19 / 42
カラス天狗
氷鬼先輩とつっくん
しおりを挟む
『なに!? ばかな! 人間が、我の出した毒に耐えられるなどありえん! 何故、無事なんだ!』
「僕、氷鬼家の天才だから』
翼を動かし、司はカラス天狗に向かう。
距離を取ろうとカラス天狗は後ろに後退するが、そこには雪女であるヒョウリがいた。
後ろから手を回され、しゃくじょうをつかんでいる手は冷たい手により動かせなくなった。
瞬間、カラス天狗の手は水色に変色し、凍り付く。
『な、き、きさま……』
動けなくなったカラス天狗は、目の前から近づいて来る司を、恨みの込められた瞳で見る。
手には刀を持っており、狐の面から見える水色の瞳は、獲物を狙うようにするどく光っていた。
『や、やめ―――』
「あと、これだけは教えてあげるよ、カラス天狗。人はな、守る人がいればいるほど、強くなれるんだ。 そして、僕は詩織と約束した。最後まで、必ず守るって」
刀が届く距離まで近づいて来た司に、カラス天狗はふるえた。
目先には刀の先、キランの光を放つ。
「詩織は、僕の初恋の相手で、今も大事な人。僕が、守ってあげるんだ。残念だったね、カラス天狗。僕がいる限り、詩織には指一本すら触れさせないよ。まぁ、今ここで切られるのだから、どうでもいいか」
言うと、司は刀を振りかぶる。
カラス天狗は刀を見上げ、逃げようと無理やり体を動かそうとするも、ヒョウリがそれを許さない。
「俺の大事な人を狙った罪、今ここでつぐなえ」
『きさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!』
――――――――ザシュ
カラス天狗の肩から横腹にかけて、司が刀を振るった。すると、黒いけむりがきられた箇所からふき出した。
ヒョウリが手をはなすと、カラス天狗は下へと落ちる。
地面にぶつかる前に、黒いもやとなる。風に乗り、空中へと消えて行った。
周りを埋め尽くしていた黒いもやも、どんどんうすれていく。
「終わった……の?」
「みたいね」
司がゆっくりと地面に降りると、背中に生えていた氷の翼は弾けるように無くなった。
詩織と涼香を守っていた結界も、一緒に無くなる。
「司、お疲れ様」
「氷鬼先輩! あの、怪我はありませんか?!」
二人が狐面を付けている司に近付き問いかけた。
司は狐面を取り、頭をガシガシと掻き二人を見た。
「僕は平気。君達は怪我はない? 気持ち的なものも、大丈夫?」
心配そうに聞いた司の言葉に、涼香はとなりにいる詩織を見る。
「怪我は大丈夫です。あの、守ってくださり、ありがとうございます」
「それが僕のやるべきことで、約束だから」
――――――――シャラン
司がほほえみを浮かべながら詩織を見る。
瞬間、彼女の頭の中できれいな鈴の音と共に、過去の記憶がよみがえった。
過去にいた少年と、同じ笑顔をうかべ、詩織を見る司。
(今の笑顔、言葉。しかも、手に持っている狐面。私は知っている、この人を、知っている)
「ん? 僕を見てどうしたの、詩織」
ジィっと見て来る詩織が気になり、司は狐面を涼香にわたしながら問いかけた。だが、詩織は何も答えず司を見続ける。
胸元の服を強く掴み、眉を寄せる詩織に司は、片眉を上げ近付いた。
「どうしたの、なにかあったのか? まさか、今回のせいでどこか痛めたの? それなら遠慮せずに言ってほしいんだけど」
顔を俯かせている詩織が何を思っているのかわからず、司はどんどん焦り始める。
何を言って、どうすればいいのかわからず、涼香に助けを求めるように見た。けど、肩を落とし、目を逸らされてしまい答えを得ることは出来なかった。
「では、私はこれで失礼するわね。司、逃げないで最後まで守り抜くのよ? 体だけではなく、心もね!」
「え、ちょっ!」
そのまま、さらっと狐面を司からうばい取り、涼香は助けを求めている司に目もくれず歩き去ってしまった。
残されたのは、顔をうつむかせている詩織と、どうすればいいのかわからず慌てている司の二人。
「えっと、本当にどうしたの? やっぱり、どこか痛めちゃった?」
「いえ、私は特に何も。痛くもないし、あやかしに追いかけられるのは慣れているので、問題はないです」
「それじゃ、なんで顔を上げてくれないの?」
「そ、それは…………」
(だって、だって!! 氷鬼先輩、確実に過去、私を助けてくれた少年じゃないですか。忘れていたとはいえ、私は今まで恥ずかしいことを言っていた。会いたいとか、言っていた!!)
