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最終決戦
同じ表情
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『主、この先におりますお二人が動き出しました。ついでに、三人、こちらに向かってきております』
「え、三人は誰?」
『水仙家のお二人と主のご友人かと』
「まじか!!」
良かった、無事だったんだな。こちらに向かってきているということは、動けなくなるほどの怪我をしていないということか。本当によかった。
「それなら、合流できるようにしたいな。でも、人影も追いかけないと」
前を改めてみると、人影は俺達から逃げるように動いているみたいで、一向に距離が縮まらない。ここで足を止めて靖弥達と合流も難しい。でも、合流はしたい。
俺が後ろを見ていると、百目が急に足を止めた。
『主! 止まってください!』
俺の前に立った百目が叫び刀を頭の上で横に構え始めた。
刹那――――……………
――――――ガキン!!!
と、いう刀がぶつかり合うような音が辺りに響き渡った。
「なに!?」
上から誰か来たのか? 誰だ、誰が攻めてきた。
上を見て一番最初に目に付いたのは、見覚えのある般若の面。
「っ、もう戻ってきたのですね。魕さん!!」
般若の面を頭につけている男性、初めて見た魕さんの顔は不気味なほどに整っており、無表情。
俺達を見下ろしている紫の瞳は、やっと獲物を見つけたと言うように光っていた。
「よくも飛ばしてくれたな、煌命の子よ」
「飛ばさなければ、俺達に勝ち目はなかったので」
百目の刀との押し合いになっている。
まさか、空中で体を支えられるほどの力を持っているって、あれは人間技か?
『――――っ!』
「およ?」
百目が横にしていた刀を斜めにしたことにより、魕さんの体を支えていた刀が滑り落ちバランスを崩した。だが、すぐに態勢を立てなし、足からしっかりと地面につける。
「まさか、ここまで大きなことになっているとは。蘆屋家まで動き出したとなると、主に勝ち目はないぞ。いい加減諦めろ」
「嫌です。俺は俺のためにも、この体の持ち主である闇命君のためにも、死ぬわけにはいかないのです。出来ることをして抗い、蘆屋道満をあの世へとお返しします」
「それが無理だと言っているというのに。無駄な争いはしたくないだろう、観念せよ、小童が」
「断ります。そちらも諦めた方がいいと思いますよ、争いこと、嫌いなのでしょう?」
あ、肩が一瞬上がった。やっぱり、この人は争いことが嫌いなんだ。だから、このように俺を諦めさせ、最低限の被害だけで終わらせようとしてる。
本当は心優しく、素敵な方。それは、迷いのある目を見ればわかる。
「…………魕さん、俺は戦いは嫌いです。人が傷付くのは見たくない、怪我をしたくない。痛い思いなんてしたくない。でも、しなければ、現状を変えることが出来ないのなら、俺はやります。この体を守ることが出来るのなら、俺は牙を向けます。俺の身勝手な迷いは、人を傷つける。今までの戦闘で、俺はこのようなことを学びました」
胸に手を置き、魕さんから目を逸らさないように言う。
「だから、魕さん。貴方の今の迷いも、誰かかしらを傷つけます。迷うくらいなら、戦闘をしなくてもいいと思うのです。貴方が抱えているものを、教えてくださいませんか?」
揺れている紫色の瞳を見上げながら言い切ると、魕さんの刀を握っている手に力が込められた。
歯を強く食いしばり、何かに耐えている様子。この表情、俺は知っている。こんな顔をしている人が、俺に身近にいた。
抗いたくとも抗えず、助けを求めたくても、誰にも手を伸ばすことができない。そんな人、俺は知っている。
俺の大事な人、大事な友人が頭を過ぎる。
ふざけるな、ふざけるな。
なぜ、私利私欲のためだけに、ここまでの人を巻き込むことができるんだ。人の気持ちを、感情を、命をなんだと思っているんだ。
『主、落ち着いてください』
「…………うん、そうだね。今怒っても仕方がない」
そうだ。今怒ったところで意味はない。冷静になれ、頭に血を登らせるな。
「貴方が今、どのような感情を持ち、なぜ今のような行動を起こしているのか深くはわかりません。ですが、俺は貴方を助けたい。そして、俺達に力を貸してほしい」
「そのような事が無理だということは、さすがにわかろう」
「普通に無理ですよね。ですが、俺はやってのけたんですよ。蘆屋道満に捕まり、誰にも助けを求めることができない元人形さんを。俺は助けることが出来た。だから、貴方が望むのなら、俺は助けます。貴方を、助けます」
俺がこんなこと言うのは、この人の人格が優しいからだろうという、曖昧な考えだけではない。
最初、魕さんの話をしていた時の月卯歌さんの表情が、今にも消えそうなほど儚く、悲しげだった。
俺は、月卯歌さんが酷いことをしない人だと信じているし、今も俺達のために戦ってくれているであろう月卯歌さんが友人と言っていたこの人を、信じたい。
「魕さん、どうか、俺達に手を貸してはいただけませんか」
胸を押さえていた右手を、苦しげに顔を歪ませている魕さんに向けて伸ばした。
この手をどうか、握ってほしい。
「え、三人は誰?」
『水仙家のお二人と主のご友人かと』
「まじか!!」
良かった、無事だったんだな。こちらに向かってきているということは、動けなくなるほどの怪我をしていないということか。本当によかった。
「それなら、合流できるようにしたいな。でも、人影も追いかけないと」
前を改めてみると、人影は俺達から逃げるように動いているみたいで、一向に距離が縮まらない。ここで足を止めて靖弥達と合流も難しい。でも、合流はしたい。
俺が後ろを見ていると、百目が急に足を止めた。
『主! 止まってください!』
俺の前に立った百目が叫び刀を頭の上で横に構え始めた。
刹那――――……………
――――――ガキン!!!
