氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-

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カラス天狗

氷鬼先輩が冷たい……

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 司の困惑など気づかず、詩織は頬を染め、照れているような表情で続きを話す。

「その人とは、私が黒い歯のあやかしに追いかけられて、森の中で隠れていた時に出会ったんです。あやかしに見つかって、逃げられないとあきらめた時、風と一緒に現れてあやかしをたおしてくれたんですよ! そして、私を守ってくれるって約束までしてくれました!! それからは私と一緒に居てくれて、あやかしにおそわれた時は必ずたおしてくれたんです! 私、本当にその人には感謝の気持ちでいっぱいなんです!」

「へ、へぇ…………」

「でも、その人。目元を狐の面でかくしていたので、素顔を知らないんですよ。いつも、付けていたので……」

 司は頬をポリポリとき、気まずそうな顔を浮かべた。

「その人と私はずっと一緒に居るんだと、思っていたんです。いや、一緒に居たいと、思っていたんです」

「…………へー。それはなんで?」

「うーん。私からはなれていかなかったから、私の話を聞いてくれたから。私とずっと一緒にいてくれたから。理由はたくさんあるんですが、一番は、約束を守ろうとしてくれたことかと思います」

「約束を?」

 予想外な返答に、司は聞き返す。

「はい。私を守るって約束です。私が引っ越すまではずっと一緒に居てくれて、絶対に守り通してくれたんです。私が引っ越す、その日まで。いや、その日でも、私を守るため、ずっと一緒に居てくれました。だから、かもしれない」

 またうつむいてしまった詩織。
 司は横目で彼女を見るが、横髪で表情が隠れてしまい、どのような感情で話しているのかわからない。

 気になり、司は顔をのぞき込む。すると、詩織と目が合った。

「あっ」

「え、な、なんですか!?」

「いや、どんな表情しているのか気になって」

「気にならないでください!」

 ぐいっと司を押し返し、顔をそむけた。

(まったく、デリカシーがないんだから!)

 頬をふくらませて怒っている詩織をよそに、司は片手で口元をかくしていた。
 目元は前髪で隠れてしまい見えないが、頬が赤く染まっているのはわかる。

 詩織が頬を膨らませ怒っていると、明るかった屋上に影が差す。
 上を見上げると、大きな何かが落ちてきており、司がとっさに詩織を抱え横に跳ぶ。

 ガシャンと音を鳴らし屋上に着地したのは、車のタイヤに顔が付いているあやかし。
 炎に包まれ、黒い髪を揺らし二人を見ていた。

「なっ」

「あれは、輪入道わにゅうどうと呼ばれるあやかしだね。有名なところが現れたなぁ」

「そんな、呑気のんきなことを言っている場合ですか!?」

 抱きかかえていた詩織を下ろし、司はパーカーのポケットから一枚のお札を取り出し、屋上の出入り口であるドアへと張り付けた。

「何をしたんですか?」

「誰も屋上に入らないようにした。授業にも遅刻しそうだし、少し手荒な真似をするから、念のため」

 説明しながら司は二枚目のお札を取り出す。
 その間に、輪入道わにゅうどうはタイヤ部分をぶん回し始めた。

『ソーイーツーヲーヨーコーセェェェェエエエ!!』

「ひっ!?」

 キィィィィンと、タイヤを回し二人に突っ込む。
 司の後ろでふるえ、逃げることが出来ない詩織の頭に、温かい手が乗った。

「大丈夫、必ず守るから」

 肩越かたごしに水色のひとみを向けられ、詩織は見上げた。
 すぐにその目は逸らされ、手に持った札を輪入道わにゅうどうに向けて投げた。

「氷のつるぎにより、今ここで消えるがいい」

 今までと同じセリフを吐くと、お札は冷気に包まれおさげの少女、ユキが現れた。
 真っすぐ、転がっている輪入道わにゅうどうに向かって息を吹きかけた。

『フゥゥゥゥウウウ!!!』

 冷気が輪入道わにゅうどうを包み、タイヤ部分を凍らせた。
 顔だけは凍っておらず、動かなくなったタイヤを見ようと目線をさ迷わせた。

「さて、輪入道わにゅうどう。なんで詩織をおそったのか、教えてくれるかな?」

 制服のポケットに手を突っ込み、冷たい眼差まなざしを向け問いかけた。
 目線は同じで、体は司より大きい、近付くと危ない。

 詩織は司を呼ぶが、聞こえていないのか無反応。
 輪入道わにゅうどうから目をはなさず、再度問いかけた。

「ねぇ、聞いてる? なんで、詩織をおそったの?」
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