どんなに質問をしても答えてくれない詩織。
顔をうつむかせているため表情を見ることは出来ないが、彼女の雰囲気で司は何かを察したように数回、瞬きを繰り返した。
「詩織、いや。…………しーちゃん?」
「えっ、先輩? その呼び方…………」
いきなり昔の呼び方をされ、詩織は思わず顔を上げ司を見上げた。
その顔はほんのり赤く、茶色の瞳が揺れていた。
「…………僕、昔、苗字がひょうきって呼びにくいから、つっくんってある女の子に呼ばれていたんだよね」
(その呼び方、私が昔、あの少年に呼んでいた呼び方と同じだ)
「その女の子はいつも一人で公園で遊んでいたり、一人で行動することが多かったんだ。なんでだろうと思いながらも家にいたら、頭にいやな予感が走った。何も考えずに走っていると、その女の子が走りながら森の中に入っていく姿を見たんだ。その女の子の後ろには、おはぐろべったりがいた。さすがにまずいと思って追いかけたら、案の定。あと、もう少しでおそわれそうになっていた。その子が僕のことをこう呼んでいたの。”つっくん”って」
詩織の頬をなで、ほほえみながら言った司の表情に、詩織は口をふるわせ目からは大粒の涙をこぼした。
「やっぱり、そう、だよね。そう、ですよね、先輩?」
「うん、僕が昔、君と約束した小さな男の子、つっくんだよ。しーちゃん」
さっきまでの葛藤が嘘のように、詩織はがまんできず地面をけり、思いっきり司に抱き着いた。
「守ってくれてありがとう、つっくん!!」
「僕、氷鬼家の天才だから』
翼を動かし、司はカラス天狗に向かう。
距離を取ろうとカラス天狗は後ろに後退するが、そこには雪女であるヒョウリがいた。
後ろから手を回され、しゃくじょうをつかんでいる手は冷たい手により動かせなくなった。
瞬間、カラス天狗の手は水色に変色し、凍り付く。
『な、き、きさま……』
動けなくなったカラス天狗は、目の前から近づいて来る司を、恨みの込められた瞳で見る。
手には刀を持っており、狐の面から見える水色の瞳は、獲物を狙うようにするどく光っていた。
『や、やめ―――』
「あと、これだけは教えてあげるよ、カラス天狗。人はな、守る人がいればいるほど、強くなれるんだ。 そして、僕は詩織と約束した。最後まで、必ず守るって」
刀が届く距離まで近づいて来た司に、カラス天狗はふるえた。
目先には刀の先、キランの光を放つ。
「詩織は、僕の初恋の相手で、今も大事な人。僕が、守ってあげるんだ。残念だったね、カラス天狗。僕がいる限り、詩織には指一本すら触れさせないよ。まぁ、今ここで切られるのだから、どうでもいいか」
言うと、司は刀を振りかぶる。
カラス天狗は刀を見上げ、逃げようと無理やり体を動かそうとするも、ヒョウリがそれを許さない。
「俺の大事な人を狙った罪、今ここでつぐなえ」
『きさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!』
――――――――ザシュ
カラス天狗の肩から横腹にかけて、司が刀を振るった。すると、黒いけむりがきられた箇所からふき出した。
ヒョウリが手をはなすと、カラス天狗は下へと落ちる。
地面にぶつかる前に、黒いもやとなる。風に乗り、空中へと消えて行った。
周りを埋め尽くしていた黒いもやも、どんどんうすれていく。
「終わった……の?」
「みたいね」
司がゆっくりと地面に降りると、背中に生えていた氷の翼は弾けるように無くなった。
詩織と涼香を守っていた結界も、一緒に無くなる。
「司、お疲れ様」
「氷鬼先輩! あの、怪我はありませんか?!」
二人が狐面を付けている司に近付き問いかけた。
司は狐面を取り、頭をガシガシと掻き二人を見た。
「僕は平気。君達は怪我はない? 気持ち的なものも、大丈夫?」
心配そうに聞いた司の言葉に、涼香はとなりにいる詩織を見る。
「怪我は大丈夫です。あの、守ってくださり、ありがとうございます」
「それが僕のやるべきことで、約束だから」
――――――――シャラン
司がほほえみを浮かべながら詩織を見る。
瞬間、彼女の頭の中できれいな鈴の音と共に、過去の記憶がよみがえった。
過去にいた少年と、同じ笑顔をうかべ、詩織を見る司。
