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愉快犯と暴走

変わったと言われるのも、悪くはないのかな

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「はぁ……。泣き止んだか?」
「はい、取り乱しました。申し訳ありません」
「まったくだ」

 突如泣き出したスペルに、部屋の隅に置かれていたティッシュを渡し、落ち着くまで背中をさすってやった。

 さすがに、あんなに泣いている女をほっておくと、周りがうるさそうだしな。

「……………………どっちにしろ、視線はうるさいんだなぁ……」

 リヒトからの冷たいというか、嫉妬の視線。
 俺が女に何かする度、こんな視線を送られないといけないのか?

 でも、ほっておくと「カガミヤさん、貴方って人は…………」って、言われるんだろう?

 逃げ道ないじゃん、俺。

「あ、あの」
「ん? どうした、リトス」
「お、おいら、我慢するぞ!! だから、血を抜いても、い、いいぞ!!」

 おぉ、今の茶番もリトスの勇気を出させるには必要な事だったらしい。

「本当に大丈夫ですか? 無理しないでくださいね」
「大丈夫なんだぞ。長が……、おじいちゃんが助かるのなら、我慢するんだぞ!!」

 まだ体は震えているけど、覚悟は決めてくれたみたいだな。

 …………おい、スペル、なんで俺を見上げてくる。
 判断、俺に任せているなこいつ。まったく……。

「あまり痛くしないでやってあげろ」
「わかました」

 ロゼ姫から震えているリトスを受け取ると、スペルは注射を持ち変え準備。
 左手でリトスを持つと、腕を撫で脈を探る。

 床から見上げる形で見ているんだが、リトスが赤ん坊のように小さいから、子供をあやしている母親の姿に見えるな。


 …………母親、ねぇ……。


「大丈夫ですよ、本当に痛くありませんから」
「う、わかったんだぞ…………」
「力を抜いて、ほら、大丈夫」

 今まで無表情だったくせに、リトスを安心させるために優しい笑みを浮かべ頭を撫でてあげてる。

 あのように子供を安心させているのか。

「チクッとしますよぉ~」

 注射がリトスの腕に刺さる。
 でも、想像していたより全然痛くないのか、リトスは平然とした顔を浮かべていた。

「――――はい、終わりです。よく我慢出来ましたね」
「お、終わったんだぞ? 本当だぞ?」
「はい、お疲れ様です」
「や、やったんだぞ!! チサト!! 終わった! 終わったんだぞ!」

 え、お、俺に報告?

「え、あ、え? よ、良かった、な?」
「だぞぉ!!! これでおじいちゃんに会えるんだぞぉ!!」

 スペルがジャンプして床に降りると、俺の周りをグルグルと走り回る。

 はいはい、わかったわかった。

 手をリトスの進行方向に添え、突っ込んできた瞬間捕まえ抱き留める。
 頭をなでると、嬉しそうに顔を上げ笑いかけてきた。

 っ、な、なんだよ。
 なんか、嫌だ……。


 ────ズキッ


 っ! 首、頭……痛い……。

「では、私は占いの準備を行います。少々お待ちください」
「あ、あぁ、任せた」

 それだけ言うと、この部屋を出て行った。

 さっきのは、一体……。

 首を押えていると、リヒトが近寄ってきて、俺の顔を覗き込んできた。

 …………なんだよ。

「カガミヤさん、本当に変わりましたね」
「え、また昨日の話か? それなら――――」
「それもありますが、私は今のカガミヤさんの方がいいなぁと、思っただけです」

 え、それだけ言うとリヒトが俺から離れてしまった。

 な、なに?

「すっごく嬉しそうだったね、リヒト」
「…………アマリア」
「ん? なに? 憎まれ口じゃないの?」
「いや、それも言いたいんだけどさ、それより聞きたい事がある」
「なに?」
「俺って、そんなに変わったのか?」

 隣で空中を飛んでいるアマリアを見上げながら聞いてみると、アマリアも目を丸くして俺を見下ろしてきた。

 数回瞬きをすると、顎に手を当ててしまう。

「僕に聞くのはお門違いとは思うよ」
「だよな」
「でもね、僕も変わったんだなとは、感じてる」

 ん? どういうこと?

「絆されたと自覚している時点で、変わっているんだよ、君自身」
「…………まだ引きずるのかよ、長の時の」
「あれが一番わかりやすいでしょ?」
「………るせー」

 はぁ、まぁ、いいわ。
 変わっていようとなかろうと。

 今の俺が、今の俺なんだから。
 当たり前だけど。

「なんで笑ってるの? 知里」
「いや、何でもない」

 今は、スペルの占いが終わるのを待っていようか。

 それまで、俺は通帳を眺めておこう。気力回復も、大事だしな。
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