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カラス天狗
氷鬼先輩は優しい!
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学校に向かった二人は、無事に授業を受けていた。
午前の授業が終わると、詩織は屋上に向かう。
そこには朝、あやかしから守ってくれた司の姿があり、心臓が飛び跳ねた。
詩織が屋上の出入り口で固まっていると、司が小さな声で「来たか」と出迎えた。
手招きされてしまい、詩織は断る理由もないため、素直に隣に座った。
お弁当を広げ、食べ始める。
詩織は、お母さんが作ってくれた、色とりどりなお弁当。司は、コンビニで買った焼きそばパン。
司が焼きそばパンを一口分飲みこんだタイミングで、詩織に質問した。
「そういえば。君は今まで、どうやってあやかしから逃げていたの?」
いきなりの問いかけに詩織は面食らったが、すぐに口の中の食べ物をのみ込み、答えた。
「走れば十分くらいで着く紅井神社に行って助けてもらっていました。お世話になっているお姉ちゃんがいるので」
「お姉ちゃん?」
「はい、巫女さんなんです、お姉ちゃん」
「……あぁ、あの人か」
巫女という言葉だけで誰かわかった司は、安心したように焼きそばパンの残りを食べた。
「あの人かって……。お姉ちゃんを知っているんですか?」
「まーね。僕も長いことお世話になっているから」
「へぇ……。長いこととなると、付き合いは長いんですか?」
「長い方だと思うよ。小さい頃からだから」
(小さい頃から? 私も小さい頃からお世話になっていたけど、氷鬼先輩みたいな人とは会わなかったなぁ)
疑問を感じ、詩織は司を横目で見ると、彼も詩織を見ており、お互いの視線が合った。
とっさにそらしたのは詩織で、かすかに顔が赤い。
(なんか、氷鬼先輩って、他人にすごく冷たいって聞いていたのに、全然そんなことない気がする。普通にかっこいいし、きれいな顔立ちしているし……)
赤い顔を手で冷やし、もう一度司の方を向くと、ぼぉっと青空を見上げていた。
それがまたしても聞いていた話とは違い、詩織は思わずジィーと見てしまった。
「…………なに?」
「いえ。聞いていた話とだいぶ違うなと」
「聞いていた話? 何を聞いてたの」
「あっ。えぇぇぇぇえっと、ですね」
聞いていた話というのは、司がクールでイケメン、だが他人にものすごく冷たく、近寄りがたい存在ということ。
それをそのまま言ってもいいのか悩み、詩織は言葉を詰まらせた。
「…………怒らないですか?」
「聞かないとわからないでしょ」
「ですよね」
大きくうなだれ、諦めたように詩織は聞いた話をそのまま伝えた。
「クールでイケメンだけど、他人には冷たくて近寄りがたい存在。通称、氷の王子様。と、私は噂で聞いておりました」
「へぇ、周りはそんなこと言ってたんだ。興味ないから別にいいけど」
おそるおそる詩織は司を見るが、言葉の通り気にしていない様子。また空を眺め、ぼぉっとし始めた。
(こういう所は冷めてるな。本当に、私と一つしか違わないの?)
司は中学三年、詩織は二年。
一つしか違わないのに、司がいつも冷静なため疑ってしまった。
「僕への周りからの印象は、正直どうでもいいけど、君の体質については気になるんだよね」
「あやかしを引き寄せる体質のことでしょうか?」
「そう。治してあげたいけど、今の僕には無理だし。今回みたいに、物理的に守ることしか出来ない」
グシャと、焼きそばパンが入っていた袋を握りつぶし、後悔するような瞳を浮かべ横目で見る。
「――――え、氷鬼先輩、これからも私を守ってくださるのですか?」
「ん? 朝もそう言ったじゃん、君を守るって。というか、君を守ることが出来るのは僕くらいでしょ」
一度言葉を止め、顔を逸らす。付け足すように司は「僕以外になんて守らせないけど」とこぼす。だが、その言葉は詩織には届かず首をかしげていた。
「あ、あの…………」
「君、これから一人で行動するのは禁止。登下校は僕と一緒、休みの日は出来る限り一人で外に出ないこと。これを約束して」
「え、でも、それは氷鬼先輩にとって迷惑な話じゃ……」
「僕が言っているのに何でそうなるの? 迷惑だと思っているならこんな提案はしないし、言わない。それに、僕は自分で言ったことは必ず最後までやりきらないと気が済まないタイプなんだよね。君を守ると言った以上、それを最後まで貫かせてもらうよ」
藍色の髪から覗き見える水色の瞳は、真っすぐ詩織を見ていた。
その瞳に思わず心臓がドキッと高鳴り、またしても顔が赤く染まる。
(え、え? 先輩って、ここまで人の事を思える優しい人なの? 話に聞いていた人物と違い過ぎて反応に困るんだけど!)
