氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-

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大天狗

氷鬼先輩からのお願い

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 学校にたどり着いた二人はすぐに別れ、それぞれの教室へと向った。

 いつものように授業を受け、昼休み。
 屋上で司と登校時の話の続きをした。

「つまり、大天狗を倒すため、氷鬼家と炎舞家が協力するってことですよね?」

「うん。実力は本物だし、そこまで心配いらないよ。絶対に負けない」

 強気な言葉を吐く司だが、不安はふるえる唇に現れている。
 詩織がそれに気づかないわけもなく、青空を見上げたかと思うと、司にとって予想外な言葉を放った。

「私も、なにか協力出来ませんか?」

 その言葉に、司は大きく目を開いた。
 手に持っていた焼きそばパンを落としそうになり、慌ててつかみ直す。

「だ、大丈夫ですか!?」

「へ、平気。少しおどろいただけだから」

 見ただけでも少しではないとわかる程動揺どうようしているが、詩織はそこに対しては何も言わない。

「な、何におどろいたんですか?」

「いや、だって。、協力って、どういう意味で言ってるのかなって思って…………」

「意味って、そのまんまの意味なんですが……」

 司の言葉の意味が分からず、詩織は眉を下げ問いかけた。

「えっと、その言葉の重さって理解している? 僕が行っているのは、あやかし退治。命をけているんだよ? 君は、命を一緒にけると言っているようなもんなんだよ? そこ、わかってるの?」

 司の言葉に、詩織は息を呑む。
 視線を落とし、考えた。

 やっぱり、ここまでは考えていなかったんだなと思い、やっぱり協力をお願いするのはやめようと考えた。

「――――大丈夫です。わかっていますよ」

 下げた顔を上げ、詩織は強気な笑みを浮かべた。
 水色のひとみを見つめ、言い切った。

「えっ、わかっているって……」

「はい、わかっています。それでも、協力したいです。なにか、出来ることはありませんか?」

 詩織の問いかけに、司はすぐに答えることが出来ない。
 口をもごもごとさせ、視線を逸らす。

 だが、詩織は逃がさない。
 視線を追いかけ、のぞき込んだ。

「氷鬼先輩、なにか、私に言いたいことがあるんじゃないですか? さっきから、言いにくそうな顔を浮かべています」

 しっかり見ているなぁと、司は観念かんねんしたように頭をガシガシと掻き、ため息を吐いた。

「ごめん、さっき、少しだけいじわるした」

「大丈夫ですよ。いじわるではありません。私のことを気遣きづかっての言葉であるのは、わかっていますから」

 顔を離し、座り直す。
 詩織は、困っている司を見て、クスクスと笑った。

「強いね、君」

「ふっふー!! だてに今まであやかしに追いかけられていませんよ!!」

「いばれることじゃないから……」

 胸を張って言い切った詩織に呆れつつ、司は昨日の話を伝えた。

「実は、君に協力してほしいんだ。鬼の血があれば、こっちが優先ゆうせんで戦えるから」

 協力してほしいと言っている割には、表情は暗い。
 唇を噛み、詩織から顔を逸らしている。

(氷鬼先輩、なんでこんなに後悔しているような顔を浮かべているんだろう。なんで、こんなにくやしそうなんだろう)

 司が何を思っているのかわからない。
 なにもわからないから、何も言えない。だが、何か言わなければならないと、頭をフル回転させた。

「え、えっと……。具体的には、何をすればいいのでしょうか」

「戦闘時、君の血が欲しいの。そうすれば、大天狗を酔わせることが出来て、勝算が上がる」

「それって…………」

「そう。君に、戦闘に来てほしいと言っているんだ。だから、無理強いはしないよ。何度も言っているけど、命をけてあやかし退治をしているんだ。そこを踏まえてしっかりと考えてほしい」

 司はそこまで言うと、また口を閉ざす。
 何も言わなくなった司を見て、詩織はなぜか、ほほえみを浮かべた。

「行きたいです。私、氷鬼先輩と共に、あやかし退治に!!」

「えっ、わかってるの? 君、死ぬかもしれないんだよ? 本当に、わかってる?」

 確かに、詩織なら協力すると言ってくれるとは思っていた。
 だが、まさか、ここまで早く判断するとは思っておらず、聞き返してしまう。

「わかっていますよ。普段からあやかしに追いかけられている私ですよ? どのくらい危険なのかはわかっていますよ」

 全て食べ終わったお弁当箱を片づけ、風呂敷で包み込む。
 その間、詩織は笑みを浮かべていた。

「それでも、私で役に立つのなら、頑張りたいです。私も、氷鬼先輩を守りたいです。いつも、守ってくださっているので」

 顔を上げ、司を見た。
 迷いはなく、真っすぐ黒いひとみは司を見ていた。

 覚悟が見えかくれしているそのひとみに、司はもう引けないと察した。

「はぁぁぁ……。やっぱり、そうなるよね……」

「やっぱり?」

「うん。君なら絶対に受けると思っていたんだ。だから、言うのに悩んでしまった。君を、危険な場所に連れて行きたくないから」

 司の素直な言葉に、詩織は頬を淡く染める。

(そこまで考えてくれていたんだ。そこまで真剣に、私のことを守ってくれているんだ)

 それがわかると、詩織の口元がほころぶ。
 笑みが自然と浮かび、司の頭をなでた。

「ありがとうございます。本当に、氷鬼先輩の気持ち、嬉しいです」

 笑みを向けられ、頭をなでられている司は、何が起きたのかわからない。
「は?」と、目を丸くし、詩織を見る。

 沈黙ちんもくが続く中、詩織は自分が行ってしまっている行動に自分でおどろき、顔が真っ赤になる。

「す、すすすす、すいません!!」

 ズサササッとはなれ、真っ赤になった顔をかくす。

(な、ななな、何をしているの私。本当に、何をしているの!? 無意識だったとはいえ、氷鬼先輩に、なんてことをしてしまったんだ!!)

 一人で後悔していると、司が撫でられていた頭を触り、淡く染まっている顔を腕でかくす。

「あぁ……。本当に、君って人との距離感おかしいよね」

「え、そうですか? いや、確かに今回のは、あの、すいませんでした」

「別に、いやじゃないから大丈夫だよ」

 頭を押さえていた腕を下げ、司は顔を上げ詩織を見た。

「今回の件、受けてくれてありがとう。炎舞家に報告しておくよ。次からは君も作戦会議に入ることになるけど、予定はない?」

「大丈夫ですよ。親に伝えておけば、特に……。友達もいないですし……」

「あはは……」と、目を逸らし悲しいことを言う。
 友達に関しては繊細せんさいなところなため、司は何も言わない。

 咳払いをして、ラスト一口の焼きそばパンを口に含む。
 立ち上がると、屋上から出ようと歩き出した。

「あ、待ってください!」

「これから、放課後はいつでも空けていてほしい。作戦を立てるときは、学校で伝えるから」

「え、それなら、連絡先を交換しませんか? その方がお互い楽だと思います」

 言いながらポケットからスマホを取り出した。
 司は、顔だけを後ろに回し、「え」と、呆けた声を出す。

「いいの?」

「え、いいですよ?」

 なぜ、改めていいのか聞かれたのかわからず、ひとまずうなずく。
 司へと近づき、連絡先の画面を開いて見せた。

「登録、お願いします」

 笑顔で詩織が言うと、司は少し迷ったがスマホを取り出し連絡先を入力。送信し、交換した。

「ありがとうございます」

「こちらこそ」

 言うと、チャイムが鳴る。
 二人は自分の教室に戻り、放課後にまた共に帰ることを約束した。
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