(今の笑顔、言葉。しかも、手に持っている狐面。私は知っている、この人を、知っている)
「ん? 僕を見てどうしたの、詩織」
ジィっと見て来る詩織が気になり、司は狐面を涼香にわたしながら問いかけた。だが、詩織は何も答えず司を見続ける。
胸元の服を強く掴み、眉を寄せる詩織に司は、片眉を上げ近付いた。
「どうしたの、なにかあったのか? まさか、今回のせいでどこか痛めたの? それなら遠慮せずに言ってほしいんだけど」
顔を俯かせている詩織が何を思っているのかわからず、司はどんどん焦り始める。
何を言って、どうすればいいのかわからず、涼香に助けを求めるように見た。けど、肩を落とし、目を逸らされてしまい答えを得ることは出来なかった。
「では、私はこれで失礼するわね。司、逃げないで最後まで守り抜くのよ? 体だけではなく、心もね!」
「え、ちょっ!」
そのまま、さらっと狐面を司からうばい取り、涼香は助けを求めている司に目もくれず歩き去ってしまった。
残されたのは、顔をうつむかせている詩織と、どうすればいいのかわからず慌てている司の二人。
「えっと、本当にどうしたの? やっぱり、どこか痛めちゃった?」
「いえ、私は特に何も。痛くもないし、あやかしに追いかけられるのは慣れているので、問題はないです」
「それじゃ、なんで顔を上げてくれないの?」
「そ、それは…………」
(だって、だって!! 氷鬼先輩、確実に過去、私を助けてくれた少年じゃないですか。忘れていたとはいえ、私は今まで恥ずかしいことを言っていた。会いたいとか、言っていた!!)
どんなに質問をしても答えてくれない詩織。
顔をうつむかせているため表情を見ることは出来ないが、彼女の雰囲気で司は何かを察したように数回、瞬きを繰り返した。
「詩織、いや。…………しーちゃん?」
「えっ、先輩? その呼び方…………」
いきなり昔の呼び方をされ、詩織は思わず顔を上げ司を見上げた。
その顔はほんのり赤く、茶色の瞳が揺れていた。
「…………僕、昔、苗字がひょうきって呼びにくいから、つっくんってある女の子に呼ばれていたんだよね」
(その呼び方、私が昔、あの少年に呼んでいた呼び方と同じだ)
「その女の子はいつも一人で公園で遊んでいたり、一人で行動することが多かったんだ。なんでだろうと思いながらも家にいたら、頭にいやな予感が走った。何も考えずに走っていると、その女の子が走りながら森の中に入っていく姿を見たんだ。その女の子の後ろには、おはぐろべったりがいた。さすがにまずいと思って追いかけたら、案の定。あと、もう少しでおそわれそうになっていた。その子が僕のことをこう呼んでいたの。”つっくん”って」
詩織の頬をなで、ほほえみながら言った司の表情に、詩織は口をふるわせ目からは大粒の涙をこぼした。
「やっぱり、そう、だよね。そう、ですよね、先輩?」
「うん、僕が昔、君と約束した小さな男の子、つっくんだよ。しーちゃん」
さっきまでの葛藤が嘘のように、詩織はがまんできず地面をけり、思いっきり司に抱き着いた。
「守ってくれてありがとう、つっくん!!」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ミズルチと〈竜骨の化石〉
珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。
一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。
ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。
カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。
妹はいじめられっ子で兄は不登校だけど妖怪たちの学校で頑張ります!
中村緑
児童書・童話
小学5年生の羽瀬川いおりには不登校の兄がいる。私立中学に心の病気で不登校中の中学生だ。その兄が原因でわたしまでいじめられることになり、不登校といじめられっ子の兄妹となってしまった。
ところがある日、妖怪の兄妹が現れて……!?
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる