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カラス天狗
氷鬼先輩と宝物
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「そう、狐の面よ」
詩織の疑問に、涼香は笑みを浮かべて答える。
『その狐の面がどうしたというのだ』
「ふふっ、こうするのよ。これであなたは終わり、残念だったわね。私が結界を解くのに手間取っている時に倒さなかったことを、後悔しなさい」
涼香は言うと同時にその場にしゃがみ、狐面を司にわたした。
「さぁ、ここからが本番よ、司。動けるわよね?」
まだ咳き込んでいた司だったが、口元を拭き、にやりと笑う。
狐面を受け取り、顔に付けた。
「当たり前。僕がここで負けるわけがないよ」
先程まで動かなかったはずの体をゆっくりと立ち上がらせる。
ふらつくこともせず、地面を踏みしめた。
「ありがとう、涼香。もう下がっていいよ。――――あとは、私に任せてください」
口調と声色が変わる。
涼香が「わかったわ」と下がると、狐面を付けた顔を上げた。
瞬間、カラス天狗の体がふるえた。
戦ってはまずい。そう体で感じ取り、カラス天狗は近くにいる詩織に手を伸ばし連れて行こうとした。
『っ、なに!?』
だが、カラス天狗の手はなにもつかめなかった。
前を見ると、詩織を横に抱いている司の姿。
詩織自身も何が起きたのかわからず、目をぱちぱちとさせ司を見上げている。
「せ、先輩?」
「さすがにぎりぎりでしたね。怪我はないですか?」
「だ、いじょうぶですが。あの、その狐面って…………」
「あぁ、これは私の宝物ですよ」
「宝物?」
(言葉使いがさっきまでとまるで違うし、空気感も、違う。それに、この狐面、見覚えがある。もしかして……。いや、やっぱり。今までの違和感や、頭を過っていた記憶。そこにいつもいる狐面の少年の正体は―――)
「今はそんなことより―――」
早々に話を切り上げた司は、顔を上げ悔しそうにしゅくじょうをにぎっているカラス天狗を見た。
詩織も見ると、タイミングよくふらつく体で動き出していたところだった。
しゃくじょうを片手で振りかぶり、司の頭を狙う。だが、彼はそれを簡単に後ろに跳び回避した。
下ろされたしゃくじょうは地面をバコンとつぶし、穴をあけた。
「地面が、えぐれた?」
「今までは力を抑えていたらしいですね。私が本気を出したので、あちらも本気を出してきたのでしょう」
詩織を地面に下ろし、守るように前に立つ。
彼女を助ける時に、ちゃっかり刀も一緒に拾っており、今は右手に握られている。
『その面には、何が込められているのだ』
「それくらいなら説明してあげますよ。この狐面には、私の力が宿っているのです」
狐面に触れ、簡単に説明する。
『力、だと? 前もって溜めていたということか?』
「”溜めていた”は、適切ではありません。どちらかというと、”逃がしていた”が、正しいですね」
『逃がしていた、だと?』
納得できない説明に、カラス天狗は首をかしげ同じ言葉を繰り返す。
「小さい頃は、私も自分の力に耐えられなかったのですよ。自分の中にある力に負けてしまい、何回か死ぬような思いをしました。熱や、力の暴走など」
過去を思い出しながら、司はやさしく微笑み、説明を続ける。
「私が力のコントロールをする以前の段階で苦しんでいたのに母親は気づき、父親に相談して、私のために狐面を作ってくれたのです。まぁ、作ってすぐ他界してしまったですが」
(親の形見でもあるんだ、あの狐面。だから、宝物なんだ)
詩織は一人、納得した。
「父親が作ってくれたこの狐面は、私の溢れる力を吸い取ってくれていたのです。それで、今。その力を私の体内に戻している状態なのです」
『戻している? どういうことだ』
「この狐面に送った私の力を戻さないと、狐面が力に耐えきれなくなりこわれてしまうみたいなんです。ですが、一気に戻すと、コントロールが出来るようになったとはいえ、さすがに負担がありまして。なので、決めたことがあるのです」
左手を口元まで上げ、人差し指を立てる。
優雅で、きれい。思わず、見惚れてしまいそうになる振る舞い。
『そ、それは、なんだ』
「力を温存しなくてもいい相手が現れた際に、使用するのです」
――――――――シュッ
『…………な……』
司は刀をカラス天狗めがけて投げた。すぐに避けることが出来ず、顔横をすり抜ける。
刃部分がカラス天狗の目元を隠していた黒い布を切り、ハラリと落ちた。
皮膚も掠っていたため、血が流れた。
微かな痛みを感じ、切れた部分を右手でなでる。
困惑で揺れる赤い瞳で、血がついている手を見下ろした。
『き、貴様……、貴様!! まさか、我にここまでするなど。許さぬ、たかが、人間の分際で!!!』
――――――――ダンッ!!
