上 下
280 / 549
休暇と双子

実力的に上位でも、コミュニケーション能力が皆無だと意味はない

しおりを挟む
 体が、ちょっとだけ固まっている。

 気を失ってからどのくらいの時間が経っているのか。
 拘束されてから、どのくらいの時間が経っているのか。

 ……まぁ、いいか。
 拘束は解けたし、体を伸ばしてすっきりするか。

「いきなり拘束してごめんねぇ~。どうしてもお話がしたかったんだぁ~」
「世間話なら付き合わねぇぞ。今までの戦闘で疲労が蓄積されているんだ。今は休暇期間だし、頼むから休ませてくれ」
「癒し魔法、してあげようかぁ~」
「そんなもんいらっ――――出来るのか? というか、魔法?」

 こいつらに魔法という概念があるのか?
 いや、俺が勝手に魔法と思っていなかっただけか?

 だって、魔法唱えていなかったし、除外するだろう。魔力も感じなかったし……。

 自分に言い訳を繰り返していると、アンジェロがニマニマしながら説明してくれた、腹が立つ。

「魔法という概念はないよぉ。僕達アンヘル族には、属性とか得意な魔法とか。そんな物はなぁい」
「なら、さっきのはなんだ?」
「これだよぉ~」

 耳に手を添えたかと思うと、突如光が放たれる。
 光りが薄れた時、見えたのはハープ。アンジェロの手に合わせられた大きさになり、握られた。

「あ、それは、俺が気を失う時に見た……」
「そうだよぉ~。これはねぇ、僕とねぇさんが受け継いだものなんだ」
「受け継いだ? 誰に?」
「秘密~」

 人差し指を口元に添え、秘密にされた。
 なんだこいつ、マジで腹が立つ。

 でも、下手に動けば、また眠らされる。
 はぁ、ふざけるなよ、本当に。

「もういいわ。それで、話ってなんだ」
「聞く気になってくれたんだねぇ~」
「聞かないとお前らが何をするか分かんねぇからな」
「わかってもらえて良かったよ~」

「後はお願い」と、後ろで腕を組み、ずっと傍観を務めていたアンジュに説明を託した。

「…………では、話させていただくわ」
「よろ~」

 聞きたくないけど。

「貴方達の状況は、ファーマメントから見ていたからわかっているわ。だから、この機会を利用させてもらいたいの」
「利用? なんだよ、利用って」
「以前、私達は、貴方達が助けようとしているカケル=ルーナに助けられたことがあるのよ」

 それは少しだけアンジェロに聞いたな。
 それで、俺に手を貸すって話なら、まぁ、わからなくはない。

 フォーマメントから見ていたから事態は把握済み。
 つまり、俺が転移者であることもわかっているという事でいいのだろうか。

「だから、私達は今の貴方に手を貸します。間接的にカケル=ルーナに恩を返せるので」
「なぁ、その話は分かったが、一つ確認してもいいか?」
「何でしょう」
「お前らはさっき、フォーマメントから俺達の動向を見ていたと言っていたが、それはいつから見ていたんだ?」

 聞くと、二人目を合わせ空中を見た。
 まさか、覚えてないとか言うなよ? 

「ずっとよ。貴方がこちらに来る前から見ていたわ」
「なら、もっと早くに降りて手を貸せや」
「それは出来なかったの。フォーマメントでも色々トラブルが起きていてね」
「トラブル?」

 聞くが、答えてくれない。
 巻き込まれたくないし、黙っておこう。

 おっ、アマリアが俺の前に出た。

「さっきの話に戻すけど、手を貸すって、何をしてくれるの?」
「貴方に話しても意味はないわ。私は貴方ではなく。チサト様――いえ、カケル様に恩があるの。気軽に声をかけないでくださらないかしら」
「デジャブ」

