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カラス天狗
氷鬼先輩の危険
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『ごしゅじんしゃまぁにしゃわるなぁぁぁあ!!』
まだ、ユキは生きていた。司が意識を自分に向けていた時に大きな氷を作り出していた。
道をふさぐほどの大きな氷を、カラス天狗に落とした。
氷を視界に入れた瞬間、黒い翼を大きく揺らし空中に逃げる。
地面に落ち、氷は大きな音を立ててこわれた。その際、氷の破片が飛び散り、カラス天狗の目元に巻かれている黒い布を少しだけやぶく。
『忘れていたな……』
「ユキを舐めない方がいい。僕が一番信頼している式神なんだから」
ユキは怒るように頬を膨らませ、空中からカラス天狗を睨んでいた。
司もカラス天狗も、今は詩織から目をはなしている。
意識もそれている為、動くことが出来るのは今。
詩織の視線の先には、司が自身を守るため投げてしまった刀。カラス天狗の後ろの地面に落ちてしまっている。
「氷鬼先輩、私……」
「ダメだよ、君はそこから動かないで。危険なことはしないで」
「さっきみたいな危険なことはしません」
詩織に後ろから見つめられ、司は思わず頬を染め心臓が跳ねる。目を逸らし、気まずそうに聞いた。
「な、何を考えてるの」
「刀を私が先輩に渡します」
「いや、だから――」
「私のせいだから!」
司の言葉を遮り、詩織が叫ぶように言った。
「私が出しゃばったからだから、先輩が武器を失った。だから、私が取り返したいんです。大丈夫、絶対にさっきみたいなことはしないです。飛び出さないです!! 約束します」
何とか引いてもらおうと司は言葉を考えるが、今の詩織をあきらめさせる言葉が思いつかない。
視界の端には、今にも動き出そうとしているカラス天狗、悩む時間すらない。
司は、歯を食いしばりながらも、これしかないと頷いた。
「わかった。でも、絶対に無理だけはしないで。絶対に」
「っ、わかりました!」
司の返答を聞いた詩織は目をかがやかせ、笑顔を浮かべ頷いた。
次の瞬間、カラス天狗が地面をけり、一瞬のうちにユキにしゃくじょうを向けた。
『っ!』
「戻れ!!」
しゃくじょうでなぐられる前、すんでのところでユキはお札に戻る。
次にカラス天狗が狙いを定めた相手は、詩織となった。
目元を隠している黒い布に睨まれ、詩織は足がすくみ浅く息を吸った。
振り上げられたしゃくじょうを詩織は見つめるのみ。だが、司がいち早く動き出し、カラス天狗のしゃくじょうを下ろされる手前で受け止めた。
「グッ!!」
『っ、ほう』
武器がないため、腕で受け止める。
鍛えているとはいえ、無傷ではいられない。苦痛で顔を歪めてしまった。
司に手を伸ばしかけた詩織だったが、今しかチャンスはない。
悩みながらも、地面を強くけり、かけだした。
(ごめんなさい、氷鬼先輩!)
カラス天狗は詩織の予想外の動きにおどろくが、彼女の動きを見てにやりと口元に笑みを浮かべた。
まずい。そう思った時にはおそく、司は横から迫ってきていたしゃくじょうに吹っ飛ばされる。
背中を電柱にぶつけ、すぐに動けない。
咳き込み、その場にうずくまってしまった。
詩織は後ろが気になるが、それでもチャンスを逃すわけにはいかないと走り続け、カラス天狗が追いつく前に、刀を回収した。
「氷鬼せんぱっ――……」
振り返ると、カラス天狗が自分に向って来ており、思わず言葉を詰まらせる。
(どうしよう、どうしようどうしよう!!)
