上 下
28 / 520
プルウィア

※確かに俺はギルドの人間じゃないかもしれないけどそれはないだろ

しおりを挟む
 中に入ると、案外にぎやかだった。

 奥には大きなカウンターがあり、女が三人、忙しなく冒険者の相手をしていた。
 壁側にはATMのような機械が置いてあり、三台横並びにされている。

 周りを見回している俺の隣で、受付嬢が確認のためか、質問してきた。

「カガミヤさんは、まだギルドに登録されていないんですよね」
「だな。なんとなくでここまでやってきた」
「でしたら、今回の報酬はひとまずアルカさんに渡しますね」

 ・・・・・・・・・・え?

「はぁぁぁ!? 俺には報酬なしか!?」
「今は渡す事が出来ないので……」
「嘘だろ…………」

 項垂れる俺の肩に手を置き、哀れみの瞳を向けてくるアルカ。

 ……燃やしてやろうか? それとも、水責めの方が好きか? 
 好きな方を選ばせてやるよ。俺は二つ属性持っているから選べるぞ、良かったな。

 アルカを憎しみの目で睨んでいると、元受付嬢が慌てた様子で仲裁に入ってきた。

「えっと、今回は仕方がないのですが、これからもダンジョン攻略は続けていくんですよね?」
「そうしないといけないらしい。強制的にそんな事になった」
「そうですか。では、登録試験を受けて頂いてもいいですか?」
「え、試験?」

 ギルドに登録するためには試験を受けないといけないの? 
 筆記試験とかだったら俺確実に無理だぞ。
 この世界についてすら知らない俺に、いきなりギルドの事を全て答えろとか。

 無理に決まっているだろ。

「安心してください。魔力の量が既定の上に行けばクリアです」
「そんなんでいいのか」
「あとは自己責任という事です」
「ある意味怖いな、ギルド」

 登録後、どうなろうがお前の判断だ、俺達には一切責任はない。と言われているみたいだ。

「では、アルカさんとリヒトさんは少し椅子に腰かけて待っていてください。すぐに終わります」
「わかった」
「お願いします」

 二人はカウンターがある広場、ホールと呼ばれていそうな部屋にある椅子に座って待つ事にしたらしい。

 俺は元受付嬢の後ろを付いて行く。
 どこに向かっているのかわからんけど、会員証がなければ報酬をもらえないのならどこまでも付いて行くよ。

 カウンターの右に奥へ続く廊下があり、まっすぐ進む。
 徐々に人はいなくなり、二人の足音だけとなった。


 ───コツ、コツ


 …………こんなに長い廊下、必要あるか? 
 もう歩き始めて五分以上は経っているんだけど。

 疲れが出始めた直後、ちょうど元受付嬢が前を指さした。

「見えてきましたよ、あそこで魔力の検査をします」

 肩越しに俺を見て、笑顔で教えてくれた。

 指さした方を見ると、突き当たりには鉄の扉があった。
 鍵がいくつもあるように見えるのだが、どんだけ厳重に閉ざされているんだよ。なんか、怖いんだが…………。

「扉が閉まっているので、先約が居ますね。上を見てください」
「ん? なんだあれ」

 五つの、電球??

「扉の上にある五つの丸い電球は、魔力を注げば注ぐほど赤く光り、既定の数値まで達する事が出来れば緑に光りクリア。鍵が開かれます」
「なるほどね。だから鍵も五つあるのか。これが魔力によって自然と開かれるという事だな」
「そういう事です」

 意外に簡単そうじゃないか? そんな事ないのか。
 そもそも、既定の数値がどのレベルなのか。

 事前に対策も出来ねぇから、少し不安が…………ん? 魔力……?。

 そういえば、俺の魔力ってアビリティが映す映像では、画面上からはみ出しているんだよな。

 絶妙なコントロールや、この世界の常識などが影響する試験なら難しいけど。単純な魔力検査なら余裕じゃねぇか?
 俺の魔力、チートみたいだし。

 精霊すら、俺の魔力が一番美味そうと言っていたし。さすがにその言い方は解せぬがな。

「もう、始まるかと思いますよ」
「ん? あっ、試験がか」

 あ、あれ? 元受付嬢が耳を塞ぎ始めた?
 俺の声を聞きたくないという事か? さすがにしょっ――……


 ────ブィィィイイイイイイ


 !?!?!? 
 け、けたたましい鐘の音!? なんだこれ!!