赤い顔を見られないため、後ろへ振り向くと、司が首をかしげた。
「どうしたの?」
「なんでもありません!」
「ふーん。あ、そうだ。今すぐには渡せないんだけど、君には必要だろうというものを用意しているんだ」
司からの言葉に詩織は思わず顔を向ける。
「え?」
「準備が出来たら渡すよ」
詩織の困惑の声など聞こえていないかのように話を進められた。
途中でチャイムが鳴り、休み時間は終わる。
何もわからないまま詩織は、司と共に教室へ戻ることとなった。
午前の授業が終わると、詩織は屋上に向かう。
そこには朝、あやかしから守ってくれた司の姿があり、心臓が飛び跳ねた。
詩織が屋上の出入り口で固まっていると、司が小さな声で「来たか」と出迎えた。
手招きされてしまい、詩織は断る理由もないため、素直に隣に座った。
お弁当を広げ、食べ始める。
詩織は、お母さんが作ってくれた、色とりどりなお弁当。司は、コンビニで買った焼きそばパン。
司が焼きそばパンを一口分飲みこんだタイミングで、詩織に質問した。
「そういえば。君は今まで、どうやってあやかしから逃げていたの?」
いきなりの問いかけに詩織は面食らったが、すぐに口の中の食べ物をのみ込み、答えた。
「走れば十分くらいで着く紅井神社に行って助けてもらっていました。お世話になっているお姉ちゃんがいるので」
「お姉ちゃん?」
「はい、巫女さんなんです、お姉ちゃん」
「……あぁ、あの人か」
巫女という言葉だけで誰かわかった司は、安心したように焼きそばパンの残りを食べた。
「あの人かって……。お姉ちゃんを知っているんですか?」
「まーね。僕も長いことお世話になっているから」
「へぇ……。長いこととなると、付き合いは長いんですか?」
「長い方だと思うよ。小さい頃からだから」
(小さい頃から? 私も小さい頃からお世話になっていたけど、氷鬼先輩みたいな人とは会わなかったなぁ)
疑問を感じ、詩織は司を横目で見ると、彼も詩織を見ており、お互いの視線が合った。
とっさにそらしたのは詩織で、かすかに顔が赤い。
(なんか、氷鬼先輩って、他人にすごく冷たいって聞いていたのに、全然そんなことない気がする。普通にかっこいいし、きれいな顔立ちしているし……)
赤い顔を手で冷やし、もう一度司の方を向くと、ぼぉっと青空を見上げていた。
それがまたしても聞いていた話とは違い、詩織は思わずジィーと見てしまった。
「…………なに?」
「いえ。聞いていた話とだいぶ違うなと」
「聞いていた話? 何を聞いてたの」
「あっ。えぇぇぇぇえっと、ですね」
聞いていた話というのは、司がクールでイケメン、だが他人にものすごく冷たく、近寄りがたい存在ということ。
それをそのまま言ってもいいのか悩み、詩織は言葉を詰まらせた。
「…………怒らないですか?」
「聞かないとわからないでしょ」
「ですよね」
大きくうなだれ、諦めたように詩織は聞いた話をそのまま伝えた。
「クールでイケメンだけど、他人には冷たくて近寄りがたい存在。通称、氷の王子様。と、私は噂で聞いておりました」
「へぇ、周りはそんなこと言ってたんだ。興味ないから別にいいけど」
おそるおそる詩織は司を見るが、言葉の通り気にしていない様子。また空を眺め、ぼぉっとし始めた。
(こういう所は冷めてるな。本当に、私と一つしか違わないの?)
司は中学三年、詩織は二年。
一つしか違わないのに、司がいつも冷静なため疑ってしまった。
「僕への周りからの印象は、正直どうでもいいけど、君の体質については気になるんだよね」
「あやかしを引き寄せる体質のことでしょうか?」
「そう。治してあげたいけど、今の僕には無理だし。今回みたいに、物理的に守ることしか出来ない」
グシャと、焼きそばパンが入っていた袋を握りつぶし、後悔するような瞳を浮かべ横目で見る。
「――――え、氷鬼先輩、これからも私を守ってくださるのですか?」
「ん? 朝もそう言ったじゃん、君を守るって。というか、君を守ることが出来るのは僕くらいでしょ」
一度言葉を止め、顔を逸らす。付け足すように司は「僕以外になんて守らせないけど」とこぼす。だが、その言葉は詩織には届かず首をかしげていた。
「あ、あの…………」
「君、これから一人で行動するのは禁止。登下校は僕と一緒、休みの日は出来る限り一人で外に出ないこと。これを約束して」
「え、でも、それは氷鬼先輩にとって迷惑な話じゃ……」
「僕が言っているのに何でそうなるの? 迷惑だと思っているならこんな提案はしないし、言わない。それに、僕は自分で言ったことは必ず最後までやりきらないと気が済まないタイプなんだよね。君を守ると言った以上、それを最後まで貫かせてもらうよ」
藍色の髪から覗き見える水色の瞳は、真っすぐ詩織を見ていた。
その瞳に思わず心臓がドキッと高鳴り、またしても顔が赤く染まる。
(え、え? 先輩って、ここまで人の事を思える優しい人なの? 話に聞いていた人物と違い過ぎて反応に困るんだけど!)
赤い顔を見られないため、後ろへ振り向くと、司が首をかしげた。
「どうしたの?」
「なんでもありません!」
「ふーん。あ、そうだ。今すぐには渡せないんだけど、君には必要だろうというものを用意しているんだ」
司からの言葉に詩織は思わず顔を向ける。
「え?」
「準備が出来たら渡すよ」
詩織の困惑の声など聞こえていないかのように話を進められた。
途中でチャイムが鳴り、休み時間は終わる。
何もわからないまま詩織は、司と共に教室へ戻ることとなった。
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