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カラス天狗
氷鬼先輩の本気
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司が叫ぶと同時に、カラス天狗から黒いもやのようなものが突如、いきおいよく噴射された。
「何!?」
詩織がおどろきの声を上げると、司が口を手で押さえながら詩織と涼香を囲うように結界を張った。
「結!!」
黒いもやは、たちまち司の姿を覆いかくす。
二人は彼の出した結界により守られ無事だが、司の姿が見えなくなり、不安そうに周りを見回す。
「何が起きたの…………」
「わからないわ。でも、さっきの司の表情からして、このもやは普通ではないことは確か。私達を守ることに必死で、自分の守りをおろそかにしていなければいいのだけれど――それは問題なさそうね」
何かを見つけたのか、涼香は安心したように息を吐いた。
「え、問題なさそうって…………」
「見てみなさい」
(見てみなさいと言われても、結界の外は黒いもや。見たくても、先輩の姿を見つけることが出来ない)
目を凝らし、詩織がもやの中を見ていると、かすかに何かが見えた。
それは結界とはまた違う、でも透明な箱。キラキラと輝いている。
ずっと見ていると、それが氷なのだと詩織はわかった。
(こお、り? 中にいるのって、氷鬼先輩!?)
氷を四角く作り出し、中で司がしゃがみこんでいた。
となりには、手で口元を隠しているヒョウリの姿。冷たい青い瞳は、上空にいるカラス天狗を見ていた。
「このもやは、おそらく毒ガスと同じ成分を持つわ。人間である私達が少しでも吸っていたら、死んでいたかもしれないわね」
「え、そんな危険なものを……?」
「相手は、カラス天狗よ。ここまでのことは平然とやるわ。主である大天狗の為なら喜んで命をささげる者達だもの」
もやに囲まれている司は、身動きが取れない。
氷で結界を張っているが、それもいつまで持つかわからない。
『ご主人様、大丈夫ですか?』
「とっさにヒョウリが私に氷の結界を張ってくれたおかげで無傷ですよ」
『それなら良かったです。ですが、あの者を凍らせるのは、少々むずかしくなったかと』
「そうですね。どうするか、考え直さないといけませんね」
司もヒョウリの目線を追うように上を向く。
そこにいるのは、間違いなくカラス天狗。だが、見た目が変わっていた。
今までは人間の姿が残っていたカラス天狗だが、今はもうそんな面影はない。
足は鳥のように細く、三本指になっている。手は翼にくっつき黒く、マスクだったはずの口は本物のくちばしとなっていた。
「あれが、カラス天狗の本来の姿」
『そのようです。体も一回り大きくなっておりますね』
ヒョウリが言うように、体も先ほどより大きい。
人間より大きくなったカラスが、服を着て司達を見下ろしている。
詩織はおどろきのあまり口をあんぐり。涼香は眉間にしわを寄せ、むずかしそうな顔でカラス天狗を見上げた。
『これが本来の我だ。残念だったな、人間よ。我にこの姿を出させたことはほめてやろう。だがな、それだけだ。ぬしは今、ここで死ぬ。我にこの姿を出させてしまったことによってな』
勝ちを確信したような口ぶりに、司は舌打ちをこぼした。
「確かに、もう少し早く倒せばよかったと思っていますよ。ですが、これはこれで情報を手に入れられたとプラスに考えさせていただきます」
『情報? どうせここでぬしは死ぬというのに。情報を抜き取ったところで意味はないだろう』
司とヒョウリはお互い目を合わせ、うなずき合う。
何かを企む二人だが、カラス天狗は気づかない。自分ならこんな人間など簡単に倒せる、そう過信していた。
そこに、隙が生まれる。
今まで、カラス天狗は今の姿になって負けたことがない。いつも一瞬で終わらせていた。
そんな記憶が、今のカラス天狗の判断をにぶらせる。
「あるよ。だって、勝つのは僕だからね」
口調が元に戻る。
強気に笑い、カラス天狗を見上げた。
『なに?』
「ヒョウリを出して、僕は今まで負けたことがない。それだけ、こいつは強い。悪いが、負けるのはお前だ、カラス天狗」
言うと、ヒョウリが上空にいるカラス天狗へと向かって行く。だが、それは好都合だと言うように、カラス天狗はしゃくじょうを振りかぶった。
『おろかな』
ヒョウリが目の前まで来ると、カラス天狗がしゃくじょうをななめに振り下ろす。
その直前、ヒョウリが冷気と共に姿を消した。
次に姿を現したのはカラス天狗の後ろで、振り向くと同時に切りつけた。だが、先程と同じく姿を消し、かわされる。
『幻覚か?』
「氷は相手をゆがんだ姿で映し出す。本物だと思っても、それは偽物。お前に、本物を引き当てることは可能かな?」
ばかにするような司の口調に、カラス天狗の怒りがふつふつとわき上がり、顔を赤くした。
『本物がわからぬのなら、全体へ攻撃すればよい』
カラス天狗が右手を前に出すと、どこから黒いもやを噴射。
今より、辺りの空気が毒におかされる。
「―――なるほどな」
司を守る氷が解け始めた。
簡単には溶かすことが出来ない氷が溶け始めたことで、カラス天狗はほくそ笑む。
「あー、うん。しょうがない。まぁ。毒には耐性がある。僕も加勢しようか」
――――――――パリーン
司を守っていた結界が音を立て崩れた。
同時に、彼の背中には、氷のきれいな翼《つばさ》が作られた。
「何!?」
詩織がおどろきの声を上げると、司が口を手で押さえながら詩織と涼香を囲うように結界を張った。
「結!!」
黒いもやは、たちまち司の姿を覆いかくす。
二人は彼の出した結界により守られ無事だが、司の姿が見えなくなり、不安そうに周りを見回す。
「何が起きたの…………」
「わからないわ。でも、さっきの司の表情からして、このもやは普通ではないことは確か。私達を守ることに必死で、自分の守りをおろそかにしていなければいいのだけれど――それは問題なさそうね」
何かを見つけたのか、涼香は安心したように息を吐いた。
「え、問題なさそうって…………」
「見てみなさい」
(見てみなさいと言われても、結界の外は黒いもや。見たくても、先輩の姿を見つけることが出来ない)
目を凝らし、詩織がもやの中を見ていると、かすかに何かが見えた。
それは結界とはまた違う、でも透明な箱。キラキラと輝いている。
ずっと見ていると、それが氷なのだと詩織はわかった。
(こお、り? 中にいるのって、氷鬼先輩!?)
