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愉快犯と暴走

グレールがどれだけ必死なのかは口調だけでわかったわ

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 …………――――シーーーーーーーン

「…………あ、あれ? おい、リンク!! 出てこい! おいったら!」

 …………――――シーーーーーーーン

 え、えぇぇぇぇ……。
 ま、まさか、精霊ともはぐれたのか? 
 嘘だろ、精霊まで上に取り残されているのか?

 うそ、うそうそうそうそうそ。
 まじ、え? 嘘だと言って?

「……………………あの、チサト様」
「な、なんだ??」

 落ち着きを取り戻したらしいグレールが、なぜか呆れたような表情を浮かべ俺に指を差してきた。

 な、なんだよ、その顔。

「精霊、いますよ?」
「え、どこ!?」

 さっきから周りを見回すが、どこにも現れていない。

 え、マジで何処にいるの? 
 グレール、まさか幻覚でも見えているんじゃないか?

「チサト様、私の言う通りに体を動かしてください」
「お、おう?」

 な、何か始まった?

「まず、右手を上げてください」
「はい」
「次に右手を頭の後ろに」
「はい」

 な、なにこれ。
 俺は何をされているんだ?

「最後、視線を左下に向けてください」

 左下…………あ。
 藍色の瞳と目が合った。


 ――――ガシッ


「き! さ! ま! なに平然と隠れてやがる!!」
『な、なによ!! 出てきてあげたのに見つけられなかった貴方が悪いのでしょう!? 私は何も悪く無いわ!』

 …………うわぁ、腹が立つ。
 つーか体の構造的に、お前がいた場所頭の後ろが見えないのは仕方がないだろう! 俺だって悪く無い!!!

「あの、喧嘩している暇はないかと思います。チサト様がやりたいのは、上に空間魔法を作り出し、無理やり道を切り開く事でしょう?」
「そうそう、おいリンク。今、グレールが言ったような事をやれ」

 猫掴みをして、リンクに言うと、気まずそうに顔を逸らしやがった。

 こういう時って、大抵できないだの無理だのと考えている時。
 一応、確認するか……。

「無理なのか?」
『や、やり方さえわかれば…………』
「やり方は今まで通りでいいだろう? 送り出したい場所にワープゾーンを作り出す」
『む、無理よ。だって、気配を探ろうにも、この空間が変にねじ曲がってしまっているから…………』

 ……………………マジか。
 いや、確かにそうだよな。

 多分、この空間は無限ループに似た構造になっているはず。
 そこに風穴を空けようとしているのだから、そりゃぁ~いつものようにやろうとしても無理か。

「んー、今もアマリアとの繋がりが残っている。それはなんとなくわかるんだけどなぁ」
「あっ、そう言えば言っていましたね。魔力が吸われている感覚があると」
「そうそう。アマリアとは魔力で繋がっているから、なんとなく気配はわかるんだよ。だが、やっぱり空間がねじ曲がっているからまっすぐではないし、わかるけどわからないって感じだなぁ」

 繋がっている魔力を辿ることは出来そう。
 でも、ねじ曲がっているから迷路のようになっているんだよなぁ。

 時間はかかるけど、歩けば近づくのか……?
 いやいや、無限ループに近い構造になっているのに、近づく事すら無理だっての。

「ここまでの大きな空間を作り出しているのなら、なにか核となる物があるでしょう。それを壊せば出れる可能性がありますね。その核は、おそらくアマリア様とチサト様の繋がっている魔力を探知すれば探し出す事が可能かと思いますので、それを試してみませんか?」
「めっちゃ早口で言うね。あまり理解できなかったけど、ひとまずそれでやってみよう」
「わかりました。では、チサト様が行うのはまず、アマリア様と繋がっている魔力を探知し、案内してください」
「おう、わかった」

 グレールが必死なのは、よぉーくわかった。
 ここでもたもたするとグレールの逆鱗に触れてしまうかもしれないし、大人しく従います。
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