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凛
「お前ら次第だ」
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「ど、どうにか出来ないんですか?」
「無理だな。いや、脳死を覚悟でやる事は出来るが、やるか?」
「やるわけないでしょ……」
「だろーな。これでやるっつったら、お前本当にこいつを大事にしてんのか疑うところだったわ」
もうすべて終わったというように、明人はその場から出ていこうとする。だが、それを彼女は服の裾を掴み止めた。
「ほ、本当に。どうする事も出来ないんですか?」
「話を聞ける状態では無かった。今は匣を強制的に開口させてっから、そのうち話せるぐらいには戻るだろう」
「話せる、くらいに?」
明人の裾を掴みながら弱々しく聞き返す。
今は話すらできない状態で、今も意識があるようでない。
話すようになんて、本当になるのだろうかと疑っている。
「元々──まではいかねぇが、普通に生活出来るようにはなるだろう。だが、それはお前の協力が不可決。……あ、お前じゃなくてもいいわ。すぐに諦めそうだからな」
「それって、どういう事ですか? というか、流れるように人を貶すのやめてください」
「とりあえず、今すぐには無理だ。諦めろ」
「そんな……」
真珠はもう諦めてしまったかのように俯き、明人の袖を掴んでいた手はするりと落ちる。
──もう真珠と星は楽しくテニスをする事が出来ないの?
その場にしゃがみこみ、込み上げてくる悲しい思いを抑えきれず、嗚咽をこぼし泣き始めてしまった。
何度も涙を拭いているが一向に止まらず、綺麗な白い床に水滴がぽたぽたと落ちる。
そんな真珠を、明人は呆れたような表情で見下ろし、頭をガシガシと掻いた。
「……はぁ、なに涙流してんだてめぇ。気持ち悪いな」
明人から発せられた言葉に、真珠はポカンと口を開き思わず見上げる。
驚きすぎて涙は止まったが、言葉が出ず口をパクパクさせた。
「お前、気持ち悪いぞ?」
「な、泣いている女子にそんな言葉はないんじゃないの? って、そうじゃない。なんであんたは普通でいられんのよ! 今ここで人が死んだも同じ状態に!!」
「勘違いすんな低能女」
「その呼び方はやめて!!」
明人の発する言葉がどれも予想外なため、真珠はツッコミ疲れ項垂れてしまう。
「一体、どういう意味よ……。はっきり言ってくださいよ」
「はっきり言ってるだろうが。お前の耳は飾りか? いや、脳みそが動いてないのか?」
「…………動いてますけど」
もう怒る気力もなくなり、彼女はとりあえずで答えている。
その声には悲しみも混じっているが、半分以上は呆れたような声色になっていた。
明人は彼女の適当な返答を耳にし、めんどくがりながらも真珠を見据えた。
「お前、ほんと理解力ないな。そこまで馬鹿だと周りから嫌われるぞ」
「余計なお世話よ。そもそも、あんたの方が嫌われる性格していると思うけどね!!」
舌を出してべーっとする。それを、彼は冷ややかな目で返す。
カクリは凍えるような冷たい目で二人を見上げていた。
「もっと、分かりやすく丁寧に教えてください」
「はぁ~………。馬鹿を相手にするとこれだからめんどくせぇ」
「早く!!」
「いいか? 匣を強制的に開けたという事は、負の感情を無理やり取り除いたということだ。強制的に開けるまで匣は半分以上黒くなっており、感情の大半が負の感情だったと言える」
明人の真剣な表情に、真珠は静かに耳を傾ける。
「大半を占めていた感情がいきなり無くなったとしたら………。そして、正の感情が今にも消えてしまいそうだったら……。今のこいつはその状態だ。今にも消えてしまいそうなほど小さな正の感情が唯一、こいつを元に戻すための鍵だ」
生唾を飲み込み、真珠は眉間に深いシワを作り見開いた。
「元に戻す方法は一つだけ、正の感情を呼び戻す」
「呼び、戻す?」
明人は真珠の言葉に頷き、星の方に顔を向けた。
「言っただろ。ここから俺はどうする事も、今すぐに戻してやる事もできん。あとは、お前ら次第だ」
今度こそ用は済んだとばかりに、明人は振り返る事をせず病室を出ていってしまった。
それを、真珠は唖然としながら見届けた。
※
病院の出来事から一ヶ月くらいたった頃、星は退院して真珠と一緒に学校に通っていた。
真珠はいまだに感情を取り戻さない星に、諦めず何度も何度も声をかけ続けている。
「星、今日の授業はめんどくさかったよね。私途中で眠っちゃってたよ」
「これ、すごく美味しんだよ? 星も食べてみて!!」
「今日は二人でラリーしてみない? あ、難しかったら全然大丈夫だよ」
このように、いつもいつも星に話しかけていたのだが、一向に感情が戻る気配がない。
それでも、彼女は諦めず、いつも通りに接し続けた。
病院での出来事から三ヶ月くらい経った頃。
「星、今日は私クッキー作ってみたの! 下手くそだけど……。味見はしたし食べられない事はないと思うよ。 ね! 食べよう?」
真珠の優しい問いかけに、星はいつも無反応だった。
だが、この時、初めて。星は小さく頷いた。
それを真珠は見逃す訳はなく────
「え、星……今……頷い……た?」
真珠のその言葉にも、星はまた小さく頷いた。
やっと、感情が戻りつつあったのだ。
その事に喜びを感じ、真珠は笑顔で涙を流し、星に思いっきり抱きついた。
「無理だな。いや、脳死を覚悟でやる事は出来るが、やるか?」
「やるわけないでしょ……」
「だろーな。これでやるっつったら、お前本当にこいつを大事にしてんのか疑うところだったわ」
もうすべて終わったというように、明人はその場から出ていこうとする。だが、それを彼女は服の裾を掴み止めた。
「ほ、本当に。どうする事も出来ないんですか?」
「話を聞ける状態では無かった。今は匣を強制的に開口させてっから、そのうち話せるぐらいには戻るだろう」
「話せる、くらいに?」
明人の裾を掴みながら弱々しく聞き返す。
今は話すらできない状態で、今も意識があるようでない。
話すようになんて、本当になるのだろうかと疑っている。
「元々──まではいかねぇが、普通に生活出来るようにはなるだろう。だが、それはお前の協力が不可決。……あ、お前じゃなくてもいいわ。すぐに諦めそうだからな」
「それって、どういう事ですか? というか、流れるように人を貶すのやめてください」
「とりあえず、今すぐには無理だ。諦めろ」
「そんな……」
真珠はもう諦めてしまったかのように俯き、明人の袖を掴んでいた手はするりと落ちる。
──もう真珠と星は楽しくテニスをする事が出来ないの?
