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愉快犯と暴走

やめてくれ、俺を、解放してくれ

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「そもそも、私一人ではモンスターを倒す事なんてできやしない。だって、攻撃魔法を持っていないのだから」

 そうだよなぁ。
 リヒトには悪いけど、そこは納得だ。

「カガミヤさんも、まだこちらの知識がない時とか、モンスターについてとかをアルカに聞いていたでしょ? 十分役に立っているよ」

 そうそう、普通に役に立っていたよ。
 そんで、モンスターの知識はこれからも必要だ。

 まったく、なんでリヒトもアルカも、こんなにも自身の評価が低いのか。
 普通に強いし、頼りになる時もあるというのに……はぁ。

「アルカとリヒトって、このメンバーでは年少に入るよね」
「お、おう。そうだな」

 アマリアの奴、いきなりどうした?

「多分、まだ甘えたいんじゃないかな」

 ん? 甘えたい? どういう事?

「まだまだ大人に甘えたいんだよ、きっと。アルカもリヒトも、早くに親を失っているから、親からの愛に飢えているのかも」

 親からの、愛。そんなもの、飢えるのか?
 貰ったことがない俺からしたら、よくわからん。

 親から貰うものって、大体罵声罵倒。
 あとは放置、何もくれない。

 愛なんて見えないもの、そんなに欲しい物なのか、そんなに飢える物なのか。

 ――――まったく理解出来ないな。

「大人に褒めてほしい、認めてほしい。そう思うのは子供の時だけだし、これからはもっと、素直に褒めてあげたら?」
「あぁ? なんで俺がそんなことをしないといけないんだよ」
「二人にとっての一番の親って、現段階だと知里でしょ?」

 ・・・・・・・はぃぃぃい?

 え、は? 俺が、あいつらの親? 
 おいおい、ふざけたことを言ってんじゃねぇよ。
 俺は、こんな大きな子供を産ませた記憶はありません。

 つーか、俺にとって親と呼べる親なんて存在しなかったし、家族の愛を知らないのに、そんなことを求められても困る。

 二人を改めて見てみると、お互いまだ慰め合ってる。

 あの二人は、お互い支え合える間柄だし、俺みたいな何も知らない大人が入り込むのは、さすがに邪魔になっ――……



『あんたがいるから! 私が不幸になるのよ!!!』



 ────ドクンッ。

 な、今、誰の声だ。
 女の、かな切り声のようなものが、聞こえた。

「まぁ、リヒトは知里を親という目では見てなっ――ん? 知里?」

 アマリアの声が遠くなる。
 心臓が激しく波打ち、息が苦しくなってきた。


『あんたさえこの世に存在しなければ!!』


 辞めろ、辞めてくれ。
 俺は、俺は――……


「っ、知里! しっかりして!! 知里!!」

 回りの声が徐々に聞こえなくなる。
 女の、甲高い声にかき消される。

 耳鳴りが酷い中でも聞こえてくる、女の声。
 俺を、否定する、母親の声が、耳に聞こえてくる。

 ――――っ、首が、首が……痛い!! 熱い!!
 痛い、痛い!!

 辞めてくれ、辞めてくれ!! 
 俺は、俺だって。俺だって、生まれたくて生まれたわけじゃない。
 親が、勝手に俺を生んだだけ。

 それなのに、なんで俺は、存在否定をされないといけない。
 何で俺は、暴言を吐かれないといけない。

 何で俺が、こんな思いをしなければならないんだ。



 ――――――――なんで貴方が、生きているの


 ――――――――あんたが生まれてこなければ


 ――――――――あんたがいるから! 私が不幸になるのよ!!!


 辞めろ、辞めろ!!

 何も見えない世界、耳を塞いでも聞こえてくる母親の言葉。
 どんなに逃げようとしても追いかけて来る。

 辞めて、辞めてくれ。頼むから!!


 ――――――――っ、暗い空間、何も見えない中に突如現れたのは、黒髪の女性、俺の、母親。

 ゆっくりと俺に近づき、手を伸ばしてきた。

『っ!! やめっ…………』

 首を、絞めてきた。
 苦しい、息が出来ない。

 なんで、なんでなんでなんで!!!!
 ふざけるな、ふざけるな!!! 

 俺は、俺は何で、こんな思いをしなければならないんだ。
 なんで、こんなことをされないといけないんだ!

『ふざ、けるなっ……』

 許さない、殺してやる。
 俺が、この女を、俺を馬鹿にするやつ全てを、殺してやる!!!!

 こんな思いをするくらいなら!! 俺がっ――……


 ――――っ、顔を、あげ、た?


 その時、久しぶりに見た母親の顔は、何故か――綺麗に見えた。


『――――私のために、死んで?』

 ・
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 ・
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 ・

「知里!! 知里しっかりするんだ!! 知里!!」
「カガミヤさん!? カガミヤさん!!!」
「カガミヤ! おい、なんでだよ!! カガミヤったら!!」

 突如蹲り、頭を抱え動かなくなる知里に、リヒトとアルカ、アマリアが駆け寄り名前を呼び続ける。

 グレールとロゼ姫も名前を呼ぶが、聞こえていない。
 体を震わせ、何度も何度も「やめて」と呟いている。

「これは、何かの魔法?」
「でも、魔力の気配なんて……っ、これって」

 アマリアは、知里の首元に手を当てる。
 そこは何故か黒く染まり、首の中で何かが光っていた。

「これって、魔石……?」

 アマリアが赤黒く光っている首元から魔力を感知。取り乱す事はせず、顎に手を当てる。
 だが、今も「やめてくれ」と汗を滝のように流し苦しんでいる知里を目にし、焦りが徐々に募る。

「アマリア様!! どうすればいいですか!? なにか、ありませんか!?」

 リヒトが涙を浮かべながらアマリアに助けを求めるが、アマリア自身もこんな事態は今まで指折りでしか数えるくらい少ない。
 しかも、それは全て救えず失敗している。

「────首の中に埋め込まれているのが魔石なんだとしたら、取り除かないと。これが、知里を苦しめているだろうし」
「どうやればいいですか!?」
「やり方はいくつかある。でも、錯乱している知里に行うのは、成功確率が低すぎるんだ。成功例も、全然ない」
「そんな…………」

 リヒトは失望し、顔を俯かせ茫然としてしまう。
 アルカや他の人達も同じく、どうする事も出来ない。

 このまま知里の心が壊れるのを待つしかないのか、そう思った時だった。

「――――音魔法があれば、助けられるかもしれませんよ」

 スペルが顔を上げず、魂が抜けたような表情で、呟いた。
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