想妖匣-ソウヨウハコ-

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香美

「必ず止めてやる」

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 男性の声が響き渡った瞬間、何故かお店の電気が一斉に消え辺りは真っ暗になってしまった。

「ちょっと、なに!?」
「なんでいきなり!?」

 電気がいきなり消えた事により、周りの人達は困惑の声を上げる。

 周りが暗く、何も見えない。そんな中、革靴のコツッ……コツッ……という足音が響き、香美へと近付いて行く。

 香美は電気が消え周りが暗くなった時、その隙を逃すまいと逃げようとし、出入口付近に移動する。だが、その逃亡はある男性の声と、肩に置かれた手によって止められてしまった。

「願いがまで叶って良かったな。だが、俺が提示した条件は覚えているか?」

 男性の意味ありげな言葉回し。低く、圧のある声は香美の身体を封じ逃がさない。そんな声は彼女にしか届いておらず、今もなお周りの人達は電気を付けようと歩き回ったり、近くの人に今の現状を確認していた。

「俺が出した条件は一つだけ。”願いが叶えば代償はいらない”だ。残念ながらお前の願いは”邪魔者を排除する”だったな。これでは条件を達成したとは言えない。代償として、お前の黒く染ったを──いや、匣を頂くぞ」

 わざとらしく言い直した男性は、香美の肩を掴んでいた手をスっと放す。動けるようになった彼女は、後ろに立っている男性を確認するため振り向いた。
 そこに居たのは、口角を上げ。狙いを定めたような、鋭く光る瞳を浮かべた悪陣魔蛭《おじんまひる》だった。

「残念だったな、赤羽根香美」

 魔蛭は香美の頭を右手で鷲掴み、空いている方の手を香美の胸元にかざした。

 何が起きたのかわからない香美は、恐怖で体を震わせるのみ。周りに助けを求めたくても喉が絞まってしまい言葉が出ない。呼吸すらまともに出来ず、過呼吸になってしまう。

 苦し気に顔を歪ませ、肩を上下に動かしている香美を魔蛭は、楽し気に口角を上げながら見下ろしている。

「俺に助けを求めた時点で、お前の人生は終わったんだ。残念去ったな」

 彼女の胸元にかざした魔蛭の左手がいきなり光だしたと思った時、彼女の胸から綺麗に輝いた光の玉が浮き出てきた。

「ほぉ。思ったより綺麗じゃねぇか。まぁ、黒い所もあるみたいだしいいわ」

 光の玉は半分黒くなっており、その黒い部分を魔蛭は楽しげに眺めている。

「さてと。こいつはもういらねぇな」

 興味をなくした魔蛭は、虚ろな瞳を浮かべている香美を床へと落とす。力が入らず、香美はそのまま床に倒れ込む。そんな彼女を跨ぎ、魔蛭その場から歩き出した。

「これは使えそうだな……」

 魔蛭は抜き取った”匣”を、大事そうに持っていた小瓶の中へと入れた。すると、先程まで光の玉だった物が黒く変色した液体へと変わる。

 その液体を見て、魔蛭は口角を上げ不気味な笑い声を上げながら闇の中に姿を消した。

 ☆

 魔蛭が去った後、お店の電気が点き知恵達は暗闇から開放された。その瞬間、香美の母親である女性の甲高い声が響き渡る。

 それもそのはずだ。

 実の娘が、出入口付近で倒れているのだから。それも、ただ倒れていたのではなく、虚ろな瞳と不気味な笑みを浮かべながら。
 だき抱えたり、肩を揺すったりしたがなんの反応も見せない香美は、まるで人形のようになっていた──


「一足遅かったか……」
「らしいな」

 お店の外側から中を見ているのは、少し息を切らしながら、無表情を浮かべている明人だった。

 明人は知恵が気になりお店へと来たのだったが、時すでに遅し。その場は、香美が全ての犯人として警察がだき抱えていたところだった。

「あいつか……」

 もう暗くなっている空を見上げ、呟いた。
 無表情で見上げている明人だが、漆黒の瞳には憤怒の炎が宿っており、横に垂れている手が震えるほど強く握られている。そんな彼を、カクリはただ見ているだけだった。

「なんで、直接俺を殺そうとしない。何を企んでやがる、悪陣魔蛭」

 明人が見上げている空は澄んでおり、半月が綺麗に浮かんでいた。

「──次は、必ず止めてやる」

 明人は見上げていた視線を下げ、足を前に出し歩き始める。カクリは最後にお店の方をちらっと見たあと、遅れないように静かに追いかけた。
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