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巴
「噂をご存じですか」
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「貴方の匣、開けてみませんか」
・
・
・
ねぇ、今学校で流れてる噂って知ってる?
──噂って、もしかして今学校で持ち切りになってる、あの噂?
そうそう。ここから少し歩い所にある林、その奥にある不気味な小屋。
――あそこさぁ、薄暗くて気味悪いよね。でも、小屋なんてあったかなぁ
私が聞いた話だと。その小屋を見つけられた人は少なくて、実際見つけられたとしても、無事に帰って来れる保証なんてないんだって。
──えぇ。なにそれ、怖いんだけど。
ほら。最近ニュースになってるじゃん? 行方不明の子が見つかったって。でも、その子はいくら話かけても一切反応がなくて、まるで人形みたいなんだってさ。今も入院してるみたい。一体、林の中で何があったんだろうねぇ。
──でも、確かその噂って、もう一つなかったっけ? 確か、小屋に辿り着いて、ある条件を達成したら、願いが叶うとか。
うん。いろんな噂があそこには流れてるよね。少し怖いけど、気にならない?
――確かに気になるけど……。
ねぇ、今日にでも行ってみない? 噂を試しにさ。どんなに固く閉じられた"ハコ"でも開けてくれるっていう、噂の小屋に――……
・
・
・
「てめぇの黒い匣、俺がもらってやるよ」
※
「ねぇ秋、林の奥にある小屋の噂って知ってるかな」
「噂?」
林崎高校の昼休み、教室の窓側には、向かい合いながら椅子に座っている二人の女子生徒の姿があった。
一人は神楽坂秋。
林崎高校に通う二年生で、バスケ部に入部している。
肩まで長い黒髪を後ろで一本に結び、ブラウスの上にベージュ色のカーディガンを着ていた。
もう一人は夏美麗。
同じく林崎高校に通う二年生で、部活は秋と同じくバスケ部。
腰まで長い茶髪を巻き、ブラウスの上にピンクのパーカーを着ていた。
普段から肌の質や髪の手入れなどを気にしているため、周りの人が綺麗と口を揃えて言うほど見た目は良かった。
「今ちょー有名な噂だよ!! どんなに固く閉じられた箱でも開けてくれるってやつ。知ってるでしょ?」
「あぁ、まぁ。確かに、聞いた事あるよ」
麗は、片手に持っている"いちご牛乳"と書かれている紙パックで秋を指しながら問いかけた。
その問いに曖昧に答え、秋は麗を見返す。
「どんなに固くと言っても、単純に鍵をこじ開けるとかじゃないの? 鍵が閉まってるから開かないとか」
「普通に考えたらそうなんだけどね。なんか、色々な噂が流れてて。その中の一つで、一人一回しか開けてくれないってものがあるんだよ。本当かどうかは分からないけど」
「都市伝説みたいな感じだね」
秋は肩をすくめながら疑いの目で麗を見つめていたのだが、その様子を彼女は全く気にせず頬を染め、興奮気味に噂の話を続ける。
「噂なんて大体そんなもんでしょ? それに、実はその箱を開けてくれる人は、ものすっごく美男子って噂もあるのよ!」
「あ、そういう事ね」
麗は噂の話をしていた時の表情より、遥かに目を輝かせ、身を乗り出しながら言った。
その様子に身を引きつつ、「やっぱりか」と溜息を吐き、麗の視線から逃げるように横を向く。
逃げた視線の先には、一人の男子生徒が立っていた。
そわそわと落ち着きがなく、頬を高揚させながら麗を見ている。その様子だけでいつも麗と共に行動をしていた秋は、男子生徒の次の動きを予測する事が出来た。
