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「企業秘密だ」

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 真珠は明人を見届けたあと、息をつき肩の力を抜く。
 カクリがソファーの後ろから近付き、真珠に声をかけた。

「本当に、いいんだね?」
「っ。えっ!?   誰!?」
「会った事なかったかい?」
「あ……。前回……、小屋にいた綺麗な子……」

 何となく覚えているようだが、カクリは依頼人にあまり興味が無いため、覚えていようがどうでも良かった。

 お互い見つめ合うがどちらも口を開かず、沈黙が続く。
 数秒後、沈黙を破る声を出したのは、カクリの鈴のような声だった。

「君自身はもう、大丈夫そうだね」
「え? それって……」
「そのままの意味だよ。私は疲れた、隣失礼するよ」

 真珠の返答を聞かずに、カクリはソファーに移動し彼女の隣に座る。
 横顔からでも分かるほど儚く美しい見た目に、真珠は魅入ってしまう。

「そんなに見たところで意味はあるのかい? 失礼ではないかい?」
「え、ご、ごめんなさい……。その。綺麗で、つい」

 謝罪しつつも目を逸らさず、見続けている。

「口だけの謝罪に意味はあるかい? 君は本当に弱いね」
「うっ。すいません……」

 今度こそ、真珠は項垂れ目線を外す。
 その直後、ドアの奥へと行った明人が戻ってきたのだが、その姿に真珠は驚き目を見開いた。

 今の明人の姿は黒いスーツに、緩めのネクタイを面倒くさそうに締められ。脇にはビジネスバックが挟まれている。

 その姿を見た瞬間、真珠は先程までの態度との違いに驚き、目が離せなくなった。

「見惚れてねぇでさっさと行くぞ」
「みっ、見惚れてなんていません!」
「俺はかっこいいからな。見惚れるのは仕方がねぇよ」
「自分で言わないでください!」

 言い争いをしながら、二人はドアを潜り外へ出ようとする。
 その時、明人は少年の姿でついていこうとしていたカクリの方へ振り向き、口を開いた。

「カクリ、お前は狐の姿になれ」
「! どうしてだい?」

 明人がなぜそう言ったのか分からず、カクリは首を傾げ聞き返す。

「お前、今歩くのおせぇだろうが。そんな奴に合わせてたら夜になるっつーの。さっさと肩に乗れ」
「…………そういう面もあるのだな」

 カクリは驚きの声を零し、言われた通り小狐の姿へと変わった。

 そのまま明人の腰まで跳び、そこから上へとよじ登ろうとするが、途中で前回刺されてしまった所に痛みが走り顔を歪ませる。
 それでも、しっかりと肩へと登りきった。

「んじゃ行くぞ」
「は、はい」

 真珠は、今までのカクリと明人の会話に困惑。
 当たり前のように進もうとする明人達の後ろを、彼女は素直について行くしか出来なかった。

 ※

 明人の歩幅は女子高生である真珠と比べると大きい。
 置いていかれないよう、真珠は必死に早歩きでついて行く。

 今はもう本性を出しているため、明人は人に合わせるなどする訳がなく、自分中心で進み続けていた。

「ちょっ、早いですよ!!」
「お前が遅いんだろうが」
「私に合わせてください!!」
「お前は夜の病院に行きたいのか?」
「そんなに遅くなるかぁぁぁあ!!」

 今は昼過ぎで、病院もそんなに遠くない。
 真珠の歩幅でもすぐに辿り着く事が出来る。

 そんな口論をしていたが、結局明人は真珠に合わせる事はなく、病院に辿り着いてしまった。

「さて、受付でもしてくるか……。あ? お前なに疲れてんだよ、運動不足か? どーせ家でゲームだの本だの携帯だのして寝不足なだけだろ、自業自得だ。さっさと来い、餓鬼」
「はぁ……はぁ……。あんた……まるっきり別人よね……。接客業……はぁ……向いてないんじゃないの……」

 膝に手を付き、真珠は息を整えようと肩を上下に動かしながら、彼の言葉に怒りを込めて返答していた。だが、その言葉に彼は一切耳を貸さず、そのまま廊下を進んでしまう。

「ちょっ! 待ってよ!!」

 真珠は息が整わないうちに、明人のせいで再度走る羽目になってしまった。


 星の病室を見つけ、明人は乱暴に足でドアを開いた。

 勢いよく開いてしまったため、ガタンという大きな音が廊下に響くがそれでもお構いなく、彼は病室の中へと足を踏み入れた。

「ちょっと、手ぐらい使いなさいよ……」
「足が長いものでね」
「はいはい。分かりましたよナルシストが……」

 真珠はそのあとも明人への文句や不満をブツブツと零していたが、言われている張本人は一切聞こえておらず、ベットへと向かった。

「さてと、さっさと開けるか……。カクリ、あとは頼むぞ」
「あの者はどうするつもりだ」

 カクリは顔を真珠の方へと向け、問いかける。

「あ、そうだったな。おい、そこのキモオタ」
「っ、誰がキモオタよ!! どこがオタよ!!」
「ブツブツなに呟いてんだよ。黒魔術でもするつもりか? 何を召喚するつもりだよ」
「何も召喚しませんよ!」

 キッと明人を睨むが、彼は何処吹く風のような態度を貫き通す。

 この二人は”混ぜるな危険”のような関係になってしまったようで、カクリは肩に乗りながらため息を吐いていた。

「厨二病女、俺は今からこいつの匣を開ける。ここからは企業秘密だ、病室を出ろ」
「…………はぁ?」

 真珠は眉間に皺を寄せ、不機嫌そうな態度を見せた。

「さっさと行け」
「っ。…………わかったわよ」

 素直に従いたくない真珠は反発しようとしたが、明人の鋭い目に睨まれ、反射的に頷いた。

 最後に彼を睨みつけ、ドアを閉めた。

 真珠が病室から出ていった事を確認すると、明人は星の頭を支えるように手を添え、もう片方の手で隠していた右目を露にする。

「さて、今はどんな感じになってるのかねぇ……。話聞ける状態じゃなければすぐに蓋を閉じるぞ、カクリ」
「了解だ、明人よ」

 力強く交わし、二人は記憶の中へと入っていった。
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