氷を四角く作り出し、中で司がしゃがみこんでいた。
となりには、手で口元を隠しているヒョウリの姿。冷たい青い瞳は、上空にいるカラス天狗を見ていた。
「このもやは、おそらく毒ガスと同じ成分を持つわ。人間である私達が少しでも吸っていたら、死んでいたかもしれないわね」
「え、そんな危険なものを……?」
「相手は、カラス天狗よ。ここまでのことは平然とやるわ。主である大天狗の為なら喜んで命をささげる者達だもの」
もやに囲まれている司は、身動きが取れない。
氷で結界を張っているが、それもいつまで持つかわからない。
『ご主人様、大丈夫ですか?』
「とっさにヒョウリが私に氷の結界を張ってくれたおかげで無傷ですよ」
『それなら良かったです。ですが、あの者を凍らせるのは、少々むずかしくなったかと』
「そうですね。どうするか、考え直さないといけませんね」
司もヒョウリの目線を追うように上を向く。
そこにいるのは、間違いなくカラス天狗。だが、見た目が変わっていた。
今までは人間の姿が残っていたカラス天狗だが、今はもうそんな面影はない。
足は鳥のように細く、三本指になっている。手は翼にくっつき黒く、マスクだったはずの口は本物のくちばしとなっていた。
「あれが、カラス天狗の本来の姿」
『そのようです。体も一回り大きくなっておりますね』
ヒョウリが言うように、体も先ほどより大きい。
人間より大きくなったカラスが、服を着て司達を見下ろしている。
詩織はおどろきのあまり口をあんぐり。涼香は眉間にしわを寄せ、むずかしそうな顔でカラス天狗を見上げた。
『これが本来の我だ。残念だったな、人間よ。我にこの姿を出させたことはほめてやろう。だがな、それだけだ。ぬしは今、ここで死ぬ。我にこの姿を出させてしまったことによってな』
勝ちを確信したような口ぶりに、司は舌打ちをこぼした。
「確かに、もう少し早く倒せばよかったと思っていますよ。ですが、これはこれで情報を手に入れられたとプラスに考えさせていただきます」
『情報? どうせここでぬしは死ぬというのに。情報を抜き取ったところで意味はないだろう』
司とヒョウリはお互い目を合わせ、うなずき合う。
何かを企む二人だが、カラス天狗は気づかない。自分ならこんな人間など簡単に倒せる、そう過信していた。
そこに、隙が生まれる。
今まで、カラス天狗は今の姿になって負けたことがない。いつも一瞬で終わらせていた。
そんな記憶が、今のカラス天狗の判断をにぶらせる。
「あるよ。だって、勝つのは僕だからね」
口調が元に戻る。
強気に笑い、カラス天狗を見上げた。
『なに?』
「ヒョウリを出して、僕は今まで負けたことがない。それだけ、こいつは強い。悪いが、負けるのはお前だ、カラス天狗」
言うと、ヒョウリが上空にいるカラス天狗へと向かって行く。だが、それは好都合だと言うように、カラス天狗はしゃくじょうを振りかぶった。
『おろかな』
ヒョウリが目の前まで来ると、カラス天狗がしゃくじょうをななめに振り下ろす。
その直前、ヒョウリが冷気と共に姿を消した。
次に姿を現したのはカラス天狗の後ろで、振り向くと同時に切りつけた。だが、先程と同じく姿を消し、かわされる。
『幻覚か?』
「氷は相手をゆがんだ姿で映し出す。本物だと思っても、それは偽物。お前に、本物を引き当てることは可能かな?」
ばかにするような司の口調に、カラス天狗の怒りがふつふつとわき上がり、顔を赤くした。
『本物がわからぬのなら、全体へ攻撃すればよい』
カラス天狗が右手を前に出すと、どこから黒いもやを噴射。
今より、辺りの空気が毒におかされる。
「―――なるほどな」
司を守る氷が解け始めた。
簡単には溶かすことが出来ない氷が溶け始めたことで、カラス天狗はほくそ笑む。
「あー、うん。しょうがない。まぁ。毒には耐性がある。僕も加勢しようか」
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