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大天狗

氷鬼先輩と役割分担

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 詩織がいなくなってしまった司を探すため、周りを見てみると、後ろで木に寄りかかり息を整えている姿を発見した。

「司先輩!?!?」

「あっ」

 詩織の反応に翔が後ろを見て、なにか思い出したかのように今にも死にそうな司に近寄った。

「そう言えば、司君は体力がないんだっけ」

「体力がないというか、歩くのが苦手だな。戦闘の時はなぜか誰よりも持久力がある」

「不思議な体しているよねぇ」

「そうなんだよなぁ」

 翔は司の腕を肩に回し、歩きながら湊と話す。
 そんな時でも司は「うるさいよ…………」と、かすれた声を出し、重たい体を引きづりながら何とか歩いていた。

 詩織が顔を青くして必死に歩いている司のとなりに移動し、顔をのぞき込む。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫ではないよ。運動とかマジで苦手なんだよね」

「でも、あやかしを退治する時は、そこまで顔を青くしませんよね?」

「まぁ、使う筋力とか、気持ち的なものが違うからじゃないかな」

(本当に、不思議な体しているんだなぁ)

 これ以上言っても疑問が生まれるだけだと思い、詩織はかばんに入れていたペットボトルを渡す。

「これ、まだ口を付けていないのでどうぞ。ぬるくはなっていると思いますが……」

「あはは……」と、苦笑いを浮かべながら水の入っているペットボトルを渡す。
 足を止め少し考えると、となりから手が伸び、詩織からペットボトルをうばった。

「「あっ」」

 二人が顔を上げると、ニヤニヤした顔を浮かべている翔が目に入る。

「司が飲まないのなら、詩織ちゃんからのペットボトルは俺がもらおうか」

 司から手を放し、翔はペットボトルのふたを開けようとする。
 そこで「詩織ちゃんの」という所を強調しているのが司の怒りに触れる。

 眉間にしわを寄せたかと思うと、ペットボトルをうばい取り、司は口を付けた。

「あっ」

「確かに、ぬるいね」

「そう言ったじゃないですか……」

 あげたのに文句を言われ詩織は頬をふくらませるが、司がどこかうれしそうなのを近くにいた翔は気づいていた。

 そのまま歩き進めていると、凛と司が急に足を止める。

 どうしたのかとみんなで見ると、そんな五人の上空に、二つの黒い影が現れる。
 手には、しゃくじょうがにぎられ、口元にはカラスのマスク。黒い目を光らせ、詩織を見ていた。

 黒い大きなつばさを広げる。瞬間、シャランと、じゃくじょうが音を鳴らした。

『ごしゅじんしゃまの』

『おおせのままに』

 上空にいた二体のあやかし、カラス天狗の背後には、いつのまにかユキと鬼火が現れていた。

 カラス天狗が気づいた時はおそく、ユキは大きなつららを出し、鬼火は成人男性を簡単に包み込めるほどの大きな火の玉を出した。

 大きな悲鳴を上げ、カラス天狗は何も抵抗できないまま灰となり、風に乗って姿を消した。

 下では、尊敬そんけいのまなざしを浮かべている翔と湊が、カラス天狗の消えた空を見上げていた。
 式神二体は、自身の主人の元に戻り、ほめてほしそうに目をかがやかせた。

 司と凛は笑みを浮かべ、いつものように頭をなで、ほめてあげお札に戻す。

「気配を感じてはいたけれど、こんなにあっさりとカラス天狗を倒してしまうなんてね」

「カラス天狗の場合は、前回の戦闘で長引かせてはいけないということを学んだの。先手必勝せんてひっしょう、考える暇すら与えず倒した方が簡単」

「私もそんな司を見習って、先手必勝してみたよ」

 司は前回のカラス天狗との戦闘で学んだことを活かし、凛は咄嗟とっさに司の戦闘に合わせた。
 二人とも、戦闘に関してのセンスがずば抜けており、翔と湊はほこりに思っていた。

「ここからはカラス天狗が現れるということだな。司と凛は大天狗を相手にするため、体力の温存。カラス天狗は俺達で出来る限り倒していこう」

 翔は湊に同意を求めた。
 すぐにうなずき、司達を下げ前に出た。

「僕たちはカラス天狗が出ても何もしなくていいの?」

「危なくなったら手を貸してほしいが、俺達の合図が無ければ詩織ちゃんを守ることに集中してほしい」

「わかった」

 ここから、戦闘が始まる。
 詩織は、緊張で汗をにじませ、作戦を話している四人を後ろから見ていた。

(これが、退治屋の仕事。私はやっぱり、場違いな気がしてきた)

 ここで自分が出来ることは何だろうと考えていると、司がふるえている詩織の手をつかんだ。

「え?」

「君は、これから大仕事が待っているんだから、色々考えるのはやめて、身の安全だけを考えていて」

 司が顔をのぞき込み言うと、水色の冷たいひとみで詩織の緊張の糸はほぐれ、自然と力が入っていた肩が下がる。
 息を大きく吐き、「ありがとうございます」と言った。

「ん? う、うん。どういたしまして?」

 はげましたつもりはなく、作戦を伝えただけの司は、何でお礼を言われたのかわからず首をかしげる。
 そんな司を気にせず、詩織は前を歩く翔たちの背中を見た。

(私に出来ることは少ない。でも、少ないからこそ、失敗しないように集中しないと!!)

 気合を入れ直し、詩織は歩く。
 司はいまだにわかっていないけど、詩織が元気になって良かったと、ひそかにほほ笑んだ。
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