氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-

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カラス天狗

氷鬼先輩と雪女

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『これから何をしようと考えているかわからぬが、我の視界を晴れさせたのはそちらの落ち度だったな。視野が広くなり、我も動きやすくなった』

「そのようなこと、今の私には関係ありませんよ。こちらは、私が出せる全力で、あなたを倒させていただきます」

 カラス天狗は、両手でしゃくじょうをかまえ、司はお札に力を込め始める。

「今からここは氷点下ひょうてんか、せいぜい凍らないように気を付けてくださいね。あなたのような、見た目だけはいい男は、この子の大好物ですよ―――来なさい、ヒョウリ」

 お札から冷気があふれ、一つに集まる。
 風でなびく髪を抑えながら、司は涼香にアイコンタクト。すぐに何を言いたいのか察した涼香は、すぐに詩織の前に立った。

「あ、あの。氷鬼先輩は大丈夫なの?」

「大丈夫よ、安心して。今の彼を止められるものなど、この場にいないわ。それがたとえ、カラス天狗だろうとね」

 勝ち誇ったように言い切った涼香に、詩織は眉を下げながら司を見る。

(…………何だろう。不安がまったくないわけじゃないけど、今の氷鬼先輩なら、本当に大丈夫な気がする)

 詩織が祈るように胸元で手を組む。

(どうか、神様。氷鬼先輩を、守ってください)

 心中で祈っている中、司は準備が整い、口元に笑みを浮かべていた。

「準備は整いました。さぁ、ショータイムの開始です」

 冷気は司の言葉と同時にはじけ、中からは一人の美しい女性が姿を現した。
 腰まで長い水色の髪に、白い着物に水色の帯。つり目の青いひとみは、目の前にいるカラス天狗を見据みすえていた。


『まさか、氷のあやかしの中でも上級者しか扱えない式神、雪女を所持しょじしていたとはな』

「私は、これでも小さい頃から天才と呼ばれてしたわれていたので。力も抑えられないくらい強かったし、これくらいは簡単ですよ」

 お札を握っていた司の手は水色に変色している。
 雪女を出した反動で、司の身体も冷たくなっていた。

『そう口では言っているが、長くはもたなそうだぞ。大丈夫か?』

「そんなことはありませんよ、余裕です」

 口では余裕と言い切っているが、体は冷たく、カタカタとかすかにふるえている。
 カラス天狗の言う通り、時間はなさそう。

「それでは、そちらさんが来ないのであれば、こちらから行かせていただきます。ヒョウリ、私達をおそい、命を狙ったカラス天狗を凍らせなさい」

 お札を持っている水色に染った手をカラス天狗に向け、ヒョウリに言い放った。

『了解いたしました、我があるじ。見た目は悪くありません、私のコレクションに加えさせていただくのも良いでしょう』

 フフッとヒョウリが笑うと、冷気が辺りに広がり、司の後ろにいる涼香と詩織の身体をふるわせた。

『こしゃくな。我を甘く見るでないぞ、こあっぱが』

 ――――シャラン

 カラス天狗が大きくしゃくじょうを振ると、ひときわ大きな音が鳴りひびいた。
 瞬間、この場にいる全員が体にしびれるような感覚が走り、力が抜ける。

「な、何が!?」

「やってくれたわね……。私がせっかく解いたのに、また、自分有利な結界を張ったのね」

(え、結界? 結界って、私達を閉じ込めるだけの物じゃないの? それを今張ったところで、誰も逃げる訳ない。結界を張ったところで意味ないんじゃないの?)

 力が抜け、その場に座り込んでしまった詩織は、地面に手を尽きながら考えた。
 そんな彼女の肩を支え、険しい顔を浮かべる涼香。

 二人の緊張など気にせず、司とヒョウリは何故か周りを警戒けいかいし始めた。

あるじ、周りをすべて凍らせ、おびき出しますか?』

「............いえ。ヒョウリなら相手が動き出してからでも対処可能でしょう。こちらが手の内をさらし過ぎるのは避けたいです」

『信じていただけて光栄です。了解いたしました』

 二人の会話など聞こえていないカラス天狗は、しゃくじょうを再度振る。

 ――――シャラン

 きれいな音がひびくと、カラス天狗の影が司へと伸び始めた。
 そこから、カラス天狗と同じ形をしている影が数体、現れた。

「なるほど、影を操る空間を作り出したという訳ですね。確かにこれは、自分で結界を作り、太陽の光を無効にしなければなりません」

 影が、黒いしゃくじょうのような形のものを持ち、一斉いっせいに司とヒョウリにおそい掛かった。

「ヒョウリ、凍らせなさい」

『了解いたしました、ご主人様』

 ヒョウリが司の言葉に答えるように、口元を抑えていた手をはなし、青い唇を開いた。

「ふぅぅぅう」

 ヒョウリは、白い息を口から吹く。
 息は、すべての影で作られたカラス天狗を包み込んだ。

『なっ、まさか……』

 白い息に包まれた影達は、何もできないまま凍らされ、動かなくなった。
 動こうともがいているのか、氷がピキピキと音を鳴らすだけ。

「雪女の氷は、普通の火でも溶かすことが出来ず、どんなに力がある者でも簡単にはこわせない。そんなかたい氷を、あなたはこわせますか?」

 勝ち誇ったように問いかける司に怒りが芽生え、しゃくじょうをにぎるカラス天狗の手に力が込められる。

『我をぐろうするか。よかろう、今すぐ、ここで、ほうむってやるわい!!』

 叫ぶと、氷に動きを封じ込められていた影達が、氷もろともはじけこなごなとなった。
 次に何が来るのか警戒けいかいしていると、カラス天狗自らが上空に移動し、上から下にいる者達を見下ろした。

『これだけはどうしても出したくなかったが、仕方がない。背に腹は代えられん』

 カラス天狗は自身の右目を覆い隠す。
 何が始まるのかと見ていた司だったが、いち早くカラス天狗の異変に気付き、詩織達に叫んだ。

「今すぐ、出来るだけ遠くに逃げろぉぉおお!!」
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