目を細め、今だに噂の話を輝いた瞳で話している麗を見る。やれやれと肩を落とすと、同時に隣から緊張が混ざっている声が聞こえ、二人は振り向いた。
「な、夏美さん、ちょっといいかな……」
「ん? 何」
「ちょっと、大事な話があるんだけど……」
「…………わかった。秋、放課後続きを話そう」
緊張が混ざっている言葉に、麗は少し困った様に答え、二人は教室を出て行った。そんな二人を秋は、無表情で手を振り見送る。
二人の姿が完全に消えた後、いきなり彼女は顔を俯かせぼそっと呟いた。
────人気者でいいね、麗は……。
※
麗達が教室を出て行ってから数分後、麗は授業が始まる少し前に戻ってきた。
表情は嬉しそうではなく曇っている。その様子を目にし、秋はため気を吐き小さく舌打ちをした。
麗に気づかれる前に目を逸らし、何事もなかったかのように窓を眺め授業が始まるのを待つ。
そんな秋を麗は一瞬だけ見るが、すぐに逸らしてしまった。まるでその表情は、何か後悔しているような。それとも我慢しているような。複雑な表情だった。
※
放課後になり、麗は昼休みの事など気にせず秋に近付きながら明るい声で話しかける。
「秋、話の続きだけどね! 明日行ってみない?」
「──え?」
開口一発目でいきなりそんなことを言われたため、秋はすぐ理解できなかった。
教科書を鞄を詰めていた手が止まる。
きょとんとしている彼女に、麗は頬を膨らませ、文句を言うように昼休みの時の話を伝えた。
「もう。噂の、箱を開けてくれるって話だよ! 昼休み話してたじゃん!」
「あ、噂の話か」
「しっかりしてよ。それで、今日は部活があるから無理だけど、明日なら休みでしょ!? 行けるじゃん」
あぁ、と。噂の事なんてすっかり頭から抜けていた秋は、誤魔化すように苦笑いを浮かべ麗を見返した。
「えっと。噂の所に行くと言っても、開けられない箱なんてあるの?」
「いいじゃん適当で。何か鍵がかかってる箱でも持っていけばいいんじゃない?」
「そんな適当な……」
麗の言葉に秋は溜息をつき「わかった」と一言答えた。その返事に麗は笑顔で大きく頷く。
「何を言っても聞く気ないらしいしね……。まぁ、噂がどんな感じなのかも気にな──」
「絶対に美男子に会ってやるんだから!」
「私の声、遮らないでくれないかな」
「もう!」と怒りながら、秋は麗の後ろ姿をついていく。肩にかけている鞄の持ち手を強く、握りながら……。
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ねぇ、今学校で流れてる噂って知ってる?
──噂って、もしかして今学校で持ち切りになってる、あの噂?
そうそう。ここから少し歩い所にある林、その奥にある不気味な小屋。
――あそこさぁ、薄暗くて気味悪いよね。でも、小屋なんてあったかなぁ
私が聞いた話だと。その小屋を見つけられた人は少なくて、実際見つけられたとしても、無事に帰って来れる保証なんてないんだって。
──えぇ。なにそれ、怖いんだけど。
ほら。最近ニュースになってるじゃん? 行方不明の子が見つかったって。でも、その子はいくら話かけても一切反応がなくて、まるで人形みたいなんだってさ。今も入院してるみたい。一体、林の中で何があったんだろうねぇ。
──でも、確かその噂って、もう一つなかったっけ? 確か、小屋に辿り着いて、ある条件を達成したら、願いが叶うとか。
うん。いろんな噂があそこには流れてるよね。少し怖いけど、気にならない?
