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大天狗

氷鬼先輩と鬼の血と質問

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『あぁ、なるほどな。確かに、演技ではないな。やはり、鬼の血は体に影響を与える。力が強くなるわけではないがな』

「どんな影響えいきょうを与えるの?」

『ふむ。人の子は、お酒を飲むと上機嫌になるだろう? それと同じだと思うぞ』

「あぁ、狙いは間違えていなかったってことか……」

 湊の考えは当たっていたらしく、そこに司は安心したように息を吐いた。

『それに加え、人間の血も混ざっていて、美味だった。また、飲みたいものだなぁ』

 頬を染め、大天狗はうれしそうに空を見上げる。
 今はもう夕暮れ、あともう少しで日は沈み、辺りは暗くなる。

「俺からも質問したいのだけれど、いいかい?」

『なんだ?』

 湊が司のとなりに移動して、手を上げた。
 すぐに大天狗はうなずき、次の質問を待つ。

「なぜ、大天狗は街へカラス天狗たちを送ったんだい?」

『送った? 勘違いはやめてほしい。あれは、カラス天狗が勝手にやっていただけだ』

「止めてはくれなかったのはなんでだい?」

『人の子にも、自由に動き回る荒くれものはおるだろう。それは、我々あやかしの中でも同じだ。個性があり、感情があり、知性がある。私の言葉一つで全員の行動を制限は、不可能だ』

「つまり、街に降りてきたカラス天狗は、勝手に動いていたということかい?」

『そうなる』

 腕を組み、大天狗は大きく頷いた。
 湊はどこか納得したように「わかりました」と、引き下がる。

「だが、人間社会に迷惑をかけているのならあやまる。すまなかった」

 頭を下げあやまる大天狗を見て、司と凛は戸惑い、どうすればいいのか後ろにいる翔と湊を見た。
 やれやれと言うように、今度は翔が頭をガシガシと掻いて前に出る。

「もう、街に降りないようにしてくれるのなら、今回の謝罪しゃざいは受け入れる。それでもいいか?」

『構わぬ。こちらも、もっと見ておこう』

「ちなみになんだが、ここを少し戻った先でカラス天狗におそわれちまったから、その、大量に退治しちまったが、良かったか? 良いだろう? だって、おそってきたのが悪いんだからな」

 誤魔化すように翔が言うと、それにも大天狗は『わかっておる』と、うなずいた。

「それじゃ、お約束で。あと、まだ僕も聞きたいことがあるんだけど、いいかな」

 最後に司が手を上げた。
 翔は下がり、変わりに司が前に出る。その時、ずっと後ろで話が終わるのを待っていた詩織が手招きされた。

 数回まばたきしつつも、詩織は司のとなりに立つ。
 今までは遠くから見ていたが、近くまでくると威圧的な視線が大天狗から降りそそぎ、詩織の体がふるえる。

 恐怖心が詩織の体を勝手に動かした。

 となりに立つ司の腕に手が伸び、絡める。
 腕にしがみ付き、詩織は目の前に立つ大天狗を見上げた。

 まさか、腕に抱き着いて来るなんて思っておらず、司はカチーンと固まった。

「え、あ、え?」

「あ、あの、司先輩、私、怖いです」

 詩織は、まだ大天狗の圧に慣れておらず、おそわないとわかっていても怖いものは怖い。
 涙を浮かべ、固まっている司を上目遣いで見上げすがった。

 それに対しても司は固まる。
 どうすればいいのかわからず、頭を抱えた。

 他の三人は、二人の姿を見てほほ笑む。
 ほんわかとした温かい空間になり、大天狗もおじいちゃんのように『初々しいなぁ』と、笑った。

「あー、もう、うるさい。それより、相談があるんだけど」

『なんだい』

「詩織の体に流れている鬼の血って、やっぱり血を入れ替えない限り、普通の血に戻すことってできないの?」

 司の質問に一番おどろいたのは、となりに立っていた詩織だった。

『――――なるほど』

 大天狗は、司の質問に顎に手を当て考え込んでしまった。
 やはりむずかしいかと、司はあきらめたように息を吐く。

 詩織は、大天狗の様子に顔を青くした。
 顔をうつむかせ、口を閉ざす。

 気まずそうにしている詩織を見て、司は顔をのぞき込んだ。

「どうしたの?」

「い、いえ、なんでも、ありません…………」

 目を合わせず、顔を逸らす。
 今の質問は、詩織の今後に関わることなので、軽率な発言は控えなければならないと考えた結果だ。

 もし、大天狗が血をどうにか出来ると言ったら、詩織はこれから普通の人になれる。
 でも、もしここで何も出来ないと言われたら、打つ手がない。

 司は、詩織が今後のことを考えて顔を真っ青にしていると思い、頭をなでた。

「大丈夫だよ、ね?」

 やさしくほほ笑み、詩織を安心させるように頭をなでる司。
 詩織は、司が勘違いしていることに気づき、バッと顔を反対側へと向けてしまった。

(ぜ、絶対に言えない。言えるわけがない。だって、私、今。血をどうにか出来ない方がいいと思っているんだもん!!)
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