想妖匣-ソウヨウハコ-

桜桃-サクランボ-

文字の大きさ
上 下
43 / 130
香美

「てめぇの願い、叶えてやろう」

しおりを挟む
 凪紗は知恵の姿を確認すると一目散に走り出した。怒られるか殴られると思った知恵は、顔を青くして目を固く瞑る。

「この、バカ娘!」

 その言葉ともに、凪紗は手を振り上げた。

 衝撃に備え知恵は歯を食いしばった──のだが、何故か凪紗は彼女の頭に優しく手を置き、そのまま力強く抱きしめた。

「────えっ?」
「貴方が万引きなんてするはずがない。そんなの分かってたわ。どうして逃げたりしたの。私はそれが許せないわ」

 涙混じりに話す凪紗の体は震えており、知恵はなんの事すぐ理解できず、固まってしまった。
 それは周りの人達も同じのようで、特に香美は目を大きく開き口をパクパクとしていた。動揺しているようにも見える。

「ど、どうして──」
「監視カメラの映像を見て、貴方がCDコーナーに立ち寄っていない事がわかったの。それを、警察の方と一緒に確認してきたわ」

 凪紗は、知恵がお店から逃げたあと連絡が入り、急いでお店へと向かった。
 お店に着くなり凪紗は顔を赤くし、警察官の肩を揺さぶり「防犯カメラを見せてください」と主張し、先程まで警察官と見ていた。そこで、知恵が真っ直ぐゲームコーナーに向かっていたのと、その際にぶつかった人の姿を確認出来たと言っている。

「どうして貴方がこんな事をしなければならなかったの? 赤羽根さん」
「えっ──」

 凪紗が突然香美の名前を呼び問いかけた。それにより、周りの人達全員の視線が香美へと注がれる。
 向けられた本人は目を開きその場から動く事が出来ず、微かに体を震わせていた。

「なっ、何の話ですか!? 私はただ見かけた事をそのまま伝えただけです!!」
「見かけてなどいないはずです。知恵はCDコーナーになど立ち寄っていません。ですが、貴方がCDコーナーにいた事は確認済みです。その後に知恵とぶつかり、見つからないようにまたCDコーナーに向かったのも確認しております」

 凪紗は目を光らせ、香美を鋭い瞳で睨みながら追い込んでいく。

「その後貴方はCDコーナーから動かず、ずっと同じ物を見続けた居たわ。まるで、時を待つように…………ね」

 逃げ道を塞ぎ、徐々に追い込む凪紗。優し気な口調の中に含む、怒りの感情。大事な娘がなぜこんな事に巻き巻き込まれなければならなかったのか。なぜ、香美が知恵をターゲットにしたのか。聞きたいことがたくさんある中、凪紗は大人の余裕を崩さない。

 そんな彼女の瞳に圧倒され、香美は大きく開かれた瞳を揺らし、悔しそうに歯を食いしばる。

「どうして、あんたがそんな事を……」

 眉を寄せて複雑そうな表情で、知恵は香美に問いかけた。その言葉でもう何もかもどうでも良くなった彼女は吹っ切れ、怒鳴るように声を荒らげ、叫び散らす。

「そんなの、あんたが邪魔だからに決まってるでしょ?!」
「邪魔って……。私はあんたに何もしてないじゃない!! なのにどうしてっ──」
「あんたの存在が周りにとってすごく迷惑だって言っているの!!」

 知恵の言葉を遮り、香美が店全体に聞こえるほど大きな声で叫んだ。

「あんたは気付いてないだろうけど、あんたが教室に居るだけで周りは迷惑をしているの。悪い噂ばっかり流れて……全部が嘘だとしても火のない所には煙は立たないのよ?! 噂みたいな事をしたことぐらいあるでしょ。だから、私はみんなの代わりに貴方を排除しようと思ったの。だって、みんな私と同じ気持ちだから!!」
「そ、そんな……」

 香美の言葉に、知恵は体から力が抜けその場に崩れ落ちる。貴音と凪紗が駆け寄り背中を撫でたり、安心させるように肩に手を置く。

 知恵自身、周りが自分に対して良い印象を持っていないのは分かっており、何も言い返す事が出来ない。
 崩れ落ちた知恵に、さらに追い打ちをかけるよう香美は言葉を続ける。だが、それは怒りではなく優越感に浸っているような表情だ。
 引きつったような歪んだ笑みで、両手を左右に広げ狂ったように高らかと宣言する。

