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最終決戦
守りを捨てた人ほど
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名前を呼ばれた氷柱女房は、絡新婦からの攻撃を避けながら穴に落ちてしまった夏楓を見た。
「紅音、少し無茶を承知で言います。法力を多く送り込んでいただいてもよろしいですか?」
「今よりか? 加減なぞ出来んぞ」
「氷柱女房には自我があります。体が危なくなりましたら教えてくださると思います。なので、お願いいたします」
「了解だ」
再度集中し、紅音は法力を先ほどより多く注ぎ始めた。
いきなり多くの法力を送り込まれ、氷柱女房は一瞬困惑したが、夏楓に見つめられすぐに冷静になった。
『主、ご指示を』
「はい。氷柱女房、氷の人形を作り出せるだけ作りだし、同時に姿を眩ませるほどの冷気を放出してほしいです。出来ますか?」
『主、指示の出し方、違います。もう一度、お願いできますか?』
口角を上げ、困惑している夏楓を見る。
最初は分からず戸惑った夏楓だったが、すぐに間違いに気づき、思わず笑顔がこぼれてしまった。
「そうですね、失礼しました。改めまして…………」
氷柱女房と目を合わせ、夏楓は先ほどとは違う、強い口調で指示を出した。
「『氷柱女房、人形を使い我に手を貸し、凍てつく怒りの冷風で邪魔するものをすべて凍らせろ。急急如律令!!!』」
『主の、仰せのままに』
笑みを浮かべた氷柱女房は、向かって来ている絡新婦の糸に冷たい息を吹きかけ簡単に凍らせた。
次に右手を上に振りあげると、地面が氷はじめ、動き出す。
地面に張った氷が、氷柱女房のような形をしている氷の人形をいくつも作り出した。
同時に、地面だけでなく壁や天井まで凍らせ始めた。
何か仕掛けたくとも、絡新婦が放つ糸はすぐに凍ってしまい意味はない。
洞窟内が銀世界となってしまい、静稀と絡新婦は何も出来ず驚愕の表情を浮かべた。
どうにかしなければと考えるが、何かを繰り出したとしてもすぐに凍らされてしまい意味はない。
静樹が困惑している間に畳みかけるように、氷柱女房が氷の人形を動かし夏楓と紅音を引き上げ、同時に絡新婦の足と手を凍らせ動きを封じる。静稀の本も同時に凍らせ、追加で式神や法術を出させないようにした。
「っ! こんのっ――」
苛立ちを込め、怒りで赤くなった顔を氷柱女房に向けた。
彼女の後ろには紅音がその場にしゃがみ、法力を送り続けている。その様子に違和感を感じた静稀は言葉が途中で止まり、辺りを見回した。
「おいおい、夏楓ちゃんはどこにっ――」
「ここですよ」
呟いた瞬間、下から声が聞こえた。
静樹の死角を取った夏楓が、彼に気づかれないように近づき懐に入り込んでいた。
静樹の左手を掴み、流れるように背中を静稀の腹部に。姿勢を低くし、簡単に成人男性位の身長はある静稀を投げた。
――――――――ダンッ!!
「ガハッ!」
氷の地面に背負い投げされた静稀は、背中を強く叩きつけられ咳き込んでしまった。
眩暈が起こり、すぐに動けない彼の隙をつき腕を背中に持って行き、体を使い動きを封じるため関節技を決めた。その際、今まで一切手放すことは無かった本が、氷の地面へと落ちた。
絡新婦の方は氷柱女房が完全に動きを封じている。
足と手を凍らされている為、その場から動くことも、糸を出す事すらも出来ない。
力任せに氷を壊そうとすれば、足元に張っている氷が範囲を広げ膝まで伸びて来る。
体全体を凍らされることを恐れ、牙を左右に動かしながら壊すのをやめ、静稀に指示を仰いだ。
だが、静稀も夏楓に関節技を食らっている為、動けば腕の骨を折られる可能性がある状態。守りに入るしかなく、静樹は夏楓を恨みの込められている目で睨みつけた。
「なぜ、ここまで出来る。法力を使うのは初めてだろう。ここまで式神を自由に動かせるようになるわけがない!!」
「貴女にはわからないでしょうね。式神は、陰陽師の奴隷ではありません。式神を、恐怖や脅しで雁字搦めにしてはいけません。そんな事をしてしまえば、式神は術者である貴方を信じる事が出来ず、力の半分すら出す事が出来ない。逆に、信じるだけで、式神は術者に答えようと頑張ってくださいます。術者が慣れていなくても、頑張って助けてくださるのです。貴方の間違いは、式神の扱い方ですよ」
「ふざけるな、俺は強いんだ。今まで負けたことなど一回しかない。あの人だけ、あの人だけなんだ。あの人以外に負けるなんて、俺が俺を、許せなくなる。俺が、負けるなんて、そんな事、あってはいけねぇんだよ!!!」
「っ!? 動かないでください! 骨が折れますよ!」
骨が折れてしまうことより、負けてしまう自分が許せないと。静稀は腕の痛みを気にせず無理やり動き出そうとした。
夏楓は何とか体で押さえつけ骨を折らないようにしているが、自身の守りを捨てた相手程怖いものはない。
「俺は、負けねぇぇぇえええ!!!」
――――――――ボキッ!!
