」
「そうだね。麗華、帰るよ?」

 景色が変わらない林を見て、静空と麗羅は諦め振り返り、来た道を戻ろうとした。その後ろを麗華も付いていく。その顔はつまらないというような表情になっており、手に握られているスマホをポケットの中にしまう。まだあきらめきれておらず、何度も後ろをチラチラと振り向いていた。

「…………ん?」
「あれ、どうした?」

 帰ろうとした麗羅がいきなり立ち止まったため、静空と麗華も立ち止まり彼女を見た。静空が問いかけるが返答はなく、風の音が三人を包み込む。

 何も答えなくなってしまった麗羅を不思議に思い、静空は再度問いかけようと手を伸ばす。だが、掴まれるより先に麗羅が歩きだしてしまい。二人は顔を見合わせた後、はぐれないようについて行った。

 麗羅が歩き始めて五分くらい経った頃。彼女がいきなり足を止め、前方を指さす。

「もしかして……、あれかな?」

 後ろを歩いていた二人は、指さされている方向に目線を向けた。そこには古い小屋がポツンと。木々に覆い隠されるように建てられていた。
 見た目は人が住んでいるようには到底見えないほどボロいが、近づいてみると出入口だけは人が出入りしている痕跡があるため、三人の代表として麗羅がおそるおそるドアノブに手を伸ばす。

「開けるね」

 二人に確認を取り、ドアをゆっくり開けると。そこには、外からでは想像出来ないほど温かさがある普通の部屋が広がっていた。

「人は住んでいそうだけど……。肝心の人はどこに?」
「あの奥の部屋にいるんじゃない?」

 麗羅の言葉に静空が奥のドアを指さしながら答えた。
 真ん中に置かれているソファーの後ろの壁にはドアがあるため、その奥にも部屋がある事が容易に分かる。だが、それを勝手に開けてしまっていいものなのかは分からない。

「勝手にはダメでしょ。あれだよきっと、スタッフルーム的な」
「それは有り得るね。麗華、今日はここまでにして帰ろう? 噂が本当だったってわかった訳だしさ」

 静空が麗華に声をかけるが、その言葉は聞こえておらず。奥のドアを凝視していた。

「麗華?」

 麗羅が再度声をかけると、麗華はドアノブを握り。何を思ったのか、ドアを勢いよく開けてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

瞬間、青く燃ゆ

葛城騰成
ライト文芸
 ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。  時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。    どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?  狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。 春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。  やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。 第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

御伽噺のその先へ

雪華
キャラ文芸
ほんの気まぐれと偶然だった。しかし、あるいは運命だったのかもしれない。 高校1年生の紗良のクラスには、他人に全く興味を示さない男子生徒がいた。 彼は美少年と呼ぶに相応しい容姿なのだが、言い寄る女子を片っ端から冷たく突き放し、「観賞用王子」と陰で囁かれている。 その王子が紗良に告げた。 「ねえ、俺と付き合ってよ」 言葉とは裏腹に彼の表情は険しい。 王子には、誰にも言えない秘密があった。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あやかし狐の京都裏町案内人

狭間夕
キャラ文芸
「今日からわたくし玉藻薫は、人間をやめて、キツネに戻らせていただくことになりました!」京都でOLとして働いていた玉藻薫は、恋人との別れをきっかけに人間世界に別れを告げ、アヤカシ世界に舞い戻ることに。実家に戻ったものの、仕事をせずにゴロゴロ出来るわけでもなく……。薫は『アヤカシらしい仕事』を探しに、祖母が住む裏京都を訪ねることに。早速、裏町への入り口「土御門屋」を訪れた薫だが、案内人である安倍晴彦から「祖母の家は封鎖されている」と告げられて――?

雪の日

凛子
恋愛
大切な人に別れを告げた日、大切な人から告白された。

処理中です...