しゃくじょうで地面を強く突き、大きな音を鳴らした。
カラス天狗が叫ぶと地面が地震のように揺れ、詩織は恐怖で視線をあちこちへと向ける。
涼香と司は辺りを見た後、お互い目を合わせうなずき合った。
「詩織、大丈夫だとは思いますが、念のため。涼香の近くからはなれないでください」
「え、なんで、いきなり…………」
「これから出す式神は、少々厄介なものなんですよ。私以外の男はすべて標的と認識してしまうのです」
不安そうに見上げて来る詩織の頭を撫で、司は微笑む。
「扱いずらい分、強いのです。強い分、力を沢山吸い取られるので、普段は使えないのですよ」
司はポケットから一枚のお札を取り出し、右の人差し指と中指ではさみカラス天狗を見た。
詩織の疑問に、涼香は笑みを浮かべて答える。
『その狐の面がどうしたというのだ』
「ふふっ、こうするのよ。これであなたは終わり、残念だったわね。私が結界を解くのに手間取っている時に倒さなかったことを、後悔しなさい」
涼香は言うと同時にその場にしゃがみ、狐面を司にわたした。
「さぁ、ここからが本番よ、司。動けるわよね?」
まだ咳き込んでいた司だったが、口元を拭き、にやりと笑う。
狐面を受け取り、顔に付けた。
「当たり前。僕がここで負けるわけがないよ」
先程まで動かなかったはずの体をゆっくりと立ち上がらせる。
ふらつくこともせず、地面を踏みしめた。
「ありがとう、涼香。もう下がっていいよ。――――あとは、私に任せてください」
口調と声色が変わる。
涼香が「わかったわ」と下がると、狐面を付けた顔を上げた。
瞬間、カラス天狗の体がふるえた。
戦ってはまずい。そう体で感じ取り、カラス天狗は近くにいる詩織に手を伸ばし連れて行こうとした。
『っ、なに!?』
だが、カラス天狗の手はなにもつかめなかった。
前を見ると、詩織を横に抱いている司の姿。
詩織自身も何が起きたのかわからず、目をぱちぱちとさせ司を見上げている。
「せ、先輩?」
「さすがにぎりぎりでしたね。怪我はないですか?」
「だ、いじょうぶですが。あの、その狐面って…………」
「あぁ、これは私の宝物ですよ」
「宝物?」
(言葉使いがさっきまでとまるで違うし、空気感も、違う。それに、この狐面、見覚えがある。もしかして……。いや、やっぱり。今までの違和感や、頭を過っていた記憶。そこにいつもいる狐面の少年の正体は―――)
「今はそんなことより―――」
早々に話を切り上げた司は、顔を上げ悔しそうにしゅくじょうをにぎっているカラス天狗を見た。
詩織も見ると、タイミングよくふらつく体で動き出していたところだった。
しゃくじょうを片手で振りかぶり、司の頭を狙う。だが、彼はそれを簡単に後ろに跳び回避した。
下ろされたしゃくじょうは地面をバコンとつぶし、穴をあけた。
「地面が、えぐれた?」
「今までは力を抑えていたらしいですね。私が本気を出したので、あちらも本気を出してきたのでしょう」
詩織を地面に下ろし、守るように前に立つ。
彼女を助ける時に、ちゃっかり刀も一緒に拾っており、今は右手に握られている。
『その面には、何が込められているのだ』
「それくらいなら説明してあげますよ。この狐面には、私の力が宿っているのです」
狐面に触れ、簡単に説明する。
『力、だと? 前もって溜めていたということか?』
「”溜めていた”は、適切ではありません。どちらかというと、”逃がしていた”が、正しいですね」
『逃がしていた、だと?』
納得できない説明に、カラス天狗は首をかしげ同じ言葉を繰り返す。
「小さい頃は、私も自分の力に耐えられなかったのですよ。自分の中にある力に負けてしまい、何回か死ぬような思いをしました。熱や、力の暴走など」
過去を思い出しながら、司はやさしく微笑み、説明を続ける。
「私が力のコントロールをする以前の段階で苦しんでいたのに母親は気づき、父親に相談して、私のために狐面を作ってくれたのです。まぁ、作ってすぐ他界してしまったですが」
(親の形見でもあるんだ、あの狐面。だから、宝物なんだ)
詩織は一人、納得した。
「父親が作ってくれたこの狐面は、私の溢れる力を吸い取ってくれていたのです。それで、今。その力を私の体内に戻している状態なのです」
『戻している? どういうことだ』
「この狐面に送った私の力を戻さないと、狐面が力に耐えきれなくなりこわれてしまうみたいなんです。ですが、一気に戻すと、コントロールが出来るようになったとはいえ、さすがに負担がありまして。なので、決めたことがあるのです」
左手を口元まで上げ、人差し指を立てる。
優雅で、きれい。思わず、見惚れてしまいそうになる振る舞い。
『そ、それは、なんだ』
「力を温存しなくてもいい相手が現れた際に、使用するのです」
――――――――シュッ
『…………な……』
司は刀をカラス天狗めがけて投げた。すぐに避けることが出来ず、顔横をすり抜ける。
刃部分がカラス天狗の目元を隠していた黒い布を切り、ハラリと落ちた。
皮膚も掠っていたため、血が流れた。
微かな痛みを感じ、切れた部分を右手でなでる。
困惑で揺れる赤い瞳で、血がついている手を見下ろした。
『き、貴様……、貴様!! まさか、我にここまでするなど。許さぬ、たかが、人間の分際で!!!』
――――――――ダンッ!!
しゃくじょうで地面を強く突き、大きな音を鳴らした。
カラス天狗が叫ぶと地面が地震のように揺れ、詩織は恐怖で視線をあちこちへと向ける。
涼香と司は辺りを見た後、お互い目を合わせうなずき合った。
「詩織、大丈夫だとは思いますが、念のため。涼香の近くからはなれないでください」
「え、なんで、いきなり…………」
「これから出す式神は、少々厄介なものなんですよ。私以外の男はすべて標的と認識してしまうのです」
不安そうに見上げて来る詩織の頭を撫で、司は微笑む。
「扱いずらい分、強いのです。強い分、力を沢山吸い取られるので、普段は使えないのですよ」
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