「耳、いってぇ!」
「前の人の試験が始まりました」

 いきなりの機械が動き出す音、それと同時に点滅する電球。
 まずは左の一つが赤く光出した。二つ目も光だし、順調に三つ目。

 このまま行くと思ったら……。

「止まった?」
「おそらく、魔力が足りていないのでしょう。ですが、途中で止まってしまっても、本人にまだ続ける意思があれば送り続けられます」

 今はもう音は小さくなり、元受付嬢は耳から手を離していた。
 俺も離すが、まだ耳が痛い。さっきの音で大ダメージを喰らったらしい。

「へぇ……。つーか、それ、成功するまで続ける事できるんでね?」
「それはどうでしょうか」

 え、その言い方、無理って言っているようなもんじゃん。
 何か無理な理由があるのか?

「今は、おそらく全力で魔力を放出している状態。体に残っている魔力にも限度があり、無くなれば自然と体力が減り眠くなる。強制的に終わってしまうんですよ」
「なるほどね」

 魔力の限界を超えれば、自然と寝てしまうんだな、
 戦闘中に魔力を切らせば完璧アウト、気をつけよ。

「…………一向に四つめ、行かないな」
「一度止まってしまえば、それ以上点滅させるのは難しいかと思います」
「なんでだ?」
「勢いが緩んでしまうのが一つと、体力が減っていくので最初でクリア出来なければ詰みです」

 つまり、勢いのままクリアしないと登録は絶望的と言う事だな。

 これは結構、骨が折れそうだぞ……。俺も油断しないようにするか。
 基本、魔力が多くても油断して失敗する可能性もある訳だし、それだけは避けたい。

「あ、一つ減った」
「もう限界になったんですね。この人は不合格、残念です」
「結構あっさりしてんな」
「中に誰がいるのかわからないので…………」
「それもそうだな」

 どんどん光が消えていく。そして、ラストは結構粘っていたけど力が尽きたように、命の灯とでも呼べるような光が、完全に消えた。

「終わったのか?」
「みたいですね」
「やっと俺の番か」
「頑張ってください」
「まだ扉、開いていないけどね」

 早く行ってほしいという意思表示かな? 
 俺のこと嫌いなのだろうか、哀しいぞ。

「あともう少しで開きますよ」

 と、元受付嬢が言うと、同時に扉が開かれた。
 中からは涙を流し、ふらふらの身体を引きずる女性の姿。

 俺達には気づいていない。道を開けるように横へずれると、そのまま長い廊下を進んで行く。

 そんな彼女の背中から放たれているオーラがものすごく悲しく、それほどまでにギルドへと入りたかったという事がわかる。

 薄く開かれていた扉が音を立て完全に開いた。
 そして、一人の少年が姿をあらわっ――え? 少年?



 水色の髪に赤と黒の左右非対称の瞳。
 背丈に合っていない白衣を肩から羽織っているから床を引きずっている。
 でも、中に着ている服はしっかりと着こなしていた。

 白いワイシャツに短パン、サスペンダーと。金持ちの餓鬼っぽい雰囲気を醸し出してんな。

 肌白いし、髪質もいい。誰だこいつ。

「ギルド登録希望の方であってる?」
「おー…………」
「では、こちらに」

 少年特有も高めの声だな。

 首から下げられている名札には”アマリア”と書かれている。

 これが名前か、苗字とかない感じ? 
 なんか、訳アリの餓鬼っぽいな。あまり関わらんとこ。

 言われた通り中に入る。
 その際、元受付嬢を一度見てみると、腰を折り見送ってくれた。

「では、頑張ってください。アマリア様に、ご無礼が無いように――……」

 ん? アマリア、様?

 名前について問いかけようとしたが、それより先に鉄製の扉が重苦しい音を鳴らし閉じられちまった。

 気になるけど、まぁ、いいか。

 改めて中を見回してみると――思っていたより普通。病院の部屋みたいに白い部屋だった。

 気になる事と言えば、部屋の中心に置いてあるテーブルかな。
 上には、肺活量を計るような機械が置かれている。

 普通のより大きい気がするけど、まさかこれで魔力を計るの? なんか、思っていたより普通だな。

「それじゃ、さっそく始めるね。まず――……」

 今渡された物に、さすがに驚きを隠せなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

処理中です...