 アマリアが深い溜息を吐き、頭を抱えてしまった。

 この光景、俺もデジャブ感があるなぁ。
 デジャブではないんだろうな、過去に違う奴とやった会話だなぁ~。

 どっかの、癒し魔法に特化した魔法使いとか。

「もう、本当にめんどくさい」
「今までの自分の行動が招いたことだ。受け止めるしかないぞ」
「うん」

 素直だな。
 今までの行動に対し、アマリアは後悔の念があるし、そんなもんか。

「なら、俺が質問する」

 一瞬、嫌な顔をしたが、まぁいいだろうと妥協した表情で「なにかしら」と言われた。

 張った押してやろうか。
 俺からおめぇらに手を貸すようにお願いしたわけじゃねぇんだよ、この野郎。

 いや、ここは俺が大人になれ鏡谷知里。よしっ、落ち着け。

「ふぅ……。んで、どんな形で俺達に手を貸してくれる予定なんだ?」
「どのような形でもいいわよ。私達に出来る事であれば」
「出来る事はなんだ?」
「まずは指示を出してくれないかしら。その方が判断しやすいわ」

 そんなこと言われてもな。
 俺達も正直、今すぐ動き出すとか考えてねぇし、指示を出すことできないんだよな。

 考えていると、アマリアが耳打ちして来た。

 あーーーーー、確かに。
 それは聞いておいた方がいいか。

「今すぐは特に動く予定はないから、まずはお前らの実力を教えてほしい」
「実力?」

 お? 腕をくんで偉そうにしていたアンジュが一瞬、動揺を見せた。

「俺達が一番懸念している部分なんだが、管理者との戦闘で、お前らが何をできるのか、それは事前に知っておきたい」

 聞くと、アンジュが気まずそうに顔をよそにそらした。
 アンジェロは欠伸を零し、何も言わない。

「君、自身の力、コントロール出来ないんでしょ?」
「で、出来るわよ!!」
「なら、今、みせてもらえるかな」

 グヌヌヌと、アンジュは苦い顔を浮かべたかと思うと、すぐにピアスに手を伸ばし、ハープを握る。

 え、まさか…………。

「覚悟しなさいよ。私を挑発した事、後悔しなさい!!」

 やばっ、アンジュがハープに手を添えた。
 眠らされるのか!?

 ジャランと、勢いのある音が響く。
 同時に、見えない何かが放たれた。

 魔法がまにあっ――……

 ――――ドカンッ!!

「…………あ、あれ?」
「やっぱり、コントロールできないじゃん。見栄を張らない方が君の為だよ」

 俺の横を見えない何かが通りすぎ、壁に激突。
 刃のような形に傷がついた。

「ま、まだよ!!」

 また、同じことを繰り返すが、一切動いていない俺とアマリアにはぶつからない。
 何回か繰り返すうちに、体力が底をついたらしく、肩で息をし始めた。

「えぇーと。なんだ、その。大丈夫か?」
「うるさい。うるさいわよ!! そうよ!! 私はコントロールが出来ないの悪い!?」

 いや、俺は何も言っていませんが?

「馬鹿にしたかったらすればいいじゃない!! 自分の力をコントロール出来ない出来損ないと! 馬鹿にしなさいよ!」

 それ、馬鹿にされたいと言っているようなもんなんだけど。

「いや、落ち着け? 馬鹿にしねぇから」

 したいとも思わないし。

「なによ、同情しているの?」
「なんで俺がお前に同情しないといけないんだよ」
「馬鹿にしなとか言うから…………」

 何で馬鹿にしていない=同情になるんだよ。
 ただ、馬鹿にするような内容じゃねぇからだよ。

「なんか。もう、色々めんどくさい」
「僕もおんなじだよ。本当に疲れる」

 …………んー、なんか、冷静になってくると、頬が痛くなってきた。
 さっき殴られたところだな。

 まぁ、我慢できるけど、なんか、嫌だ。

「…………頬、いたいのかしら」
「まぁな」
「そう……」

 ん? 後ろにいるアンジェロを見ている?

「アンジェロ、治してあげなさい」
「わかったよ、姉さん」

 欠伸をして、今にも寝そうだったアンジェロは、アンジュに呼ばれた瞬間に笑みを浮かべ、近付いてきた。

「治すねぇ~。痛いのは頬だけ?」
「あ、あぁ」
「わかった~」

 言うと、アンジェロは俺の頬に口を寄せてきた。

 な、なんだ?

「ふぅーー」
「どわぁぁぁぁああ!!!!」

 な、なななななな、な、なぁぁぁぁああ!?

 い、いきなり息を吹きかけられた!?
 頬に、息を!! 体に鳥肌が立って気持ち悪いんだけど!?

「――――あ、あれ?」

 息を吹きかけられた頬、痛くない…………?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...