「っ、きゃ!!」
洞窟に鈍い音が響いた瞬間、夏楓が地面に転がった。
体を起こし静稀の方を向くと、肩を抑え、大量の汗を流しその場に座っている。
「まさか、自分の腕を犠牲にしてまで動くなんて…………」
相手の予想外の行動に、夏楓は目を丸くし、その場から動けなくなった。
「紅音、少し無茶を承知で言います。法力を多く送り込んでいただいてもよろしいですか?」
「今よりか? 加減なぞ出来んぞ」
「氷柱女房には自我があります。体が危なくなりましたら教えてくださると思います。なので、お願いいたします」
「了解だ」
再度集中し、紅音は法力を先ほどより多く注ぎ始めた。
いきなり多くの法力を送り込まれ、氷柱女房は一瞬困惑したが、夏楓に見つめられすぐに冷静になった。
『主、ご指示を』
「はい。氷柱女房、氷の人形を作り出せるだけ作りだし、同時に姿を眩ませるほどの冷気を放出してほしいです。出来ますか?」
『主、指示の出し方、違います。もう一度、お願いできますか?』
口角を上げ、困惑している夏楓を見る。
最初は分からず戸惑った夏楓だったが、すぐに間違いに気づき、思わず笑顔がこぼれてしまった。
「そうですね、失礼しました。改めまして…………」
氷柱女房と目を合わせ、夏楓は先ほどとは違う、強い口調で指示を出した。
「『氷柱女房、人形を使い我に手を貸し、凍てつく怒りの冷風で邪魔するものをすべて凍らせろ。急急如律令!!!』」
『主の、仰せのままに』
笑みを浮かべた氷柱女房は、向かって来ている絡新婦の糸に冷たい息を吹きかけ簡単に凍らせた。
次に右手を上に振りあげると、地面が氷はじめ、動き出す。
地面に張った氷が、氷柱女房のような形をしている氷の人形をいくつも作り出した。
同時に、地面だけでなく壁や天井まで凍らせ始めた。
何か仕掛けたくとも、絡新婦が放つ糸はすぐに凍ってしまい意味はない。
洞窟内が銀世界となってしまい、静稀と絡新婦は何も出来ず驚愕の表情を浮かべた。
どうにかしなければと考えるが、何かを繰り出したとしてもすぐに凍らされてしまい意味はない。
静樹が困惑している間に畳みかけるように、氷柱女房が氷の人形を動かし夏楓と紅音を引き上げ、同時に絡新婦の足と手を凍らせ動きを封じる。静稀の本も同時に凍らせ、追加で式神や法術を出させないようにした。
「っ! こんのっ――」
苛立ちを込め、怒りで赤くなった顔を氷柱女房に向けた。
彼女の後ろには紅音がその場にしゃがみ、法力を送り続けている。その様子に違和感を感じた静稀は言葉が途中で止まり、辺りを見回した。
「おいおい、夏楓ちゃんはどこにっ――」
「ここですよ」
呟いた瞬間、下から声が聞こえた。
静樹の死角を取った夏楓が、彼に気づかれないように近づき懐に入り込んでいた。
静樹の左手を掴み、流れるように背中を静稀の腹部に。姿勢を低くし、簡単に成人男性位の身長はある静稀を投げた。
――――――――ダンッ!!
「ガハッ!」
氷の地面に背負い投げされた静稀は、背中を強く叩きつけられ咳き込んでしまった。
眩暈が起こり、すぐに動けない彼の隙をつき腕を背中に持って行き、体を使い動きを封じるため関節技を決めた。その際、今まで一切手放すことは無かった本が、氷の地面へと落ちた。
絡新婦の方は氷柱女房が完全に動きを封じている。
足と手を凍らされている為、その場から動くことも、糸を出す事すらも出来ない。
力任せに氷を壊そうとすれば、足元に張っている氷が範囲を広げ膝まで伸びて来る。
体全体を凍らされることを恐れ、牙を左右に動かしながら壊すのをやめ、静稀に指示を仰いだ。
だが、静稀も夏楓に関節技を食らっている為、動けば腕の骨を折られる可能性がある状態。守りに入るしかなく、静樹は夏楓を恨みの込められている目で睨みつけた。
「なぜ、ここまで出来る。法力を使うのは初めてだろう。ここまで式神を自由に動かせるようになるわけがない!!」
「貴女にはわからないでしょうね。式神は、陰陽師の奴隷ではありません。式神を、恐怖や脅しで雁字搦めにしてはいけません。そんな事をしてしまえば、式神は術者である貴方を信じる事が出来ず、力の半分すら出す事が出来ない。逆に、信じるだけで、式神は術者に答えようと頑張ってくださいます。術者が慣れていなくても、頑張って助けてくださるのです。貴方の間違いは、式神の扱い方ですよ」
「ふざけるな、俺は強いんだ。今まで負けたことなど一回しかない。あの人だけ、あの人だけなんだ。あの人以外に負けるなんて、俺が俺を、許せなくなる。俺が、負けるなんて、そんな事、あってはいけねぇんだよ!!!」
「っ!? 動かないでください! 骨が折れますよ!」
骨が折れてしまうことより、負けてしまう自分が許せないと。静稀は腕の痛みを気にせず無理やり動き出そうとした。
夏楓は何とか体で押さえつけ骨を折らないようにしているが、自身の守りを捨てた相手程怖いものはない。
「俺は、負けねぇぇぇえええ!!!」
――――――――ボキッ!!
「っ、きゃ!!」
洞窟に鈍い音が響いた瞬間、夏楓が地面に転がった。
体を起こし静稀の方を向くと、肩を抑え、大量の汗を流しその場に座っている。
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