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犯した罪

始まり

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 イルドリは普段、父親であるシリルの仕事のお手伝いをしている。
 今も、資料整理の手伝いをするため、シリルの仕事部屋にいた。

 時計の針が進む音と、紙を捲る音だけが響く室内。
 シリルは、資料の確認を行っている際、チラッと横目でイルドリを見た。

 淡々と資料の仕分けをしている実の息子は、シリルの視線には気づいていない。

「……」

 頬杖を突き、イルドリを見る。
 さすがに、ジィーと見られているため、視線を感じ顔を上げた。

「どうしたのですか、父上!!」
「もう少し声を落しても聞こえているぞ」
「わかりました父上!!!」
「まぁ、その方が話しやすいのなら良い」

 やれやれと肩を落とすシリルを見て、イルドリは首を傾げる。

「どうしたのですか、父上!!」
「悩み事か考え事があるように見えてな、何かあったか?」

 シリルからの言葉で目をかすかに開き、イルドリは固まった。
 目を逸らし「うーん」と悩む。

 彼の様子に、シリルは目を細め資料に視線を戻した。

「答えたくないのなら、構わん」
「あっ、いえ!! 答えたくないわけではなく!!」
「言える時に、言ってくれ」

 微笑みを向けられ、イルドリは息を詰まらせる。
 視線を落とし、「すいません」と謝罪を零した。

 そこからは、沈黙が続く。
 先程までは問題なかった沈黙が、急に気まずく感じる。

 資料を分ける手が止まり、イルドリは覚悟を決め、シリルを呼んだ。

「父上!!」
「ん? どうした?」
「地下牢の掃除をした時の話なのだがっ――……」

 話し出そうとした時、外から慌ただしい足音が聞こえ始めた。
 二人が扉を見ると、数秒後に大きな音を立て扉が開かれた。

 ――――バタンッ!!

「大変です、シリル王!! 今まで地下牢に閉じ込めていた老人が一人、!!」

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

 シリルとイルドリは、二人で地下牢に走る。
 警護班が囲う牢屋には、見覚えがあった。

「あそこって…………」

 行くと、そこには一人の老人が地面に倒れ動かない。
 牢屋の鍵を開け、中に入り老人へとシリルが近づき、膝を突く。

 口元に手を寄せ、一応生存を確認。深く息を吐いた。

「――――死んでいるな。いつだ」
「先ほど、いつものようにパトロールをしていると、苦しげな声が聞こえ、瞬間倒れる音が聞こえたかと思ったら……」
「なるほど。…………その話だと、妙だな」

 険しい顔を浮かべ、シリルは立ちあがる。

「父上、妙、とは?」
「首元に絞められた跡、苦し気に歪んだ表情で息絶えている。確実に殺されたのは明らか。だが――……」

 そこで言葉を止める。
 続きを催促しようとするが、それより先にシリルが顔を背け、警護班の元へと行ってしまった。

 残されたイルドリは、警護班の間をすり抜け老人に近付く。

「やはり…………」

 地面に倒れ死んでいる老人は、イルドリに昔の話をした老人だった。
 土色の肌、閉じられた瞳。首には、締め付けられたような跡。

「この跡は……縄……か?」

 周りを見るが、縄らしいものは落ちていない。
 
 イルドリがじぃっと見ていると、後ろから肩を叩かれた。
 そこには、何故ここにいるのかわからないクロヌが立っていた。

 声を上げそうになったイルドリの口を押え、クロヌは腕を引っ張る。
 人込みを抜け、牢屋を後にした。

 そんな二人の様子をシリルは見ており、目を細めた。

「シリル王?」
「…………いや、何でもない」

 警護班の一人から声を掛けられ、二人から目を逸らす。
 だが、意識だけは二人に向けられていた。

 ※

 地下から地上に抜けた二人は、城から少し離れた街の奥へと歩く。すると、人が徐々に少なくなり、見えなくなった。

 二人が辿り着いたのは、フォーマメントの端。下を向くと、地上が見える崖っぷちに立った。

 地上は見えるが、透明の壁がフォーマメントを包み込んでいるため落ちる事はない。
 万が一落ちたとしても、二人には翼がある為、問題はない。

 クロヌがなぜここまで引っ張ったのかわからず、イルドリは怪訝そうな顔を向けた。

「…………さっきの老人は、お前が言っていた奴か?」
「そうだぞ! まさか、死ぬとは思っていなかった!!」
「誰でも、人の死はわからなぬものだ」
「…………そんな話をするため、ここまで呼び出したのか?!?!」

 クロヌの言いたい事がわからず、イルドリは直球に問いかけた。

「あの老人は、お前に大きな事件に巻き込まれると、言ったんだったな」
「そうだ!!」
「タイミングが、良すぎないか?」

 地上を見ていたクロヌが振り向き、イルドリと目を合わせた。

「だが、まだたまたまとも言い切れるだろう!! そもそも、私達は勝手に戦闘を行った事で地下の掃除を任されたのだ! 地下牢に閉じ込められていた老人では、外の状況などわからぬだろう!!」
「そうだな。占いで自分の未来を見る事が出来ない場合は、だが……」

 今の言葉に、イルドリは目を開き、顎に手を置いた。

「まさか、私達が地下に来る事を占いで知り、わざわざ私に話をしたと言いたいのか??!!」
「可能性は、ゼロではない」
「だが、その理由はなんだ? 何が目的だ」
「それは…………」

 そこで、クロヌは口を閉ざしてしまった。
 流石に今回の事件だけでは、これ以上の事はわからない。

 クロヌはこれ以上何も言わず、イルドリも口を閉ざした。
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