今から逃げても意味は無い。詩織の運動神経では、攻撃を回避することも出来ない。
動けずにいると、カラス天狗が目の前まで来てしまった。
パシンと、拾い上げた刀を叩き落され、カランと地面に落ちる。
『残念だったな、ぬしを守る者はいなくなった。その刀も無意味』
「ヒッ……」
顔を真っ青にし、カラス天狗を見上げる。
胸元で組んでいる手は、カタカタと震え、後ろに下がろうとしている足も、恐怖で上手く動かない。
『さすがに手間取ってしまった。氷鬼家が関わっているのなら、他の者も連れてくるんだったな。まぁ、よい。これでぬしを連れていくことが出来る』
恐怖の中、詩織はカラス天狗の奥を見る。
地面にうずくまり立ち上がろうともがくが、体が言うことを聞いてくれない様子。
『今更助けを求めても無駄だ。どうせもう、ぬしは助からない』
右手を詩織の頭にかざすカラス天狗。体が動かず、詩織は逃げることすら出来ない。
目からは涙が落ち、口からは言葉にならない声がもれる。
『残念だったな、ぬしはもう終わり。さぁ、我と来い』
(い、いやだ、いやだ。逃げないと。でも、体が動かない。動いて、動いて!!!)
カラス天狗の手が、詩織の頭に触れそうになった――………
『――――――そんなの、私が許しませんよ。カラス天狗』
――――バシャン!!!!!
「えっ!?」
『なにっ!?』
カラス天狗が張った結界が、何者かによってはじかれるように解かれた。
詩織とカラス天狗のおどろきの声が重なる。
『なにが、起きた?』
景色は変わらないが、確実に結界が解かれたことはわかる。
その理由は、今まで結界の中にいなかった人物が、人差し指と中指を立て、カラス天狗を見据え立っていたから。
『悪いですが、その子はわたしませんよ。私の大事な大事な妹なんですから。血のつながりはありませんけどね』
勝ち誇ったような顔を浮かべ、司に近付く巫女姿の女性、紅井涼香。
明るい茶髪を後ろで一つに結い、茶色の瞳はカラス天狗に向けられる。
「お、ねぇちゃん?」
『お待たせ、詩織ちゃん。ここからはもう大丈夫よ、これを持ってきたからね』
言いながら、涼香は左手に持っていた物を詩織に見えるように上げた。
「あれって、狐の面?」
まだ、ユキは生きていた。司が意識を自分に向けていた時に大きな氷を作り出していた。
道をふさぐほどの大きな氷を、カラス天狗に落とした。
氷を視界に入れた瞬間、黒い翼を大きく揺らし空中に逃げる。
地面に落ち、氷は大きな音を立ててこわれた。その際、氷の破片が飛び散り、カラス天狗の目元に巻かれている黒い布を少しだけやぶく。
『忘れていたな……』
「ユキを舐めない方がいい。僕が一番信頼している式神なんだから」
ユキは怒るように頬を膨らませ、空中からカラス天狗を睨んでいた。
司もカラス天狗も、今は詩織から目をはなしている。
意識もそれている為、動くことが出来るのは今。
詩織の視線の先には、司が自身を守るため投げてしまった刀。カラス天狗の後ろの地面に落ちてしまっている。
「氷鬼先輩、私……」
「ダメだよ、君はそこから動かないで。危険なことはしないで」
「さっきみたいな危険なことはしません」
詩織に後ろから見つめられ、司は思わず頬を染め心臓が跳ねる。目を逸らし、気まずそうに聞いた。
「な、何を考えてるの」
「刀を私が先輩に渡します」
「いや、だから――」
「私のせいだから!」
司の言葉を遮り、詩織が叫ぶように言った。
「私が出しゃばったからだから、先輩が武器を失った。だから、私が取り返したいんです。大丈夫、絶対にさっきみたいなことはしないです。飛び出さないです!! 約束します」
何とか引いてもらおうと司は言葉を考えるが、今の詩織をあきらめさせる言葉が思いつかない。
視界の端には、今にも動き出そうとしているカラス天狗、悩む時間すらない。
司は、歯を食いしばりながらも、これしかないと頷いた。
「わかった。でも、絶対に無理だけはしないで。絶対に」
「っ、わかりました!」
司の返答を聞いた詩織は目をかがやかせ、笑顔を浮かべ頷いた。
次の瞬間、カラス天狗が地面をけり、一瞬のうちにユキにしゃくじょうを向けた。
『っ!』
「戻れ!!」
しゃくじょうでなぐられる前、すんでのところでユキはお札に戻る。
次にカラス天狗が狙いを定めた相手は、詩織となった。
目元を隠している黒い布に睨まれ、詩織は足がすくみ浅く息を吸った。
振り上げられたしゃくじょうを詩織は見つめるのみ。だが、司がいち早く動き出し、カラス天狗のしゃくじょうを下ろされる手前で受け止めた。
「グッ!!」
『っ、ほう』
武器がないため、腕で受け止める。
鍛えているとはいえ、無傷ではいられない。苦痛で顔を歪めてしまった。
司に手を伸ばしかけた詩織だったが、今しかチャンスはない。
悩みながらも、地面を強くけり、かけだした。
(ごめんなさい、氷鬼先輩!)