――確かに気になるけど……。
ねぇ、今日にでも行ってみない? 噂を試しにさ。どんなに固く閉じられた"ハコ"でも開けてくれるっていう、噂の小屋に――……
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「てめぇの黒い匣、俺がもらってやるよ」
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「ねぇ秋、林の奥にある小屋の噂って知ってるかな」
「噂?」
林崎高校の昼休み、教室の窓側には、向かい合いながら椅子に座っている二人の女子生徒の姿があった。
一人は神楽坂秋。
林崎高校に通う二年生で、バスケ部に入部している。
肩まで長い黒髪を後ろで一本に結び、ブラウスの上にベージュ色のカーディガンを着ていた。
もう一人は夏美麗。
同じく林崎高校に通う二年生で、部活は秋と同じくバスケ部。
腰まで長い茶髪を巻き、ブラウスの上にピンクのパーカーを着ていた。
普段から肌の質や髪の手入れなどを気にしているため、周りの人が綺麗と口を揃えて言うほど見た目は良かった。
「今ちょー有名な噂だよ!! どんなに固く閉じられた箱でも開けてくれるってやつ。知ってるでしょ?」
「あぁ、まぁ。確かに、聞いた事あるよ」
麗は、片手に持っている"いちご牛乳"と書かれている紙パックで秋を指しながら問いかけた。
その問いに曖昧に答え、秋は麗を見返す。
「どんなに固くと言っても、単純に鍵をこじ開けるとかじゃないの? 鍵が閉まってるから開かないとか」
「普通に考えたらそうなんだけどね。なんか、色々な噂が流れてて。その中の一つで、一人一回しか開けてくれないってものがあるんだよ。本当かどうかは分からないけど」
「都市伝説みたいな感じだね」
秋は肩をすくめながら疑いの目で麗を見つめていたのだが、その様子を彼女は全く気にせず頬を染め、興奮気味に噂の話を続ける。
「噂なんて大体そんなもんでしょ? それに、実はその箱を開けてくれる人は、ものすっごく美男子って噂もあるのよ!」
「あ、そういう事ね」
麗は噂の話をしていた時の表情より、遥かに目を輝かせ、身を乗り出しながら言った。
その様子に身を引きつつ、「やっぱりか」と溜息を吐き、麗の視線から逃げるように横を向く。
逃げた視線の先には、一人の男子生徒が立っていた。
そわそわと落ち着きがなく、頬を高揚させながら麗を見ている。その様子だけでいつも麗と共に行動をしていた秋は、男子生徒の次の動きを予測する事が出来た。
目を細め、今だに噂の話を輝いた瞳で話している麗を見る。やれやれと肩を落とすと、同時に隣から緊張が混ざっている声が聞こえ、二人は振り向いた。
「な、夏美さん、ちょっといいかな……」
「ん? 何」
「ちょっと、大事な話があるんだけど……」
「…………わかった。秋、放課後続きを話そう」
緊張が混ざっている言葉に、麗は少し困った様に答え、二人は教室を出て行った。そんな二人を秋は、無表情で手を振り見送る。
二人の姿が完全に消えた後、いきなり彼女は顔を俯かせぼそっと呟いた。
────人気者でいいね、麗は……。
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麗達が教室を出て行ってから数分後、麗は授業が始まる少し前に戻ってきた。
表情は嬉しそうではなく曇っている。その様子を目にし、秋はため気を吐き小さく舌打ちをした。
麗に気づかれる前に目を逸らし、何事もなかったかのように窓を眺め授業が始まるのを待つ。
そんな秋を麗は一瞬だけ見るが、すぐに逸らしてしまった。まるでその表情は、何か後悔しているような。それとも我慢しているような。複雑な表情だった。
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「秋、話の続きだけどね! 明日行ってみない?」
「──え?」
開口一発目でいきなりそんなことを言われたため、秋はすぐ理解できなかった。
教科書を鞄を詰めていた手が止まる。
きょとんとしている彼女に、麗は頬を膨らませ、文句を言うように昼休みの時の話を伝えた。
「もう。噂の、箱を開けてくれるって話だよ! 昼休み話してたじゃん!」
「あ、噂の話か」
「しっかりしてよ。それで、今日は部活があるから無理だけど、明日なら休みでしょ!? 行けるじゃん」
あぁ、と。噂の事なんてすっかり頭から抜けていた秋は、誤魔化すように苦笑いを浮かべ麗を見返した。
「えっと。噂の所に行くと言っても、開けられない箱なんてあるの?」
「いいじゃん適当で。何か鍵がかかってる箱でも持っていけばいいんじゃない?」
「そんな適当な……」
麗の言葉に秋は溜息をつき「わかった」と一言答えた。その返事に麗は笑顔で大きく頷く。
「何を言っても聞く気ないらしいしね……。まぁ、噂がどんな感じなのかも気にな──」
「絶対に美男子に会ってやるんだから!」
「私の声、遮らないでくれないかな」
「もう!」と怒りながら、秋は麗の後ろ姿をついていく。肩にかけている鞄の持ち手を強く、握りながら……。
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