と、いう刀がぶつかり合うような音が辺りに響き渡った。
「なに!?」
上から誰か来たのか? 誰だ、誰が攻めてきた。
上を見て一番最初に目に付いたのは、見覚えのある般若の面。
「っ、もう戻ってきたのですね。魕さん!!」
般若の面を頭につけている男性、初めて見た魕さんの顔は不気味なほどに整っており、無表情。
俺達を見下ろしている紫の瞳は、やっと獲物を見つけたと言うように光っていた。
「よくも飛ばしてくれたな、煌命の子よ」
「飛ばさなければ、俺達に勝ち目はなかったので」
百目の刀との押し合いになっている。
まさか、空中で体を支えられるほどの力を持っているって、あれは人間技か?
『――――っ!』
「およ?」
百目が横にしていた刀を斜めにしたことにより、魕さんの体を支えていた刀が滑り落ちバランスを崩した。だが、すぐに態勢を立てなし、足からしっかりと地面につける。
「まさか、ここまで大きなことになっているとは。蘆屋家まで動き出したとなると、主に勝ち目はないぞ。いい加減諦めろ」
「嫌です。俺は俺のためにも、この体の持ち主である闇命君のためにも、死ぬわけにはいかないのです。出来ることをして抗い、蘆屋道満をあの世へとお返しします」
「それが無理だと言っているというのに。無駄な争いはしたくないだろう、観念せよ、小童が」
「断ります。そちらも諦めた方がいいと思いますよ、争いこと、嫌いなのでしょう?」
あ、肩が一瞬上がった。やっぱり、この人は争いことが嫌いなんだ。だから、このように俺を諦めさせ、最低限の被害だけで終わらせようとしてる。
本当は心優しく、素敵な方。それは、迷いのある目を見ればわかる。
「…………魕さん、俺は戦いは嫌いです。人が傷付くのは見たくない、怪我をしたくない。痛い思いなんてしたくない。でも、しなければ、現状を変えることが出来ないのなら、俺はやります。この体を守ることが出来るのなら、俺は牙を向けます。俺の身勝手な迷いは、人を傷つける。今までの戦闘で、俺はこのようなことを学びました」
胸に手を置き、魕さんから目を逸らさないように言う。
「だから、魕さん。貴方の今の迷いも、誰かかしらを傷つけます。迷うくらいなら、戦闘をしなくてもいいと思うのです。貴方が抱えているものを、教えてくださいませんか?」
揺れている紫色の瞳を見上げながら言い切ると、魕さんの刀を握っている手に力が込められた。
歯を強く食いしばり、何かに耐えている様子。この表情、俺は知っている。こんな顔をしている人が、俺に身近にいた。
抗いたくとも抗えず、助けを求めたくても、誰にも手を伸ばすことができない。そんな人、俺は知っている。
俺の大事な人、大事な友人が頭を過ぎる。
ふざけるな、ふざけるな。
なぜ、私利私欲のためだけに、ここまでの人を巻き込むことができるんだ。人の気持ちを、感情を、命をなんだと思っているんだ。
『主、落ち着いてください』
「…………うん、そうだね。今怒っても仕方がない」
そうだ。今怒ったところで意味はない。冷静になれ、頭に血を登らせるな。
「貴方が今、どのような感情を持ち、なぜ今のような行動を起こしているのか深くはわかりません。ですが、俺は貴方を助けたい。そして、俺達に力を貸してほしい」
「そのような事が無理だということは、さすがにわかろう」
「普通に無理ですよね。ですが、俺はやってのけたんですよ。蘆屋道満に捕まり、誰にも助けを求めることができない元人形さんを。俺は助けることが出来た。だから、貴方が望むのなら、俺は助けます。貴方を、助けます」
俺がこんなこと言うのは、この人の人格が優しいからだろうという、曖昧な考えだけではない。
最初、魕さんの話をしていた時の月卯歌さんの表情が、今にも消えそうなほど儚く、悲しげだった。
俺は、月卯歌さんが酷いことをしない人だと信じているし、今も俺達のために戦ってくれているであろう月卯歌さんが友人と言っていたこの人を、信じたい。
「魕さん、どうか、俺達に手を貸してはいただけませんか」
胸を押さえていた右手を、苦しげに顔を歪ませている魕さんに向けて伸ばした。
この手をどうか、握ってほしい。
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