「私は、これでまたみんなを助けたわ!! 私はみんなのヒーローよ! これで私は、またみんなに必要とされる存在になるわ!!」

 狂ったような香美の笑い声に、周りの人達は唖然としておりその場に立ち尽くす。その時、香美は右手に封の開いた飴の袋を握っていた。その事に知恵は気づき凝視する。
 香美は知恵の視線に気づき、飴を自分の胸に引き寄せ笑みを浮かべながら説明し始めた。

「これが気になるんでしょ? これは私を幸せにする魔法の飴よ。今回もこの飴のおかげで、貴方をここまで追い詰める事が出来たわ」

 飴を大事にしており、説明しながらも誰にも奪われないように抱きしめる。その、異様な雰囲気に言葉が出ない知恵は、恐怖の表情を浮かべ香美を見ていた。
 貴音も顔を青くしているが、知恵の隣に座り肩を摩ってあげている。

「でも、バレちゃったから仕方がないわね。私、次私の為にこの飴を使うわ」

 香美は袋から黄色の飴を取り出し、口角を上げたまま口の中に放り込んだ。その時、願い事を口にする────

「お願い!! 今すぐ私をここから逃がして!!」

 香美が叫んだ瞬間、いきなり男性の声が聞こえ始め、お店の中に響き渡る。その声は楽しんでいるようで、とても不気味な声だった。

『てめぇの願い、叶えてやろう』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

世界的名探偵 青井七瀬と大福係!~幽霊事件、ありえません!~

ミラ
キャラ文芸
派遣OL3年目の心葉は、ブラックな職場で薄給の中、妹に仕送りをして借金生活に追われていた。そんな時、趣味でやっていた大福販売サイトが大炎上。 「幽霊に呪われた大福事件」に発展してしまう。困惑する心葉のもとに「その幽霊事件、私に解かせてください」と常連の青井から連絡が入る。 世界的名探偵だという青井は事件を華麗に解決してみせ、なんと超絶好待遇の「大福係」への就職を心葉に打診?!青井専属の大福係として、心葉の1ヶ月間の試用期間が始まった! 次々に起こる幽霊事件の中、心葉が秘密にする「霊視の力」×青井の「推理力」で 幽霊事件の真相に隠れた、幽霊の想いを紐解いていく──! 「この世に、幽霊事件なんてありえません」 幽霊事件を絶対に許さない超偏屈探偵・青木と、幽霊が視える大福係の ゆるバディ×ほっこり幽霊ライトミステリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大正石華恋蕾物語

響 蒼華
キャラ文芸
■一:贄の乙女は愛を知る 旧題:大正石華戀奇譚<一> 桜の章 ――私は待つ、いつか訪れるその時を。 時は大正。処は日の本、華やぐ帝都。 珂祥伯爵家の長女・菫子(とうこ)は家族や使用人から疎まれ屋敷内で孤立し、女学校においても友もなく独り。 それもこれも、菫子を取り巻くある噂のせい。 『不幸の菫子様』と呼ばれるに至った過去の出来事の数々から、菫子は誰かと共に在る事、そして己の将来に対して諦観を以て生きていた。 心許せる者は、自分付の女中と、噂畏れぬただ一人の求婚者。 求婚者との縁組が正式に定まろうとしたその矢先、歯車は回り始める。 命の危機にさらされた菫子を救ったのは、どこか懐かしく美しい灰色の髪のあやかしで――。 そして、菫子を取り巻く運命は動き始める、真実へと至る悲哀の終焉へと。 ■二:あやかしの花嫁は運命の愛に祈る 旧題:大正石華戀奇譚<二> 椿の章 ――あたしは、平穏を愛している 大正の時代、華の帝都はある怪事件に揺れていた。 其の名も「血花事件」。 体中の血を抜き取られ、全身に血の様に紅い花を咲かせた遺体が相次いで見つかり大騒ぎとなっていた。 警察の捜査は後手に回り、人々は怯えながら日々を過ごしていた。 そんな帝都の一角にある見城診療所で働く看護婦の歌那(かな)は、優しい女医と先輩看護婦と、忙しくも充実した日々を送っていた。 目新しい事も、特別な事も必要ない。得る事が出来た穏やかで変わらぬ日常をこそ愛する日々。 けれど、歌那は思わぬ形で「血花事件」に関わる事になってしまう。 運命の夜、出会ったのは紅の髪と琥珀の瞳を持つ美しい青年。 それを契機に、歌那の日常は変わり始める。 美しいあやかし達との出会いを経て、帝都を揺るがす大事件へと繋がる運命の糸車は静かに回り始める――。 ※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

処理中です...