その場にしゃがみこみ、込み上げてくる悲しい思いを抑えきれず、嗚咽をこぼし泣き始めてしまった。
何度も涙を拭いているが一向に止まらず、綺麗な白い床に水滴がぽたぽたと落ちる。
そんな真珠を、明人は呆れたような表情で見下ろし、頭をガシガシと掻いた。
「……はぁ、なに涙流してんだてめぇ。気持ち悪いな」
明人から発せられた言葉に、真珠はポカンと口を開き思わず見上げる。
驚きすぎて涙は止まったが、言葉が出ず口をパクパクさせた。
「お前、気持ち悪いぞ?」
「な、泣いている女子にそんな言葉はないんじゃないの? って、そうじゃない。なんであんたは普通でいられんのよ! 今ここで人が死んだも同じ状態に!!」
「勘違いすんな低能女」
「その呼び方はやめて!!」
明人の発する言葉がどれも予想外なため、真珠はツッコミ疲れ項垂れてしまう。
「一体、どういう意味よ……。はっきり言ってくださいよ」
「はっきり言ってるだろうが。お前の耳は飾りか? いや、脳みそが動いてないのか?」
「…………動いてますけど」
もう怒る気力もなくなり、彼女はとりあえずで答えている。
その声には悲しみも混じっているが、半分以上は呆れたような声色になっていた。
明人は彼女の適当な返答を耳にし、めんどくがりながらも真珠を見据えた。
「お前、ほんと理解力ないな。そこまで馬鹿だと周りから嫌われるぞ」
「余計なお世話よ。そもそも、あんたの方が嫌われる性格していると思うけどね!!」
舌を出してべーっとする。それを、彼は冷ややかな目で返す。
カクリは凍えるような冷たい目で二人を見上げていた。
「もっと、分かりやすく丁寧に教えてください」
「はぁ~………。馬鹿を相手にするとこれだからめんどくせぇ」
「早く!!」
「いいか? 匣を強制的に開けたという事は、負の感情を無理やり取り除いたということだ。強制的に開けるまで匣は半分以上黒くなっており、感情の大半が負の感情だったと言える」
明人の真剣な表情に、真珠は静かに耳を傾ける。
「大半を占めていた感情がいきなり無くなったとしたら………。そして、正の感情が今にも消えてしまいそうだったら……。今のこいつはその状態だ。今にも消えてしまいそうなほど小さな正の感情が唯一、こいつを元に戻すための鍵だ」
生唾を飲み込み、真珠は眉間に深いシワを作り見開いた。
「元に戻す方法は一つだけ、正の感情を呼び戻す」
「呼び、戻す?」
明人は真珠の言葉に頷き、星の方に顔を向けた。
「言っただろ。ここから俺はどうする事も、今すぐに戻してやる事もできん。あとは、お前ら次第だ」
今度こそ用は済んだとばかりに、明人は振り返る事をせず病室を出ていってしまった。
それを、真珠は唖然としながら見届けた。
※
病院の出来事から一ヶ月くらいたった頃、星は退院して真珠と一緒に学校に通っていた。
真珠はいまだに感情を取り戻さない星に、諦めず何度も何度も声をかけ続けている。
「星、今日の授業はめんどくさかったよね。私途中で眠っちゃってたよ」
「これ、すごく美味しんだよ? 星も食べてみて!!」
「今日は二人でラリーしてみない? あ、難しかったら全然大丈夫だよ」
このように、いつもいつも星に話しかけていたのだが、一向に感情が戻る気配がない。
それでも、彼女は諦めず、いつも通りに接し続けた。
病院での出来事から三ヶ月くらい経った頃。
「星、今日は私クッキー作ってみたの! 下手くそだけど……。味見はしたし食べられない事はないと思うよ。 ね! 食べよう?」
真珠の優しい問いかけに、星はいつも無反応だった。
だが、この時、初めて。星は小さく頷いた。
それを真珠は見逃す訳はなく────
「え、星……今……頷い……た?」
真珠のその言葉にも、星はまた小さく頷いた。
やっと、感情が戻りつつあったのだ。
その事に喜びを感じ、真珠は笑顔で涙を流し、星に思いっきり抱きついた。
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