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エピローグ

司先輩はやっぱりやさしい!!

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 学校に行く時、詩織の前にはいつものように司があくびをこぼしお迎えに来ていた。
 ドアを開ける音に気づき、あくびで出た涙をふき取り、司は詩織を見上げた。

「おはよう」

「おはようございます」

 そのまま、いつものように歩き出す。

 今日はそこまで天気は良くない。
 雲がただよい、青空はかくれている。冬が近づいてきたため、風は冷たい。

 司はさむがりなのか、もうコートにマフラーを付けていた。
 詩織はまだコート一つで大丈夫なレベル。

「司先輩は、氷の式神を使うのに、冬は苦手なんですか?」

「退治屋があつかう属性は、代々受けつがれてきたものなんだよ。だから、氷の式神を使うからってさむさに強いとかはないよ」

「へぇ……。アニメとかでは、属性はその人を表しているような書き方がされるから、てっきり司先輩もそうなんだと思っていました」

「アニメの世界みたいだけど、ここは現実なんだ。そこはしっかりと切り分けようか」

「わかっています!!」

(まったく! いつも、一言が余計なんだから!!)

 詩織がふてくされてしまったが、司はあくびをこぼし気にしていない。
 涙を拭きながら、怒っている詩織に声をかけた。

「そう言えばなんだけどさ」

「なんですか?」

 まだ不機嫌そうにしているが話は聞くらしく、詩織は耳だけをかたむかせた。

「体の方は、特に変わりはない? 急に熱が出たとか、体が思うように動かないとか」

 なぜ、いきなりそんなことを聞くのか。
 詩織は疑問に思いながらも、首を横に振った。

「いえ、いつもどおりでしたよ?」

「なるほど。いつも通り、あやかし達に追いかけられているということね」

「い、今は追いかけられていないですもん!!」

 怒りながら対抗するように、司からもらったお守りを出した。
 見せつけていると、司が「へぇ」と、ポケットに手を入れた。

 次に手を出すと、ピンク色の会お守りがにぎられていた。

「これって…………」

「第二のお守り。こっちの方が強力だよ」

 差し出されたお守りを受け取り、詩織は今までスマホに付けていたお守りと見比べる。

 大きさや重さは、今までと変わらない。
 デザインだけが、女の子っぽくかわいい感じになっていた。

(今までのお守りと、何が違うんだろう)

 間違い探しをするようにじろじろ見つめていると、司は歩き出しながら説明をした。

「それには、僕の氷が入っているの。でも、今までの氷とは違うよ」

「え、何が違うんですか?」

「今回のは、僕だけじゃなくて、炎舞家の炎を混ぜて作り出したんだ」

 司は、今回の件で合わせ技を習得していた。
 それを応用し、今回のお守りを作った。

 これは、司だけの案ではなく、炎舞家の湊の提案。
 色々、試行錯誤しこうさくごしたと説明した。

「一応、効力を確認するために、近くにいたザコあやかしにお守りを投げてみたけど、大丈夫そうだった」

(…………こんなこと考えてはいけないのはわかっているけど、司先輩が私を思ってここまでしてくれたことが、うれしい…………かも)

 思わず笑ってしまった詩織は、司にばれないようにお守りで口をかくす。
 なにも気づいていない司は、説明を続けた。

「完全とはいかないにしろ、今までよりは安全になったと思うよ。何か気になることがあれば、その時に言ってほしい。まだまだ僕も、君を守れるように強くならないといけないからね」

 そこで説明を終らせた司は笑みを浮かべており、どこかキメ顔。
 詩織は、ここまで司が自分のために頑張ってくれたこと、考えてくれたことに心臓が高鳴り、彼を直視できず顔をそらす。

「え、ご。ごめん。なにか、いやだった?」

 気を悪くさせてしまったと思い、司はさっきまでつり上がっていた眉を不安そうに下げ、詩織を見た。

 いつの間にか立ち止まっている詩織を振り向き、一人あわてる。
 どう声をかければいいのか悩んでいると、詩織がやっと目を合わせた。

「――――私の為ではなく、退治屋のためにがんばってくださいよ」

 いつもより声は上ずり、ふるえている。
 そんな詩織を、司はただただいとおしいと見つめた。

「あー……、詩織」

「え、は、はい」

 いきなり名前を呼ばれ、詩織はきょとんと目を丸くする。
 コツン、コツンと足音を鳴らし詩織に近付いた。

 詩織の目の前で立ち止まり、目線を合わせるために腰を折った。
 顔が近くなり、今にも触れそうになる。

 詩織は、いきなりのことで頭が真っ白。無暗に動けばぶつかってしまう為、動けない。
 何が起きるのかわからない詩織に、予想外の言葉がふり注ぐ。

「詩織、僕、君を守りたいからここまでがんばれたんだよ。君が好きだから、幸せになってほしいから、ここまでがんばれたの。この意味、さすがに理解出来るよね?」

 司から放たれた言葉に、詩織の大きな黒いひとみは、もっと大きく開かれる。
 心臓は大きく高鳴り、近くにいる司にも聞こえてしまいそう。手で押さえても、鳴りやまない。

 お互い顔が赤く、心臓が音を鳴らす。
 もう、どっちがどっちの心臓音なのかわからない。

 何と答えればいいのか悩み、やっと詩織が口を開きかけた時だった。

 ――――ワンワン!!

 ――――バッ!!

 犬の鳴き声で我に返った二人は、一気に距離をはなし、気まずそうに顔をそらす。
 まだ赤い頬を押さえ、詩織は顔をそらしている司を横目で見た。

(――――言わないと、私も)

 こぶしをにぎり、詩織は司を見た。

「司先輩!!」

「な、なに?」

 大きな声で呼ばれ、司はおどろきつつもふり返る。
 まだ、お互い顔は赤い。それでも、詩織は顔をそらすことなく目を合わせた。

「私は、この体質、鬼の血はこのまま私の中で流れ続けてもいいと思っています」

「でも、そんなことになれば、あやかしに追いかけられ続けてしまうよ? 普通の生活が出来なくなるよ?」

 司からの問いかけに、詩織は首を横に振った。

「確かに、あやかしに追いかけられ続ければ、普通の人になれないかもしれません」

 今の言葉に司は「そうだよ」と、さとすように言う。

「それでも、普通の人になってしまえば、司先輩のとなりに立ってはいられません!」

「…………え?」

 詩織の言いたいことがまだ理解できない司は、目を丸くする。

「私は、普通になることより、司先輩と共にいたいと思いました。司先輩と別れるくらいなら、ずっとあやかしに追いかけられ続けてもいいと思っています。これって、先輩と同じ好きって、ことですよね!」

 言いながら、詩織は手を伸ばした。

「司先輩。これからも、私のことを守ってくださいますか?」

 差し出された手を見下ろし、司は少しの間を開けた後、やさしくほほ笑んだ。

「当たり前でしょ。僕以外の人に守られたりしたら、許さないから」

 差し出された手は、温かい手でにぎられる。
 詩織は、涙を流し、司は笑みを浮かべる。そのまま、司は詩織を抱き寄せた。

「僕を、彼氏にしてくださいますか?」

「はい、よろしくお願いします!」
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