氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-

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大天狗

氷鬼先輩が不安そう?

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 自室に戻った司は、テーブルにうなだれる。

 どうすればいいのか、話を持って行ってもいいのか。
 自問自答が頭の中をかけ回り、答えが出ない。

「…………詩織なら、受けてしまいそう」

 詩織は。やさしい。
 今まで守ってくれた人が助けを求めてきたのなら、少しでも力になりたいと考えてしまう。

 だからこそ、そのやさしさに甘えて話を持って行くのは、と。
 もんもんと同じ自問がくり返される。

 司がテーブルにうなだれていると、ふすまの外から声が聞こえた。

『司、俺だ』

 その声は、兄である翔の声。
「はい」と、返事をするとふすまが開いた。

「すっごい、渋い顔をしてるな」

「渋いかどうかはわからないけど、まぁ…………」

 翔は司のとなりに腰を下ろした。
 となりに座る彼を見ず、司は視線を下に落す。

「詩織ちゃんを巻き込みたくないんだろう?」

「当たり前だよ。普段から大変な思いをしている詩織を、わざわざ危険なところに連れて行くなんて考えたくもない」

「でも、湊の言う通り、勝算を考えると、連れて行った方がこちらが有利になる」

 そのこともわかっている為、司は悩んでいた。

 手先であるカラス天狗でさえ、あの強さ。
 従えている大天狗がどれだけ強いかなど、予想ができない。

 少しでも勝算が高い作戦を立てたいのは当然。
 少しでも有利に戦況せんきょうを動かしたいのは当然。

 今回の件に、私欲はいらない。
 それでも、自分の好きな人を危険なところに連れて行きたくない。

 もう、同じことを何度も何度もくり返し考えすぎてしまい、司はまたしてもうなだれてしまった。

 そんな彼の頭をなでたかと思うと、翔は笑みを浮かべ口を開いた。

「連れて行きたくなければ、連れて行かなくてもいいぞ」

「え、でも…………」

 少しだけ顔を上げ、翔を見上げる。

「作戦の一つとして、鬼の血はあった方がいいかもしれない。だが、今回は俺達氷鬼家と、炎舞家の合同退治だ。しかも、出るのが俺と、司。凛ちゃんと湊。このメンバーで、簡単に負けると思うか?」

 翔の言う通り、凛と湊は、司程ではないにしろ、強い。
 凛は炎の式神を多様に使える、式神使い。
 湊は自身の体に炎をまとわせ、肉弾戦にくだんせんを主に戦闘を行っている。

 二人とも、今まで退治で失敗したことはなく、実力は高い。
 万が一、詩織がいなくても実力だけで倒せる。

 司は、翔の言葉に体を起こす。
 笑みを浮かべている翔を見上げた。

「…………話しだけは、してみる」

「いいのか? あの子なら断らないような気がするが?」

「僕もそう思うよ。でも、やっぱり今回の件は、私欲を入れてはいけない。それに、カラス天狗が一度、詩織を狙っているということは、今後も狙われてしまうかもしれない。そうなれば、守り切るのはどっちにしろ、むずかしい」

 まだ、けわしい顔を浮かべている司だが、それでも自身のさだめを受け入れ、明日詩織に話すことを決めた。
 覚悟を決めた司にはもう何も言えないと、翔は「頑張れ」と、背中を押した。

 ※

 次の日、詩織の家に司が迎えに来た。

「来てくれてありがとうございます」

「僕が言ったことだから気にしないで」

 二人は住宅街を歩き、司は昨日の話を伝えた。
 だが、まだ詩織にも協力してほしいということは、まだ伝えられていない。

「なるほど。大天狗って、カラス天狗の親玉なんですよね?」

「そうだよ」

「強そう…………」

「強いよ。ものすごくね」

 真っすぐ前を見ている司を横目で見て、詩織は肩にかけているスクールバックの持ち手部分を強く掴む。
 顔をうつむかせている詩織を不思議に思い、司は前まで移動し、顔をのぞかせた。

「どうしたの?」

 藍色あいいろの髪からのぞき見えるのは、水色のひとみ
 見つめられるだけで心臓が波打ち、詩織はあわてて後ろに下がった。

「な、ななななな、なんでもありません!」

 赤くなる顔をごまかして、詩織は顔の前で手を振る。
 首をかしげている司は、不安そうに眉を下げてしまう。

「え、あの。氷鬼先輩? なにかありましたか?」

 司を気遣きづかう言葉に、彼はうれしい気持ちと申し訳ない気持ちで胸がいっぱいとなる。
 今、ここで言ってしまってもいいものなのか。聞いてしまってもいいものなのか。

 司は、答えを出せない。
 ただ、今は自分を見上げて来る詩織を見ることしか、出来ない。

 歯がゆい気持ちの中、詩織は腕時計を見る。

「あっ。先輩、時間がありませんよ」

「そうだね、行こうか」

 登校の時間がせまっていた。
 ここでは話せないなとあきらめ、司は詩織と共に学校に向った。
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