カラス天狗は詩織の予想外の動きにおどろくが、彼女の動きを見てにやりと口元に笑みを浮かべた。
まずい。そう思った時にはおそく、司は横から迫ってきていたしゃくじょうに吹っ飛ばされる。
背中を電柱にぶつけ、すぐに動けない。
咳き込み、その場にうずくまってしまった。
詩織は後ろが気になるが、それでもチャンスを逃すわけにはいかないと走り続け、カラス天狗が追いつく前に、刀を回収した。
「氷鬼せんぱっ――……」
振り返ると、カラス天狗が自分に向って来ており、思わず言葉を詰まらせる。
(どうしよう、どうしようどうしよう!!)
今から逃げても意味は無い。詩織の運動神経では、攻撃を回避することも出来ない。
動けずにいると、カラス天狗が目の前まで来てしまった。
パシンと、拾い上げた刀を叩き落され、カランと地面に落ちる。
『残念だったな、ぬしを守る者はいなくなった。その刀も無意味』
「ヒッ……」
顔を真っ青にし、カラス天狗を見上げる。
胸元で組んでいる手は、カタカタと震え、後ろに下がろうとしている足も、恐怖で上手く動かない。
『さすがに手間取ってしまった。氷鬼家が関わっているのなら、他の者も連れてくるんだったな。まぁ、よい。これでぬしを連れていくことが出来る』
恐怖の中、詩織はカラス天狗の奥を見る。
地面にうずくまり立ち上がろうともがくが、体が言うことを聞いてくれない様子。
『今更助けを求めても無駄だ。どうせもう、ぬしは助からない』
右手を詩織の頭にかざすカラス天狗。体が動かず、詩織は逃げることすら出来ない。
目からは涙が落ち、口からは言葉にならない声がもれる。
『残念だったな、ぬしはもう終わり。さぁ、我と来い』
(い、いやだ、いやだ。逃げないと。でも、体が動かない。動いて、動いて!!!)
カラス天狗の手が、詩織の頭に触れそうになった――………
『――――――そんなの、私が許しませんよ。カラス天狗』
――――バシャン!!!!!
「えっ!?」
『なにっ!?』
カラス天狗が張った結界が、何者かによってはじかれるように解かれた。
詩織とカラス天狗のおどろきの声が重なる。
『なにが、起きた?』
景色は変わらないが、確実に結界が解かれたことはわかる。
その理由は、今まで結界の中にいなかった人物が、人差し指と中指を立て、カラス天狗を見据え立っていたから。
『悪いですが、その子はわたしませんよ。私の大事な大事な妹なんですから。血のつながりはありませんけどね』
勝ち誇ったような顔を浮かべ、司に近付く巫女姿の女性、紅井涼香。
明るい茶髪を後ろで一つに結い、茶色の瞳はカラス天狗に向けられる。
「お、ねぇちゃん?」
『お待たせ、詩織ちゃん。ここからはもう大丈夫よ、これを持ってきたからね』
言いながら、涼香は左手に持っていた物を詩織に見えるように上げた。
「あれって、狐の面?」
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