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架唯

「死んじゃったみたい」

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「ねぇねぇ!! 昨日のテレビ見た? すごく面白かったよね」

 セーラー服を着て周りの人に話しかけている女子生徒。
 肩までの黒髪に、ぱっちり二重の目をしていおり可愛らしい女性だ。名前は浅井架唯《あさいかい》。

 今は学校の校門で、入ってくる生徒全員に「今日天気がいいね」「今日の授業めんどくさくない?」「今日の髪型可愛いね」と話しかけるが、その声に反応する人は居ない。

 架唯は肩を落とし、目線を落とす。すると、いつも一緒にいた友達。静葉奏恵《しずはかなえ》が前を横切ったため、架唯は無理やり笑顔を作り話しかけようと手を伸ばす。だが、手は奏恵の肩をすり抜けてしまい、触れる事は許されなかった。

 すり抜けた手を見て、架唯は下唇を噛み奏恵の後ろ姿を目で追う。
 そんな友人の姿など見えておらず、奏恵は肩を落とし、俯きながら歩き進めてしまった。

「奏恵、私──死んじゃったみたい……」

 泣きそうな顔を浮かべ呟き、架唯はその場に立ち尽くし、動かなくなった。

 ☆

 架唯は学校から移動し今、公園のブランコに座っていた。
 幽霊だったとしても意識すれば物体に触れる事がわかり、座りながら頭を悩ませている。

「私、なんで死んじゃったんだろう……。記憶はあるけど途切れ途切れでわかんないや……」

 ブランコをゆっくり漕いでいると、近くで遊んでいた子供が顔を青くして、叫びながら走り去ってしまった。

「あ、もしかして私の姿が見えてないんじゃ──って事はブランコが一人でに動いてる感じ? やだ怖い」

 自分で口にして、自ら体を震わせる。
 幽霊の体になったとしても、考えなどは生きている時と同じなため怖いものは怖い。

「これからどうすればいいんだろう……。というか、なんで私は現世? をさ迷っているんだろう」

 首を傾げ呟きながら手に顎を当て考える。
 記憶が混沌としているらしく、何故自分がここにいるのか。何をしていたのか分かっていない。

「これからどうすればいいのよ……」

 不安な声が誰もいない静かな空間に聞こえ、風と共に消えてしまった。

 ☆

 次の日の朝。架唯は公園で一日を過ごし、今は学校の校門にいた。

「とりあえず、何をすればいいのか分からないんだったら、何か思い当たる事をしてみよう!!」

 気合を入れ、意味はないが周りを意識し始めた。草原に隠れたチラチラと、登校している生徒達を監視するように見る。
 もし周りの人が今の架唯の姿を見る事が出来たら、不審者として捕まってしまっているだろう。それくらい挙動不振だ。

「あ、いた」

 架唯は一人の女子高生を見つけ笑顔を作る。
 目線の先には、顔色が悪く俯いてしまっている奏恵がトボトボと歩いている姿があった。

「奏恵奏恵!! 大丈夫? どうしたの?」

 声をかけるがなんの反応も見せない。やはり奏恵には架唯の姿は見えていない。
 架唯は笑顔から悲しげな表情に変わってしまった。

「私、奏恵に──」

 後悔するように呟き、架唯はその場を後にした。

 ☆

 架唯が幽霊になってから一週間が経ってしまった。
 ずっと学校で過ごしている彼女は、朝必ず奏恵が登校するのを見届ける。その後は、窓から教室の中を覗いたり散歩をして時間を潰していた。

 なぜ現世に留まってしまっているのかはわからず、時々自分の事故現場に行き考える。これが架唯の習慣となっていた。

 今は夕方なため、架唯は事故現場から学校の屋上へと戻り夕日を見上げている。
 屋上には生徒達が落ちないように柵が立てられているが、架唯はもう死んでいるため落ちてもなんの問題もないと思い、堂々と柵の上に座っていた。

「どうすれば私は成仏出来るんだろう。奏恵は元気ないし、やっぱり私の事恨んでるのかな。でも、そんな感じしない……」

 風で黒髪が揺れ、手で抑えながら呟く。悩まし気に揺れている瞳は夕日に照らされオレンジに輝き、ひらひらと動くスカートを抑える。すると、屋上の出入口からコツ……コツ……と。足音が聞こえ、彼女は落ちないように気をつけながら振り向いた。
 
 足音が一度止まると、ドアノブがガチャガチャと動き、鉄製のドアがゆっくりと開く。そこには、無表情の明人とカクリが立っていた。

「貴方達は、確かあの小屋にいた……」

 明人は前方にいる架唯など気にせず、周りを見回している。架唯の声、姿が見えず探している。カクリは視界に架唯の姿が映り、じっと見ていた。

「えっと……」

 明人は自分に気づいておらず、逆にカクリは見てくる。だが、何も言わないため架唯は苦笑を浮かべてしまう。どうすればいいんだろうと、彼女もただただカクリを見つめていた。

「おい、何を見てやがるカクリ。目を貸せ」
「言い方を考えるのだ明人よ。あと、貸して欲しければしゃがむのだ」
「ちっ、クソチビが……」

 明人は眉間に皺を寄せ、心底面倒くさそうな顔を浮かべながら、カクリの身長に合わせるように膝を着いた。
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